「アニソンオーディオ Vol.2」12月に発売!
【特別インタビュー】『ワンピース』主題歌など作曲、田中公平氏が語る「ハイレゾ」に対する考えとは
その名前は知らずとも、その音楽に触れたことのない日本人はいないのではないか。それほどまでに多くの楽曲に携わってきたのが、作曲家・編曲家・アーティストの田中公平氏だ。特にアニメをメインのフィールドとして、その文化の発展、浸透にも積極的に取り組まれている。
その経歴は多くの場で掲載されているので、ここでは氏の手による楽曲を列挙して、紹介に代えたい。なお、スペースの問題もありほんの一部を挙げるに留めることをご了承いただきたい。TVアニメ「ワンピース」主題歌『ウィーアー!』、同じく『ウィーゴー!』。TVアニメ「OVERMANキングゲイナー」主題歌『キングゲイナー・オーバー!』。TVアニメ「勇者王ガオガイガー」主題歌『勇者王誕生!』。TVアニメおよびゲーム「サクラ大戦」シリーズ楽曲全般。OVA「トップをねらえ!」および「トップをねらえ2!」の劇伴。TVアニメ「氷菓」の劇伴、等など。いずれも人気の高い作品ばかりだ。
今回は12月24日発売を予定している「アニソンオーディオ Vol.2」の企画として、氏にインタビューを行うことができた。ここでは、誌面に収めることが叶わなかった、同氏の活動やハイレゾに対するお考えについて掲載したい。
−−作曲家を志したのはいつ頃からだったのですか?
田中公平氏(以下、田中) 小学校二年生からピアノを習い始めて、作曲もそのくらいからやっていました。譜面オタクだったので、クラシックの譜面を買ってきては読み込んでいたんです。その頃は商業的な音楽とは対局にあるというか、ちょっと軽蔑していましたね。ビートルズも聴いていなかった。中学生くらいでしたから、聴いていたら私もビートルズが好きになっていたでしょう。ただ、その頃はビートルズを不良の聴く音楽だと思っていたんです。本当にクラシックしか聴いていませんでした。
東京芸大の作曲科に入りましたけど、まだ仕事には全然ならない。芸大は浮世離れしたところで、現代音楽を書かないと評価が悪い。私はビリから2番目でした(笑)。けど、その頃もポピュラー音楽をやっていたかと言えばそうでもなかった。漠然と作曲家になりたいな、という思いを抱えて卒業しました。
その後、ビクター音楽産業(現JVCケンウッド・ビクターエンタテインメント)に入社しました。全盛期と言える時代でしたから、宣伝の仕事で色々なことに携わりました。それでレコード業界のことが随分分かったんです。サラリーマン生活の間も、ピアノは毎日、何時に帰っても必ず弾いていました。それは今でも自分で偉いな、と思っています(笑)。
そして三年で退社して、今度はバークリー音楽大学に留学したんです。そこで二年を過ごして、帰ってきてからデビューしたので、26歳の時ですね。海外に行ったことで、日本のレベルなんかが見えてきました。やっぱり、このレベルで仕事をしないと駄目だな、と思い知らされたんです。今でも日本は海外と比べると足りない箇所もある。それを感じることができるというのが、大きなアドバンテージかなと思いますね。
−−それからさまざまなお仕事をなさる中で、アニメの楽曲をメインに活動されるようになったのですね。そんな田中公平さんの曲をブラスバンドで演奏する「田中公平オン・ブラス!」が発売されていますが、その経緯をお聞かせください。
田中 何年も甲子園を見ていますと、演奏される曲がずっと変わらないんですよ。最近の曲が演奏されても良いはずなのに。先生方の偏見もあるかもしれませんが、一番はちゃんとした譜面が出版されていなかったからではないかと。ブラスバンド用に提供できていないこちらの責任でもあると。
それでコンサートをやったり、譜面を出したり、音源を出したりしたんです。高校野球と吹奏楽部というのは世界に誇る日本の文化です。特に吹奏楽部は譜面を読めるようになるし、皆で合わせる力もつく。良いことですよね。日本の音楽会の土台となる水準を引き上げている。すごい良い文化なのに、アニメの人たちがそれに対してアクセスしなかったというのが、あまりにも駄目だった。それに気がついたんです。音源で出してあれば譜面と一緒に確認ができますからね。
−−今回はCDとハイレゾが一緒に出ていますが、それについては?
