4K/8K放送を見据えた最新規格
<CES>新規格「HDMI 2.1」を策定メンバーに聞く。 “48Gbps”の意味とは? いまのケーブルは使える?
HDMIフォーラムは現地時間1月5日に、HDMIの最新規格「2.1」を発表した。プレスリリースを読めば、これからHDMIが向かう方向性が見えてくるものの、それだけではわからないことも多い。HDMIフォーラムのブースを訪ね、HDMI Licensing Administrator Inc.のBrad Bramy氏、Jeff Soo H.Park氏が展示内容を紹介。さらにパナソニックAVCネットワークス社の臼木直司氏にHDMI 2.1の詳細を聞くことができた。
レポートの最初に、臼木氏へのHDMI 2.1に関するインタビューを、一問一答形式でお届けしよう。
ーー なぜこのタイミングで、HDMIの最新バージョン2.1が発表されたのでしょうか。
臼木氏 2018年に予定する4K/8K実用放送のスタートを見越したものです。HDMI 2.1は最大48Gbpsの伝送帯域幅を持ちますが、その中を通す信号は様々なものを選べます。今回メインに考えているのは8K/60fpsの映像信号ですが、色深度は12bit階調ながら、信号フォーマットはフルスペックではない4:2:0になっています。
ーー 48Gbpsというスピードはどんな意味を持つのでしょうか。
臼木氏 HDMI 2.0のスペックである最大18Gbpsの帯域の3倍を狙ったものです。18を3倍すると54になるのですが、現在HDMI信号のコーディングに使っているTMDSよりも高効率なコーディングに変更することを検討しており、これが実現すれば、従来18Gbps必要だった帯域が16Gbpsで済むようになります。
8K/60fpsを4:4:4フォーマットで通すと、本来は16Gbpsの4倍の帯域が必要でしたが、今回は4:2:0でやろうということなので、まずは2倍の帯域、32Gbpsが必要となります。ここから色深度のビットを上げる分でさらに1.5倍となり、合計は3倍となる48Gbpsということになります。すなわち、HDMI 2.1で非圧縮のまま送れるデータは、8K/60fps/4:2:0/12bitまでとなります。
ーー これが限界なのでしょうか?
臼木氏 おそらくそうだと思います。これがメタルケーブルで伝送できる限界です。しかし、果たして4:2:0でいいのかという意見も、フォーラムの中にはあります。さらに帯域幅を広げて対応するという考え方もあり、リリースには明記していませんが、「圧縮」についても議論はしています。VESA標準の映像圧縮技術「DSC」(Display Stream Compression)をオプションとして入れるか、いま検討しています。
ーー HDMI 2.1になると、ケーブルの形状など仕様は変わりますか。
臼木氏 形状は一緒なので、下位互換は担保されます。ただしケーブルはより高性能なものが必要になるので、検査のレベルがさらに厳しいものになるはずです。ケーブルの導線の素材や太さは変えなければならないでしょう。コネクターも性能を上げなければならない。今までの技術の積み重ねのもとで、「チャンピオンモデルなら行ける」という見通しを基準にして、今回のスペックを決めました。HDMI 2.1の性能を発揮できる環境には、厳しいテストをクリアした新しいケーブルの導入が必要ということになります。
評価試験は今までと同じHDMI Authorized Testing Center(ATC)でやることになりますが、内容はまだ決まっていません。そもそも今回発表したHDMI 2.1のメインスペックは、今年の第2四半期(4〜6月ごろ)の正式リリースを予定しています。そこからテスト規格を決めるので、おそらく2017年の年末ぐらいに固まることになるとみています。
ーー 安定して信号が送れるケーブルの長さはどれぐらいと考えていますか。
