デジタルカメラグランプリ2021受賞インタビュー
“王道”「EOS R5」も新ジャンル「iNSPiC REC」も。カメラ市場を奮い立たせるキヤノンMJの取り組みを統括本部長に聞く
受賞インタビュー:キヤノンマーケティングジャパン
王道のデジタル一眼についに登場したEOS Rシリーズ待望のハイエンド機「EOS R5」。デジタルカメラグランプリ2021においても堂々の「総合金賞」受賞となった。EOS Rシステムでは新マウントレンズも19本にまで拡充。市場の期待に応えてラインナップも強化され、魅力は増すばかりだ。カメラ撮影の新境地を開拓する新ジャンル商品にも、大きな反響を呼ぶ「iNSPiC REC(インスピックレック)」「PowerShot ZOOM」を提案するなど意欲的な姿勢が目につく。厳しい市場環境に立たされるデジタルカメラの世界を奮い立たせるキヤノンマーケティングジャパンの取り組みを橋本圭弘氏に聞く。
<デジタルカメラグランプリ2021受賞製品リスト(PDF)>
キヤノンマーケティングジャパン株式会社
コンスーマビジネスユニット カメラ統括本部 統括本部長
橋本圭弘氏
はしもとよしひろ Yoshihiro Hashimoto
プロフィール/1964年生まれ。滋賀県出身。1987年入社。営業職、インクジェットプリンターのマーケティング部門、サービス&サポート部門を経て2020年より現職。座右の銘は「信頼すること、感謝すること」。趣味は学生時代より続けている男声合唱。
■視野を広げた新しいチャレンジにも手応え
―― コロナ禍でのダブルパンチとなりました現在のデジタルカメラの市場動向について、どのようにご覧になられていますか。
橋本 この5年くらいを見ても前年割れの状態がずっと続いており、マーケットは縮小傾向にあります。今年も前年割れの見立てでしたが、コロナ禍の自粛要請や緊急事態宣言、その後も外出を自粛する動きが定着するなど厳しい環境に置かれています。一時はどうなってしまうのかとの危機感を持ちましたが、コロナ禍以前の見立てまではむずかしいにしても、6月以降は月を追うごとに徐々に回復する傾向にあります。
デジタル一眼のマーケットについて詳細に見てみると、コンパクトに近い領域、当社で言えば「EOS Kiss シリーズ」のゾーンは減少しており、入学式や運動会などのイベントが春先から軒並み中止になったことも影響しているようです。その一方で、ハイエンドやミドルクラスのマーケットは、写真を撮る意欲が明確な根強いお客様に支えられているため減少幅が小さく、厳しい中でも明るい材料と言えます。年間を通せば恐らく、前年比で半分程度の市場規模にまで落ちてしまうのではないかと予想されますが、来年に向けては着実に回復してくると思います。
今回、総合金賞をいただいた「EOS R5」は、さきほど申し上げた写真を撮る意欲が高いお客様をターゲットに導入したモデルで、導入後の予想を上回る市場での力強い動きに大きな手ごたえを感じています。また、デジタル一眼のみならず、新しいコンセプトの“アソビカメラ”「iNSPiC REC」や望遠鏡型カメラ「PowerShot ZOOM」など、これまでのカメラの概念に縛られることなく、もっと広い世界に視野を広げてチャレンジした商品が大変高い反響をいただいています。4月・5月は一瞬どうなってしまうかと目の前が真っ暗でしたが、今後、動画ユーザーに対する提案など、従来にはなかった新しいお客様の心に届く商品も積極的に拡充し、力強くメッセージを発信していきます。
―― ここにきて、各社から新製品のカメラやレンズが出るたびに市場も勢いを取り戻しつつあり、今後の巻き返しが期待されます。
橋本 7月、8月に続けて発売した「EOS R5」「EOS R6」については、ワールドワイドで想定をはるかに上回るご注文をいただき、現在、お客様のお手元に十分に商品を届けることができず、本当に申し訳ございません。ここに来て各社からもこぞって魅力あふれる新商品が投入されていることは、需要を喚起する上での起爆剤となっています。また、家族写真を撮りながら成長していく主人公の姿を描いた映画が注目を集め、カメラ市場に対しても明るい話題を提供してくれています。
