VGP2023受賞:ハーマンインターナショナル 濱田直樹氏
<インタビュー>JBL「BAR 1000」は“設置性”と“音質”を同時に極めた二刀流。サウンドバーに新時代を呼び寄せる
VGP2023
受賞インタビュー:ハーマンインターナショナル
鋭い立ち上がりを見せ注目を集めるJBLのサウンドバー「BAR 1000」が、VGP2023「テレビシアター大賞」を受賞した。充電式ワイヤレスサラウンドスピーカーという画期的なアイデアを採用し、薄型テレビの音の改善にとどまらない次のステージを見据えた提案を投げ掛けた。商品開発に至る背景、そして市場創造へ向けた意気込みを、クラウドファンディングのマーケティング展開でも指揮を執ったハーマンインターナショナル株式会社・濱田直樹氏に話を聞く。
ハーマンインターナショナル株式会社
プロダクトマーケティング部
マネージャー
濱田直樹氏
プロフィール/オーディオメーカーで商品企画・マーケティングに従事、2019年4月よりハーマンインターナショナル株式会社へ入社し、ホームオーディオ製品のプロダクトマーケティングを担当する。2021年4月よりプロダクトマーケティング部門全体を統括するマネージャーに就任。趣味は映画鑑賞とボルダリング。
―― 2つの充電式ワイヤレスサラウンドスピーカーをサウンドバーと一体化する画期的なアイデアを採用されたJBL「BAR 1000」が、VGP2023でテレビシアター大賞を受賞されました。おめでとうございます。市場でも鋭い立ち上がりを見せ好調とのことですが、本機の開発背景からお聞かせください。
濱田 日本のホームシアターの歴史をひも解くと、最初は1990年代後半、AVアンプに5つのスピーカーとサブウーファーを組み合わせた5.1chサラウンドがDVDメディアの普及に合わせて広まりました。映画館のあの感動が我が家のリビングでも再現できる、映画好きにとってはまさに垂涎のドリームマシーンの登場でした。
その後、6.1ch、7.1chと音声フォーマットの多チャンネル化が進む一方、家族の住環境の中心となるリビングでは反対に、リアスピーカーの設置などから疎まれる存在となりました。大学生や社会人の独身時代は自由に楽しめても、結婚して子どももできるとホームシアターシステムは隅へと追いやられ、やがては使用しなくなる例は珍しくありませんでした。
そのようななか、2010年くらいから地デジ化も後押しして薄型テレビが一気に普及すると、画質もフルHDで高画質化する反面、筐体は薄型化して音が貧弱になりました。やきもきするなか、やがてその問題を解決する手段として脚光を浴びたのがサウンドバーでした。テレビの前にサウンドバーひとつ置くだけの手軽さが普及の起爆剤となりました。ただし、手軽さや設置性が優先されるあまり、黎明期の5.1chパッケージに比べると音が少し後退してしまった感は否めませんでした。
片や映画館はどうかと言えば、天空の音を追加した没入感の非常に高いイマーシブサウンドへと進化していきました。リビングの“置けない問題”のソリューションにフォーカスしたサウンドバーとは大きく乖離してしまいました。コロナ禍のおうち需要でサウンドバーは盛り上がりましたが、テレビがさらに大型化、高精細化していくなか、テレビの薄型化に伴う音の改善策としてのサウンドバーの需要には一服感があるようです。音に対してもっと満足してもらうものが欠かせなくなっている。それがBAR 1000を企画開発し、市場へ投入した背景となります。
―― 地デジ化に際してはシアターラックが先行して人気を博しましたが、ホームシアターとしての音の魅力を一歩踏み込んで訴求するところまでは及ばず、その後、急速にシュリンクしていますね。
濱田 一般のご家庭のリビングにAVアンプを持ち込んで7.1chのシステムを組むのは現実的ではありません。目指したのは、設置の手軽さと最高の音質をどう両立させるか。ホームシアター先進国の米国を中心に、グローバル市場ではすでにワイヤレスサラウンドスピーカーが拡がりはじめています。