臼木氏 長いケーブルを作ることは今よりも難しくなるでしょう。プレミアムHDMIケーブルの場合、現在テストでは10mまで信号を通せる製品もありますが、実際に発売されている商品は7mまでが大半です。おそらくHDMI 2.1ではそこまで行かないでしょう。対応策としては、ケーブルの中で電気的にイコライジングをかけたり、プラグ部分で光信号と電気信号を変換し、より長い伝送距離を確保するなどのアイデアが考えられます。しかし、製品化の時点ではいろいろと課題が見えてくると思います。
ーー HDMIの仕様を一新するようなアップグレード方法についても検討はされたのでしょうか。
臼木氏 これだけ普及したHDMIですから、下位互換性を考えると現実には難しいと思います。全く新しい規格を作ることもできるでしょうが、それはもうHDMIと呼ぶ必要がありません。パナソニックは2016年のCESで、フルスペック8K信号を非圧縮のままケーブル1本で送れる、メタルと光ファイバーのハイブリッドケーブルを試作して紹介したことがあります(関連ニュース)。しかし、光ファイバーになるとHDMIフォーラムで扱う対象にはならず、全く新しいケーブルということになります。
ーー HDMI 2.1がサポートする「ダイナミック(動的)HDR」についてくわしく説明してください。
臼木氏 HDR信号への対応はHDMI 2.0bで盛り込まれていますが、現行のHDRがカーブ値をネゴシエーションの際に固定して伝送する静的な伝送方法であるのに対し、映像のフレーム単位でカーブの値を動的に変化させ、狭い帯域幅の中で効率よくデータを伝送しながら、より高画質を狙う技術がダイナミックHDRです。送り出し側と受け手側の機器が対応する前に、カーブのメタデータをHDMIで通すためのフォーマットから先に決めたということです。
ーー eARCについても詳細を教えていただけますか。
臼木氏 HDMIのARC(オーディオリターンチャンネル)を拡張(e =extend)した規格になります。現在のARCは、基本的にS/PDIFの信号をそのまま乗せているだけですが、これからのオブジェクトオーディオの時代に備えて、よりハイビットレンジのオーディオデータを送れるようにつくられたものです。
テレビのサウンドをHDMIから外部スピーカーへ送り出し、鳴らすためのオーディオリターンチャンネルより先に、オブジェクトオーディオをケアするというのは、順序が逆だと言われるかもしれません。私も、むしろ先にフォワード側(ソース機器から受像機器への送り出し)を定義するべきだと個人的には思います。インターネットにつながる最近のテレビは、OTTで新しいオーディオ信号が扱われることもあるだろうという期待のもとで作られたものとは思いますが。
ーー HLG(Hybrid Log-Gamma)への対応は盛り込まれなかったのでしょうか。
臼木氏 すでにHDMI 2.0bの範囲でサポートすることが決まっています。HLG対応のケーブルはもう出荷して良いことになっています。静的HDRのカーブの1つということですので、現在の環境でもすぐに対応可能です。
ーー ゲームモード「VRR」が盛り込まれた背景をお聞かせ下さい。
臼木氏 これは主に、PCゲームの環境でリフレッシュレートを可変させるものになります。現在実用化が検討されているのは、ゲーミング用途を想定したモニターと、グラフィックスカードを搭載したコンソールやPCになります。今回ブースではAMD様によるコンセプトが紹介されていますが、HDMIとして先にサポートしておき、これから対応商品やゲームコンテンツが出てきた時のために、万全の構えを取っておくためのものです。
ーー HDMI 2.1対応の商品が出てくる時期はいつ頃と見込んでいますか。
臼木氏 国内メーカーは、東京オリンピックが開催される2020年を目指してくることになると思います。先ほども申し上げましたように、実際にHDMI 2.1のスペックが確定するタイミングはもう少し先で、テストスペックはさらにその先のタイミングになります。チップメーカーが先行し、セットメーカーが商品開発のスタートを切れるのは、2017年末から来年にかけての頃合いではないでしょうか。
◇