■新しい大口径マウントで築く新たなステージ
―― 総合金賞を受賞した「EOS R5」、および「EOS R6」は、審査会においても、御社ミラーレスカメラをさらに一段も二段も高みに引き上げる、今後のラインナップ強化に向けてもターニングポイントとなる商品として高い評価を集めました。現在の市場での大きな反響にも注目度の高さが裏付けられますが、「EOS R5」「EOS R6」に込めた想いについてお聞かせいただけますか。
橋本 オートフォーカスというかたちでEOSがスタートしたのが1987年です。そこから30年という長い月日を経て、2018年10月に「写真は進化する。」とのメッセージを掲げて、EOS Rシステムの初号機となる「EOS R」を発売し、新しいマウントによるスタートを切りました。
同じレンズで同じマウントで長くお使いいただくのはもちろんとてもうれしいことです。しかし、世の中がミラーレスへ急速にシフトしていく市場トレンドを踏まえ、そこで、ただ単にミラーレスという規格を採り入れるのでなく、新しい大口径のマウントを採用したシステムとして、お客様へさらにステージアップした価値を提供できるチャンスにあると考えました。
写真に造詣が深いハイエンドのお客様に対し、ボディ内手振れ補正をはじめとするカメラのあらゆるスペック、そして、レンズのラインナップに至るまで、「EOS Rシステム」という新しいシステムとして、進化を果たし、満を持して市場に投入しました。
―― フルサイズではこれまで「EOS R」「EOS RP」「EOS Ra(※EOS Rをベースにした天体撮影専用モデル)」をラインナップされていますが、今回の「EOS R5」「EOS R6」の登場を機に、店頭からも「交換レンズの需要が完全にミラーレスにシフトした」と大きなターニングポイントの到来を指摘する声も聞かれます。まさに、待望された商品のデビューと言えたのではないでしょうか。
橋本 いままでお求めいただいたEFレンズの資産を、新しいボディでもご活用いただくことももちろん大事にしていかなければなりません。しかしその一方で、「EOS Rシステム」という新しい領域でお客様にさらにご満足いただくために、新マウントのレンズも鋭意拡充に努めています。現在、発売予定の機種を含め19モデルのラインナップとなり、広角から望遠までバリエーションが揃いました。お客様にいろいろな形の被写体やシチュエーションをお楽しみいただけるよう、さらにスピード感を持って拡充して参ります。
―― デジタルカメラグランプリ2021では、御社の超望遠レンズ「RF 800mm F11 IS STM」が技術賞を獲得しています。構造から見直すことで大幅な小型軽量化を達成し、手ごろな大きさを実現したこと、しかも、これまでは高価でとても手が出せなかった価格にも切り込み超望遠の世界をぐっと身近に引き寄せた画期的な取り組みが高く評価されました。撮影領域がぐんと拡大しますね。
橋本 商品企画においては、なによりお客様が今、どのようにお使いになられているのかを第一に考え、「写真を撮るのが面白い」「写真生活がますます豊かになった」と感じていただくこと。それがすべてです。
■どんな時代にあっても写真は心温まる存在
―― 王道のデジタル一眼だけでなく、「iNSPiC REC」や「PowerShot ZOOM」など、新境地の開拓にも果敢にチャレンジされています。
橋本 昨年12月に発売したのが「iNSPiC REC」です。カラビナ型のデザインを採用することで、バックやベルトに引っ掛けて気軽に持ち歩くことができます。外すのも簡単ですから、「ここは!」という瞬間を逃さずに撮影ができる。「ブルー」「グリーン」「ピンク」「グレー」の4色展開で、さらに、着せかえジャケットを用意していますから、自分好みのスタイルにデザインが変えられます。