JBLでは前方の高さ方向への広がりを実現する7.1.2chのモデルをグローバル展開していましたが、このたびさらに後方にも高さ方向の広がりを実現する7.1.4chで、映画館のような球状に包まれる音を家庭で再現できるBAR 1000の登場を機に、日本市場への導入を決定しました。音質的に一切の妥協がない、設置性も革新的な充電式ワイヤレスサラウンドスピーカーが最高のソリューションをお約束します。
ただし、ワイヤレスサラウンドスピーカーの導入にはかなり慎重だったことも確かで、社内からも「本格的なサウンドを求める人にこうしたギミックとも取れるような仕様が受け入れられるとは思わない」「クオリティに敏感な日本のお客様は受け付けないのではないか」「手軽さを求めるか。本格的なものを求めるか。その中間がはたして存在するのだろうか」といった反対や疑問を投げ掛ける意見もありました。
BAR 1000のベネフィットを正しく伝え、きちんと理解した上で選んでもらえるような環境を醸成するにはどうすればいいのか。この課題解決に、グリーンファンディングさんのクラウドファンディングを利用させていただいたことが、成功したひとつの大きな要因になっています。
―― 世の中に信を問うてみたわけですね。
濱田 いきなり店頭に展示したり、カタログをつくって渡したりしても、限られたスペース、限られた紙面によるコミュニケーションでしかなく、十分かつきちんと伝えることはできないと危惧しました。そこでクラウドファンディングを利用して、たとえ情報過多になっても、われわれの言葉でBAR 1000のすべてを直接語ならければと、動画をはじめ用いることができるツールを駆使して、本当にものすごい情報量と熱量でお伝えしました。
設置性が最高レベルなだけでなく、同時に音質も最高レベルに仕上げられた、まさに大谷翔平選手のような夢の二刀流プレーヤーがサウンドバーに出現したわけです。グリーンファンディングさんでのクラウドファンディングのチャレンジは、結果、目標としていた支援金を大きく突破することができました。
11月25日から一般販売を開始しましたが、立ち上がりはクラウドファンディングですでに熟考されたお客様が、実際に売り場でBAR 1000を体験して、購入するか否か最後の決断をするだけですから、熱いお客様をホットな年末商戦に送り届けることができました。実はコロナ禍で開発から生産に至るまで厳しい日程を強いられ、2022年末ギリギリでないと発売できない。店頭にお届けする前にお客様の熱を上げておかなければ商機を逃してしまうという危機感を逆手に取って生まれた発想でもありました。
―― 販売店でも的を射た商品説明や実演・展示の仕方をお客様から吸収することができ、短時間で腕を磨くことにもつながりますね。
濱田 ご販売店様にも理想の形でパスを渡すことができました。何より重要なポイントはサラウンドスピーカーを“使うときだけ取り外せる”ところ。クラウドファンディングでは支援者の声を直接聞くことができるのですが、「必要なときだけ取り出せて、使わないときにしまっておけるのがいい」というわけです。
考えてみれば、ホームシアターを使用している時間など本当に限られた時間ですから、使っていないときの佇まいこそが、ホームシアターをリビングに定着させる重要なカギだと気づかせてもらえました。そうした情報もご販売店様にフィードバックすることで、有効なセールストークにもなっています。本当に学びが多い、いままでになかったマーケティングのチャレンジとなりました。
―― 立ち上がりから大変好調とお聞きしています。
濱田 年末年始は曜日回りもよく、検討するためご家族で店頭へ足を運ばれる姿も多く見受けられました。クラウドファンディングは需要の先食いになってしまう懸念も指摘されていますが、すでに一般販売後の販売台数がクラウドファンディングの支援者数を大きく上回り、新たな気づきが需要を拡げ、商品のポテンシャルをより大きくすることができたと確信しています。
―― 御社ではクラウドファンディングの活用はこれまでにもあるのですか。
