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制作者が考える2Dと3Dの映像表現の違い

神山健治監督が語る「攻殻機動隊S.A.C. SSS 3D」− 3D立体視アニメの表現の可能性とは

公開日 2011/04/07 12:15 鈴木桂水
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神山氏:たとえば実写の場合、望遠寄りのレンズを使うと手前より奥がボケることで奥行き感を表現します。その際、奥行きの感じは詰まりますが、それをそのまま3Dにするとすごく不自然な映像になってしまいます。また、ワイドレンズで撮った映像を3Dにする場合も、若干俯瞰にしないと個々の視差が付きにくかったりします。でもその視差を全部厳密に付けてしまうと、せっかく実写なのに人形劇みたいな不思議な画になってしまう − こういったところが、実写3D映像の難しさです。

一方、アニメはもともとウソの撮影効果が使えるわけです。1枚の画のなかに望遠と広角が同居するみたいな画の作り方を意図的にしても、アニメであればそれで違和感は覚えません。そういう意味で、僕は実写よりもアニメの方が3Dに向いているなと思いましたね。

━━では、今後の作品に3Dを活用できそうですか?

神山氏:今のところは、最初から3Dを取り入れようと考えてはいません。作った画を更にこう見せたいというときに、後付けで考えればいいと思っています。最初から3Dのことを意識していると、どうしてもこう…画面の前に向かって竹槍を突くみたいな(笑)そんな画ばっかりになっちゃうのかなと。

━━2Dの元映像を3D化するプロセスを教えていただけますか?


神山氏:1フレームずつ、視差を付ける部分をマスクして切っています。でも単純にキャラクターと背景を切り分けるだけではありません。たとえば、キャラクターも単純に1枚で切り出しているわけではなくて、顔にもある程度立体感が出るようにしないといけないので、等高線みたいに分けて切り分けます。例えば横を向いた素子の髪の毛の、手前と奥側でそれぞれ別のマスクにするとかですね。そういう気が遠くなるような作業をしていって、それをどのくらいずらすかで奥行き度や飛び出し度を調整します。インターフェースみたいに半透明のものを飛び出させる場合は、その奥にあるものまで一緒に飛び出させないよう書き直さないといけません。

━━新規に描き足すシーンは多かったのでは?

神山氏:3Dのオブジェクトに関しては今回はそうしましたね。だから、そうする予算や時間、スタッフが確保できなければ無理なんですよ。インターフェースのあるカットは全て描き直していますし、新規に撮影し直しです。素材が全部あるものはいいんですが、フレームから見切れていたりして素材のないものは、素材から全部作り直しました。

━━マスクをかけて切り抜きするのは、ある程度自動化できていたのですか?

神山氏:いや、多分できていないですよ。SSSはその作業を人海戦術でマスクを切ったんだと思います。その辺りはイマジカさんに全部お願いしましたが、大変な苦労があったと思います。

━━手間を考えればシナリオ以外、新作を作るのと変わらないくらい掛かっているのですね。

神山氏:既に完成しているものを変換するだけなら楽じゃん、と思っていましたが、違いましたね。

━━ピクサーのように、イチからオブジェクトを組んだ3Dアニメを作ることにはご興味ありますか?

神山氏:そうですね、SSSではそれを試すためにオープニングをフルCGで新しく作りました。見た方の多くが、オープニング映像は3Dの効果が更に出ているねと感想をくれました。手応えは感じたのですが、最初から全てあれで作っていくことを考えると…労力が、倍以上かかるんですよ。でも予算は倍になるのか?っていう(笑)。仮に予算が倍になっても、お客さんが倍入るのかとか、作り手も倍のギャラを手にできるかと言われたら、多分それはまだ無理ではないでしょうか。現時点では技術的にも大変だし、お金がかかる。確かに3Dという技術で、表現の幅は広がる「かも」しれない。けど、その効果を作品の表現手段として多くの人が感じられないと、3Dがスタンダードになるのは難しいかなと思います。

ただやはり3Dは、「映画館に見に来てください」という惹きになるとは思いますね。音楽でもライブが見直されて来ていますが、映像そのものが主役たり得る場を作るという意味では、3Dは有効な手段だと感じますね。それに、サラウンド音声と組み合わせると、実際に自分が体験しているかのような感覚を味わえる面白さがあると思います。また、海賊盤対策になるというのもポイントでしょうか。現時点で最も有効な手段だと思います。…そういいながら、YouTubeに3D予告編をアップしてしまったのは我々ですが…。しかもYouTubeには標準で3D動画アップ機能があるので、予断を許さない気もしています。

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