HDMIフォーラムは、CESの会場に動的HDRと静的HDRの映像コンテンツを比較するデモンストレーションを展示していた。SDRとHDRほどの差ではないが、動的HDRの映像の方がわずかに細部の精彩感や明暗の再現力に勝る。HDMIとUSB、それぞれ異なるインターフェースを持つ機器同氏をつなぐための「HDMI Alt Mode over USB Type-C」についても、パナソニックの開発キットやプロトタイプのケーブルが披露された。次世代の映像機器の進化へいち早く対応し、牽引していこうとするHDMIフォーラムの姿勢を感じることができた。
レポートの最初に、臼木氏へのHDMI 2.1に関するインタビューを、一問一答形式でお届けしよう。
ーー なぜこのタイミングで、HDMIの最新バージョン2.1が発表されたのでしょうか。
臼木氏 2018年に予定する4K/8K実用放送のスタートを見越したものです。HDMI 2.1は最大48Gbpsの伝送帯域幅を持ちますが、その中を通す信号は様々なものを選べます。今回メインに考えているのは8K/60fpsの映像信号ですが、色深度は12bit階調ながら、信号フォーマットはフルスペックではない4:2:0になっています。
ーー 48Gbpsというスピードはどんな意味を持つのでしょうか。
臼木氏 HDMI 2.0のスペックである最大18Gbpsの帯域の3倍を狙ったものです。18を3倍すると54になるのですが、現在HDMI信号のコーディングに使っているTMDSよりも高効率なコーディングに変更することを検討しており、これが実現すれば、従来18Gbps必要だった帯域が16Gbpsで済むようになります。
8K/60fpsを4:4:4フォーマットで通すと、本来は16Gbpsの4倍の帯域が必要でしたが、今回は4:2:0でやろうということなので、まずは2倍の帯域、32Gbpsが必要となります。ここから色深度のビットを上げる分でさらに1.5倍となり、合計は3倍となる48Gbpsということになります。すなわち、HDMI 2.1で非圧縮のまま送れるデータは、8K/60fps/4:2:0/12bitまでとなります。
ーー これが限界なのでしょうか?
臼木氏 おそらくそうだと思います。これがメタルケーブルで伝送できる限界です。しかし、果たして4:2:0でいいのかという意見も、フォーラムの中にはあります。さらに帯域幅を広げて対応するという考え方もあり、リリースには明記していませんが、「圧縮」についても議論はしています。VESA標準の映像圧縮技術「DSC」(Display Stream Compression)をオプションとして入れるか、いま検討しています。
ーー HDMI 2.1になると、ケーブルの形状など仕様は変わりますか。
臼木氏 形状は一緒なので、下位互換は担保されます。ただしケーブルはより高性能なものが必要になるので、検査のレベルがさらに厳しいものになるはずです。ケーブルの導線の素材や太さは変えなければならないでしょう。コネクターも性能を上げなければならない。今までの技術の積み重ねのもとで、「チャンピオンモデルなら行ける」という見通しを基準にして、今回のスペックを決めました。HDMI 2.1の性能を発揮できる環境には、厳しいテストをクリアした新しいケーブルの導入が必要ということになります。
評価試験は今までと同じHDMI Authorized Testing Center(ATC)でやることになりますが、内容はまだ決まっていません。そもそも今回発表したHDMI 2.1のメインスペックは、今年の第2四半期(4〜6月ごろ)の正式リリースを予定しています。そこからテスト規格を決めるので、おそらく2017年の年末ぐらいに固まることになるとみています。
ーー 安定して信号が送れるケーブルの長さはどれぐらいと考えていますか。
臼木氏 長いケーブルを作ることは今よりも難しくなるでしょう。プレミアムHDMIケーブルの場合、現在テストでは10mまで信号を通せる製品もありますが、実際に発売されている商品は7mまでが大半です。おそらくHDMI 2.1ではそこまで行かないでしょう。対応策としては、ケーブルの中で電気的にイコライジングをかけたり、プラグ部分で光信号と電気信号を変換し、より長い伝送距離を確保するなどのアイデアが考えられます。しかし、製品化の時点ではいろいろと課題が見えてくると思います。
ーー HDMIの仕様を一新するようなアップグレード方法についても検討はされたのでしょうか。
