新製品スペシャルインタビュー
ソニー“BRAVIA”からハイスペック・レコーダーTV「HX80R/EX30R」シリーズ登場 − ケースイが開発コンセプトを訊ねる
ソニーから今年末注目の録画機能搭載テレビ、“BRAVIA”「HX80R」「EX30R」シリーズが発売される。ソニーのテレビ事業部、レコーダー事業部のスタッフが、初めての共同開発を実現して完成させたという新製品の魅力を、鈴木桂水氏が開発者を訪ね、レポートする。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
本体に録画機能を備える“レコーダーテレビ”の新製品が続々と登場している。これまではHDDのみ搭載する製品が主流だったが2010年秋冬モデルからBlu-ray Disc(以下BD)のドライブを備える製品が充実してきている。
中でも注目なのがソニーの“BRAVIA”シリーズに新しく加わるレコーダーテレビの「HX80R」シリーズ、「EX30R」シリーズだ。
これまでソニーはレコーダーテレビの開発に消極的で、肝心の録画機能は先行する他社に比べると見劣りする点も多かった。しかし、最新モデルではコンセプトが一転し、並み居るレコーダーテレビを凌駕しそうなハイスペックモデルが登場してきた。ファーストインプレッションについては既報を参考にしていただきたい。
本題に入る前にソニーのレコーダーテレビのラインアップを整理しておこう。
“BRAVIA”「HX80R」シリーズ LEDバックライト採用 3D Ready 録画機能搭載モデル
・KDL-55HX80R(55V型)
・KDL-46HX80R(46V型)
・KDL-40HX80R(40V型)
“BRAVIA”「EX30R」シリーズ 録画機能搭載モデル
・KDL-32EX30R(32V型)
・KDL-26EX30R(26V型)
“BRAVIA”「BX30H」シリーズ 録画機能搭載モデル ※BDドライブ非搭載
・KDL-32BX30H(32V型)
・KDL-26BX30H(26V型)
・KDL-22BX30H(22V型)
新しい“BRAVIA”レコーダーテレビの中で、最上位のモデルになるのが「HX80R」シリーズだ。このモデルのみ、別売の3Dシンクロトランスミッター「TMR-BR100」と3Dメガネを購入することで3D視聴が可能になる“3D Ready”モデルだ。ベースになっているのはBRAVIAのHX800シリーズ。ただし全ての仕様が同じなわけではなく、HX800シリーズに搭載されているIPTV機能のブラビアネットチャンネルや、別売のUSBアダプター「UWA-BR100」を使用したWi-Fi接続は非対応となる。またブラビアリンクには対応しているが、BDレコーダーなど外付けの録画機器の操作は行えない。HDMI入力端子の数も、HX800の方が一つ多く、4系統を備えている。
EX30RシリーズのベースはBRAVIAのEX300シリーズで、こちらは3D非対応のスタンダードモデルになっている。
両シリーズはテレビ部のスペックこそ違うものの、レコーダー部分のスペックは単体のBDレコーダー「BDZ-AT700」(関連ニュース)に準じた機能を搭載している。どちらも500GBのHDDとBDドライブを搭載するし、2番組同時のAVC長時間録画にも対応している。さらにスカパー!HD録画も行えるので、別途スカパー!HDチューナーと専用アンテナを用意すれば、テレビ単体でスカパー!HD録画が行える。録画した番組を“Walkman”やSCEのゲーム機“PSP”、あるいは携帯電話などにも持ち出せる“おでかけ転送機能”にも対応した。いまどきのレコーダーテレビとしては、隙のないベストスペックを備えたと言えるだろう。
今回はその実力を検証すべく、ソニーの開発者担当者各氏へインタビューを行なった。
<テレビ側の開発を担当>
ソニー(株)コンスーマー・プロフェッショナル&デバイスグループ
ホームエンタテインメント事業本部 第1事業部 商品設計部 商品設計4課 佐々木雅彦氏
<BDレコーダー側の開発を担当>
