【インタビュー】アイリスオーヤマ執行役員・本所翔平氏
BtoB事業で躍進 アイリスオーヤマ、“生活者の不満解決”から“日本の課題解決”へ
■ソリューションを生むプラットフォーム「LiCONEX(ライコネックス)」
―― BtoB事業のスタートラインになったLED事業は、すでに新たなステージに突入されていますね。
本所 すでに丸12年となり、蛍光灯や既存の光源の多くがLED照明に置き換えられています。しかし、いまだ落ち着く気配のない電気料金の高騰や、6月末には東京電力管内で「電力需給ひっ迫注意報」が発出されるなど、新たな課題を前に、電気を賢く使用する「マネジメントするLED」が今、求められています。当社ではそれに対し、オフィスで照度や照明の明るさまで自在にコントロールできる無線制御システム「LiCONEX」(ライコネックス)の導入を進めています。
ライコネックスは、様々なセンサーや設備機器間でデジタル情報の双方向通信ができ、複数デバイスと連携することも可能です。当社が展開するロボティクス事業やエアソリューション事業など新規事業との連携も視野に入れており、大きな可能性を秘めたサービスとなります。
すでにLED照明に換えているお客様も、ライコネックスを導入することで、普段使う明るさを使用環境ごとに把握して必要以上の明かりを制御したり、人感センサーを併用して人がいなくなると自動で消灯したり、さらなる節電が可能です。加えて、照明のある天井にネットワーク網が張り巡らされることになりますから、IoTセンサーを使い、オフィスの人の配置や動きを可視化したり、これまで人手に頼っていた店舗の冷ケース温度の測定・管理を自動化してスタッフの労働時間を有効活用したり、様々な効果が期待されます。
―― ライコネックスで照明にとどまらず、様々なソリューションへと派生していくわけですね。
本所 当社のBtoB事業の主力はなんといってもLED照明事業です。お客様との会話はLEDの提案を起点に始まることが多く、そこからさまざまなニーズをお聞きしていくなかで、当社が持つ様々な商材を組み合わせて提案を行い、ソリュ―ションへとつなげていきます。7月に発表したストアソリューション事業もそのひとつです。
さらに、これまでは店舗の照明、内装などそれぞれに提案を行っていましたが、事業が拡がることで、横串を刺したトータル的なコンサルティングが可能になりました。IoTのセンサーやAIカメラを使えばお客様の分析もできる。それらを踏まえた最適な内装、空間を清浄化するエアソリューション、さらにはロボティクスといった提案も可能です。
また、商圏のお客様をよく知ることで、BtoC向けの商品をより最適なラインナップへと進化させていくこともできます。アイリスグループにはユニディやダイシンというホームセンターもありますので、店舗経営のノウハウもあり、リアル店舗を使いながら検証を進めていけることも強みです。地域に根差した店舗を一緒になってつくりあげていきます。
―― 活躍の場はさらに拡がっていきそうですね。
本所 学校をはじめとする自治体にライコネックスの照明制御システムを入れる話が進んでいます。当社は全国に約60のBtoB拠点があり、地域に根差した営業活動による地域貢献、社会貢献を目指し、各営業所がある近隣の自治体を中心に現在、提案を行っています。頻発する自然災害で利用機会が多くなった避難所でも、ただ明るいだけの照明ではなく、ご自宅にいるかのように明かりを調整できるため安心していただくことができます。
■“空気質”で安心・安全を届けるエアソリューション事業
―― 今年5月24日には発表会も催され、エアソリューション事業への新規参入を発表されました。
本所 米国プラズマガード社の独自技術を採用した「PlasmaGuard PRO アイリスエディション」を軸に、人流が再開していくアフターコロナ社会に、“空気質” から安心・安全をお届けしていきます。既存の空調ダクトへの取り付けで済むスムーズな導入も特長で、オフィス、福祉施設、病院、学校、保育施設などに提案を進めており、いずれも非常にいい反応をいただいております。
人が生活をするうえで一番接しているのは空気と水。コロナ禍以降、マスクをされたり、換気をされたり、空気がより安心で安全であることの大切さが再認識されました。日本でもSDGsが叫ばれるようになり、持続的に健康な生活をおくることへの意識が急速に高まりつつあります。
