“史上初”の試みの狙いをプロデューサー、音響監督らに聞いた
TVアニメでDolby Atmosを !? 『ダークギャザリング』音響チームが本編とは別の意味でクレイジーホラーだった
■『ダークギャザリング』音響のこだわり、推しポイントはどこ?
ーー史上初のDolby Atmosミックスということで、本気でこだわって制作されていることがよく分かります。その中でも「ここの演出はこだわった」「このシーンは会心の出来だった」という“推しポイント”がありましたら是非教えてください。
山本:そうですね……。私は1話のラスト、夜宵ちゃんの部屋で人形がカタカタ鳴るシーンを初めて聴いた時は「あっ、Dolby Atmosにして良かったな。やる意味があった」とすごく実感しました。
吉田:僕は11話の老婆が来るシーンですね。自分で作っているのにダビングステージで確認してみたらあまりに意外な方向から音が聴こえてきたので、ダビングの最中に山本さんと「今なんか聴こえたよね?」と顔を見合わせちゃって(笑)。
山本:えっ、もしかして今、心霊体験した!? って(笑)。スタジオは“出る”って話がありますからね。
菊地:私は最後の方ですかね。やはり最初のうちは手探り状態で作っていたので、回を追うごとにどうしたら面白くなるかが分かっていって、クオリティも上がっていっているので。
吉田:それと劇伴の部分で、“卒業生”1体につき1曲ずつ作ってもらっているのですが、1つの話の中で同じ曲が出てきたら「この曲ってことはここから怖くなるな」って分かっちゃうじゃないですか。それをなるべく避けるため、1曲をバラバラにして少しずつ散りばめて、1番盛り上がるシーンで完全な曲にして流すってことをやったりしています。
山本:やっぱり変態ですよね(笑)。
ーーそれは変態ですし、おそらく言われないと気づかないです。
吉田:気づかれたら僕たちの仕事はあざとくなっちゃいますから。是非サントラとも聴き比べてみていただきたいですね。
山本:ダビングの話が出ましたが、吉田さんレベルの音響監督さんたちがいらっしゃったら、普通ならダビングって3時間くらいで終わるんです。1回聴いてちょっと手を加えて終わり、となるんですが、Dolby Atmosでがっちり組んであると修正1つでもものすごい時間がかかってしまって……。
吉田:ダビングまでの時点ですでに何十時間もかけていて、そこからさらにですからね。でも「無理じゃない?」に挑戦しちゃう人間ばかり集まっていたので……ある意味それが1番ホラーだったかもしれません。
山本:誰一人として日和ろうとしなかったですよね。
ーー「1番恐ろしいのは人間」系のオチがついちゃった……。
■『ダークギャザリング』をきっかけにDolby Atmosの良さ、音の面白さに注目してほしい
ーーちょっと壮絶なくらいにこだわっていることがよく伝わってきましたが、それ以上に今回のテレビシリーズでDolby Atmosミックスという取り組みは、ものすごく音響の未来の可能性を感じる取り組みでした。プロデューサーとして、音響エンジニアとして、今後Dolby Atmosをこう活用したい、という展望がございましたら教えてください。
山本:『ダークギャザリング』の話になりますが、やはりご家庭にDolby Atmos環境をお持ちの方ってまだまだ少ないですよね。かといって今すぐご家庭にホームシアターを、というのも難しいですから、映画館での上映会をもっとやりたいなと思っています。上映会で音のすごさを体感していただいて、Dolby Atmosをもっと身近に感じていただけるような施策をやっていけたら嬉しいです。
吉田:僕も『ダークギャザリング』をきっかけに、Dolby Atmosの良さを知っていただける環境や音に注目するきっかけを作っていきたいと思っています。もちろん視聴者の皆さんに楽しんでほしいのが大前提としてあるんですが、それを作る技術者も年々減ってきているところがありまして。
実際、こうして話を聞いたとしても具体的にどこからどこまでをやっているかって見えづらい職業だと思うんですね。音ってそれがいいところでもあるんですけれど、新しい人が増えづらい理由でもありますので、若いクリエイターさんに「どんどん挑戦的なことをやってほしい」とお伝えできれば嬉しいなと思います。
菊地:2000年初頭の5.1chサラウンドが登場した頃って、環境がなかったので聴ける人がほとんどいなかったんですよね。でもDolby Atmosは環境がかなり整っていて、この作品も対応スマホがあればU-NEXTで観ることができますし、サウンドバーも3万円くらいから対応モデルが発売されています。昔みたいに「誰が聴くんですか? どこで流すんですか?」という敷居は無くなったので、技術者側としてはどんどん作って欲しいなと思っています。
ーーありがとうございます。最後にこの記事を読んでいる方にお伝えしたいこと、メッセージがありましたらお願いします!
山本:アニメって「カッティングデータ」という絵コンテのような状態で先に音響側を作って、後から絵を作っていくんですけど、『ダークギャザリング』は音にすごくこだわっていたので、絵の制作側も「この音にこの絵は失礼」と相乗効果でクオリティが上がっていった、ある種理想系の作品です。
それなので細かいことは分からなくても「なんか音かっこいいな、耳に残るな」などと少しでも思っていただけて、「なんでこんな音がいいんだろう。テレビ放送だと5.1chなんだ、Dolby Atmosってのもあるんだ」と気付く作品になってもらえたら嬉しいです。そしてBlu-rayにはDolby Atmos音声が収録されていますので、是非ご購入ください!
吉田:ここまでにお伝えしたことが根幹ではありますが、音ってどうなってるかを知っているか知らないかで見方が全然変わってきますよね。それこそ今日のお話を踏まえて見直してもらえれば、また違う見方ができると思いますので、音的なこだわりも楽しんでもらいつつ、掘り下げると制作現場もかなりホラーだったことが分かって二重三重に楽しめるのではないかと思います(笑)。
今回こうして『ダークギャザリング』の音響のこだわりを聞くことができたが、せっかくの機会だ。qooopのDolby Atmos対応スタジオ「MA-2」の9.1.4chシステムにて、本作1話の後半部分をDolby Atmos音声で観させていただいたので、その感想を記していきたい。
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