“かざす”文化、AV機器にも ー ソニー「Transfer Jet」の可能性
2008年 08月 6日 (水曜日)
SuicaやFeliCaなどの非接触ICカードは、この数年ですっかり日本人の生活に浸透した。初めてSuicaを使ったときは、本当に改札が開くか少し不安を感じたが、いつのまにか改札にSuicaをかざしたり、Suicaで買い物をすることが自然な振る舞いとして身についた。それどころかチャージ残額が足りないときなど、切符を改札に通すという、少し前まで何とも思わなかったことが、わずらわしく感じるようにまでなってしまった。
●3cmの距離で560Mbpsの高速データ転送が可能
ソニーが開発した「Transfer Jet」という技術によって、この“かざす”文化がAV機器にも根付くことになるかもしれない。Transfer Jetは、対応機器同士を3cmまでの距離に置くだけで、規格値で560Mbps、最大実効速度で約375Mbpsの高速データ転送が可能な近接無線技術。今年1月のInternational CESでデモ展示が行われ、多くの来場者の注目を集めた(関連ニュース)。現在のPCで一般的なUSB2.0の転送速度は最高480Mbpsなので、それよりも高速で、かつケーブルの接続が不要という利点を持つ。
CESで行われたデモでは、Transfer Jetの高い可能性を確認することができた。レコーダーに接続された専用の送受信部にビデオカメラを乗せると互いに通信を行い、映像をレコーダーに取り込んだり、直接再生を行うことができる。またTransfer Jetを内蔵したフォトストレージにデジカメを置き、データを取り込むというデモも披露。さらに、VAIO TP1のような円形のPCの上部に送受信機を搭載し、PCに機器を置いてデータ転送するという新しいスタイルもアピールしていた。
ビデオカメラの映像の情報量は非常に大きく、デジカメの画像も年々高画素化している。いくらUSBよりデータ転送量が高いと言ってもそれほど大差があるわけではなく、データの取り込みには時間がかかるだろう。データ転送の間、対応機器同士を3cmの距離を保って“かざす"のは現実的ではなく、実際には“置く"使い方がメインになるはずだ。このような機器にTransfer Jetを内蔵しても、そのメリットはケーブル接続が不要、という点のみにとどまるだろう。
●お年寄りや子供も使えそうな簡便操作が魅力
だが、このケーブル接続がが不要という利点は、特にお年寄りや子供からは、非常に便利なものとして歓迎されるはずだ。私事になるが、私の母はPCが使えず、またケーブルの接続にすら恐怖心を抱く機械オンチなので、せっかくの高画素デジカメは撮ったら撮りっぱなし。ラボに出して印刷し、古くなったものは適宜消しているようだ。アーカイブの重要性を諭しても、大容量フラッシュメモリーの価格が下がり、大量の画像を記録しておけるから不便は感じないと強弁するが、置くだけで別のメディアにバックアップが取れると説明したら考えを改めるのではないか。また、プリンターにTransfer Jetが内蔵されたら、いよいよラボからの乗り換えを決意するかもしれない。
ケーブル接続が不要というメリットだけならば、IEEE802.11nやWireless USBなどの高速ワイヤレス規格も存在する。最近では無線LANを内蔵したデジカメも増えてきており、データを直接飛ばしてPCやNASに取り込む、などといった使い方もすでに実現している。だが、これらのワイヤレス規格には情報漏洩という問題がつきまとう。これを克服しようとセキュリティを強固にすると、今度は設定が複雑化し、ある程度のITリテラシーが無いと使いこなしが難しくなる。その点、Transfer Jetならば通信距離が3cmと非常に短く、あらかじめ登録した機器とのみ接続するよう設定できるので、情報漏洩の可能性は低い。また複雑な接続設定も不要なので、対応機器を購入したらすぐに使うことができそうだ。
●携帯電話やDAPでのデータ転送も視野に