防水性能を備えているため海辺でも気兼ねなく使用でき、いろいろなシチュエーションで、いろいろな瞬間を切り取ることができます。デジタル一眼カメラ、はたまたスマートフォンとは異なる切り口からのニーズに応え、発売以来大変好評です。これまで撮影するときにはカメラやスマホのモニターで確認することが当たり前になっていますが、iNSPiC RECはそれができない。しかし、見られないことが反対に新鮮で面白いんですね。
いろいろなお客様がいらっしゃいます。われわれの時代とは若い世代の人の生活様式もガラリと変わってしまっています。ハイエンド、ミドル、ローエンド、エントリーという従来の考え方で位置付けられたカメラでは、アクセスできないお客様が数多くいらっしゃいます。iNSPiC RECを接点に、新しいお客様とお会いすることができました。スマホでしか写真を経験されていない方に写真に身近に接していただくことが、ひいてはわれわれのいろいろなビジネスにも繋がってきます。写真文化が消えてしまうのが一番恐ろしいこと。若い世代に対して「Canon」というロゴが浸透することにも大きな意味があります。
―― 12月には「PowerShot ZOOM」が登場します。
橋本 “撮れる望遠鏡”と銘打ち、“見る”“撮る”を一体化させた望遠鏡型のカメラになります。スポーツ観戦や野鳥観察をはじめ、幅広いシーンにおいて好きな瞬間を“撮る”ことができる新しいコンセプトを打ち出しました。iNSPiC RECは若い方が中心ですが、PowerShot ZOOMはご年配から若い方まで幅広い層からの支持を獲得しています。
―― これから写真プリントやカメラを知らない世代がどんどん親世代になっていきます。写真文化を継続していく上ではいろいろなチャレンジが必要になります。
橋本 カメラはあくまで道具でしかありません。写真を媒介にしてコミュニケーションが生まれて、人と人のつながりができます。思いが通ったり、写真を見てうるっとする何かを伝えられたり、笑顔になったり、そうしたコミュニケーションが世の中に広がっていくのは大事なこと。どんな時代にあっても写真が心温まる存在であってほしいですね。
―― 今、この時代にカメラメーカー、写真メーカーに課せられた重要な役割ですね。
■プリンターを持つ強みを生かした提案も強化
―― 御社では写真の楽しさや奥深さを伝える取り組みとして、「EOS学園」や「キヤノンフォトサークル」を展開されています。リアルな接点が途切れがちになる中でのこれらの取り組みの現状、また、今後、どのような接点活動を創造されていくのかお聞かせください。
橋本 コロナ禍で、「EOS学園」も2月28日から9月30日まで7ヶ月間にわたり開講を見送りました。大変辛い選択でしたが、お客様にご迷惑はかけられません。10月から東名阪で再開したのですが、募集を再開した当日、1時間もせずにサーバーがダウンしてしまうほど、想定を超えるお客様からの申し込みをいただきました。驚きましたし、本当にうれしかったです。写真を撮る行為“写欲”は衰えることがなく、そこにまた、人とのつながりがあります。
1959年7月にキヤノンサークルという名で誕生した「キヤノンフォトサークル」は、昨年7月に60周年を迎え、現在、62年目に入ります。1966年からは国内のアマチュア写真愛好家を対象にした「キヤノンフォトコンテスト」を毎年開催しています。今年はコロナ禍の4月の段階で開催するか否か大変悩みましたが、今回は外出して写真を撮りに行かなくても、未発表であれば過去の写真でも応募対象とすることで開催を決断し、5月から8月末まで募集を行いました。
カメラ市場は冒頭にも申し上げた通り縮小していますが、今年で第54回を数える歴史を背負ってやってき「キヤノンフォトコンテスト」に、今年もアマチュア写真愛好家の方から例年に匹敵する応募をいただくことができ、本当にうれしかったですね。