濱田 初めてのチャレンジになります。クラウドファンディングには、開発チームが中心になり先行資金を集めるものと、本当に欲しいお客様がいるのかを世に問う2つのパターンが主にあります。今回は後者のパターンで、欲しい商品が世の中に出てくるのはお客様にとってもうれしいですし、販売店も売れ筋商品とわかればアクセルが踏みやすくなります。まさに“三方良し”と言えます。
支援者とやりとりを重ねていくなかで、求めているものや知りたいところを、ひとつひとつ着実にクリアしていくことができました。そうしたコミュニケーションがこれまで十分ではなかったと反省材料にもなりました。
作り手と支援者との間に仲間意識が生まれてきて、それがブランドに対する興味や愛着にもつながっていきます。オンラインの買い物だけではブランドを体感する余地もなかなかありません。クラウドファンディングも同じくデジタルの世界ならではですが、距離が近く、お客様との接点ができたことを強く実感しました。
―― 人気商品ゆえ在庫切れが心配されますが……。
濱田 実は潤沢に在庫を確保しています。想定を数倍上回るペースで売れているのですが、この先も安定した供給が可能です。クラウドファンディングなど仕掛けもいろいろ考えましたし、日本では初めてとなる完全ワイヤレス型のホームシアターで、唯一無二の商品として自信もありました。シアターサウンドはJBLの祖業でもありますし、特にフラグシップとしてここは勝負をかけました。
―― フラグシップのBAR 1000が加わり、サウンドバーは「Bar 5.0 MultiBeam」「Bar 2.0 All-in-one MK2」「JBL Cinema SB190」の4商品での展開となります。
濱田 今後はシアター体験をよりしっかりできる商品が需要の中心になると見ています。そこへきめ細かく対応していくために目指すのは、強みである完全ワイヤレスサラウンドスピーカーという新発想を加えた、音質にもリビングに置く美しさにもいずれにも妥協しない、二刀流を極めたハイブリッドシアターです。プレミアム価格帯に打ち出し、4K8Kや65V型を超えるテレビを購入される方に相応しいシアターシステムとして拡充を図ります。今年は夏商戦に間に合うように1モデルを計画していますので、どうぞご期待ください。
―― 巣ごもり需要も落ち着いてテレビ需要もやや減速しましたが、進化するテレビの価値を伝えるためにも、サウンドバーをはじめとした周辺機器やサービスを含めた価値提案が大事なポイントになるのではないでしょうか。
濱田 見逃し配信などコンテンツを消費する目的なら、スマホなど小さな画面で間に合います。お客様が大きな画面を購入するのは、家族や仲間と一緒に楽しめ、笑いあったり、コミュニケーションしたりできるからです。
リビングを最高のエンターテインメント空間にするためには、そうした大画面に相応しいサウンドが重要です。実現するのは決して大変なことではない。そこへの“気づき”をBAR 1000で提案していきたいですね。
今のお客様は妥協がありません。あらゆることを自分で調べることができるので、本当にいいものを探してきます。その目利き力たるやかつてとは比べ物になりません。そうした目の肥えたお客様に応えられる究極の商品を提案していきたい。気づかなかった潜在的なニーズがまだまだあることを、今回はつくづく実感することができました。ご意見があればぜひメーカーにフィードバックしていただきたい。それが、さらにレベルの高い要求に応えた凄い商品を生み出す力にもなります。
―― お客様が理解、納得して検討の俎上にのせてもらうためには、体験の場の提供は何にも代えがたい大事なテーマになりますね。
濱田 コロナの行動制限が緩和され、映画館にまた足を運ばれるようになり、「映画館ってやっぱりいいね」と実感されている人も少なくないはずです。しかし、あの環境を我が家に持ち込めるなんて発想はほとんどの方は持ち合わせていません。
