音切れに強く低遅延、音質も向上
<CES>ワイヤレス再生がより快適に。「LEオーディオ」と新コーデック「LC3」の詳細を聞いた
フラウンホーファーがCESに出展したブースで、LC3コーデックによるBluetoothオーディオのデモンストレーションをいくつか体験した。同じ60kbps前後のデータ通信を扱う場合、SBCよりもLC3の方が人の声がクリアに聴こえ、また映画のように多くの効果音を含む音源で比べてみるとLC3の方が確かに音場が縦横に広がり、奥行きの見晴らしも良くなった。カレラ氏はLC3のチューニングについて「開発のスタート地点が通話品質を高めることだったため、特にダイアローグの明瞭度を高めることと、自然な音のバランス感覚に整えることに腐心した」と述べている。
LC3側の伝送ビットレートを意図的に32kbpsに落とした比較リスニングも、SBCの60kbpsの品質と肩を並べるどころか、聴感的にはいっそう心地よいリスニング感が実現されていた。
女性ボーカル、クラシックのチェンバロ演奏、男性・女性のスピーチをリファレンスに、非圧縮の音源からSBCの345kbps/160kbpsの音源と、さらにLC3の160kbps相当のセットアップでデモンストレーションを聴き進めてみると、これもまたLC3が非圧縮のソースに一番近い品質に迫っていた。
デモンストレーションのパネルの写真には、リストに並ぶLC3の音源にはあえて「2×80kbps」と記載してある。その理由をカレラ氏は「LC3がデュアル・モノ伝送に対応するコーデックであることを強調したいから」だと解いている。
LC3は完全ワイヤレスイヤホンにも多く採用されるデュアルモノの左右同時接続ができるSoCとの親和性が高い。左右同時接続を行った場合、片側チャンネルごとのデータ送信負荷が軽くできることから接続のロバストネスに寄与し、また駆動時の消費電力も低く抑えられる。結果としてイヤホンの連続駆動時間をそのままにしてバッテリーセルと本体の小型化に結び付けるか、またはバッテリーセルをそのままにしてスタミナ性能を引き上げるなど戦略的な機能強化に振れる。どちらにしてもメーカーには魅力的な選択肢になるだろう。
冒頭で触れたように、BLEオーディオとLC3コーデックが開発された背景には、Bluetooth再生の音質を高める狙いもあったとカレラ氏が説明している。Bluetoothのオーディオコーデックであるため音源データを圧縮するプロセスは避けられないが、LC3はアルゴリズムの効率化を図ったことにより、最大48kHz/24bitのオーディオストリームが送受信できるコーデックだという。
もうひとつの特徴であるマルチ・ストリーム・オーディオについては、1台のスマートフォンなどソース機器から複数のワイヤレスオーディオ機器へ同時にストリーミングを送り出したり、1台のヘッドホンやイヤホンに対して左右チャンネルに、例えば「主音声と副音声」「日本語と英語の同時通訳」といった具合に異なるオーディオソースを送り出す用途を想定している。
LC3のコーデックが持つもうひとつの特徴は圧倒的な低遅延性能を実現していることだとカレラ氏が述べている。その数値はend-to-endの機器間伝送でかなりのスペックがたたき出せるという。
LC3はBLEオーディオの必須コーデックとしてバランスを重視した技術設計に “抑えている” とカレラ氏は話している。パフォーマンスに余力を残したぶんを音質、またはレイテンシーに振ったチューンアップに当てられるというのだ。これが「LC3plus」と呼ばれる上位規格だ。
LC3plusは有償のライセンスモデルになっており、カスタマーのリクエストに合わせ込んだソフトウェアがフラウンホーファーから提供される。例えば音質はチャンネルあたり500kbps、最大96kHz/24bitのデータが扱えるようになり、EVSなみの通話音質を実現する。遅延性能についてはデータパケットのサイズを2.5msとした場合で約5msまで抑えられるという。「ハイレゾ相当のワイヤレスオーディオ再生や、ゲーミングヘッドセットに革新をもたらせる技術」だとカレラ氏は自信に満ちた表情でインタビューに答えてくれた。
フラウンホーファーはLC3のソフトウェアについてファイナライズを既に終えており、感心のあるパートナーに提供できる準備がもう整っているという。同所がターゲットに見据えるカテゴリーはBluetoothに対応するワイヤレスオーディオに限らず、ゲーミング機器や聴覚支援の分野まで幅広い。搭載する製品も意外に早いタイミングでアナウンスされるかもしれない。
(山本 敦)