ハイエンドオーディオDACも展開予定
実は「音質至上主義」。3年かけて“音質設計 ”を開発したロームのこだわりを聞く
オーディオ開発課 技術主査の佐藤陽亮氏は、音質設計についてこう説明する。
「今回導入した音質設計技術は、経験や勘だけに頼るのではなく、音がどこで変わるのか、どういう風に変わるのかということを解析し、それを28のパラメーターに落とし込んだところに特長があります。2013年頃から、この新しい設計技術に取り組みました」。
では、同社が「音質設計」に取り組んだ背景には何があったのだろうか。
「音質設計技術に取り組んだ理由は、電気的特性では勝っていても、音質では負けることがあったという反省からです。実際に音質評価で良い評価を得られず、採用いただけないこともありました」と、オーディオ開発課グループリーダーの坂本光章氏は語る。
「たとえば弊社のサウンドプロセッサーは、従来からTHD+N特性で0.0004%を、S/N比では131dBを実現しています。これは業界最高クラスの性能です。ここからさらに良い音質を実現するには、新たな設計思想として『音質設計』が必要になると考えました」(同)。
「本当に音の良いデバイスを作るには、電気的特性だけでは測れない、人の耳で聞いて判断する『聴感評価』の導入が欠かせません。それも漫然と聞いてトライ&エラーを行うのではなく、初めから原因と結果の関係を明確にしておけば、ほかの製品を開発するときにも応用できます」(同)。
設計技術の確立に3年をかけたというのは異例のことのように思えるが、今後この手法は、ほかの製品にも活かすことができる。長いスパンで考えると合理的な手法と言えるだろう。
■28のパラメーターにはどのようなものがある?
聴感評価を繰り返して発見した28ものパラメーター。具体的にどのようなものがあるのだろうか。
「源流となるマスクレイアウトや回路設計のところから、ウェハープロセス、パッケージなど、各工程に様々な項目があります。たとえばボリューム回路を構成する抵抗素子を最適設計したり、チップとリードフレームを結ぶボンディングワイヤーの材質でも音が変わったり、内蔵されているオペアンプに使われている素子配置を見直したりなどといった、本当に細かな工夫です」(佐藤氏)。
実際にこの音質設計を使い始めてから、仕事の進め方に変化もあったという。
「特性的には少し劣るが音は明らかに良い、という場合に、音が良い方を選んだこともあります。とにかく耳で聴いたときの音質が重要で、これを徹底しています」(加藤氏)。
「メーカーのご担当者さまにご試聴頂くのも貴重な機会です。年間で10回以上、メーカー様にご試聴頂く機会を設けておりますが、そこでは当然ながら、厳しいご意見も頂きます。それをもとに、さらに作り込んでいくということを続けていきます」(佐藤氏)。
■今後はすべてのオーディオデバイスに音質設計を導入
今後、この音質設計を採用した製品を、同社のオーディオデバイスのうち、どの程度の割合にまで持っていくのだろうか。
「基本的にはオーディオ製品すべてに音質設計を施したいと考えています。ただし、28のパラメーターすべてに対策を施すかといった判断は、製品ごとに異なります。たとえば音の良い素材を使うとコストアップにつながってしまうこともありますので、製品の価格やラインナップの中での位置づけなど、全体のバランスを見ながらできるところをやっていきます」(加藤氏)。
パラメーターの数が今後増減する可能性についても尋ねたところ、「現在のパラメーターの数は28ですが、今後いろいろな分析を行っていく中で、新たな発見が必ずあるはず。そうなるとパラメーターの数はもっと増えていくことになるでしょう」という回答が得られた。