ソニー(株)ホームエンタテインメント事業本部 第2事業部 設計3部 1課 エレクトリカル マネージャー 橋本健一氏
━━ これまでにもソニーのBRAVIAには録画機能を搭載したラインアップがありましたが、録画とテレビ視聴の番組表が共通していなかったり、録画番組を外部にダビング(ムーブ)できないなど、使い勝手に不便な点がありました。今回のラインアップは録画機能が充実して、さらに操作性も高まっているように感じました。今回のシリーズから、開発体制に変更があったのでしょうか。
佐々木氏:これまではテレビ開発の事業部と、レコーダー開発の事業部間の壁が厚かったため、共同での開発が難しかったように思います。しかし、昨年に当社の組織変更があり、テレビとBDレコーダーの開発チームがホームエンターテインメント事業本部として一つの組織になったことで、共同開発の体制が整って、今回のHX80Rシリーズ、EX30Rシリーズの製品化が実現できました。
━━ 今回のモデルの前に発売された録画機能付のBRAVIAもテストしてきましたが、使い勝手の部分などで、録画機を使いこなしているユーザーの目線に立っていないのではという印象を持っていました。“録画は補助的な機能”という、テレビ開発者のロジックで開発されている製品だと感じていました。一方でもしソニーから使いやすいレコーダーテレビが生まれるとしたら、それはBDレコーダーの開発陣が録画機能の開発に携わるべきではないかとも思っていました。
佐々木氏:「餅屋は餅屋」と言われるように、テレビ、BDレコーダーとそれぞれの製品を開発するチームに、これまで培ってきた沢山のノウハウがあります。今回の製品は録画機能の部分にはBDレコーダー“BDZシリーズ”の最新機能がほぼ丸ごと入っています。一方で、テレビチームはBDZシリーズの技術を導入しながら、最高の映像再現ができるテレビの開発を目指しました。二つのチームがベストのパフォーマンスを発揮することで、実現した商品だと考えています。
━━ テレビとレコーダー、それぞれのノウハウを融合させることは簡単ではなかったと思いますが、いかがでしょうか。
橋本氏:やはりテレビの表示画質ですね。BDレコーダーを単体で開発する際には、BRAVIA以外のテレビを組み合わせて楽しむ方も大勢いらっしゃいますので、様々な製品との組み合わせを想定した画づくりを心がけて開発しています。今回は一体型のモデルということで、画を表示するテレビ側の性能が決まっていますので、より最適化して、一体型ならではの画質を追求してきました。
佐々木氏:テレビとして開発で苦労した点は画質エンジンの部分です。本来テレビのBRAVIAとBDレコーダーのBDZは別々の画質エンジンを搭載していますので、それぞれのエンジンが持っている良さを残しながら統合していく方向で開発を進めてきました。またハードウェアの設計、あるいはソフトウェアの開発についてもプロジェクトリーダーとなる適任者を選んで、各部門が協力しながら開発してきました。
━━ テレビとレコーダーが一体になることのメリットについてはどのようにお考えですか。
佐々木氏:一番は省スペース性に優れる点ではないでしょうか。HX80R/EX30Rの魅力のひとつは、ともにスロットローディングタイプのドライブをパネルの側面に搭載し、薄型テレビの“スリムさ”を損なわずにレコーダーの機能を一体化できたところです。当初はテレビのスタンド部分にBDレコーダーの機能を組み込むというアイデアもありましたが、それだとスタンドを取り外してテレビを“壁掛け”できなくなってしまうので、パネル部分へ組み込むことには今回こだわりました。LEDバックライトを搭載したHX80Rは、さらにディスプレイ部が薄型なので壁掛け設置にも対応できます。
橋本氏:本体の薄型化についてはメカの設計部門もかなり苦労したところです。今回、様々な機能を持たせながら、ここまで薄型化できたことは、私たちもアピールしたいポイントです。