我々が30年以上前に初めて5.1chホームシアターを体験したときに「まるで映画館じゃないか」と目を輝かせました。残念なことにAVアンプは売り場も縮小し、マニア寄りにシフトしている印象があります。そのようななか、お客様にBAR 1000を実際に体験していただくことで「Wow!」をお届けしていきたい。
今、スピーカースタンドを用意してリアスピーカーを設置するなど、ご販売店様と一緒にサラウンドサウンドを体験いただける売り場づくりを進めています。これまでのサウンドバーの延長線上ではない、まったく違う体験をひとりでも多くの人に提供したい。空き缶のようなサイズで100インチの大画面が手に入れられるポータブルプロジェクターとの夢の組み合わせも魅力的だと思います。
イヤホンなどと比べると場所が必要となり、そこが大きな課題のひとつですね。BAR 1000はこれからのホームシアターカテゴリーを牽引していく商品であると自負しており、「ホームシアターってこんなに楽しいのか」と皆さんに知っていただく、興味を抱いていただく入り口になる“顔”とも言える商品です。
お客様は新しいものには敏感に反応します。家電店まで足を運ばれる理由のひとつも、何か新しい“気づき”や“発見”を期待されているから。そこで、「あっ、ホームシアターの最先端って今、こうなっているのか」と進化を目の当たりにしていただけるような体験の場づくりをご販売店様と協力して進めていきます。
―― サラウンドスピーカーの置き方にもいろいろなアイデアが生まれてきそうですね。
濱田 ご販売店様によってはあえてサラウンドスピーカーを後ろに置かない展示をしているところがあります。本体に付けて“しまってある状態”で最初はお見せして、お客様自らガチャっと外していただき、「取り外せるのか!」と体験していただくことにポイントを置いているからです。
ポイントは2つ。ひとつは7.1.4chの完全フルサラウンドを体験していただくこと。もうひとつが“着脱できる”ワイヤレスサラウンドスピーカーです。後者ではお客様自ら取り外していただくことに“Wow!”があり、リアに設置できることも強く印象に残ります。主に前者は旦那様へ、後者は奥様へのセールストークとして、二通りの展示を展開されているご販売店様もあります。琴線に触れるポイントは異なりますからね。
プロジェクター売り場に展示されているご販売店様もあり、モバイルプロジェクターを買われるお客様は音に対して比較的無頓着な方が少なくないようで、効果的な“気づき”になっているそうです。新たな露出場所や展示の仕方、また、これから新生活のタイミングに合わせたイベントなども計画していけたらと考えています。
―― シネマサウンドの本家JBLの腕の見せ所ですね。
濱田 BAR 1000のような商品がどのメーカーでも作れるものではなく、そこにはJBLから生まれた必然があります。JBLはFLIPシリーズをはじめとするBluetoothスピーカーが全世界で50%を超えるシェアを誇ります。2022年の段階で全世界累計1億7,000万台という膨大な数を出荷しております。
連綿と蓄積されたバッテリーやワイヤレスの技術は、Bluetoothイヤホン、Bluetoothヘッドホン、完全ワイヤレスイヤホンにも生かされています。バッテリーやワイヤレスに用いる半導体をはじめとするコストも、スケールメリットで大きく下げることができます。Bluetoothイヤホン、Bluetoothヘッドホン、完全ワイヤレスイヤホンを含むJBLのイヤホン・ヘッドホンは2022年末の段階で累計出荷2億台を記録し、もはやBluetoothスピーカーを超えるカテゴリーへと大きく成長しました。小型化や高品質化の技術も飛躍的に進化を遂げています。
映画館用のスピーカーから始まり、音楽用のスピーカー、それがワイヤレス化されて、さらにはイヤホン・ヘッドホンへとすべてがつながっています。BAR 1000はこうして培われてきた技術やノウハウのすべてが詰め込まれた、また、JBLならではのアイデアが凝縮した集大成とも言える商品です。ご販売店様と力を合わせてBAR 1000でホームシアターをさらに盛り上げて参りますので、どうぞご期待ください。
