<炭山アキラのCEATECレポート>オーディオマニアが注目したいCEATECのみどころ
一般のオーディオショーと違って、CEATEC JAPANは電気・電子・機械類の総合的な見本市という位置づけだけに、マニアックで直接的なオーディオ機器の展示はさほど多くないのは例年のことだ。しかし、今年は近年にない大物も含め、かなりの数の注目製品が会場を飾っている。
■ドイツの高級スピーカーブランド、クアドラルの「TITAN VII」
会場は「デジタルネットワークステージ」と「電子部品・デバイス&装置ステージ」に分かれているが、オーディオマニアにとって最も注目すべきなのは前者の一番奥、向かって右側に位置するネットワークジャパンのブースだ。キャリアの長いオーディオマニア諸賢の中にはquadral(クアドラル)というブランドをご記憶の人も多いだろう。十数年前に一度日本に上陸したドイツの高級スピーカー・ブランドで、ここ数年は輸入が途切れてしまっていた。そのクアドラルが再上陸を果たし、CEATECで最新モデルが国内初お目見えを果たしているのだ。
何よりも目を引くのは、巨大な3ウェイのTITAN VIIだ。昨今珍しくなった38cm口径の大型ウーファーと21cmのコーン型スコーカーは、マグネシウムをベースとした独自の組成による合金製の振動板を持ち、高域は大振りなリボン型トゥイーターが組み合わせられている。周波数特性は16Hz〜65kHzという恐るべきワイドレンジだ。キャビネットは上へ向けてバッフルが絞り上げられた背の高い台形で、ユニット周辺のバッフル反射を最小限に抑え、かつ共振も分散させている。
同社のブースへたどり着くのに、苦労はいらない。私も会場を歩いていたら、どこからか大変に濃厚で浸透力の高い音楽が聴こえてきた。そのサウンドに惹かれるまま歩き、自然とたどり着いたのがTITAN VIIの前だった、という具合だ。存在感の高さ、遠達性の良さは驚くべきものがある。
ネットワークジャパンではこのTITAN VIIと、17cmウーファー+リボントゥイーターの2ウェイ「RONDO」、同13.5cmウーファーの「PICO」の3モデルを近々発売するという。今度はコントロールされた環境でぜひじっくり聴いてみたいものである。
■ヘッドホンの注目モデルはこれだ!
例年ボーズはCEATECとインターナショナルオーディオショウ東京と、2つのショーへほぼ同時期に出展している。今年最大の注目株は、やはりノイズキャンセリングヘッドホン「クワイアット・コンフォート3」だろう。
試聴展示が用意されていたので私も体験してきたが、ああいったノイズレベルの大きな会場でこれほど効果的なオーディオ機器というのは、ちょっと他に考えつかない。スイッチを入れた瞬間、圧倒的な静寂が身を包んでくれる。目を閉じれば喧噪のただ中にいることが信じられなくなる。こういったら大体の感じはつかんでいただけようか。購入を考えている人は、ぜひCEATEC会場で体験されておくことをお薦めする。
ヘッドホンといえばもう一つ、ゴールデンダンスの「オーディオボーン」というのが面白い。何と骨伝導ヘッドホンである。耳穴のすぐ前方、下あごの骨の付け根部分に振動体を押し当てると音が聴こえてくるという、何とも不思議なヘッドホンだ。従来から製品としては発売されていたそうだが、従来機は専用アンプが必要だったとか。本機は一般のヘッドホンプレーヤーに直接つないで楽しめるというからうれしい。また、これを用いれば難聴の防止、あるいは緩和の効果が期待できるともいわれている。これはヘッドホンステレオ時代に大きな朗報となる可能性を秘めたシステムともいえるだろう。
これも実際に音を聴いてみたが、こちらはクワイアットコンフォートとは逆で、耳栓をしなければ外からの音がまる聞こえになる。歩きながらの使用などではむしろこちらが安全だ。周波数特性は50Hz〜4kHzとデータ的には少々物足りないが、アコースティックなギターサウンドなどを聴いている限りでは、十分にハイファイといえるサウンドを有していることが確認できた。今後さらなるワイドレンジ化、サウンドの高品位化が図られていけば、ヘッドホンの世界を一変させる可能性のあるシステムといってもいいだろう。
■その他、気になる製品・技術を紹介
ほかに面白い参考出品や技術を挙げていくと、まず目に止まったのはシャープの円筒形スピーカーだ。タイムドメイン社のスピーカーとよく似た格好を持つ製品である。ユニットは10cmのフルレンジで、KEF社のSWが組み合わされていた。音は実に素直で結構な解像度を聴かせてくれる。残念ながら発売については何も決まっていないそうだが、ちょっと期待したくなるシステムである。