臼木氏 これだけ普及したHDMIですから、下位互換性を考えると現実には難しいと思います。全く新しい規格を作ることもできるでしょうが、それはもうHDMIと呼ぶ必要がありません。パナソニックは2016年のCESで、フルスペック8K信号を非圧縮のままケーブル1本で送れる、メタルと光ファイバーのハイブリッドケーブルを試作して紹介したことがあります(関連ニュース)。しかし、光ファイバーになるとHDMIフォーラムで扱う対象にはならず、全く新しいケーブルということになります。
ーー HDMI 2.1がサポートする「ダイナミック(動的)HDR」についてくわしく説明してください。
臼木氏 HDR信号への対応はHDMI 2.0bで盛り込まれていますが、現行のHDRがカーブ値をネゴシエーションの際に固定して伝送する静的な伝送方法であるのに対し、映像のフレーム単位でカーブの値を動的に変化させ、狭い帯域幅の中で効率よくデータを伝送しながら、より高画質を狙う技術がダイナミックHDRです。送り出し側と受け手側の機器が対応する前に、カーブのメタデータをHDMIで通すためのフォーマットから先に決めたということです。
ーー eARCについても詳細を教えていただけますか。
臼木氏 HDMIのARC(オーディオリターンチャンネル)を拡張(e =extend)した規格になります。現在のARCは、基本的にS/PDIFの信号をそのまま乗せているだけですが、これからのオブジェクトオーディオの時代に備えて、よりハイビットレンジのオーディオデータを送れるようにつくられたものです。
テレビのサウンドをHDMIから外部スピーカーへ送り出し、鳴らすためのオーディオリターンチャンネルより先に、オブジェクトオーディオをケアするというのは、順序が逆だと言われるかもしれません。私も、むしろ先にフォワード側(ソース機器から受像機器への送り出し)を定義するべきだと個人的には思います。インターネットにつながる最近のテレビは、OTTで新しいオーディオ信号が扱われることもあるだろうという期待のもとで作られたものとは思いますが。
ーー HLG(Hybrid Log-Gamma)への対応は盛り込まれなかったのでしょうか。
臼木氏 すでにHDMI 2.0bの範囲でサポートすることが決まっています。HLG対応のケーブルはもう出荷して良いことになっています。静的HDRのカーブの1つということですので、現在の環境でもすぐに対応可能です。
ーー ゲームモード「VRR」が盛り込まれた背景をお聞かせ下さい。
臼木氏 これは主に、PCゲームの環境でリフレッシュレートを可変させるものになります。現在実用化が検討されているのは、ゲーミング用途を想定したモニターと、グラフィックスカードを搭載したコンソールやPCになります。今回ブースではAMD様によるコンセプトが紹介されていますが、HDMIとして先にサポートしておき、これから対応商品やゲームコンテンツが出てきた時のために、万全の構えを取っておくためのものです。
ーー HDMI 2.1対応の商品が出てくる時期はいつ頃と見込んでいますか。
臼木氏 国内メーカーは、東京オリンピックが開催される2020年を目指してくることになると思います。先ほども申し上げましたように、実際にHDMI 2.1のスペックが確定するタイミングはもう少し先で、テストスペックはさらにその先のタイミングになります。チップメーカーが先行し、セットメーカーが商品開発のスタートを切れるのは、2017年末から来年にかけての頃合いではないでしょうか。
HDMIフォーラムは、CESの会場に動的HDRと静的HDRの映像コンテンツを比較するデモンストレーションを展示していた。SDRとHDRほどの差ではないが、動的HDRの映像の方がわずかに細部の精彩感や明暗の再現力に勝る。HDMIとUSB、それぞれ異なるインターフェースを持つ機器同氏をつなぐための「HDMI Alt Mode over USB Type-C」についても、パナソニックの開発キットやプロトタイプのケーブルが披露された。次世代の映像機器の進化へいち早く対応し、牽引していこうとするHDMIフォーラムの姿勢を感じることができた。