受賞インタビュー:ハーマンインターナショナル
鋭い立ち上がりを見せ注目を集めるJBLのサウンドバー「BAR 1000」が、VGP2023「テレビシアター大賞」を受賞した。充電式ワイヤレスサラウンドスピーカーという画期的なアイデアを採用し、薄型テレビの音の改善にとどまらない次のステージを見据えた提案を投げ掛けた。商品開発に至る背景、そして市場創造へ向けた意気込みを、クラウドファンディングのマーケティング展開でも指揮を執ったハーマンインターナショナル株式会社・濱田直樹氏に話を聞く。
ハーマンインターナショナル株式会社
プロダクトマーケティング部
マネージャー
濱田直樹氏
プロフィール/オーディオメーカーで商品企画・マーケティングに従事、2019年4月よりハーマンインターナショナル株式会社へ入社し、ホームオーディオ製品のプロダクトマーケティングを担当する。2021年4月よりプロダクトマーケティング部門全体を統括するマネージャーに就任。趣味は映画鑑賞とボルダリング。
■サウンドバーはテレビの音の改善から次のステージへ
―― 2つの充電式ワイヤレスサラウンドスピーカーをサウンドバーと一体化する画期的なアイデアを採用されたJBL「BAR 1000」が、VGP2023でテレビシアター大賞を受賞されました。おめでとうございます。市場でも鋭い立ち上がりを見せ好調とのことですが、本機の開発背景からお聞かせください。
濱田 日本のホームシアターの歴史をひも解くと、最初は1990年代後半、AVアンプに5つのスピーカーとサブウーファーを組み合わせた5.1chサラウンドがDVDメディアの普及に合わせて広まりました。映画館のあの感動が我が家のリビングでも再現できる、映画好きにとってはまさに垂涎のドリームマシーンの登場でした。
その後、6.1ch、7.1chと音声フォーマットの多チャンネル化が進む一方、家族の住環境の中心となるリビングでは反対に、リアスピーカーの設置などから疎まれる存在となりました。大学生や社会人の独身時代は自由に楽しめても、結婚して子どももできるとホームシアターシステムは隅へと追いやられ、やがては使用しなくなる例は珍しくありませんでした。
そのようななか、2010年くらいから地デジ化も後押しして薄型テレビが一気に普及すると、画質もフルHDで高画質化する反面、筐体は薄型化して音が貧弱になりました。やきもきするなか、やがてその問題を解決する手段として脚光を浴びたのがサウンドバーでした。テレビの前にサウンドバーひとつ置くだけの手軽さが普及の起爆剤となりました。ただし、手軽さや設置性が優先されるあまり、黎明期の5.1chパッケージに比べると音が少し後退してしまった感は否めませんでした。
片や映画館はどうかと言えば、天空の音を追加した没入感の非常に高いイマーシブサウンドへと進化していきました。リビングの“置けない問題”のソリューションにフォーカスしたサウンドバーとは大きく乖離してしまいました。コロナ禍のおうち需要でサウンドバーは盛り上がりましたが、テレビがさらに大型化、高精細化していくなか、テレビの薄型化に伴う音の改善策としてのサウンドバーの需要には一服感があるようです。音に対してもっと満足してもらうものが欠かせなくなっている。それがBAR 1000を企画開発し、市場へ投入した背景となります。
■画期的な新提案の真価をクラウドファンディングで問う
―― 地デジ化に際してはシアターラックが先行して人気を博しましたが、ホームシアターとしての音の魅力を一歩踏み込んで訴求するところまでは及ばず、その後、急速にシュリンクしていますね。
濱田 一般のご家庭のリビングにAVアンプを持ち込んで7.1chのシステムを組むのは現実的ではありません。目指したのは、設置の手軽さと最高の音質をどう両立させるか。ホームシアター先進国の米国を中心に、グローバル市場ではすでにワイヤレスサラウンドスピーカーが拡がりはじめています。