―― 見てもらう場は欠かせません。
橋本 撮っていただくための道具をご用意しており、東京の品川、銀座、大阪で展開する「キヤノンギャラリー」では、プロの写真家を含めた写真展も開催しています。世の中に写真文化を発信する拠点として、最近では、フォトブックをおつくりして販売することも行っています。フォトブックにも多彩なバリエーションを揃えられるのは、大判から小判までプリンターを持つキヤノンならではの強みです。リアルな接点となるお客様に親しんでいただけるスペースも、ニューノーマル時代にさらに工夫を凝らして参ります。
―― プリンターとカメラの双方を持つ御社ならではの強みを生かし、撮った後の楽しみ方やプリントによる鑑賞の仕方の提案にも期待が集まります。
橋本 フォトグラファー向けのプリンターを5年ぶりに刷新しました。A3ノビ用紙に印刷できる10色顔料インクの高画質プリンター「PRO-G1」と8色染料インクの「PRO-S1」を11月に発売しました。同時に新しい用紙として、光沢プロ・クリスタルグレード「CR-101」とプレミアムファインアート・ラフ「FA-RG1」を発売しました。CR-101は超光沢の写真用紙で、紙というよりフィルム調の輝きある質感の光を放ちます。FA-GR1は表面に強い凹凸のある上質なアート紙です。使い勝手に優れたアプリケーションや用紙にあったプロファイルもあり、額装プリントや大判の要望にもお応えできます。写真のために提供できるものはカメラ以外にも数多くあり、そうした点にもきめ細かくお客様のニーズにお応えしていきます。
■世の中を一変する変化にみいだすビジネス・チャンス
―― Vlog(ブイログ)やリモートでのWEBカメラなど、新たな撮影用途も注目を集めています。年末商戦、そして、2021年へ向けた市場創造への意気込みをお願いします。
橋本 まだまだ数多くいらっしゃる写真に関心を持つお客様へ、写真を楽しむためのカメラ、レンズのバリエーションをはじめとした魅力ある道具をお届けしていきます。先ほどお話しした「iNSPiC REC」や「PowerShot ZOOM」では新たなお客様にお会いすることもでき、その輪をさらに広げていきます。
いま、ユーチューバーが注目を集めており、数多くの芸能人もやられています。スマホで撮る動画だけではなく、カメラに対しても目を向けていただけるように、昨今提供されているブイロガーキットの提案をキヤノンでも展開していく予定です。WEBカメラでは「EOS Webcam Utility」というアプリケーションを公開しており、パソコンに付いているカメラだけでなく、小さな三脚とカメラを組み合わせて、さらに明るいレンズを使えば、大変クリアな映像が撮れることも、もっとアピールしていきたいですね。一時期に比べるとオンライン飲み会も減ってきてはいますが、遊びや仕事の中で、コミュニケーションがリアルでなくてもできるところがニューノーマルの凄さです。世の中を一変する変化に、ビジネス・チャンスが確実に広がっています。
―― 東京オリンピックも開催が2021年は1年延期となりました。ここもカメラや写真の魅力を再発見する場となってほしいですね。
橋本 キヤノンではスポーツイベントなどにおいて、報道やフリーランスのフォトグラファーに対するサポート活動を続けています。今年3月には、2016年に発売した先代モデル「EOS-1D X Mark II」から4年ぶりにフラグシップ機「EOS-1D X Mark III」を発売しました。プロフェッショナルの要望に応える、さらなる高画質や高速連写を実現し、大変多くの皆様にご購入いただいており、今後のイベントでの活躍を楽しみにしています。
また、キヤノンの白いレンズがズラリと並ぶ光景を“白い砲列”と呼んでおり、ブランド価値をアピールする大きな舞台でもあります。スポーツイベントは選手を心の底から応援する気持ちだったり、勝ったときの笑顔だったり、世の中の人が感動を享受できる場です。カメラがそうした感動をシェアするための道具であることは本当にうれしいですね。業界を少しでも元気にしていける日常に早くなればと願うばかりです。