Transfer Jetの送受信用チップは非常に小さく、将来は携帯電話に内蔵し、2台の携帯電話を“かざす"だけで、瞬時にお互いの情報や映像・音声などを受け渡すことも可能になるという。これに近いソリューションを実現する技術としては、既にBluetoothや高速赤外線(IrSS)などがあるが、いずれもデータ転送速度はTransfer Jetに大きく劣る。特に、高品位な映像データを転送するにはあまりに非力だ。Transfer Jetを搭載した携帯電話の登場によって、映像や音楽を気軽にシェアするという、ケータイの新しい楽しみ方が加わることになるだろう。さらに、DAPに搭載されたら楽曲転送も格段に楽になるはずだし、DRM無しのコンテンツであれば、DAPからDAPへ、気軽にデータ転送することも行えるようになる。
ただし、いくら優れた規格でも、対応機器が増えないことにはそのメリットが活かせない。Transfer Jetの本格的普及には、ソニー以外の会社からも多くの対応機器が発売されることが不可欠だ。すでにCESの段階で、説明員は「技術情報を開示し、他社も含めたオープンな規格に成長させる方針」と述べていたが、7月になって、メーカー15社が相互接続仕様の確立に向けたコンソーシアム「TransferJet Consortium」を設立したことで合意したとの発表があった(関連ニュース)。
●PCメーカーの積極的な参加に期待
コンソーシアムの参加企業は国内外の有力AVメーカーのほか、キヤノンやニコン、コダック、エプソンなどデジカメ関連企業も含まれている。またソニーエリクソンも参加しているので、同社の携帯電話に前述のような機能が今後搭載される可能性は高い。
気になるのは、参加企業にデルやHPなどのPC専業メーカー、またマイクロソフトやインテルなどPC業界に大きな影響力を持つ企業が含まれていないこと。言うまでもなく、いまやAV機器とPC間のデータ転送は、多くのユーザーが日常的に行っている。USBなどで接続するクレードルの発売は当然考えているだろうが、Transfer Jetのメリットを最大限に活かすには、やはりPCに内蔵するのが望ましい。PCでの同規格採用が進まず、AV機器限定の規格になってしまえば、AV機器でも採用機器が増えず、やがて先細りするというシナリオも考えられる。
もちろん、ソニーを初めとするコンソーシアム参加各社がこのことに気づいていないはずはなく、今後はPC関連企業への働きかけも積極的に行っていくだろう。ユニークで将来性のある技術と感じるだけに、多くのメーカーが参加し、ユーザーにさらなる利便性を提供して欲しい。
(風間)
●3cmの距離で560Mbpsの高速データ転送が可能
ソニーが開発した「Transfer Jet」という技術によって、この“かざす”文化がAV機器にも根付くことになるかもしれない。Transfer Jetは、対応機器同士を3cmまでの距離に置くだけで、規格値で560Mbps、最大実効速度で約375Mbpsの高速データ転送が可能な近接無線技術。今年1月のInternational CESでデモ展示が行われ、多くの来場者の注目を集めた(関連ニュース)。現在のPCで一般的なUSB2.0の転送速度は最高480Mbpsなので、それよりも高速で、かつケーブルの接続が不要という利点を持つ。
CESで行われたデモでは、Transfer Jetの高い可能性を確認することができた。レコーダーに接続された専用の送受信部にビデオカメラを乗せると互いに通信を行い、映像をレコーダーに取り込んだり、直接再生を行うことができる。またTransfer Jetを内蔵したフォトストレージにデジカメを置き、データを取り込むというデモも披露。さらに、VAIO TP1のような円形のPCの上部に送受信機を搭載し、PCに機器を置いてデータ転送するという新しいスタイルもアピールしていた。
ビデオカメラの映像の情報量は非常に大きく、デジカメの画像も年々高画素化している。いくらUSBよりデータ転送量が高いと言ってもそれほど大差があるわけではなく、データの取り込みには時間がかかるだろう。データ転送の間、対応機器同士を3cmの距離を保って“かざす"のは現実的ではなく、実際には“置く"使い方がメインになるはずだ。このような機器にTransfer Jetを内蔵しても、そのメリットはケーブル接続が不要、という点のみにとどまるだろう。
●お年寄りや子供も使えそうな簡便操作が魅力