JBLでは前方の高さ方向への広がりを実現する7.1.2chのモデルをグローバル展開していましたが、このたびさらに後方にも高さ方向の広がりを実現する7.1.4chで、映画館のような球状に包まれる音を家庭で再現できるBAR 1000の登場を機に、日本市場への導入を決定しました。音質的に一切の妥協がない、設置性も革新的な充電式ワイヤレスサラウンドスピーカーが最高のソリューションをお約束します。
ただし、ワイヤレスサラウンドスピーカーの導入にはかなり慎重だったことも確かで、社内からも「本格的なサウンドを求める人にこうしたギミックとも取れるような仕様が受け入れられるとは思わない」「クオリティに敏感な日本のお客様は受け付けないのではないか」「手軽さを求めるか。本格的なものを求めるか。その中間がはたして存在するのだろうか」といった反対や疑問を投げ掛ける意見もありました。
BAR 1000のベネフィットを正しく伝え、きちんと理解した上で選んでもらえるような環境を醸成するにはどうすればいいのか。この課題解決に、グリーンファンディングさんのクラウドファンディングを利用させていただいたことが、成功したひとつの大きな要因になっています。
―― 世の中に信を問うてみたわけですね。
濱田 いきなり店頭に展示したり、カタログをつくって渡したりしても、限られたスペース、限られた紙面によるコミュニケーションでしかなく、十分かつきちんと伝えることはできないと危惧しました。そこでクラウドファンディングを利用して、たとえ情報過多になっても、われわれの言葉でBAR 1000のすべてを直接語ならければと、動画をはじめ用いることができるツールを駆使して、本当にものすごい情報量と熱量でお伝えしました。
設置性が最高レベルなだけでなく、同時に音質も最高レベルに仕上げられた、まさに大谷翔平選手のような夢の二刀流プレーヤーがサウンドバーに出現したわけです。グリーンファンディングさんでのクラウドファンディングのチャレンジは、結果、目標としていた支援金を大きく突破することができました。
11月25日から一般販売を開始しましたが、立ち上がりはクラウドファンディングですでに熟考されたお客様が、実際に売り場でBAR 1000を体験して、購入するか否か最後の決断をするだけですから、熱いお客様をホットな年末商戦に送り届けることができました。実はコロナ禍で開発から生産に至るまで厳しい日程を強いられ、2022年末ギリギリでないと発売できない。店頭にお届けする前にお客様の熱を上げておかなければ商機を逃してしまうという危機感を逆手に取って生まれた発想でもありました。
―― 販売店でも的を射た商品説明や実演・展示の仕方をお客様から吸収することができ、短時間で腕を磨くことにもつながりますね。
濱田 ご販売店様にも理想の形でパスを渡すことができました。何より重要なポイントはサラウンドスピーカーを“使うときだけ取り外せる”ところ。クラウドファンディングでは支援者の声を直接聞くことができるのですが、「必要なときだけ取り出せて、使わないときにしまっておけるのがいい」というわけです。
考えてみれば、ホームシアターを使用している時間など本当に限られた時間ですから、使っていないときの佇まいこそが、ホームシアターをリビングに定着させる重要なカギだと気づかせてもらえました。そうした情報もご販売店様にフィードバックすることで、有効なセールストークにもなっています。本当に学びが多い、いままでになかったマーケティングのチャレンジとなりました。
■大人気も品薄心配不要。自信に裏打ちされた潤沢な在庫
―― 立ち上がりから大変好調とお聞きしています。
濱田 年末年始は曜日回りもよく、検討するためご家族で店頭へ足を運ばれる姿も多く見受けられました。クラウドファンディングは需要の先食いになってしまう懸念も指摘されていますが、すでに一般販売後の販売台数がクラウドファンディングの支援者数を大きく上回り、新たな気づきが需要を拡げ、商品のポテンシャルをより大きくすることができたと確信しています。
―― 御社ではクラウドファンディングの活用はこれまでにもあるのですか。
