開発担当者を直撃インタビュー
PS3対応サラウンドシステム「CECH-ZVS1」が登場 − 低価格一体型モデルに秘められた実力に迫る
■「CECH-ZVS1」に活かされたソニーホームシアターシステムの独自技術
━━ 本体設計で苦労した点はどこでしょうか。
宮本氏:じつは、サブウーファーを内蔵したサラウンド再生対応のサウンドバーは、ソニーとしては初めての商品になります。いま国内ではサラウンド再生スピーカーを購入するにあたって、サブウーファーのサイズが問題になっています。各メーカーともにいかに邪魔にならないサブウーファーを設計して、スペースセーブをするか工夫しています。日本のゲームユーザーの方々の環境を考えると、4畳半や6畳程度の自室だったり、リビングが広くても、物を極力置きたくないという方もいらっしゃいます。日本の住宅は海外の家に比べて、家がものすごく広いわけではありません。ですから、いかに省スペースでいい音が再生できて、もっと凄いゲーム体験が楽しめるかを追求しました。そういった状況を踏まえて、本製品ではサブウーファーも一体化したサウンドバーというコンセプトにたどり着きました。
━━ サブウーファーは本体の中にどのようにレイアウトされていますか。
宮本氏:フロントスピーカーには50×90mmのフルレンジスピーカーユニットを2基、その隣にサブウーファーとして65mmユニットを2基、パッシブラジエーター型の65mmユニットを4基搭載しています。製品のタイプとしては2.1chをうたっていますが、サブウーファーを2つ搭載したので、システムとしては2.2chになります。
柳澤氏:一般的にテレビに合わせるサウンドバーは、もっと大柄で、容積も大きい商品が多いのですが、本機はサイズをグッと縮めて迫力のあるサウンドを実現しています。本体の横幅サイズは720mmです。このサイズにしたのは、ゲーム用として導入するユーザーの方々の使い勝手を想定したからです。イメージとしては32V型の液晶テレビとの組み合わせを想定して幅を決めました。もちろん32V型のテレビだけに合うというわけではありませんので、それより小さい画面でも十分に楽しんでいただけるようになっています。
━━ アンプの回路にはどのような技術が組み込まれていますか。
宮本氏:アンプにはソニー独自のデジタルアンプ「S-Master」クラスのものを採用しています。32bitのDSPを搭載していますので、通常のホーム用のサラウンドシステムに搭載されているものとほぼ同じスペックを凝縮して載せているとお考えください。本体を手に持っていただければ、ずっしりと重く中味がぎゅっと詰まっていることが分かっていただけると思います。
━━ 本機を設計する上で、ホームシアターシステムと勝手が違った部分はありましたか。
宮本氏:やはり本体のサイズですね。このコンパクトな筐体に様々な機能を凝縮するのに苦労しました。私たちオーディオチームとしては「低域の量と質」にこだわりがありました。最後はアンプとサブウーファーの配置の仕方と、容積の“取り合い”になりました。結局、アンプを小さくして、サブウーファーの容積を確保し、ベストポジションを見つけました。そんな苦労がいくつもありましたが、スタッフ全員で知恵を出し合って乗り越えました。
━━ そこまで、音質にこだわったのに、HDMIが搭載されていなかったことに驚いています。これはなぜなでしょうか。
渋谷氏:そこは私たちも迷った点で、開発者の間でもかなり議論になりました。HDMIを搭載して価格を若干高めに設定するのか、あるいはそこを省略して価格を抑えて「PS3向け」として提案するのか、という部分です。
実際にこのサラウンドシステムの開発を進めている間も、本当にこの構成でよいのか悩みました。割り切りすぎていないか、価格も安値の製品ではなく、もう少し高めに設定して色んな機能を盛り込んだりしたほうが良いのかと。今回の商品については、「PS3対応サラウンドサウンドシステム」というコンセプトを前面に打ち出すことにしました。HDMIを省いて光接続を使っても、サラウンドの迫力を伝えることは可能です。HDMIを搭載するよりも、本体の値段を安く設定することを優先して、多くの方に使ってもらおうと考えました。結果として出来上がった商品の音について、周りに意見をうかがってみたところ、「この値段で、ここまでいい音が聴けるなら満足だよね」という声を多くいただきました。まだユーザーの方々に体感していただいてないので、油断はできませんが、このような反響をいただくことができて、ひとまずほっとしています。
━━ 本機の販売が好調だった場合は、いずれHDMIを搭載したモデルを出すこともありなんでしょうか。
渋谷氏:考え方としてはありかもしれませんが、現在はCECH-ZVS1の仕上がりに満足しています。
━━ 今回はSCE&ソニーオーディオチームのコラボレーション体制でCECH-ZVS1が完成したわけですが、それぞれに抱負をお聞かせください。
