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戦略と開発状況を伊藤CMOや開発陣に聞く

開発メンバーは“アベンジャーズ”。ジャパンディスプレイ伊藤CMOが語る「BtoCに参入した理由」

公開日 2018/12/28 07:00 編集部:小野佳希
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「BtoB製品であれば発表会の時点ではモックアップでもよかったのかもしれませんが、BtoC製品を皆さんにご覧いただくわけですから、発表会の時点である程度の数の試作機が揃ってないとダメだよと社員にはハッパをかけました」(伊藤氏)とのことで、「MiON」の開発担当である渋江氏は「イベント直前は寝ることもできないくらい真剣に考えました」と振り返る。

MiONの開発を担当する渋江隆夫氏

伊藤氏は、BtoC製品開発部署のメンバーを「映画『アベンジャーズ』やグリーンベレーのようなもの」だと表現。「外部のスピード感やレベルを知っている私の要求についてこられる、そして、まだ誰も見たことがない世界初の製品を作り上げられる精鋭が集まっていると思っています」と語る。

一方、「パネルだけでなく最終的なスマートフォン端末まで自分たちで作ってもよいのではないかと考えていた」(渋江氏)など、スタッフ陣もBtoC参入に興味を持っていたとコメント。「日々勉強している状況」(紡ぎシリーズ「XAQ-01 AQUARIUS」開発チームの糸川氏)、「デザイン面での経験を持っていない点も苦労したポイントのひとつ」(KAIKEN開発担当の長尾氏)などと手探り状態の毎日ながら、どの製品も概ね順調に開発が進んでいるという。

(写真左から)紡ぎシリーズ「AQUARIUS」開発チームの糸川真路氏、高田沙知子氏、野末真仁氏

■他社ブランドでの製品展開の可能性も

こうした製品の数々は2019年度中の一般発売を予定。なかでも「MiONとKAIKENは開発者どうしで一番槍を狙って争っている状態です」(伊藤氏)という。

ただ、「最終的な製品がJDIブランドで世に出ることにはまったくこだわっていません」(伊藤氏)とのこと。「パソコンでインテルさんが『インテル入ってる』と展開されているように、例えば『Powerd by JDI』のような形で、他社さんのブランドでMiONやKAIKEN、紡ぎシリーズが販売されるのでも構わないと思っています。だってJDIブランドの陶器やヘルメットがいきなり出てきて買いたいと思いますか? 一流メーカーさんの製品のほうが信頼できるのではないでしょうか」と述べる。

この伊藤氏の言葉からは、今後発表するとしている具体的な販売戦略の一端を伺い知ることができる。コンシューマ製品の販路を持っていない同社だけに、他社とのコラボレーションで製品を流通させる可能性も考えられそうだ。


また、MiONおよび裸眼3Dディスプレイ「LF-MIC」は専用コンテンツの配信サービスも必要とするが、これについても「自社でやるのか、他社に任せるのか、いろいろな可能性を模索している段階」とのこと。コンテンツの数や質についても「クリエーターさんやコンテンツホルダーさんからもポジティブな反応が得られています」(渋江氏)という。

一方で「ただ、部品屋として一台いくらでモノを収めて終わりではなく、リカーリングビジネスとしてしっかり収益を上げられるようにしていくことが重要です」とも伊藤氏はコメント。「例えばスマホ端末のように24回払いにしたり、究極的には端末を無料で配ってしまうくらいでもいいかもしれません」などと様々なアイディアを披露。「たんなる端末を売るビジネスだと、莫大な研究開発費を注ぎ込める中国韓国勢にすぐに追いつかれてしまいます。MiONやLF-MICはコンテンツ配信まで含めたエコシステムを構築することがポイントなのです」と語った。

■既存のBtoB分野にも好影響が波及

そして、こうしたBtoC分野への挑戦は、これまで取り組んできたBtoB分野にも好影響を与えていると伊藤氏は説明。「BtoCへの参入を発表した結果、既存のBtoBの顧客から『じゃあこんなことやあんなことはできないか?』といったリクエストがきます。それを研究開発メンバーに戻すと『じゃあ研究してみます』となって新しい技術が生まれるので、実は一石二鳥のビジネスモデルなんです」と語る。

また、「ジャパンディスプレイという社名ではありますが、つくっているのはディスプレイモジュールであって、最終製品としてのディスプレイではありません。つまり完成品をつくったことがないわけです」とコメント。

「それがBtoC製品をつくって、さらにその先のソリューションビジネスまで目指すというのですから、地球と冥王星くらいの遠い目的地ですよ。社内でも最初は『この人は何を言ってるんだ?』という反応が出ました。しかし、私が打ち上げた花火が最初は一部で燃えて、それがだんだん燃え広がっています」と、社内文化の変革も狙ったものであると説明する。

また、BtoC製品は「国内だけでなく世界を見据えています」とのこと。「例えば紡ぎシリーズでコラボした鳴海さんは、日本はもとより中国で絶大なブランド力を持っていて、中国からの反応が凄いんです。スパルタやKAIKENも『日本の二輪市場はもう伸びしろがない』などとも言われましたが、アジアやヨーロッパでは大きな伸びしろがありますから。MiONもアジアで特に人気が出るでしょうね」と、展望を語る。

そして「我々にはいま、パネル屋からの大きな脱却、メタルモルフォーゼが確実に始まっています」とコメント。今後の展開に自信を見せた。

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