王道のデジタル一眼についに登場したEOS Rシリーズ待望のハイエンド機「EOS R5」。デジタルカメラグランプリ2021においても堂々の「総合金賞」受賞となった。EOS Rシステムでは新マウントレンズも19本にまで拡充。市場の期待に応えてラインナップも強化され、魅力は増すばかりだ。カメラ撮影の新境地を開拓する新ジャンル商品にも、大きな反響を呼ぶ「iNSPiC REC(インスピックレック)」「PowerShot ZOOM」を提案するなど意欲的な姿勢が目につく。厳しい市場環境に立たされるデジタルカメラの世界を奮い立たせるキヤノンマーケティングジャパンの取り組みを橋本圭弘氏に聞く。
<デジタルカメラグランプリ2021受賞製品リスト(PDF)>
キヤノンマーケティングジャパン株式会社
コンスーマビジネスユニット カメラ統括本部 統括本部長
橋本圭弘氏
はしもとよしひろ Yoshihiro Hashimoto
プロフィール/1964年生まれ。滋賀県出身。1987年入社。営業職、インクジェットプリンターのマーケティング部門、サービス&サポート部門を経て2020年より現職。座右の銘は「信頼すること、感謝すること」。趣味は学生時代より続けている男声合唱。
■視野を広げた新しいチャレンジにも手応え
―― コロナ禍でのダブルパンチとなりました現在のデジタルカメラの市場動向について、どのようにご覧になられていますか。
橋本 この5年くらいを見ても前年割れの状態がずっと続いており、マーケットは縮小傾向にあります。今年も前年割れの見立てでしたが、コロナ禍の自粛要請や緊急事態宣言、その後も外出を自粛する動きが定着するなど厳しい環境に置かれています。一時はどうなってしまうのかとの危機感を持ちましたが、コロナ禍以前の見立てまではむずかしいにしても、6月以降は月を追うごとに徐々に回復する傾向にあります。
デジタル一眼のマーケットについて詳細に見てみると、コンパクトに近い領域、当社で言えば「EOS Kiss シリーズ」のゾーンは減少しており、入学式や運動会などのイベントが春先から軒並み中止になったことも影響しているようです。その一方で、ハイエンドやミドルクラスのマーケットは、写真を撮る意欲が明確な根強いお客様に支えられているため減少幅が小さく、厳しい中でも明るい材料と言えます。年間を通せば恐らく、前年比で半分程度の市場規模にまで落ちてしまうのではないかと予想されますが、来年に向けては着実に回復してくると思います。
今回、総合金賞をいただいた「EOS R5」は、さきほど申し上げた写真を撮る意欲が高いお客様をターゲットに導入したモデルで、導入後の予想を上回る市場での力強い動きに大きな手ごたえを感じています。また、デジタル一眼のみならず、新しいコンセプトの“アソビカメラ”「iNSPiC REC」や望遠鏡型カメラ「PowerShot ZOOM」など、これまでのカメラの概念に縛られることなく、もっと広い世界に視野を広げてチャレンジした商品が大変高い反響をいただいています。4月・5月は一瞬どうなってしまうかと目の前が真っ暗でしたが、今後、動画ユーザーに対する提案など、従来にはなかった新しいお客様の心に届く商品も積極的に拡充し、力強くメッセージを発信していきます。
―― ここにきて、各社から新製品のカメラやレンズが出るたびに市場も勢いを取り戻しつつあり、今後の巻き返しが期待されます。
橋本 7月、8月に続けて発売した「EOS R5」「EOS R6」については、ワールドワイドで想定をはるかに上回るご注文をいただき、現在、お客様のお手元に十分に商品を届けることができず、本当に申し訳ございません。ここに来て各社からもこぞって魅力あふれる新商品が投入されていることは、需要を喚起する上での起爆剤となっています。また、家族写真を撮りながら成長していく主人公の姿を描いた映画が注目を集め、カメラ市場に対しても明るい話題を提供してくれています。