佐々木氏:HX80R/EX30Rのラインアップは全部で5モデルありますが、メカの設計的な観点で言うと、最も小型なEX30Rの26V型「KDL-26EX30R」が一番大変でした。一つはコンパクトサイズであるがゆえに、内部構造的な制約があることです。薄型の筐体内に、どうやってBDドライブと画質エンジンなど回路のパーツを配置するか、基本設計の担当者が何度もシミュレーションを重ねてきました。「KDL-26EX30R」は、このサイズで本体にHDDとBDドライブを搭載していますので、ぜひベッドサイドや書斎など、設置スペースが限られがちなプライベートな空間にも導入して、お楽しみいただきたいと考えています。
━━ 操作感を左右するリモコンのデザインで工夫されたことはありますか。
佐々木氏:テレビとレコーダーの機能を一つのリモコンで操作するわけですから、必然的にボタンの数は増えがちですが。今回はふたの中に番組表の呼び出しボタンを配置するなどして、リモコン自体のコンパクトなサイズをキープしながら、必要なボタンと機能を効率よく配置できたと思います。
前述したようにHX80R/EX30RシリーズにはBDレコーダー「BDZ-AT700」と同等のレコーダー機能が備わっている。ソニーのBDレコーダーは、この秋冬モデルから操作性が大幅に向上しており、かなり使いやすくなったと感じている。本来ならBDZの開発チームにも詳しく取材をしたいところだったが、今回はインタビューの現場にBDレコーダーの開発を担当されているソニー(株)コンスーマー・プロフェッショナル&デバイスグループ ホームエンタテインメント事業本部 企画戦略部門 商品企画部 HAV企画1課 プロダクトマネジャーの成田篤史氏が同席されていたので、インターフェースの細かな使い勝手についても、HX80R/EX30Rシリーズで工夫されたポイントをうかがってみた。なお個別の機能についてはレポートの最後に解説を加えておくので、そちらを参考にしていただきたい。
━━ レコーダー機能としてポイントになる点はどちらでしょうか。
成田氏:2番組同時のAVC長時間録画に対応しました。これで予約した番組に時間変更が発生しても、録り逃しの確率がかなり減るものと思います。
━━ “おでかけ転送”の機能も2番組同時録画に対応できるようになったのでしょうか。
成田氏:はい。2番組同時録画をしても、おでかけ用の転送ファイルは別途作成できます。
━━ “おでかけ転送”の機能では、2番組同時録画時にも転送ファイルがつくれるようになったのですね。
成田氏:はい、つくられるようになりました。それだけでなく本編とCMの区切り位置や、見どころなどにチャプターを入力する“おまかせチャプター”の機能も2番組同時録画に対応できるようになりました。また、見どころをかいつまんで再生できる“ダイジェスト再生”も2番組同時録画対応です。ちなみにダイジェスト再生の方法は「短め/標準/長め」から選べます。
━━ ほかにも注目すべき変更点はありますか。
成田氏:番組表から旬の番組をピックアップして表示する“見どころマガジン”機能を、ユーザーが指定した好みの番組を知らせる“my番組表”と統合しました。リモコンの「My番組表ボタン」を押せば、ユーザーに興味を持ってもらえそうな番組と旬の番組を表示します。
その他に、“らくらくスタートメニュー”も変更しました。録画した番組を「消す」ための操作は、録画機にとってとても重要ながら、意外とわかりづらかったりするものです。録画操作は番組表から選択するだけで簡単なのですが、見終わった番組の消去方法がわからないというお問い合わせをよくいただきます。そこで番組消去のアイコンを、らくらくスタートメニューにも入れて不要な番組を消去しやすく工夫しました。
━━ 録画中にダビングをするなど、マルチタスク操作の対応はいかがですか。
橋本氏:HDDからBDへの高速ダビング中に新規の録画が可能です。一方で、画質を変換してダビングを行う、レート変換ダビングの実行中には新規録画はできません。
━━ 番組表のデザイン変更があったようですね。
成田氏:はい。これまではSD画質でしたが、今回から見やすいHD画質に変更しました。表示エリアを広くしても文字が見やすいので、地上波の一覧表示も可能になりました。また、桂水さんのように録画好きの方から要望が多かったチャンネル別表示にも対応しました。