濱田 初めてのチャレンジになります。クラウドファンディングには、開発チームが中心になり先行資金を集めるものと、本当に欲しいお客様がいるのかを世に問う2つのパターンが主にあります。今回は後者のパターンで、欲しい商品が世の中に出てくるのはお客様にとってもうれしいですし、販売店も売れ筋商品とわかればアクセルが踏みやすくなります。まさに“三方良し”と言えます。
支援者とやりとりを重ねていくなかで、求めているものや知りたいところを、ひとつひとつ着実にクリアしていくことができました。そうしたコミュニケーションがこれまで十分ではなかったと反省材料にもなりました。
作り手と支援者との間に仲間意識が生まれてきて、それがブランドに対する興味や愛着にもつながっていきます。オンラインの買い物だけではブランドを体感する余地もなかなかありません。クラウドファンディングも同じくデジタルの世界ならではですが、距離が近く、お客様との接点ができたことを強く実感しました。
―― 人気商品ゆえ在庫切れが心配されますが……。
濱田 実は潤沢に在庫を確保しています。想定を数倍上回るペースで売れているのですが、この先も安定した供給が可能です。クラウドファンディングなど仕掛けもいろいろ考えましたし、日本では初めてとなる完全ワイヤレス型のホームシアターで、唯一無二の商品として自信もありました。シアターサウンドはJBLの祖業でもありますし、特にフラグシップとしてここは勝負をかけました。
―― フラグシップのBAR 1000が加わり、サウンドバーは「Bar 5.0 MultiBeam」「Bar 2.0 All-in-one MK2」「JBL Cinema SB190」の4商品での展開となります。
濱田 今後はシアター体験をよりしっかりできる商品が需要の中心になると見ています。そこへきめ細かく対応していくために目指すのは、強みである完全ワイヤレスサラウンドスピーカーという新発想を加えた、音質にもリビングに置く美しさにもいずれにも妥協しない、二刀流を極めたハイブリッドシアターです。プレミアム価格帯に打ち出し、4K8Kや65V型を超えるテレビを購入される方に相応しいシアターシステムとして拡充を図ります。今年は夏商戦に間に合うように1モデルを計画していますので、どうぞご期待ください。
―― 巣ごもり需要も落ち着いてテレビ需要もやや減速しましたが、進化するテレビの価値を伝えるためにも、サウンドバーをはじめとした周辺機器やサービスを含めた価値提案が大事なポイントになるのではないでしょうか。
濱田 見逃し配信などコンテンツを消費する目的なら、スマホなど小さな画面で間に合います。お客様が大きな画面を購入するのは、家族や仲間と一緒に楽しめ、笑いあったり、コミュニケーションしたりできるからです。
リビングを最高のエンターテインメント空間にするためには、そうした大画面に相応しいサウンドが重要です。実現するのは決して大変なことではない。そこへの“気づき”をBAR 1000で提案していきたいですね。
今のお客様は妥協がありません。あらゆることを自分で調べることができるので、本当にいいものを探してきます。その目利き力たるやかつてとは比べ物になりません。そうした目の肥えたお客様に応えられる究極の商品を提案していきたい。気づかなかった潜在的なニーズがまだまだあることを、今回はつくづく実感することができました。ご意見があればぜひメーカーにフィードバックしていただきたい。それが、さらにレベルの高い要求に応えた凄い商品を生み出す力にもなります。
■ガチャっと取り外せる“Wow!”を体験できる場を提供
―― お客様が理解、納得して検討の俎上にのせてもらうためには、体験の場の提供は何にも代えがたい大事なテーマになりますね。
濱田 コロナの行動制限が緩和され、映画館にまた足を運ばれるようになり、「映画館ってやっぱりいいね」と実感されている人も少なくないはずです。しかし、あの環境を我が家に持ち込めるなんて発想はほとんどの方は持ち合わせていません。