■新しい大口径マウントで築く新たなステージ
―― 総合金賞を受賞した「EOS R5」、および「EOS R6」は、審査会においても、御社ミラーレスカメラをさらに一段も二段も高みに引き上げる、今後のラインナップ強化に向けてもターニングポイントとなる商品として高い評価を集めました。現在の市場での大きな反響にも注目度の高さが裏付けられますが、「EOS R5」「EOS R6」に込めた想いについてお聞かせいただけますか。
橋本 オートフォーカスというかたちでEOSがスタートしたのが1987年です。そこから30年という長い月日を経て、2018年10月に「写真は進化する。」とのメッセージを掲げて、EOS Rシステムの初号機となる「EOS R」を発売し、新しいマウントによるスタートを切りました。
同じレンズで同じマウントで長くお使いいただくのはもちろんとてもうれしいことです。しかし、世の中がミラーレスへ急速にシフトしていく市場トレンドを踏まえ、そこで、ただ単にミラーレスという規格を採り入れるのでなく、新しい大口径のマウントを採用したシステムとして、お客様へさらにステージアップした価値を提供できるチャンスにあると考えました。
写真に造詣が深いハイエンドのお客様に対し、ボディ内手振れ補正をはじめとするカメラのあらゆるスペック、そして、レンズのラインナップに至るまで、「EOS Rシステム」という新しいシステムとして、進化を果たし、満を持して市場に投入しました。
―― フルサイズではこれまで「EOS R」「EOS RP」「EOS Ra(※EOS Rをベースにした天体撮影専用モデル)」をラインナップされていますが、今回の「EOS R5」「EOS R6」の登場を機に、店頭からも「交換レンズの需要が完全にミラーレスにシフトした」と大きなターニングポイントの到来を指摘する声も聞かれます。まさに、待望された商品のデビューと言えたのではないでしょうか。
橋本 いままでお求めいただいたEFレンズの資産を、新しいボディでもご活用いただくことももちろん大事にしていかなければなりません。しかしその一方で、「EOS Rシステム」という新しい領域でお客様にさらにご満足いただくために、新マウントのレンズも鋭意拡充に努めています。現在、発売予定の機種を含め19モデルのラインナップとなり、広角から望遠までバリエーションが揃いました。お客様にいろいろな形の被写体やシチュエーションをお楽しみいただけるよう、さらにスピード感を持って拡充して参ります。
―― デジタルカメラグランプリ2021では、御社の超望遠レンズ「RF 800mm F11 IS STM」が技術賞を獲得しています。構造から見直すことで大幅な小型軽量化を達成し、手ごろな大きさを実現したこと、しかも、これまでは高価でとても手が出せなかった価格にも切り込み超望遠の世界をぐっと身近に引き寄せた画期的な取り組みが高く評価されました。撮影領域がぐんと拡大しますね。
橋本 商品企画においては、なによりお客様が今、どのようにお使いになられているのかを第一に考え、「写真を撮るのが面白い」「写真生活がますます豊かになった」と感じていただくこと。それがすべてです。
■どんな時代にあっても写真は心温まる存在
―― 王道のデジタル一眼だけでなく、「iNSPiC REC」や「PowerShot ZOOM」など、新境地の開拓にも果敢にチャレンジされています。
橋本 昨年12月に発売したのが「iNSPiC REC」です。カラビナ型のデザインを採用することで、バックやベルトに引っ掛けて気軽に持ち歩くことができます。外すのも簡単ですから、「ここは!」という瞬間を逃さずに撮影ができる。「ブルー」「グリーン」「ピンク」「グレー」の4色展開で、さらに、着せかえジャケットを用意していますから、自分好みのスタイルにデザインが変えられます。