━━ 3Dをオプション対応にした理由は何ですか。
佐々木氏:3D対応のソフトはまだ数えるほどしかありませんが、2010年の年末商戦にはテレビの買い替え需要がピークになると予測しています。これからの買替えを検討されている方々は、ぎりぎりまで購入を待っていた方々なので、製品を選ぶ目は価格・機能ともにシビアだと思っています。確かにいま買うなら、3D対応の製品を選ぶことをオススメしたいとは思いますが、一方では3D対応の製品は価格がやや高めであることも事実です。そこでHX80Rシリーズでは、まずは買ってすぐに利便性を感じられる“録画機能”を優先させ、後々に3Dタイトルや放送が数多く登場してきたら、そのときにオプションで3Dが楽しめるようにしました。オプションで楽しめるのであれば、導入コストも少し抑えながらテレビを手に入れることができ、後からでもハイクオリティな3D映像が楽しめるメリットが得られると思います。
今回HX80R/EX30Rシリーズを取材して、その多機能ぶりにあらためて驚かされた。とくに録画機能のめざましい進歩には脱帽するばかりだ。テレビ単体で録画予約ができ、それをBDディスクに保存して、さらにPSPなどのモバイル機器に転送できる。だめ押しはスカパー!HD録画に3D Readyと、めいっぱいAV機器の旬を詰め込んでいる。この冬、レコーダーテレビを購入するなら、真っ先に選択肢に加えるべきだろう。
HX80RシリーズとEX30Rシリーズの選び分けだが、3Dに魅力を感じないのならEX30Rシリーズでも十分だろう。ただ、いまは数の少ない3Dタイトルだが、ゲームを楽しんだり、ロンドン五輪、ワールドカップなどでの伸びしろを考えるなら、やはり3D Readyは魅力的なはずだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【用語説明】
2番組同時 AVC長時間録画:HX80R/EX30Rシリーズには、2基の「AVCエンコーダー」を搭載しており、デジタル放送の動画を圧縮して、データ容量を節約しながら長時間録画が行える。VHSビデオテープで言うところの「3倍録画モード」に相当する感覚だ。デジタル放送の2時間番組を、そのままの画質でDR録画するのには、約25GBのHDD容量を消費するので、AVCエンコーダーを使って圧縮録画しながら、HDDの容量を効率よく使えるメリットは大きい。ソニーBDZシリーズの2010年春・夏モデルはAVCエンコーダーがシングル仕様だったため、2番組同時録画予約を行う際には必ず一つの番組は非圧縮のDRモードに固定された状態での録画予約になる。そのためAVCエンコーダーを使った録画番組が放送時間変更などで重なると録り逃しが発生していた。HX80R/EX30Rシリーズのように、2基のAVCエンコーダーを搭載する録画機の場合は、予約番組の放送時間が変更されても、空いている方のエンコーダーを使って録画を行うので録画ミスが激減する。
おでかけ転送:ソニーのBDZシリーズには録画番組をPSP、ウォークマン、携帯電話、対応カーナビに持ち出して再生できる「おでかけ転送」機能が備わっている。これまで2番組を同時録画した場合は、1番組のみ録画中におでかけ用ファイルを作成し、もう一方の番組ではおでかけ用ファイルは作成されなかった。そのため、録画終了後に実時間をかけておでかけファイルを作成しなければならず、使い勝手が悪かった。新BDZでは2番組同時録画中でも、録画しながら転送用ファイルを作成できるので、録画終了後に対応機器に高速転送ができて便利になっている。
チャンネル別番組表表示:指定したチャンネルだけを7〜8日分まとめて表示する機能。地上波の番組表でも便利に使えるが、BSデジタル、WOWOW、スターチャンネルなど局ごとの個性がハッキリしている放送局の番組を録画するのに重宝する機能だ。
【BRAVIA 製品に関する問い合わせ先】
ソニーマーケティング(株) 買い物相談窓口
TEL/0120-777-886