田中 ハイレゾはやっぱり出して欲しいですよね。今の売れない音楽業界において、新しい原動力になりますから。今までのタイトルをハイレゾでリリースすれば、また買い直すという人も出てくるでしょう。ハイレゾならオーディオに凝ってみよう、という人も同じように増えるかもしれません。
ただ、音源を作っている側としては、音は生が一番だと思っているんです。生で聴く場合は、自分の聴きたい部分を聴いているんですよ。残響から何から、全部聴こえてはいるんですけど、自分の好きな部分にスポットを当てて聴いちゃうんです。ホルンが好きな人はホルンばっかり聴いてしまうみたいに。それはそれでいいんです。だって、ホルンが聴きたい人は、CDは向かないんですよ。普通にやると中音域で溶けてしまう、一番出しにくい部分なんですから。
私は、生を再現しようと考えない方がいいんじゃないかと、いつも思っているんです。ミックスというのは、誰が聴いても良いような、一番のバランスをお届けする作業だと思います。ハイレゾは非常に情報量が多く、可聴帯域を遥かに越えた部分まで収められていますが、聴きたい部分を聴けるとは一概には言えないかなと。一番理想としているのは、好きなところを自分でミックスできるような、全てのチャンネルを自分で調整できるシステムですね。これからの世界は、パーソナルなわけですから。
例えばテレビは放送時間に拘束されなくなり、好きな時間に見ることができるようになりました。同じように、音楽も聴かせたいものはこれだと提供されても、自分の聴きたいのはこういうのだ、と好きなように聴くことができるようになる。それができるようになった方が良いと思うんです。それが生の音の聴き方に近いですから。そういう音源やシステムが出てくると良いですね。
−−オーディオという趣味については如何でしょうか?
田中 iPodで聴く人がたくさんいて、家で大きな音を出せない人というもいますよね。けど、オーディオを揃えて楽しまれる方もいる。それが両極になっているように感じます。僕らとしては、やっぱり良い音で楽しんでもらいたいですね。
小学校高学年から、演奏会には本当に何度も行っていました。大阪国際フェスティバルなどは毎年開催の度に行きましたし、素晴らしい演奏をどこにでも聴きに行っていました。週に1、2回のペースだったかもしれない。クラシック小僧でしたね。
そういう意味では、こういったオーディオで家でも聴きたいけど……。実は、私の家にはスピーカーがありません。スタジオに行けばすごいのが置いてあるから、メンテもしなくていいし(笑)。ただ、中学の時の友達にオーディオファンがいまして、それで多少は知っています。それで、思い出補正が入っていると思うんですが、レコードって良かったな、と。息遣いとかがCDよりも味わいが深く感じますし、針を変えたりレコードを拭いたりして音が変わるのも面白い。手作りのコーヒーのように、匂いまでが伝わってきそうな。
逆にいつもレコーディングする時は、本当に一番小さい、良くないスピーカーで聴いて、それでしっかりと再生されるかを確かめるんです。すごいスピーカーで聴いてしまうと何でも良い音に聴こえちゃう。低音が入っていなくても、良い意味で割りと出てしまったりします。それが良くないスピーカーだと、出ない部分は出ない。それがチェックにはいいんですね。だからこういうシステムで聴くということは、ほとんど経験がありません。
◇ ◇ ◇
12月24日発売の「アニソンオーディオ Vol.2」本誌では、実際にオーディオシステムを用いてご自身の楽曲を試聴していただいた感想を頂戴できた。また、田中公平氏がアニメ楽曲を制作する際の理念や、アニメ文化に対するお考えも掲載する予定だ。納得できること請け合いの内容も、ぜひ合わせてご一読いただきたい。