防水性能を備えているため海辺でも気兼ねなく使用でき、いろいろなシチュエーションで、いろいろな瞬間を切り取ることができます。デジタル一眼カメラ、はたまたスマートフォンとは異なる切り口からのニーズに応え、発売以来大変好評です。これまで撮影するときにはカメラやスマホのモニターで確認することが当たり前になっていますが、iNSPiC RECはそれができない。しかし、見られないことが反対に新鮮で面白いんですね。
いろいろなお客様がいらっしゃいます。われわれの時代とは若い世代の人の生活様式もガラリと変わってしまっています。ハイエンド、ミドル、ローエンド、エントリーという従来の考え方で位置付けられたカメラでは、アクセスできないお客様が数多くいらっしゃいます。iNSPiC RECを接点に、新しいお客様とお会いすることができました。スマホでしか写真を経験されていない方に写真に身近に接していただくことが、ひいてはわれわれのいろいろなビジネスにも繋がってきます。写真文化が消えてしまうのが一番恐ろしいこと。若い世代に対して「Canon」というロゴが浸透することにも大きな意味があります。
―― 12月には「PowerShot ZOOM」が登場します。
橋本 “撮れる望遠鏡”と銘打ち、“見る”“撮る”を一体化させた望遠鏡型のカメラになります。スポーツ観戦や野鳥観察をはじめ、幅広いシーンにおいて好きな瞬間を“撮る”ことができる新しいコンセプトを打ち出しました。iNSPiC RECは若い方が中心ですが、PowerShot ZOOMはご年配から若い方まで幅広い層からの支持を獲得しています。
―― これから写真プリントやカメラを知らない世代がどんどん親世代になっていきます。写真文化を継続していく上ではいろいろなチャレンジが必要になります。
橋本 カメラはあくまで道具でしかありません。写真を媒介にしてコミュニケーションが生まれて、人と人のつながりができます。思いが通ったり、写真を見てうるっとする何かを伝えられたり、笑顔になったり、そうしたコミュニケーションが世の中に広がっていくのは大事なこと。どんな時代にあっても写真が心温まる存在であってほしいですね。
―― 今、この時代にカメラメーカー、写真メーカーに課せられた重要な役割ですね。
■プリンターを持つ強みを生かした提案も強化
―― 御社では写真の楽しさや奥深さを伝える取り組みとして、「EOS学園」や「キヤノンフォトサークル」を展開されています。リアルな接点が途切れがちになる中でのこれらの取り組みの現状、また、今後、どのような接点活動を創造されていくのかお聞かせください。
橋本 コロナ禍で、「EOS学園」も2月28日から9月30日まで7ヶ月間にわたり開講を見送りました。大変辛い選択でしたが、お客様にご迷惑はかけられません。10月から東名阪で再開したのですが、募集を再開した当日、1時間もせずにサーバーがダウンしてしまうほど、想定を超えるお客様からの申し込みをいただきました。驚きましたし、本当にうれしかったです。写真を撮る行為“写欲”は衰えることがなく、そこにまた、人とのつながりがあります。
1959年7月にキヤノンサークルという名で誕生した「キヤノンフォトサークル」は、昨年7月に60周年を迎え、現在、62年目に入ります。1966年からは国内のアマチュア写真愛好家を対象にした「キヤノンフォトコンテスト」を毎年開催しています。今年はコロナ禍の4月の段階で開催するか否か大変悩みましたが、今回は外出して写真を撮りに行かなくても、未発表であれば過去の写真でも応募対象とすることで開催を決断し、5月から8月末まで募集を行いました。
カメラ市場は冒頭にも申し上げた通り縮小していますが、今年で第54回を数える歴史を背負ってやってき「キヤノンフォトコンテスト」に、今年もアマチュア写真愛好家の方から例年に匹敵する応募をいただくことができ、本当にうれしかったですね。
―― 見てもらう場は欠かせません。