◆筆者プロフィール 鈴木桂水
元産業用ロボットメーカーの開発、設計担当を経て、現在はAV機器とパソコン周辺機器を主に扱うフリーライター。テレビ番組表を日夜分析している自称「テレビ番組表アナリスト」でもある。ユーザーの視点と元エンジニアの直感を頼りに、使いこなし系のコラムを得意とする。そのほかAV機器の情報雑誌などで執筆中。
本体に録画機能を備える“レコーダーテレビ”の新製品が続々と登場している。これまではHDDのみ搭載する製品が主流だったが2010年秋冬モデルからBlu-ray Disc(以下BD)のドライブを備える製品が充実してきている。
中でも注目なのがソニーの“BRAVIA”シリーズに新しく加わるレコーダーテレビの「HX80R」シリーズ、「EX30R」シリーズだ。
これまでソニーはレコーダーテレビの開発に消極的で、肝心の録画機能は先行する他社に比べると見劣りする点も多かった。しかし、最新モデルではコンセプトが一転し、並み居るレコーダーテレビを凌駕しそうなハイスペックモデルが登場してきた。ファーストインプレッションについては既報を参考にしていただきたい。
本題に入る前にソニーのレコーダーテレビのラインアップを整理しておこう。
“BRAVIA”「HX80R」シリーズ LEDバックライト採用 3D Ready 録画機能搭載モデル
・KDL-55HX80R(55V型)
・KDL-46HX80R(46V型)
・KDL-40HX80R(40V型)
“BRAVIA”「EX30R」シリーズ 録画機能搭載モデル
・KDL-32EX30R(32V型)
・KDL-26EX30R(26V型)
“BRAVIA”「BX30H」シリーズ 録画機能搭載モデル ※BDドライブ非搭載
・KDL-32BX30H(32V型)
・KDL-26BX30H(26V型)
・KDL-22BX30H(22V型)
新しい“BRAVIA”レコーダーテレビの中で、最上位のモデルになるのが「HX80R」シリーズだ。このモデルのみ、別売の3Dシンクロトランスミッター「TMR-BR100」と3Dメガネを購入することで3D視聴が可能になる“3D Ready”モデルだ。ベースになっているのはBRAVIAのHX800シリーズ。ただし全ての仕様が同じなわけではなく、HX800シリーズに搭載されているIPTV機能のブラビアネットチャンネルや、別売のUSBアダプター「UWA-BR100」を使用したWi-Fi接続は非対応となる。またブラビアリンクには対応しているが、BDレコーダーなど外付けの録画機器の操作は行えない。HDMI入力端子の数も、HX800の方が一つ多く、4系統を備えている。
EX30RシリーズのベースはBRAVIAのEX300シリーズで、こちらは3D非対応のスタンダードモデルになっている。
両シリーズはテレビ部のスペックこそ違うものの、レコーダー部分のスペックは単体のBDレコーダー「BDZ-AT700」(関連ニュース)に準じた機能を搭載している。どちらも500GBのHDDとBDドライブを搭載するし、2番組同時のAVC長時間録画にも対応している。さらにスカパー!HD録画も行えるので、別途スカパー!HDチューナーと専用アンテナを用意すれば、テレビ単体でスカパー!HD録画が行える。録画した番組を“Walkman”やSCEのゲーム機“PSP”、あるいは携帯電話などにも持ち出せる“おでかけ転送機能”にも対応した。いまどきのレコーダーテレビとしては、隙のないベストスペックを備えたと言えるだろう。
今回はその実力を検証すべく、ソニーの開発者担当者各氏へインタビューを行なった。
<テレビ側の開発を担当>
ソニー(株)コンスーマー・プロフェッショナル&デバイスグループ
ホームエンタテインメント事業本部 第1事業部 商品設計部 商品設計4課 佐々木雅彦氏
<BDレコーダー側の開発を担当>
ソニー(株)ホームエンタテインメント事業本部 第2事業部 設計3部 1課 エレクトリカル マネージャー 橋本健一氏
