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VGP2024 SUMMER受賞:エミライ 島幸太郎氏

【インタビュー】国内初上陸ブランドMAGNETARのユニバーサルプレーヤーで、ディスク再生の新たな可能性を拓く

公開日 2024/09/03 06:30 PHILEWEBビジネス 徳田ゆかり
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VGP2024 SUMMER
受賞インタビュー:エミライ


音元出版のアワード「VGP2024 SUMMER」にて、中国ブランドMAGNETARのユニバーサルプレーヤー「UDP900」が、ホームシアター大賞を受賞した。画質・音質ともにハイエンドを目指す同モデルは、国内のディスク愛好家の大きな期待に応える存在となる。その日本国内販売を展開するエミライの島幸太郎氏が、大いなる思いを原動力としたエミライのオーディオ事業の取り組みを語った。


株式会社エミライ
取締役 島幸太郎


■中国発MAGNETARブランド、エミライとの運命的な出会いと「UDP900」に込められた思い



VGP2024 SUMMER「ホームシアター大賞」を受賞したMAGNETARのユニバーサルプレーヤー「UDP900」

ーー VGP2024 SUMMERにおけるホームシアター大賞のご受賞、誠におめでとうございます。受賞モデルのMAGNETAR「UDP900」は、究極のユニバーサルディスクプレーヤーとして、ディスク愛好家の熱い注目を集める存在ですね。この製品の国内販売に至った経緯をお聞かせいただけますか。

 弊社は、オーディオビジュアル製品の輸入卸売り業務を事業の柱の1つとしています。2011年に会社を設立して以来さまざまな製品の取り扱いをさせていただいた中でも、非常に印象深いのがアメリカのOPPO Digital社のユニバーサルBDプレーヤーです。2011年に国内で取り扱いを開始した「BDP-95」を皮切りに、歴代のモデルがおかげさまで皆様から大変ご好評いただきました。ただ残念ながら、UHD BDプレーヤーの最高峰と評していただいた2017年の「UDP-205」を最後に、OPPO Digital社が2018年にディスクプレーヤーの事業を終了してしまいました。

「UDP-205」に匹敵するディスクプレーヤーを望まれる声は、お客様はもちろん、ご販売店様からも、評論家の先生方からも数多く頂戴していました。海外で他のブランドが展開されていたユニバーサルプレーヤーもありますが、自社開発、自社生産を貫いて強みを発揮していたOPPO Digital社の製品のように日本のお客様のニーズを満たすことは難しいだろうと、弊社では静観していたのです。

そういった中で、私が昨年5月にミュンヘンのオーディオショーを視察した際に出会ったのが、中国のMAGNETARです。その名前は耳にしたことがあり、興味深いユニバーサルプレーヤーを出展していましたので挨拶に伺ったところ、先方は弊社の存在をご存じでした。OPPO Digitalの韓国の代理店だった会社がMAGNETARの製品を取り扱っており、OPPO Digitalと一緒に製品開発もして日本で大きく展開した実績があると言って、弊社を推薦してくださったんだそうです。ありがたいことに、スムーズに話を進めることができました。

MAGNETARを展開する会社はMagnetar Technology Shenzhenといって、深センでMAXMADE AUTOの名義で、日本のメーカーを含め車載機器やDVDディスクプレーヤーのOEM事業を行っていました。そしてMAGNETARは、ハイエンドのディスクプレーヤーを展開する新規事業のため、初めて立ち上げられた自社ブランドということでした。Magnetar Technology Shenzhenは大きな規模の会社で、自社工場を持ち、ディスクドライブ製品の新たな活路を切り拓こうと大きな意気込みを持っていたのです。

MAGNETARブランドについて

パートナーに “当事者意識” があるかは、我々にとって非常に重要です。OPPO Digitalとの経験では、日本にしか売っていないディスクに対応したり、バグに対応したりと、ファームウェアのアップデートを頻繁に、延々とやり続ける必要性を実感しました。OPPO Digitalはそれに応えてくださいましたが、たとえばパートナーがODMの会社にお願いする立場だとしたら、そんなことはスムーズには実現できません。そしてMAGNETARの場合は、OPPO Digitalと同様に自ら製品を作り、新しい事業を強い覚悟で展開しようとしている。だから弊社でも一緒にやらせていただこうと決めたのです。