その経歴は多くの場で掲載されているので、ここでは氏の手による楽曲を列挙して、紹介に代えたい。なお、スペースの問題もありほんの一部を挙げるに留めることをご了承いただきたい。TVアニメ「ワンピース」主題歌『ウィーアー!』、同じく『ウィーゴー!』。TVアニメ「OVERMANキングゲイナー」主題歌『キングゲイナー・オーバー!』。TVアニメ「勇者王ガオガイガー」主題歌『勇者王誕生!』。TVアニメおよびゲーム「サクラ大戦」シリーズ楽曲全般。OVA「トップをねらえ!」および「トップをねらえ2!」の劇伴。TVアニメ「氷菓」の劇伴、等など。いずれも人気の高い作品ばかりだ。
今回は12月24日発売を予定している「アニソンオーディオ Vol.2」の企画として、氏にインタビューを行うことができた。ここでは、誌面に収めることが叶わなかった、同氏の活動やハイレゾに対するお考えについて掲載したい。
−−作曲家を志したのはいつ頃からだったのですか?
田中公平氏(以下、田中) 小学校二年生からピアノを習い始めて、作曲もそのくらいからやっていました。譜面オタクだったので、クラシックの譜面を買ってきては読み込んでいたんです。その頃は商業的な音楽とは対局にあるというか、ちょっと軽蔑していましたね。ビートルズも聴いていなかった。中学生くらいでしたから、聴いていたら私もビートルズが好きになっていたでしょう。ただ、その頃はビートルズを不良の聴く音楽だと思っていたんです。本当にクラシックしか聴いていませんでした。
東京芸大の作曲科に入りましたけど、まだ仕事には全然ならない。芸大は浮世離れしたところで、現代音楽を書かないと評価が悪い。私はビリから2番目でした(笑)。けど、その頃もポピュラー音楽をやっていたかと言えばそうでもなかった。漠然と作曲家になりたいな、という思いを抱えて卒業しました。
その後、ビクター音楽産業(現JVCケンウッド・ビクターエンタテインメント)に入社しました。全盛期と言える時代でしたから、宣伝の仕事で色々なことに携わりました。それでレコード業界のことが随分分かったんです。サラリーマン生活の間も、ピアノは毎日、何時に帰っても必ず弾いていました。それは今でも自分で偉いな、と思っています(笑)。
そして三年で退社して、今度はバークリー音楽大学に留学したんです。そこで二年を過ごして、帰ってきてからデビューしたので、26歳の時ですね。海外に行ったことで、日本のレベルなんかが見えてきました。やっぱり、このレベルで仕事をしないと駄目だな、と思い知らされたんです。今でも日本は海外と比べると足りない箇所もある。それを感じることができるというのが、大きなアドバンテージかなと思いますね。
−−それからさまざまなお仕事をなさる中で、アニメの楽曲をメインに活動されるようになったのですね。そんな田中公平さんの曲をブラスバンドで演奏する「田中公平オン・ブラス!」が発売されていますが、その経緯をお聞かせください。
田中 何年も甲子園を見ていますと、演奏される曲がずっと変わらないんですよ。最近の曲が演奏されても良いはずなのに。先生方の偏見もあるかもしれませんが、一番はちゃんとした譜面が出版されていなかったからではないかと。ブラスバンド用に提供できていないこちらの責任でもあると。
それでコンサートをやったり、譜面を出したり、音源を出したりしたんです。高校野球と吹奏楽部というのは世界に誇る日本の文化です。特に吹奏楽部は譜面を読めるようになるし、皆で合わせる力もつく。良いことですよね。日本の音楽会の土台となる水準を引き上げている。すごい良い文化なのに、アニメの人たちがそれに対してアクセスしなかったというのが、あまりにも駄目だった。それに気がついたんです。音源で出してあれば譜面と一緒に確認ができますからね。
−−今回はCDとハイレゾが一緒に出ていますが、それについては?