━━ これまでにもソニーのBRAVIAには録画機能を搭載したラインアップがありましたが、録画とテレビ視聴の番組表が共通していなかったり、録画番組を外部にダビング(ムーブ)できないなど、使い勝手に不便な点がありました。今回のラインアップは録画機能が充実して、さらに操作性も高まっているように感じました。今回のシリーズから、開発体制に変更があったのでしょうか。
佐々木氏:これまではテレビ開発の事業部と、レコーダー開発の事業部間の壁が厚かったため、共同での開発が難しかったように思います。しかし、昨年に当社の組織変更があり、テレビとBDレコーダーの開発チームがホームエンターテインメント事業本部として一つの組織になったことで、共同開発の体制が整って、今回のHX80Rシリーズ、EX30Rシリーズの製品化が実現できました。
━━ 今回のモデルの前に発売された録画機能付のBRAVIAもテストしてきましたが、使い勝手の部分などで、録画機を使いこなしているユーザーの目線に立っていないのではという印象を持っていました。“録画は補助的な機能”という、テレビ開発者のロジックで開発されている製品だと感じていました。一方でもしソニーから使いやすいレコーダーテレビが生まれるとしたら、それはBDレコーダーの開発陣が録画機能の開発に携わるべきではないかとも思っていました。
佐々木氏:「餅屋は餅屋」と言われるように、テレビ、BDレコーダーとそれぞれの製品を開発するチームに、これまで培ってきた沢山のノウハウがあります。今回の製品は録画機能の部分にはBDレコーダー“BDZシリーズ”の最新機能がほぼ丸ごと入っています。一方で、テレビチームはBDZシリーズの技術を導入しながら、最高の映像再現ができるテレビの開発を目指しました。二つのチームがベストのパフォーマンスを発揮することで、実現した商品だと考えています。
━━ テレビとレコーダー、それぞれのノウハウを融合させることは簡単ではなかったと思いますが、いかがでしょうか。
橋本氏:やはりテレビの表示画質ですね。BDレコーダーを単体で開発する際には、BRAVIA以外のテレビを組み合わせて楽しむ方も大勢いらっしゃいますので、様々な製品との組み合わせを想定した画づくりを心がけて開発しています。今回は一体型のモデルということで、画を表示するテレビ側の性能が決まっていますので、より最適化して、一体型ならではの画質を追求してきました。
佐々木氏:テレビとして開発で苦労した点は画質エンジンの部分です。本来テレビのBRAVIAとBDレコーダーのBDZは別々の画質エンジンを搭載していますので、それぞれのエンジンが持っている良さを残しながら統合していく方向で開発を進めてきました。またハードウェアの設計、あるいはソフトウェアの開発についてもプロジェクトリーダーとなる適任者を選んで、各部門が協力しながら開発してきました。
━━ テレビとレコーダーが一体になることのメリットについてはどのようにお考えですか。
佐々木氏:一番は省スペース性に優れる点ではないでしょうか。HX80R/EX30Rの魅力のひとつは、ともにスロットローディングタイプのドライブをパネルの側面に搭載し、薄型テレビの“スリムさ”を損なわずにレコーダーの機能を一体化できたところです。当初はテレビのスタンド部分にBDレコーダーの機能を組み込むというアイデアもありましたが、それだとスタンドを取り外してテレビを“壁掛け”できなくなってしまうので、パネル部分へ組み込むことには今回こだわりました。LEDバックライトを搭載したHX80Rは、さらにディスプレイ部が薄型なので壁掛け設置にも対応できます。
橋本氏:本体の薄型化についてはメカの設計部門もかなり苦労したところです。今回、様々な機能を持たせながら、ここまで薄型化できたことは、私たちもアピールしたいポイントです。
佐々木氏:HX80R/EX30Rのラインアップは全部で5モデルありますが、メカの設計的な観点で言うと、最も小型なEX30Rの26V型「KDL-26EX30R」が一番大変でした。一つはコンパクトサイズであるがゆえに、内部構造的な制約があることです。薄型の筐体内に、どうやってBDドライブと画質エンジンなど回路のパーツを配置するか、基本設計の担当者が何度もシミュレーションを重ねてきました。「KDL-26EX30R」は、このサイズで本体にHDDとBDドライブを搭載していますので、ぜひベッドサイドや書斎など、設置スペースが限られがちなプライベートな空間にも導入して、お楽しみいただきたいと考えています。