だが、このケーブル接続がが不要という利点は、特にお年寄りや子供からは、非常に便利なものとして歓迎されるはずだ。私事になるが、私の母はPCが使えず、またケーブルの接続にすら恐怖心を抱く機械オンチなので、せっかくの高画素デジカメは撮ったら撮りっぱなし。ラボに出して印刷し、古くなったものは適宜消しているようだ。アーカイブの重要性を諭しても、大容量フラッシュメモリーの価格が下がり、大量の画像を記録しておけるから不便は感じないと強弁するが、置くだけで別のメディアにバックアップが取れると説明したら考えを改めるのではないか。また、プリンターにTransfer Jetが内蔵されたら、いよいよラボからの乗り換えを決意するかもしれない。
ケーブル接続が不要というメリットだけならば、IEEE802.11nやWireless USBなどの高速ワイヤレス規格も存在する。最近では無線LANを内蔵したデジカメも増えてきており、データを直接飛ばしてPCやNASに取り込む、などといった使い方もすでに実現している。だが、これらのワイヤレス規格には情報漏洩という問題がつきまとう。これを克服しようとセキュリティを強固にすると、今度は設定が複雑化し、ある程度のITリテラシーが無いと使いこなしが難しくなる。その点、Transfer Jetならば通信距離が3cmと非常に短く、あらかじめ登録した機器とのみ接続するよう設定できるので、情報漏洩の可能性は低い。また複雑な接続設定も不要なので、対応機器を購入したらすぐに使うことができそうだ。
●携帯電話やDAPでのデータ転送も視野に
Transfer Jetの送受信用チップは非常に小さく、将来は携帯電話に内蔵し、2台の携帯電話を“かざす"だけで、瞬時にお互いの情報や映像・音声などを受け渡すことも可能になるという。これに近いソリューションを実現する技術としては、既にBluetoothや高速赤外線(IrSS)などがあるが、いずれもデータ転送速度はTransfer Jetに大きく劣る。特に、高品位な映像データを転送するにはあまりに非力だ。Transfer Jetを搭載した携帯電話の登場によって、映像や音楽を気軽にシェアするという、ケータイの新しい楽しみ方が加わることになるだろう。さらに、DAPに搭載されたら楽曲転送も格段に楽になるはずだし、DRM無しのコンテンツであれば、DAPからDAPへ、気軽にデータ転送することも行えるようになる。
ただし、いくら優れた規格でも、対応機器が増えないことにはそのメリットが活かせない。Transfer Jetの本格的普及には、ソニー以外の会社からも多くの対応機器が発売されることが不可欠だ。すでにCESの段階で、説明員は「技術情報を開示し、他社も含めたオープンな規格に成長させる方針」と述べていたが、7月になって、メーカー15社が相互接続仕様の確立に向けたコンソーシアム「TransferJet Consortium」を設立したことで合意したとの発表があった(関連ニュース)。
●PCメーカーの積極的な参加に期待
コンソーシアムの参加企業は国内外の有力AVメーカーのほか、キヤノンやニコン、コダック、エプソンなどデジカメ関連企業も含まれている。またソニーエリクソンも参加しているので、同社の携帯電話に前述のような機能が今後搭載される可能性は高い。
気になるのは、参加企業にデルやHPなどのPC専業メーカー、またマイクロソフトやインテルなどPC業界に大きな影響力を持つ企業が含まれていないこと。言うまでもなく、いまやAV機器とPC間のデータ転送は、多くのユーザーが日常的に行っている。USBなどで接続するクレードルの発売は当然考えているだろうが、Transfer Jetのメリットを最大限に活かすには、やはりPCに内蔵するのが望ましい。PCでの同規格採用が進まず、AV機器限定の規格になってしまえば、AV機器でも採用機器が増えず、やがて先細りするというシナリオも考えられる。
もちろん、ソニーを初めとするコンソーシアム参加各社がこのことに気づいていないはずはなく、今後はPC関連企業への働きかけも積極的に行っていくだろう。ユニークで将来性のある技術と感じるだけに、多くのメーカーが参加し、ユーザーにさらなる利便性を提供して欲しい。
(風間)
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