エミライが開催したMAGNETARブランドの国内取扱および、ユニバーサルディスクプレーヤー「UDP900」「UDP800」発売開始の発表会時の模様

ーー「UDP900」の、市場での手応えはいかがでしょうか。

 OPPO Digitalではもう新たなユニバーサルプレーヤーは作らず、修理にも対応できない状態になって、お客様は不安な気持ちでおられたと思います。こうした状況の中で、「UDP900」は、OPPO Digitalの「UDP-205」からお買い替えを考える日本のお客様のニーズにもお応えできる製品だと思っています。ただ価格帯としては、為替のギャップもあって「UDP-205」よりも上のゾーンに位置するところになってしまいます。

それでも、お客様のご期待に応えるために、私どもも新たな一歩を踏み出しました。市場のニーズに寄り添った製品を出してもらうよう、メーカーさんに働きかけるのも我々の重要な仕事です。今回、このような賞をいただけたのは、我々はもちろんメーカーさんにとっても非常に嬉しいことです。製品づくりにしっかり取り組んだ結果、市場で認めていただけたことを実感され、報われた気持ちになっておられると思います。そして我々もこの受賞を追い風に、MAGNETARの製品をもっと国内に広めていきたいですね。

■オーディオ事業を推進するエミライ、すぐれた製品とともに新たな存在感を示す



ーー あらためて、御社のことをお伺いしたいと思います。まず設立の経緯をお聞かせいただけますか。

 代表の河野と私と、今は退職したもう1人のメンバーの3人で、2011年にエミライを創業しました。みな異業種出身で仕事上の繋がりもなく、オーディオが共通の趣味でした。今のようにコンピューターを使った音楽再生が浸透していなかった中で、コンピューターをカスタマイズして、いい音で再生させようと遊んでいたのです。そして河野が当時勤めていた会社を辞めて起業しようとした時、たまたまもう1人も退職しており、では3人で新しくビジネスをしようかと集まったのが創業のきっかけです。

弊社は当初、上場企業様向けのBCPコンサルティングという、事業継続のためのインフラ構築サービスを1つの柱とし、もう1つの柱として着手したのがこのオーディオビジュアル製品の輸入卸売り業務です。国内に既存のオーディオ商社様がたくさんおられる中で、どうやって当社の存在価値を発揮させるかが問題でした。

当時、海外ではコンピューターやネットワークを使った高音質再生システムが徐々に出てきて非常に話題になっていましたが、日本にはほとんど導入されていませんでした。そういう状況が続けば5年先、10年先には日本のオーディオ市場がガラパゴス化してしまうのではないかと、大袈裟ですが私はそういう気持ちでした。

私は創業する前、インターネット上に個人サイトを作って、オーディオのことや、業界がこうあってほしいなどと書いていたのですが、本当に何とかしたいならばその業種・業界に自ら飛び込んで行くしかないですよね。海外のオーディオファンの方々の最新の価値観を、日本のオーディオファンの方々に共有していただきたい、話題になっているコンピューターネイティブ、ネットワークネイティブな製品をいち早く日本に導入したい。それを弊社のオーディオ事業で目指すことにしたのです。

それでデジタルオーディオに強いメーカーさんを意図的に選んで、集中的に取り扱っていきました。中でも印象深いのはやはり、OPPO Digitalです。元々彼らは海外のマーケットに興味がなく、代理店制度を設定していなかったので、当初我々は一般のお客様と同じ値段で商品を買って、もちろんメーカーさんの許可を得て国内で販売せざるを得ませんでした。でも、セールスの実績が好調になっていく過程で、日本の販売店様の色々なニーズを伺い、交渉や調整を進めローカライズを行っていきましたので、最終的にはメーカーさんにも輸入代理店としての存在感を感じてもらえ、メーカーさんも代理店制度に積極的になっていったという経緯があります。卸売価格も設定され、日本向けのモデルやカスタム仕様のJPバージョンも生産されるようになりました。