━━ 操作感を左右するリモコンのデザインで工夫されたことはありますか。
佐々木氏:テレビとレコーダーの機能を一つのリモコンで操作するわけですから、必然的にボタンの数は増えがちですが。今回はふたの中に番組表の呼び出しボタンを配置するなどして、リモコン自体のコンパクトなサイズをキープしながら、必要なボタンと機能を効率よく配置できたと思います。
前述したようにHX80R/EX30RシリーズにはBDレコーダー「BDZ-AT700」と同等のレコーダー機能が備わっている。ソニーのBDレコーダーは、この秋冬モデルから操作性が大幅に向上しており、かなり使いやすくなったと感じている。本来ならBDZの開発チームにも詳しく取材をしたいところだったが、今回はインタビューの現場にBDレコーダーの開発を担当されているソニー(株)コンスーマー・プロフェッショナル&デバイスグループ ホームエンタテインメント事業本部 企画戦略部門 商品企画部 HAV企画1課 プロダクトマネジャーの成田篤史氏が同席されていたので、インターフェースの細かな使い勝手についても、HX80R/EX30Rシリーズで工夫されたポイントをうかがってみた。なお個別の機能についてはレポートの最後に解説を加えておくので、そちらを参考にしていただきたい。
━━ レコーダー機能としてポイントになる点はどちらでしょうか。
成田氏:2番組同時のAVC長時間録画に対応しました。これで予約した番組に時間変更が発生しても、録り逃しの確率がかなり減るものと思います。
━━ “おでかけ転送”の機能も2番組同時録画に対応できるようになったのでしょうか。
成田氏:はい。2番組同時録画をしても、おでかけ用の転送ファイルは別途作成できます。
━━ “おでかけ転送”の機能では、2番組同時録画時にも転送ファイルがつくれるようになったのですね。
成田氏:はい、つくられるようになりました。それだけでなく本編とCMの区切り位置や、見どころなどにチャプターを入力する“おまかせチャプター”の機能も2番組同時録画に対応できるようになりました。また、見どころをかいつまんで再生できる“ダイジェスト再生”も2番組同時録画対応です。ちなみにダイジェスト再生の方法は「短め/標準/長め」から選べます。
━━ ほかにも注目すべき変更点はありますか。
成田氏:番組表から旬の番組をピックアップして表示する“見どころマガジン”機能を、ユーザーが指定した好みの番組を知らせる“my番組表”と統合しました。リモコンの「My番組表ボタン」を押せば、ユーザーに興味を持ってもらえそうな番組と旬の番組を表示します。
その他に、“らくらくスタートメニュー”も変更しました。録画した番組を「消す」ための操作は、録画機にとってとても重要ながら、意外とわかりづらかったりするものです。録画操作は番組表から選択するだけで簡単なのですが、見終わった番組の消去方法がわからないというお問い合わせをよくいただきます。そこで番組消去のアイコンを、らくらくスタートメニューにも入れて不要な番組を消去しやすく工夫しました。
━━ 録画中にダビングをするなど、マルチタスク操作の対応はいかがですか。
橋本氏:HDDからBDへの高速ダビング中に新規の録画が可能です。一方で、画質を変換してダビングを行う、レート変換ダビングの実行中には新規録画はできません。
━━ 番組表のデザイン変更があったようですね。
成田氏:はい。これまではSD画質でしたが、今回から見やすいHD画質に変更しました。表示エリアを広くしても文字が見やすいので、地上波の一覧表示も可能になりました。また、桂水さんのように録画好きの方から要望が多かったチャンネル別表示にも対応しました。
━━ 3Dをオプション対応にした理由は何ですか。
