普通の感性から生まれる普通じゃない作品
ヘッドホンに何が起きたらこうなった? カッコ良すぎるガジェットの作者に話を聞いた
ーーご自身の作品のようなデザインが、一般的に流通するようになってほしいとは思いますか?
池内さん:僕も昔は、こういうデザインが当たり前の未来が来ると思っていたんですが、実際には来ませんでした。作り始めたころはAirPodsなども出ていなくて、いまは完全ワイヤレスイヤホンだったり、そういうモデルが溢れているじゃないですか。そっちのほうが便利ですし、みんなが僕の作品のようなものを着ける必要はないな、と思うようになりました。でも、大きなメーカーであれば、量産のノウハウもお持ちでしょうから、デザイン協力のようなお話があれば「はい、なんでもします!」と答えます(笑)。
ーー不躾な質問で恐縮ですが、ヘッドホン作品を依頼される場合、1つあたりおいくらになるのでしょう?
池内さん:本当にマチマチですね。いまはシンプルなのは10万円とか、複雑なもので20万円、一式で50万円になったりもします。それも1対1のやり取りで個別に決めていますので、百貨店さんなどで置いていただく場合はまた違う設定をしていく必要があるなと考えています。
ーー制作はどのような環境で行われているのですか?
池内さん:ワンルームの自分の部屋でやっています。超せまいです(笑)。音楽を聴いたり、映画を観たりしながらですね。大きさにもよりますが、案を練って、組み立てて、箱詰めするまでを1週間程度で行っています。
ーー聴く音楽は、どういったものを?
池内さん:オールジャンルで聴きますが、クラシックは好きですね。クラシックのバランスの良さは、あらゆるものに通ずるように思います。人間が「カッコいいな、美しいな」と感じる理由は、文脈とバランスなんじゃないかと思うんですが、そのバランスというのは、音楽も、絵も、模型も、食事も、自然も、全部一緒なんじゃないかなと。『ジョジョ』(ジョジョの奇妙な冒険)に黄金率が出てきて、美しさのパターンはあるというのを読んで「なるほどなー」と納得したんです。クラシックでも有名な『我が祖国』の「モルダウ」で、バイオリンやチェロなどの楽器のなかでトライアングルの高音が響くのがすごく良く聴こえたり、全体が白い中で黒いマーキングが入っているような、そういうバランスは知っておいて損じゃないと考えています。
ーーやはり作品に引きずられて、メタルやEDMを想像していたのですが、本当に様々なジャンルに渡っているのですね。
池内さん:両親や友人の影響で、70年〜80年代のポップスも好きですよ。アニソンも好きですし、アヴィーチーなんかも好きです。
ーー音楽はやはりヘッドホンを使って?
池内さん:いえ、ヘッドホンは作業時には使わないですね。完全に閉じこもってしまうと、視野が狭くなるような気がして。以前はスピーカーを使っていたんですが、いまの部屋ではあまり大きな音も出せないのでパソコンから小さくそのまま鳴らしています。
ーーそれでは、今後の展望について教えてください。
池内さん:ようやく1/1サイズにも慣れてきましたが、身につけるものだけでなく、もっと空間まで広げていきたいと思っています。それこそスピーカーでもテレビでも、身の回りにあるものを1つのテーマに沿った1/1のジオラマにしてしまって、その空間に入れるようにしたいですね。せっかくヘッドホンを使っているので、それならプレーヤーも合わせることができますし、ゲーミングであればパソコンも同じようにデコレーションすれば、そこで1個のインスタレーションになると思います。
ーートータルで池内さんがプロデュースされた空間はめちゃくちゃカッコよさそうです! 本格的なビジネス展開として作品をバンバン売っていこう、みたいなお考えは?
池内さん:お金は欲しいですが、売ってモノがなくなってしまうのも、イヤではあるんですよね(笑)。一番ありがたいのは、パトロンがいて、その人のために作って、全部その人のところに保管されることでしょうか。作品がバラバラになっていくのは、ちょっと寂しいので。それに、僕がモノを作る理由は、人とのコミュニケーションにあるんです。
ーーコミュニケーション。
池内さん:作品がコミュニケーションをするための道具としてあるからこそ、僕が社会との関わりを持てると思っています。だから、モノがなくなってしまうと、僕のボキャブラリーが減っていくような感じがするんです。
ーー作品が池内さんのアイデンティティでもあり、コミュニケーションツールになっているといったイメージでしょうか。そうすると、展示やレンタルといった方法だと、気になる人は作品に触れられて、かつ池内さんの手元に作品が残るという点で良さそうですね。でも、部屋に置くスペースも必要になりそうですが。
池内さん:そうなんです、もう満タン。ですので、もう1つ目標としては、もう少し広い部屋に引っ越せるくらいになりたいですね(笑)。
ーーそれはきっとすぐだと思います。本日はありがとうございました!
こうしてインタビューをして分かったのは、池内 啓人さんは普通の方であり、我々と同じようなものをカッコいいと感じている。そしてその一方で、尖った感性によって作品をかたちにしているのだ。だから、その作品を、素直にカッコいいと思えるのだろう。
年末ごろに西武渋谷店にて池内さんの作品が展示される機会があるそうだ。日程など詳細は池内さんのTwitterにて告知される予定。実物が発するオーラは、ちょっと感動するものがあるので、お近くの方はぜひ足を運んでみてほしい。