田中 ハイレゾはやっぱり出して欲しいですよね。今の売れない音楽業界において、新しい原動力になりますから。今までのタイトルをハイレゾでリリースすれば、また買い直すという人も出てくるでしょう。ハイレゾならオーディオに凝ってみよう、という人も同じように増えるかもしれません。
ただ、音源を作っている側としては、音は生が一番だと思っているんです。生で聴く場合は、自分の聴きたい部分を聴いているんですよ。残響から何から、全部聴こえてはいるんですけど、自分の好きな部分にスポットを当てて聴いちゃうんです。ホルンが好きな人はホルンばっかり聴いてしまうみたいに。それはそれでいいんです。だって、ホルンが聴きたい人は、CDは向かないんですよ。普通にやると中音域で溶けてしまう、一番出しにくい部分なんですから。
私は、生を再現しようと考えない方がいいんじゃないかと、いつも思っているんです。ミックスというのは、誰が聴いても良いような、一番のバランスをお届けする作業だと思います。ハイレゾは非常に情報量が多く、可聴帯域を遥かに越えた部分まで収められていますが、聴きたい部分を聴けるとは一概には言えないかなと。一番理想としているのは、好きなところを自分でミックスできるような、全てのチャンネルを自分で調整できるシステムですね。これからの世界は、パーソナルなわけですから。
例えばテレビは放送時間に拘束されなくなり、好きな時間に見ることができるようになりました。同じように、音楽も聴かせたいものはこれだと提供されても、自分の聴きたいのはこういうのだ、と好きなように聴くことができるようになる。それができるようになった方が良いと思うんです。それが生の音の聴き方に近いですから。そういう音源やシステムが出てくると良いですね。
−−オーディオという趣味については如何でしょうか?
田中 iPodで聴く人がたくさんいて、家で大きな音を出せない人というもいますよね。けど、オーディオを揃えて楽しまれる方もいる。それが両極になっているように感じます。僕らとしては、やっぱり良い音で楽しんでもらいたいですね。
小学校高学年から、演奏会には本当に何度も行っていました。大阪国際フェスティバルなどは毎年開催の度に行きましたし、素晴らしい演奏をどこにでも聴きに行っていました。週に1、2回のペースだったかもしれない。クラシック小僧でしたね。
そういう意味では、こういったオーディオで家でも聴きたいけど……。実は、私の家にはスピーカーがありません。スタジオに行けばすごいのが置いてあるから、メンテもしなくていいし(笑)。ただ、中学の時の友達にオーディオファンがいまして、それで多少は知っています。それで、思い出補正が入っていると思うんですが、レコードって良かったな、と。息遣いとかがCDよりも味わいが深く感じますし、針を変えたりレコードを拭いたりして音が変わるのも面白い。手作りのコーヒーのように、匂いまでが伝わってきそうな。
逆にいつもレコーディングする時は、本当に一番小さい、良くないスピーカーで聴いて、それでしっかりと再生されるかを確かめるんです。すごいスピーカーで聴いてしまうと何でも良い音に聴こえちゃう。低音が入っていなくても、良い意味で割りと出てしまったりします。それが良くないスピーカーだと、出ない部分は出ない。それがチェックにはいいんですね。だからこういうシステムで聴くということは、ほとんど経験がありません。
12月24日発売の「アニソンオーディオ Vol.2」本誌では、実際にオーディオシステムを用いてご自身の楽曲を試聴していただいた感想を頂戴できた。また、田中公平氏がアニメ楽曲を制作する際の理念や、アニメ文化に対するお考えも掲載する予定だ。納得できること請け合いの内容も、ぜひ合わせてご一読いただきたい。