柳澤氏:今回SCEのスタッフと協力できたことで、ゲームサウンドの本質に触れることができました。これは私たちにとっても発見であり、大きな収穫です。これまでの5.1chホームシアターシステムの用途だけを想定していると、広がっていかないユーザー層があると思います。これまでサラウンドシステムに敷居が高いイメージを持たれていた方々にこそ、CECH-ZVS1のサウンドにふれてほしいと思います。そして、手軽に扱えるサラウンドシステムを使ってみてもらって、様々なエンターテインメントの楽しみ方を見つけていただきたいと思います。
渋谷氏:本機の開発は「PS3に特化したサラウンドシステムをつくりたい」という、ソニー本社と私たちSCEのスタッフたちの思いが合致したことが起点になりました。というのも、ゲームクリエイターたちは一つ一つのゲームタイトルをつくる作業の中で、かなりの時間をかけて、細かな効果音にまでこだわりながらサウンドデザインを練り上げていきます。そういったクリエイターたちの意図が、ゲームを楽しんでいただくユーザーの方々にきちんと伝わっていないのではないかと、私たちはいつも不安に感じていました。しかしCECH-ZVS1が完成したことで、ユーザーの皆さんに私たちが考えるサウンドのスタンダードを提供できるようになりました。
今後のプロモーションとしては、安価な上に音のクオリティもハイレベルであることをいかにアピールしていけるかが大事だと考えています。そのために、PlayStationコンセプトショップ(東京・池袋のヤマダ電機、大阪・日本橋の上新電機内)にデモコーナーを設置して、発売前に実力を体感していただく場を設けています。本機はSCEとソニーオーディオチームがタッグを組んだ自信作ですので、ぜひ1人でも多くの方に店頭で体感していただきたいと思います。
>>コンセプトショップの紹介サイト
まさか1万円台のサラウンドスピーカーの取材で、ここまで深い話をうかがえるとは思ってもいなかった。とにかく、CECH-ZVS1の仕上がりは素晴らしく、久々に唸ってしまった。価格を考えればちょっとあり得ない仕上がりになっていると思う。
今回残念ながら映画の再生はできなかったが、代わりに音楽ライブ素材でテストができた。音楽ものも悪くはないが、ちょっとドンシャリ感が強いように感じた。でも仮に映画の再生が80点レベルだとしても、ゲームサウンドをこれだけ再現できるのなら、文句のない仕上がりだ。
筆者はじつはゲーム好きなのだが、いわゆる「ゲーム廃人」になりやすい熱中型なので、一度を始めると仕事そっちのけで夢中になってしまうダメ人間なのだ。何度か生活の危機に陥ったこともあり、日ごろは封印しているのだが、今回のテストで『KILLZONE2』をやったのは迂闊だった。取材以降、なんだかうずうずしてきている。それだけ、このスピーカーを使ってプレイするPS3のゲームは格段に面白かった。これで3Dゲームでもプレイしようものなら、絶対にこっちの世界に帰ってこれそうにない。
これだけ細やかなサラウンドで、筆者が以前所有していた恐怖ゲームの名作「デッドスペース」をやりたいが、幸か不幸か、手放してしまったので手元にはない。まぁ、CECH-ZVS1を買ったら最後、ゲーム熱が再発しそうなので、今秋まで心を強くできるよう鍛錬して、購入するかじっくり考えることにする。しかし、ゲーム好きにとって、危険なアイテムが開発されたものだ!ぜひSCEの「PlayStationブランド」からの、新しいサラウンドヘッドホンの登場にも期待したい。
最後に一つだけ、CECH-ZVS1について気になった点がある。それはネーミングだ。せっかく普及帯で発売するなら、暗号のような型番だけというのは寂しい。昔、ソニーから重低音タイプのウォークマンとして「武道館(BOODO KHAN)」という製品があった。ウォークマンに大型のヘッドホンが付属した製品だったが、重低音重視の機能とネーミングがマッチしており、いまだに忘れられない(とくに“KHAN”の表記が…ブドウカーンだったこともあってか)。このスピーカーにもインパクトのあるネーミングをすれば、よりヒットすると思う。
何はともあれ、SCEとソニーオーディオチームとの連携は大成功のようだ。取材を終えて、日本のもの作りの原点はチームワークだと、再認識させられた。今後、いくつかのショップで体験コーナーが設置されるようなので、読者の方々もぜひ視聴してみて欲しい。きっと筆者のように驚くのではないだろうか。
◆筆者プロフィール 鈴木桂水
元産業用ロボットメーカーの開発、設計担当を経て、現在はAV機器とパソコン周辺機器を主に扱うフリーライター。テレビ番組表を日夜分析している自称「テレビ番組表アナリスト」でもある。ユーザーの視点と元エンジニアの直感を頼りに、使いこなし系のコラムを得意とする。そのほかAV機器の情報雑誌などで執筆中。