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DSD/PCM計9種類も作った井筒香奈江のハイレゾ新作、制作過程を聞いた

公開日 2020/05/27 06:30 構成:ファイルウェブオーディオ編集部・筑井真奈
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■PCMでは、32bit floatで収録された音源を、integerに変換し配信

ーーPCMの音源も、3パターン配信されています。

高田 実は、レコーディング時にミュージシャンが音チェックを行なったのが、Protoolsで制作した192kHz/32bit floatの音源になります。最初はラッカー盤に刻んでその音をチェックしましたが、毎回ラッカー盤を聴くことはできません。PCMとしても192kHz/32bitは非常に深い世界が作れると考えています。今回に関しては、これが制作チームが納得した音、ということができますね。


自宅からオンライン取材に答えてくれた井筒香奈江
ーー32bitにはfloat(浮動小数点)とinteger(整数)と呼ばれるものがありますが、今回配信されているのはどちらなのでしょうか?

高田 レコーディング現場では、フロート、つまり浮動小数点のものが基準になっています。しかし、配信では整数のものが使われています。これは上田さんに変換してもらいました。

上田 これまで32bitで収録された音源についても、24bitにダウンコンバートすることはよくありましたが、32bitの整数で書き出すというのは私にとっても初めてのことでした。MAGIXの「サンプリチュード」というDAWを使って(5)「WAV 192kHz/32bit 整数」に変換したのですが、「やってみたらできた!」という感じです。

高橋 録音現場でなぜフロートが採用されているかというと、ダイナミックレンジの点で非常に有利なのです。レコーディング時に急に大きな音が出た場合、実際に音は歪んでいなくても波形がクリップしてしまう(潰れてしまう)ことがあります。しかし、floatですと、クリップしない波形を取り出すことができる場合もあるのです。演算処理的に限界のないダイナミックレンジを確保することができるのです。

井筒 DSDを聴ける環境の方ばかりではないと思いますので、PCMのデータも配信することにしました。192kHz/32bitからダウンコンバートした、(6)192kHz/24bitと(7)96kHz/24bitのWAV/FLAC音源も配信しています。音にこだわっているオーディオマニアの方にも聴き比べをしていただきたいですし、エンジニアやスタジオで働いている方にも聴いていただければと思います。さまざまな実験的な取り組みをした音源ですので、聴き比べのための資料としても活用いただきたいです。

高田 マルチbitと1bitの録音の原理から生まれる音の違いも伝わる音楽かなと思います。このレコーディングでは、EQやコンプはほとんど使わず、マイクとヘッドアンプの選定、そして距離で音を作っていますので、そういう違いも探求できる感じがします。

■チームワークがこんなに楽しいことだと初めて知った

ーーダイレクトカッティングから8カ月経ちましたが、改めてプロジェクトを思い返して、いかがですか?

井筒 自分ではよく乗り越えたな、とホッとしているところです。いままでの作品と大きく違うところというと、「大人数のチームで何かを作る」ということですね。高田さんをはじめとしたみなさんと一緒に作品を作って、チームワークというのがこんなに楽しいことかと知りました。普通は、収録した後ミックスやマスタリングがあり、それぞれ各々の作業に入ります。ですがダイレクトカッティングに関しては、みな「一斉に」終わったんですね。本当に素晴らしい高揚感というか、一体感がありました。そういう人間関係は、いま思い返しても胸が熱くなります。

高田 実は、個人的な関心もありまして、収録したDSDIFF 11.2MHzの音源の、スペクトラムアナライザをチェックしてみました。音源に、音楽成分がどこまで入っているのかを知りたかったのです。すると、126kHzまで音楽成分が完全に見えていました。ヴィブラフォンや倍音成分と思われます。私自身、スペックありきでレコーディングをしているわけではないのですが、ここまでの情報が入るサウンドキャンバスの広がりにより、音楽の伝わり方も変わると考えています。ダイナミックレンジの広さによるピアニシモの心地良い緊張感、アコースティック楽器の音色の深さなどを意識した音作りにしなければならないな、と改めて感じました。


チームワークの力で成功に導いた「ダイレクトカッティング」プロジェクト
高橋 井筒さんのヴォーカルも、20kHzを超えて、非常に高い帯域まで倍音成分が入っております。ユーザーの方にはなるべく測定はして欲しくはないのですが(笑)、かなり広い帯域まで入っている、ということはお伝えしたいなと思います。

ーーミュージシャンにとって、またスタジオにとってもいま非常に厳しい時代を迎えているように思います。さまざまな制約がある中でも、こだわりを持った作品づくりを続けている井筒さんやみなさまのパッションに、勇気づけられるファンも多いと思います。

井筒 自宅からミュージシャンが配信することも、以前に比べるとずっと簡単になりました。いまは自宅待機が推奨されておりますので、無料で楽しめる音楽がたくさんあることは非常に大事なことなのですが、それだけになってはいけないと思うのです。エンジニアや技術スタッフも含めたプロが、お金と時間をかけて作ったものも発信していかないといけない、その両方が必要だと思います。

ーーDSD 11.2MHzのデータをマスターとしたレコードの制作も、井筒さんなりのこの時代に対するひとつのアプローチだと感じています。こちらとの聴き比べができることも非常に楽しみです。本日はzoom取材にご対応いただきまして、誠にありがとうございました。

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