開発担当者を直撃インタビュー
PS3対応サラウンドシステム「CECH-ZVS1」が登場 − 低価格一体型モデルに秘められた実力に迫る
■「CECH-ZVS1」で聴いたサラウンドのインプレッション
ここで筆者は山口氏オススメのゲームを使ってCECH-ZVS1の視聴をした。まずはFPSゲームの人気作『KILLZONE 2』を試遊した。
まず驚いたのが、明瞭な台詞だ。このゲームはオープニングで、主人公に対して複数の登場人物が、状況をさりげなくレクチャーする。このとき、登場人物の移動に合わせて台詞の聞こえる位置がほぼ360度、プレーヤーの動きに合わせて移動する。サラウンド感だけでなく、まるでセンタースピーカーがあるのではないかと思うほど、台詞がハッキリと聞き取れる。一般的なシステムでサラウンド再生をすると効果音やBGMばかり目立ち、台詞が聞こえづらいことがあるが、CECH-ZVS1ならそんな心配はいらない。
これだけで感動していたら、いよいよ戦場だ。敵の砲撃や仲間からの指示や叫び声が、周囲から飛び込んでくる。弾が飛んでくると、つい体が動いてしまうほど臨場感がある。このときにサウンドフィールドはダイナミックだったので、スタンダードに切替えると、賑やかな効果音が控えめになり、臨場感を残しながらもゲームに集中できる再生に切り替わった。
次は『グランツーリスモ 5 プロローグ Spec III』でテストした。車の挙動をリアルすぎるほど再現したこのゲームの操作を山口氏にお願いして、筆者はサウンドのみチェックした。
このゲームは視点を自車の後方、コックピット内と切り替えられるが、それに合わせてエンジン音や排気音(エキゾーストノート)が、自然に移動する。まるで、幽体離脱して、車の中を往き来しているようだ。
他の車を追い越すと、前方から後方へ、他車のエキゾーストノートが移動する。それも左側か、右側か、しっかり位置を特定できる正確さだ。5本以上のスピーカーを使うサラウンドシステムなら、当たり前だが、目の前のコンパクトなバースピーカーだけで、これほどの臨場感を得られるのは驚きだ。
1点だけ気になったのは、テレビのサイズと音場の関係だ。テストではテレビに60V型のBRAVIAを使ったのだが、さすがにその大画面に見合った音場かというとと、やはり物足りない。もっとも、50インチオーバーのテレビを買う人なら本格的なサラウンドユニットを導入するはずなので、大半はより小型なテレビと組み合わせて使うはずだ。ちなみに本機が想定しているテレビのサイズは32型から40型で、それ以下のサイズでも違和感なく使えるはずだ。
━━ 設置環境として、ベストな視聴距離はどのくらいですか。
山口氏:サラウンドフィールドはスピーカーの位置から2mが最適だと思います。当初は1.5mの距離で設定していたのですが、ユーザーケースを調べると、ペアでゲームを楽しむ方が案外と多くいらっしゃるんです。そこで、ソニーのオーディオチームにまたもや無理を言って、サラウンドのスイートスポットが破綻しない視聴位置を広げて、最適なリファレンスポイントを2mに変更してもらいました。
━━ スイートスポットの位置を50cm動かすことは大変なことだったのでしょうか。
宮本氏:けっこうたいへんなんですよ(笑)。本機のサラウンド再生にはソニーの「S-Force PRO フロントサラウンド」という技術を使って、フロント2chのスピーカーだけでリアに音を回すという処理を行っています。2人のユーザーがいた場合はリスニングゾーンが広くなりますので、本来なら本体をより幅広くすれば解決しやすくなります。しかし、今回は720mmの筐体で対応しないといけません。小さい本体で広いスイートスポットを作るにはDSPの処理が必要になります。そのパラメータが1.5mから2mに変更された場合、スイートスポットが広がりますので、その分の演算処理がより増えます。音場をリアにもっていくと、当然その分抜ける部分がでてきますので、そこを埋める必要性も出てきます。とにかく一般的なサラウンドシステムとは違う苦労がありました。
しかし試行錯誤の末に解決策を見つけました。これまでのソニーのホームシアターシステムには1つの「S-Force」のモードしか入れていなかったのですが、今回の製品ではPS3専用に特化して、「ダイナミック」と「ビビッド」で異なる2つの「S-Force」のモードを入れています。簡単に言えば、キャラクターのまったく違う広がり感のバーチャライザーを2つ搭載したことになります。
━━ セリフが凄く聴きやすいですね。
宮本氏:そこも苦労したポイントです。通常の2.1chのホームシアターシステムではセンターチャンネルがありませんので、2個のスピーカーからステレオ感を使ってセンターの成分を出すようにしているのですが、今回のモデルではダイアログ(台詞データ)の成分だけをDSPで抽出して、さらにそこに独自の処理をして明瞭感を高めています。したがって映画のタイトルをご覧いただいても、センターチャンネルがかなり聴こえやすくなっていると思います。本機の音響設計にはもちろんソニーのオーディオチームの者も関わっていますので、様々なリファレンスによる検証を重ねて、映画の音も仕上げています。
━━ CECH-ZVS1の開発で得た「ゲームサウンドのノウハウ」みたいなものを、今度はホーム用のサラウンドシステムに活かしていくような展開も考えられますか。
柳澤氏:そうですね。ソニーグループとして、今回の製品開発を通して得たものが多くあって、他のタイプの商品に展開していく可能性はあると思います。この商品に関しては、明確にゲームユーザーにフォーカスしたことで完成度を高めつつも、この価格設定で実現できたのだと思っています。
ここまでの話で、SCEとソニーのオーディオチームがタッグを組んだ経緯が見えてきた。SCEとしては、サウンドレイアウトに凝ったゲームタイトルを発売しても、再生環境が整っていなければ、作品本来の面白さがユーザーに伝わらないというもどかしさを感じていたという。一方、ソニーのオーディオチームは、ゲームユーザーへサラウンドシステムの面白さを知るきっかけ作りができる製品を、ずっと世に送り出す機会を探っていたのだろうと筆者は感じている。
確かにゲームユーザーは内容やグラフィックにはこだわるが、ことサウンドとなるとあまり重要視して来なかったように思う。これは一般家庭でも同じだと思うが、本格的なサラウンドシステムを導入するにはAVアンプに、5本から7本のスピーカーが必要になる、という先入観が先行してしまい、サラウンドシステムは選択肢にすら入って来ないのだろう。実際は、手軽に導入できるサラウンドシステムもあるのだが、そこまでゲームユーザーに訴求できていないのが現状のようだ。
またサラウンドスピーカーのレイアウトによる影響があるように思う。手軽な2.1chサラウンドでも、2つのフロントスピーカーとウーファー1つが必要で、これをケーブルで接続すると、テレビ周りが雑然として嫌がるユーザーもいる。設置もラクでケーブル配線も最小限で済む、サウンドバータイプが理想という事になるが、この方式でサラウンド感を出すには、左右幅の広い本体が必要になる。CECH-ZVS1の製品写真を見ると、いかにも大きそうだが、じつは左右幅は720mmしかなく、とてもコンパクトだ。なのに、驚くほどのサラウンド感がある。インタビューの後半は、オーディオチームに本機設計時の苦労話から伺っていこう。