橋本 撮っていただくための道具をご用意しており、東京の品川、銀座、大阪で展開する「キヤノンギャラリー」では、プロの写真家を含めた写真展も開催しています。世の中に写真文化を発信する拠点として、最近では、フォトブックをおつくりして販売することも行っています。フォトブックにも多彩なバリエーションを揃えられるのは、大判から小判までプリンターを持つキヤノンならではの強みです。リアルな接点となるお客様に親しんでいただけるスペースも、ニューノーマル時代にさらに工夫を凝らして参ります。
―― プリンターとカメラの双方を持つ御社ならではの強みを生かし、撮った後の楽しみ方やプリントによる鑑賞の仕方の提案にも期待が集まります。
橋本 フォトグラファー向けのプリンターを5年ぶりに刷新しました。A3ノビ用紙に印刷できる10色顔料インクの高画質プリンター「PRO-G1」と8色染料インクの「PRO-S1」を11月に発売しました。同時に新しい用紙として、光沢プロ・クリスタルグレード「CR-101」とプレミアムファインアート・ラフ「FA-RG1」を発売しました。CR-101は超光沢の写真用紙で、紙というよりフィルム調の輝きある質感の光を放ちます。FA-GR1は表面に強い凹凸のある上質なアート紙です。使い勝手に優れたアプリケーションや用紙にあったプロファイルもあり、額装プリントや大判の要望にもお応えできます。写真のために提供できるものはカメラ以外にも数多くあり、そうした点にもきめ細かくお客様のニーズにお応えしていきます。
■世の中を一変する変化にみいだすビジネス・チャンス
―― Vlog(ブイログ)やリモートでのWEBカメラなど、新たな撮影用途も注目を集めています。年末商戦、そして、2021年へ向けた市場創造への意気込みをお願いします。
橋本 まだまだ数多くいらっしゃる写真に関心を持つお客様へ、写真を楽しむためのカメラ、レンズのバリエーションをはじめとした魅力ある道具をお届けしていきます。先ほどお話しした「iNSPiC REC」や「PowerShot ZOOM」では新たなお客様にお会いすることもでき、その輪をさらに広げていきます。
いま、ユーチューバーが注目を集めており、数多くの芸能人もやられています。スマホで撮る動画だけではなく、カメラに対しても目を向けていただけるように、昨今提供されているブイロガーキットの提案をキヤノンでも展開していく予定です。WEBカメラでは「EOS Webcam Utility」というアプリケーションを公開しており、パソコンに付いているカメラだけでなく、小さな三脚とカメラを組み合わせて、さらに明るいレンズを使えば、大変クリアな映像が撮れることも、もっとアピールしていきたいですね。一時期に比べるとオンライン飲み会も減ってきてはいますが、遊びや仕事の中で、コミュニケーションがリアルでなくてもできるところがニューノーマルの凄さです。世の中を一変する変化に、ビジネス・チャンスが確実に広がっています。
―― 東京オリンピックも開催が2021年は1年延期となりました。ここもカメラや写真の魅力を再発見する場となってほしいですね。
橋本 キヤノンではスポーツイベントなどにおいて、報道やフリーランスのフォトグラファーに対するサポート活動を続けています。今年3月には、2016年に発売した先代モデル「EOS-1D X Mark II」から4年ぶりにフラグシップ機「EOS-1D X Mark III」を発売しました。プロフェッショナルの要望に応える、さらなる高画質や高速連写を実現し、大変多くの皆様にご購入いただいており、今後のイベントでの活躍を楽しみにしています。
また、キヤノンの白いレンズがズラリと並ぶ光景を“白い砲列”と呼んでおり、ブランド価値をアピールする大きな舞台でもあります。スポーツイベントは選手を心の底から応援する気持ちだったり、勝ったときの笑顔だったり、世の中の人が感動を享受できる場です。カメラがそうした感動をシェアするための道具であることは本当にうれしいですね。業界を少しでも元気にしていける日常に早くなればと願うばかりです。