我々が30年以上前に初めて5.1chホームシアターを体験したときに「まるで映画館じゃないか」と目を輝かせました。残念なことにAVアンプは売り場も縮小し、マニア寄りにシフトしている印象があります。そのようななか、お客様にBAR 1000を実際に体験していただくことで「Wow!」をお届けしていきたい。
今、スピーカースタンドを用意してリアスピーカーを設置するなど、ご販売店様と一緒にサラウンドサウンドを体験いただける売り場づくりを進めています。これまでのサウンドバーの延長線上ではない、まったく違う体験をひとりでも多くの人に提供したい。空き缶のようなサイズで100インチの大画面が手に入れられるポータブルプロジェクターとの夢の組み合わせも魅力的だと思います。
イヤホンなどと比べると場所が必要となり、そこが大きな課題のひとつですね。BAR 1000はこれからのホームシアターカテゴリーを牽引していく商品であると自負しており、「ホームシアターってこんなに楽しいのか」と皆さんに知っていただく、興味を抱いていただく入り口になる“顔”とも言える商品です。
お客様は新しいものには敏感に反応します。家電店まで足を運ばれる理由のひとつも、何か新しい“気づき”や“発見”を期待されているから。そこで、「あっ、ホームシアターの最先端って今、こうなっているのか」と進化を目の当たりにしていただけるような体験の場づくりをご販売店様と協力して進めていきます。
―― サラウンドスピーカーの置き方にもいろいろなアイデアが生まれてきそうですね。
濱田 ご販売店様によってはあえてサラウンドスピーカーを後ろに置かない展示をしているところがあります。本体に付けて“しまってある状態”で最初はお見せして、お客様自らガチャっと外していただき、「取り外せるのか!」と体験していただくことにポイントを置いているからです。
ポイントは2つ。ひとつは7.1.4chの完全フルサラウンドを体験していただくこと。もうひとつが“着脱できる”ワイヤレスサラウンドスピーカーです。後者ではお客様自ら取り外していただくことに“Wow!”があり、リアに設置できることも強く印象に残ります。主に前者は旦那様へ、後者は奥様へのセールストークとして、二通りの展示を展開されているご販売店様もあります。琴線に触れるポイントは異なりますからね。
プロジェクター売り場に展示されているご販売店様もあり、モバイルプロジェクターを買われるお客様は音に対して比較的無頓着な方が少なくないようで、効果的な“気づき”になっているそうです。新たな露出場所や展示の仕方、また、これから新生活のタイミングに合わせたイベントなども計画していけたらと考えています。
―― シネマサウンドの本家JBLの腕の見せ所ですね。
濱田 BAR 1000のような商品がどのメーカーでも作れるものではなく、そこにはJBLから生まれた必然があります。JBLはFLIPシリーズをはじめとするBluetoothスピーカーが全世界で50%を超えるシェアを誇ります。2022年の段階で全世界累計1億7,000万台という膨大な数を出荷しております。
連綿と蓄積されたバッテリーやワイヤレスの技術は、Bluetoothイヤホン、Bluetoothヘッドホン、完全ワイヤレスイヤホンにも生かされています。バッテリーやワイヤレスに用いる半導体をはじめとするコストも、スケールメリットで大きく下げることができます。Bluetoothイヤホン、Bluetoothヘッドホン、完全ワイヤレスイヤホンを含むJBLのイヤホン・ヘッドホンは2022年末の段階で累計出荷2億台を記録し、もはやBluetoothスピーカーを超えるカテゴリーへと大きく成長しました。小型化や高品質化の技術も飛躍的に進化を遂げています。
映画館用のスピーカーから始まり、音楽用のスピーカー、それがワイヤレス化されて、さらにはイヤホン・ヘッドホンへとすべてがつながっています。BAR 1000はこうして培われてきた技術やノウハウのすべてが詰め込まれた、また、JBLならではのアイデアが凝縮した集大成とも言える商品です。ご販売店様と力を合わせてBAR 1000でホームシアターをさらに盛り上げて参りますので、どうぞご期待ください。