佐々木氏:3D対応のソフトはまだ数えるほどしかありませんが、2010年の年末商戦にはテレビの買い替え需要がピークになると予測しています。これからの買替えを検討されている方々は、ぎりぎりまで購入を待っていた方々なので、製品を選ぶ目は価格・機能ともにシビアだと思っています。確かにいま買うなら、3D対応の製品を選ぶことをオススメしたいとは思いますが、一方では3D対応の製品は価格がやや高めであることも事実です。そこでHX80Rシリーズでは、まずは買ってすぐに利便性を感じられる“録画機能”を優先させ、後々に3Dタイトルや放送が数多く登場してきたら、そのときにオプションで3Dが楽しめるようにしました。オプションで楽しめるのであれば、導入コストも少し抑えながらテレビを手に入れることができ、後からでもハイクオリティな3D映像が楽しめるメリットが得られると思います。
今回HX80R/EX30Rシリーズを取材して、その多機能ぶりにあらためて驚かされた。とくに録画機能のめざましい進歩には脱帽するばかりだ。テレビ単体で録画予約ができ、それをBDディスクに保存して、さらにPSPなどのモバイル機器に転送できる。だめ押しはスカパー!HD録画に3D Readyと、めいっぱいAV機器の旬を詰め込んでいる。この冬、レコーダーテレビを購入するなら、真っ先に選択肢に加えるべきだろう。
HX80RシリーズとEX30Rシリーズの選び分けだが、3Dに魅力を感じないのならEX30Rシリーズでも十分だろう。ただ、いまは数の少ない3Dタイトルだが、ゲームを楽しんだり、ロンドン五輪、ワールドカップなどでの伸びしろを考えるなら、やはり3D Readyは魅力的なはずだ。
【用語説明】
2番組同時 AVC長時間録画:HX80R/EX30Rシリーズには、2基の「AVCエンコーダー」を搭載しており、デジタル放送の動画を圧縮して、データ容量を節約しながら長時間録画が行える。VHSビデオテープで言うところの「3倍録画モード」に相当する感覚だ。デジタル放送の2時間番組を、そのままの画質でDR録画するのには、約25GBのHDD容量を消費するので、AVCエンコーダーを使って圧縮録画しながら、HDDの容量を効率よく使えるメリットは大きい。ソニーBDZシリーズの2010年春・夏モデルはAVCエンコーダーがシングル仕様だったため、2番組同時録画予約を行う際には必ず一つの番組は非圧縮のDRモードに固定された状態での録画予約になる。そのためAVCエンコーダーを使った録画番組が放送時間変更などで重なると録り逃しが発生していた。HX80R/EX30Rシリーズのように、2基のAVCエンコーダーを搭載する録画機の場合は、予約番組の放送時間が変更されても、空いている方のエンコーダーを使って録画を行うので録画ミスが激減する。
おでかけ転送:ソニーのBDZシリーズには録画番組をPSP、ウォークマン、携帯電話、対応カーナビに持ち出して再生できる「おでかけ転送」機能が備わっている。これまで2番組を同時録画した場合は、1番組のみ録画中におでかけ用ファイルを作成し、もう一方の番組ではおでかけ用ファイルは作成されなかった。そのため、録画終了後に実時間をかけておでかけファイルを作成しなければならず、使い勝手が悪かった。新BDZでは2番組同時録画中でも、録画しながら転送用ファイルを作成できるので、録画終了後に対応機器に高速転送ができて便利になっている。
チャンネル別番組表表示:指定したチャンネルだけを7〜8日分まとめて表示する機能。地上波の番組表でも便利に使えるが、BSデジタル、WOWOW、スターチャンネルなど局ごとの個性がハッキリしている放送局の番組を録画するのに重宝する機能だ。
【BRAVIA 製品に関する問い合わせ先】
ソニーマーケティング(株) 買い物相談窓口
TEL/0120-777-886
◆筆者プロフィール 鈴木桂水
元産業用ロボットメーカーの開発、設計担当を経て、現在はAV機器とパソコン周辺機器を主に扱うフリーライター。テレビ番組表を日夜分析している自称「テレビ番組表アナリスト」でもある。ユーザーの視点と元エンジニアの直感を頼りに、使いこなし系のコラムを得意とする。そのほかAV機器の情報雑誌などで執筆中。