ウイルスを除菌するだけではなく、例えば従来のオフィスにはない、森林や高原で癒される環境も提供できればと考えています。健康を意識できる環境で働くことで生産性も高めることもできます。BtoB事業における今後の柱になる事業のひとつと考えています。
―― 昨年開始されたロボティクス事業についても近況をお聞かせいただけますか。
本所 2021年2月にJV「アイリスロボティクス」を設立し、国内の人手不足や非接触化の推進を図るため、ロボットを活用したソリューションをスタートしました。初めにDX清掃ロボット「Whiz i アイリスエディション」と配膳・運搬ロボット「Servi アイリスエディション」の2種類のロボットを投入し、企業への導入は順調に拡大しています。今年2月には新たにソフトバンクロボティクスグループとの資本業務提携を発表し、新商品「Keenbot アイリスエディション」を追加投入しました。当初想定していたホテルや飲食店のみならず、物流倉庫や工場での運搬ロボットとしても活用が広がっています。DX清掃ロボット「Whiz i」も同様に、コロナ禍の除菌・清掃といった活用方法からもう一段踏み込んだ新たなステージ「清掃+α」へと広がりを見せています。
―― さきほど話が出た学校関係では、6月に発表された教育現場向けの “書けるプロジェクター” も大変興味深い提案ですね。
本所 プロジェクターはマクセルさんから昨年、事業の譲渡を受け、今年、アイリスオーヤマ・ブランドのプロジェクターを発売させていただきました。これから本格的にデジタル教科書が普及していくタイミングにプロジェクターは不可欠のアイテム。ライコネックスで制御された学校の教室の照明なら、プロジェクター使用時に黒板の前の照明を自動で落とすことも可能となります。
小売業の店舗でもPOPやポスターを使っています。最近はデジタルサイネージの導入も進んできましたが、プロジェクターは投影するので、壁や内装までデザインの一部にしてしまうことができるのが特長です。プロジェクターについても単なる映像機器ではなく、お客様の課題を解決するツールのひとつとして、引き出しをどんどん増やしていきます。
―― プロジェクターは後々のBtoCへの展開もお考えですか。
本所 売り方の提案をしていきたいですね。近年、家庭用プロジェクターは生活により身近な存在へとなりつつありますが、部屋の明るさなど視聴環境への制限はまだまだ少なくありません。その課題を解決することで、需要を創造する提案ができると確信しています。
■東京に2つの拠点を構えBtoB事業を加速
―― 今後のBtoB事業への意気込みをお願いします。
本所 アイリスオーヤマにはいろいろな事業があります。BtoCはもちろん、BtoBもロボティクスにまで拡がりました。オフィス、工場・倉庫、店舗、公共施設、教育施設など、様々な業種業態に対してロボットやIoT等を使ったDXを提案し、人々の生活が健康で豊かになり、企業では本質的な業務にもっと時間を使えるような社会を実現していきます。いろいろな引き出しがありますし、なければつくればいい。社会の困りごとはまだまだありますから、そこへどのようなアイデアで解決することができるかです。
アイリスオーヤマのBtoB事業は、この3年くらいの間に事業展開の幅が大きく広がりました。事業多角化の目的は売上拡大や利益獲得ではなく、目指すのは「ジャパンソリューション」です。世の中や顧客のニーズの変化に合わせて、スピーディーかつ柔軟に、当社の営業がお客様へダイレクトに行う提案型ソリューションだからこそ、その時その時に抱えている課題や求められていることを肌で感じ取ることができます。それこそが事業拡大の背景と言えます。
さらには、開発から営業、販売、納品、アフターケアまで一気通貫で対応できることが、顧客のニーズをダイレクトにお聞きできる、また、今後の新たなソリューション提案の開発へとつなげられる大きな強みとなっています。BtoBの開発を手掛ける人員はまだ決して多いとは言えませんが、東京アンテナオフィスと東京R&Dセンターの2つの拠点を、BtoBビジネスの中心地、東京に構えることもできました。
SDGsへの意識も高まるなか、企業として永遠に存続できるよう、なにより世の中から期待される、必要とされる企業であることが、われわれの存在意義になります。これからも貪欲にいろいろなことにチャレンジして参ります。