普通の感性から生まれる普通じゃない作品
ヘッドホンに何が起きたらこうなった? カッコ良すぎるガジェットの作者に話を聞いた
ーー設計の際に、合わせる服装のイメージはどういったものを考えていますか?
池内さん:最近はレンタルなどのご依頼で、SFやサイバーパンク、原宿系といったものでお使いいただくことが多いので、いわゆる原宿系や、ACRONYMのような服装をイメージしています。ただ、「それだけではないだろう」とも思っていますね。ヘッドホンと制服の女の子って似合うじゃないですか? だったら制服に合わせられる可能性はあるはずですから。
ーー確かに、スーツの男性が着けている様子など、マッチングとして自分はアリじゃないか、と思いました。
池内さん:世の中に溢れているアニメなどが色々な世界観に手を出していて、僕もどこかでそれを見てカッコいいと思ったから、こうしたデザインにつながっている部分はあると思います。
ーーそれが広まるなかで、こうしたデザインが受け入れられる下地ができてきた、ということなのかもしれませんね。ちなみに、 “メカメカしいヘッドホン女子” 好きのような気持ちはお持ちですか?
池内さん:女性的な魅力が上がっているというより、着けている様子が作品として良いな、と感じますね。僕自身にこういうものを着けていることへのフェティシズムがあるわけではないんです。
ーーなるほど。では池内さんの世界観の根底にある作品はなんだと思いますか?
池内さん:やっぱり、小学生のときに見た『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』と、『ゾイド』の2作品は非常に強い影響を受けています。スター・ウォーズのポッドレースが「カッコよかったなー!」とずっと覚えているんですが、ああいう全部剥き出しな感じもカッコいいですし、ゾイドは一部が剥き出しで一部は平たい面で覆われているような意匠で、そういうところは自分の作品にも表れていると思います。
ーーその2作品の名前が挙がると、自分の中でストンと納得が行きました。デザインだけではなく、基本的に池内さんの作品は “使える” ということが前提とお聞きしたのですが、そのあたりはいかがでしょうか?
池内さん:そうですね、ヘッドホンであればもとのヘッドホンの機能を残しているので、音が聴けるようになっています。デザインは重視しますが、あくまで前提として、製品そのものの機能は崩していません。一度分解したりする以上、変化は起きると思いますが、音が鳴らないなどヘッドホンとしての機能は失わないように。でも、重くなってつけ心地が悪くなるというのはあると思います(笑)。
ーー色々な作品を手がけるうちに、ヘッドホンに詳しくなってきた、ということは?
池内さん:それが、あんまりならないんです(笑)。使いやすかったヘッドホンをまた使ったりしますし、「あのヘッドホンは色が塗りやすかったな」「このヘッドホンは分解しやすくて良いな」とか、そういう風には詳しくなってきました。
ーーなかなか普通ではたどり着かない部分の知識ですね。
池内さん:ただ、購入したヘッドホンは聴いてみますが、色々と試すうちに価格と音質は絶対に比例するものではないんだな、ということに気づきました。小さくても重低音が響いたり、アンプを使うことで同じヘッドホンでも全然違う聴こえ方になる、といったことが分かりましたね。
ーーそのなかで、気に入って自分用にしたというものはありますか?
池内さん:「Double Zero 001」(Double Zero)なんかはそうですね。クラシックがとても聴きやすかったです。このモデルはヘッドホン自体がシンプルなデザインの有線接続タイプだったので、Bluetoothレシーバーをメカとしてデコレーションしてみました。マイクもつけているので、ハンズフリー通話もできます。
ーーレシーバーとヘッドホンを有線接続することでBluetoothヘッドホン化を実現しているのですね。Bluetooth用リケーブルなどが販売されたりもしていますが、こうしてデザインとマッチさせるアプローチは初めて目にしました。
池内さん:こうしたパーツを後付するのに、見た目だけではない、なにか理由が欲しいと考えていたんです。Bluetoothレシーバーであれば、機能を追加する意味がありますから、自分でもそういった面で上手くできたと思います。
ーーこうした作品を手がけるにあたり、制作前から明確に「こうしよう」といった最終地点があって、そこに進んでいくのでしょうか? それとも、作りながら最終型が見えてくるようなイメージでしょうか?
池内さん:この作品の場合は、最初はぼんやりしたところから始まって、「耳を着けると可愛いだろうな」という発想から耳を着けることにして、「耳になりそうなものはなにかあるかな」と考えてチェインバー(『翠星のガルガンティア』)を選びました。チェインバーは丸っこいデザインなので、Double Zeroとの相性も良いだろうなと思ったんです。それで両方を買ってきて、並べたときに「どこに、どうやって着けていこうかな」と考えていきました。ですので、ある程度のかたちは見えていますし、作りながら考えていく部分もありますので、両方ですね。
ーークライアント側から、「こういったものが欲しい」と依頼があったりはしますか?
池内さん:あるにはありますが、「イメージ通りには作れないので、好きに作って良いですか?」ということをあらかじめ聞いています。そして、あまり途中経過も送らないで、「できました、どうですか!」と(笑)。
ーー池内さんにお願いするということは、池内さんの作品が欲しいということでしょうから、それで良いのではと思います。
池内さん:仕事としてそれで良いのかは分からないのですが、僕もそうであって欲しいと思って「任せて下さい」と言っていますね。