OPPO Digitalとのお付き合いは、我々にとって非常に学びになりました。OPPO Digitalは世界各国の代理店を集めてビジネスミーティングを開催するようなとても真面目な会社でしたので、いまだに先方のメンバーや世界中の代理店さんとも繋がりがあります。MAGNETARとの縁を繋いでくれたのもその韓国の代理店さんです。ありがたいことですね。

ーー 新たにオーディオの輸入商社さんとして起業されて、販売店さんとのご関係はどのように築いていかれたんですか。

 お恥ずかしい話ですが、実は、私の同人誌がきっかけです。インターネット上の個人サイトで書いていたことを再編集して作った「PCオーディオガイドブック」という本がある同人系ショップのバイヤーの方の目に止まり、色々とサポートをいただいて、最終的にコミックマーケットに出すことができました。その同人誌が有名なブロガーさんにご紹介いただいて、オーディオマニアの間で少し話題になったものですから、ある老舗の専門店様がこれを扱いたいとおっしゃってくださったのです。

その後初めてエミライの人間としてそのお店様にご挨拶に行った時には、お店の方が私をご存知でしたし、また私はたまたま、そのお店の方が主催するオーディオのサークルに中学生くらいの頃から入っていましたから、大変幸運なことにエミライとお取引をしていただけることになったのです。それで他のオーディオ専門店様とも、お取引がしやすくなりました。またホームシアターの専門店様の場合は、OPPO Digitalの製品力が大きな後押しになりました。

ただ、これは代表の河野ともいまだに話をするのですが、当時を振り返った時の反省点として、弊社は製品力に頼りすぎていたところがありました。販売店様との関係をしっかりと築いて情報共有をさせていただくためにも、営業活動は大変重要と感じております。その反省を踏まえて、以前はいなかったのですが、現在では営業専任の担当者が6名ほどおります。東京に加えて大阪にも営業所を設置し、中国にも支社を設立して3つの拠点で活動を展開しています。

■どんなアイテムの再生でも、好きな音楽をいい音で楽しんでいただくために




ーー お取り扱いの製品は、どういう観点で選んでおられるのですか。

 当初は海外の媒体のレビューを参考に、評価がいいものをピックアップしていましたが、ここ2、3年は他の代理店さんからお引き受けすることも多くなりました。展示会で新しい製品に出会う時は、製品自体がユニークで、他社にあまりない特徴があるものに目が留まります。いずれにしても、説明以前に音を聴いた時のファーストインプレッションが非常に重要だと思っています。

ただ、代理店業を約13年続けるなかで、やはりビジネスとしての観点は大事だとも学びました。いい製品を企画することができるメーカーさんであっても、例えばなかなか納品されないとか、量産力がないといった場合もあります。パートナー企業としてみたときのビジネスの継続性や、組織の安定性、修理サービスに対応できるかといったことも、弊社が成長するにつれて重視するようになりました。

ーー 島さんは大変なオーディオファンとして知られていますが、そうなられたきっかけは何だったのでしょうか。

 私の伯父が、レコード収集が好きで、オーディオのセットも海外製のものを中心に趣味性の強いものを持っていました。私の両親はオーディオに興味を持ちませんでしたが、私は伯父のお下がりで大きなスピーカーやレコードプレーヤーなどをゆずってもらい、自然に音楽を聴いていました。

実は、コンピューターオーディオには、もともとあまり興味はなかったんです。大学に入ってからインターネットに触れ、オーディオの部屋というオーディオマニアのオンラインチャットに加わったことがオーディオ人生の転機となったとおもいます。弊社の創業メンバーともそこで知り合いました。当時私は媒体さんで評価の高い機器をたくさん揃えてシステムを組んでいたのですが、どうしてもいい音で鳴らないという悩みがありました。チャットでそのことを相談してみたところ、スピーカーセッティングがなおざりになっていると言われて。アドバイスどおり優先順位の低い機器を取り除き、CDプレーヤーとプリメインアンプとスピーカーだけをしっかりセッティングしたら、すごく音がよくなったんです。そのときの感動は今でも思い出します。

