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【開発者インタビュー】オーディオテクニカ「ATH-MSR7」に込められた思いを訊く

公開日 2014/12/01 11:00 山本敦
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新開発「"トゥルー・モーション" ハイレゾオーディオドライバー」の“三つの特徴”

「ATH-MSR7」の高音質を決定付ける二つのコア技術がある。一つは新たに開発された45mm口径のドライバー「"トゥルー・モーション" ハイレゾオーディオドライバー」である。

新開発「

ヘッドホンのドライバー開発において最も重視しているのは高い「駆動力」を確保することだと奈良氏は語る。

新開発のドライバーには“三つの特徴”があります。一つにダイアフラムを高駆動設計として、そのモーションを最大限に高めるため、磁界範囲に合わせて巻き数を調整した軽量なボイスコイルを組み合わせています。ボイスコイルが軽量化できたことで、ダイヤフラムの動きが滑らかになり、レスポンスの切れ味が上がります。結果として全体的な音楽の描写力がアップしていると自負しています

新開発のドライバーの二つめの特徴は、センターレジスターとアウターレジスターと呼ばれる二つの音響抵抗材を配した「デュアル・アコースティックレジスター」だ。これを採用したことで、バランスがナチュラルに整えられている。さらに三つめの特徴として、フランジ部分の空気孔を均等に配置しながら、空気の流れを妨げないようPCBの取り付け位置にも工夫を凝らしている。

多くの場合はフランジの孔の外周に沿ってPCBを配置するのですが、今回はフランジを通過する空気の流れを妨げないよう、ドライバーのトップに取り付けるトップマウント方式を採り入れています。これが、よりクリアで抜けの良い開放感のある音に結びついています」。

それぞれにオーディオテクニカならではの、ドライバーづくりに関わる特徴的な技術を束ねて最高の音が追求されたというわけだ。


不要な振動を徹底的に抑えるハウジングの内部構造

もう一つのコア技術は、ハウジング内部の構造に関わる「デュアルレイヤー・エアコントロールテクノロジー」だ。奈良氏はその特徴を次のように説明する。

ハウジング内部には積層された二つの音響スペースがつくられています。通常この音響スペースはシングルレイヤーであることが多いのですが、本機の場合は部屋を二つに分けたうえに、マグネシウムをブレンドした頑丈なアルミニウムで形成することによって、ノイズの源となる音響スペース内の空気の流れから発生してしまう不要振動をしっかりと抑制しています

強靭な積層構造と綿密に計算された空気経路によって音質向上を実現する「デュアルレイヤー・エアコントロールテクノロジー」を採用している

ハウジング内部に生まれる空気の流れとエネルギーを均等に開放するために、音響スペースの内部に一つ、外側両サイド一つずつ、合計三つの音響孔(ベント)が設けられている。この孔が音づくりの面でどんな効果をもたらすのだろうか。

ヘッドホンサウンドの低域に厚みをつけるためにベントを設けることはよくありますが、本機の場合は高・中・低域の全てに特徴を持たせたいと考えました。二層化した音響スペースをつなぐ内壁にも孔を設けながら、音のバランスを整えて、特徴を持たせる味付けを入念につくり込みました。もちろん低域の厚みを出すためにもベントは貢献していますが、いたずらに量感だけを出し過ぎてしまうとほかの帯域を邪魔してしまうので、全体のバランスをコントロールしながらの低域も“質”にこだわっています

トリプルベントの技術自体は今回同社のヘッドホンに初めて採用されたものだが、基礎のノウハウはオーディオテクニカのヘッドホン開発の40年間における積み重ねから得られているものであることは言うまでもないだろう。奈良氏はさらに説明を続ける。

二つの音響スペースを隔てる内壁のプレートもアルミニウムであるところもポイントです。プラスチックの二層構造にすることも可能ですが、そうすると仕切り板が肉厚になることで無駄な空気層を作り上げてしまい、結果、不要な抵抗となり効果的な空気のコントロールができません。メタルを使うとより薄く仕上げられるので、振動ダンピングの効果も高く、音の立ち上がりや立ち下がり、スピード感に良い影響をもたらします

さらにイヤーパッドを外すと、ドライバーが耳の方向に向かうようバッフル形状に角度が付けられていることがわかる。同社ではこの技術を「イヤーフォーカスデザイン」と呼んでいる。

ヘッドホンを装着すると、イヤーカップは頭部に対して平行に密着しますが、加えて内部でドライバーの向きを“耳に対して平行”になるように向けることで、よりダイレクトなリスニング感が得られるようになっています」と、奈良氏はその特徴を説く。これはオーディオテクニカの「アートモニター」や「エアーダイナミック」シリーズなど、ハイエンドのホーム用ヘッドホンにも使われてきた技術である。

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