それから、単品コンポーネントシステムの世界に足を踏み入れるようになり、CDもトランスポートとDACを組ませてセパレートアンプで鳴らしていました。ある時、オーディオ仲間の方を自宅に招いたときに、余興として、自作パソコンに取り付けていたプロ用オーディオインターフェースと私のシステムのDACと繋ぎ替えて鳴らしたことがあったのですが、それがあまり遜色なくいい音で鳴ったことに、すごくショックを受けたんです。

また、同じような時期に、CDプレーヤーを修理に出してピックアップを交換してみたところ、すごくいい音になって、そこでピックアップの劣化が強烈に音質に影響することを認識したんです。となると、ピックアップ自体は消耗品としか言いようがなく、生産がいずれ終わって交換できなくなってしまったら、いかに高価なプレーヤーであってもいい音で聴き続けられなくなる。それはとても虚しいことだと思ったんですね。

そういった経験を経て、ファイル再生でいい音を出してみたいと思いました。何でもないパソコンからハイエンドのトランスポートに匹敵する音が出るのだから、工夫したらもっとすごい音が出るんじゃないかと。それでOSのカスタマイズやチューニング、ハードウェアに手を入れたりといろいろやってきました。ただ、そういったことを遊んでいくうちに、自作パソコンを使う再生はあまりに個々人の環境に依存したカスタムが必要すぎるので、コンピューターオーディオの楽しさを広く多くの方に享受していただくのに向いていないなと気づき、自分の中ではこれを一旦終わりにしました。

その後USBのオーディオが出てからは、オーディオメーカーさんが関連製品を手がけるようになり、パソコンネイティブなメーカーさんがオーディオ業界に進出してきた頃とは情勢が変わりました。オーディオ製品としてのコンピューターオーディオ、ネットワークオーディオが、そこから確立されてきたと思います。

けれども私自身がコンピューターでオーディオ再生をしてきた経験や視点は、今も役に立っていて、メーカーさんの新たな製品に出会う時にセンスや着眼点のよさがわかりますし、話をしても盛り上がります。そういったところから関係が続く人たちと自分はやりたいことが似ていると思えて、一緒にやっていこうという原動力にもなりますね。

ーー オーディオの素晴らしさを広めていかれたい思いとご自身の体験が、御社の活動の原点になっているのですね。

 エミライという社名には、“笑みのある未来” の意がこめられています。河野が会社を起そうとする頃に、海外を旅しようと日本を出発したその日、東日本大震災が起きました。いろいろな情報に触れていく中で、元気をなくされた皆さんに何とか息抜きの時間を味わっていただけないかと、趣味のオーディオ製品を楽しむ、いい音楽をいい音で聴くことで、少しでも自然な日常を過ごせるお手伝いをしたいと我々は考えたのです。会社のロゴにも「Smile,and the world will smile with you」とスローガンを入れています。

ポータブルオーディオからハイエンドオーディオまで、あらゆるオーディオのアイテムを扱っているのが、エミライの個性であり強みの1つです。オーディオの楽しみ方はさまざまであり、どんなアイテムを使った再生であってもいい音で好きな音楽を楽しんでいただくために、テクノロジーネイティブなブランドのすばらしい製品をご提案していきたいと思っています。

オーディオを通じて音楽を楽しむこと、それは年齢や立場などを超えた喜びですよね。ポータブルとか、ハイエンドといったジャンルの垣根というのは本来なく、オーディオ好きな方々がいい音で音楽を楽しまれている姿が広く知られるようになることで、自然と輪は広がっていくのではないかと思います。そのためにも、オーディオ業界の一人としてさまざまな活動をしていきたいと感じております。

ーー 御社の今後のご活動にも注目しております。有難うございました。

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