もう一つはTDKの超磁歪素子を使った平面スピーカーだ。超磁歪素子とは、電力をかけると大きく形状が変わる素子のことで、フォステクスが最近発売したGY−1「エア」に採用されたものである。TDKではその素子を使ったNXT型の平面スピーカーを以前から参考出品しているが、今年は200Hz以下をダイナミック型のウーファーに任せて完成度が高まった。美しい透明パネルから相当のハイファイサウンドが得られるなら、リビングやパソコンSPとして大きな需要が見込めるのではないだろうか。
スピーカー関係の技術開発は、毎年CEATECを歩く上で最も楽しみにしているテーマの一つだが、今年も収穫は大きかった。まずビクターのブースでは30cm口径のウッドコーンを発見。ゆくゆくはSX-L9サイズのシステムもウッドコーンになるのだろうか。
また、村田製作所のおなじみ「ムラタセイサク君」にもスピーカーが搭載されていた。5×2cmくらいの小さな圧電方式で、厚さ1mmの平面型である。こんな小さなユニットから、何ともフレッシュで伸びやかな音が聴こえてきたのには驚いた。球形トゥイーターの次の一手となるのだろうか。
フォスター電機のブースでは例年数多くの新規開発品が発表されているが、今年最も目を引いたのは「傾斜抄紙技術」である。コーンの内周から外周へかけて2種類の素材の厚みを変えながら成型していく手法で、より低歪みでワイドレンジを得ることができるという。また、発泡マイカ振動板を使ったほとんど傾斜のない薄型コーン型ウーファーも面白い。フォスターはOEM専門だから、近い将来人知れずどこかのオーディオメーカーから採用製品が発売されることであろう。
デジタルアンプについては、ひとまず開発が一段落したのか、ルネサスやSTマイクロエレクトロニクスなどにピュアオーディオ用の新型ICはなかったが、今年はロームから新たなPWMアンプ基板が発表されていた。効率は10Wで90%というから大したものだ。
(オーディオライター・炭山アキラ プロフィール)
ceatec2006report
■ドイツの高級スピーカーブランド、クアドラルの「TITAN VII」
会場は「デジタルネットワークステージ」と「電子部品・デバイス&装置ステージ」に分かれているが、オーディオマニアにとって最も注目すべきなのは前者の一番奥、向かって右側に位置するネットワークジャパンのブースだ。キャリアの長いオーディオマニア諸賢の中にはquadral(クアドラル)というブランドをご記憶の人も多いだろう。十数年前に一度日本に上陸したドイツの高級スピーカー・ブランドで、ここ数年は輸入が途切れてしまっていた。そのクアドラルが再上陸を果たし、CEATECで最新モデルが国内初お目見えを果たしているのだ。
何よりも目を引くのは、巨大な3ウェイのTITAN VIIだ。昨今珍しくなった38cm口径の大型ウーファーと21cmのコーン型スコーカーは、マグネシウムをベースとした独自の組成による合金製の振動板を持ち、高域は大振りなリボン型トゥイーターが組み合わせられている。周波数特性は16Hz〜65kHzという恐るべきワイドレンジだ。キャビネットは上へ向けてバッフルが絞り上げられた背の高い台形で、ユニット周辺のバッフル反射を最小限に抑え、かつ共振も分散させている。
同社のブースへたどり着くのに、苦労はいらない。私も会場を歩いていたら、どこからか大変に濃厚で浸透力の高い音楽が聴こえてきた。そのサウンドに惹かれるまま歩き、自然とたどり着いたのがTITAN VIIの前だった、という具合だ。存在感の高さ、遠達性の良さは驚くべきものがある。
ネットワークジャパンではこのTITAN VIIと、17cmウーファー+リボントゥイーターの2ウェイ「RONDO」、同13.5cmウーファーの「PICO」の3モデルを近々発売するという。今度はコントロールされた環境でぜひじっくり聴いてみたいものである。
■ヘッドホンの注目モデルはこれだ!
例年ボーズはCEATECとインターナショナルオーディオショウ東京と、2つのショーへほぼ同時期に出展している。今年最大の注目株は、やはりノイズキャンセリングヘッドホン「クワイアット・コンフォート3」だろう。
試聴展示が用意されていたので私も体験してきたが、ああいったノイズレベルの大きな会場でこれほど効果的なオーディオ機器というのは、ちょっと他に考えつかない。スイッチを入れた瞬間、圧倒的な静寂が身を包んでくれる。目を閉じれば喧噪のただ中にいることが信じられなくなる。こういったら大体の感じはつかんでいただけようか。購入を考えている人は、ぜひCEATEC会場で体験されておくことをお薦めする。
ヘッドホンといえばもう一つ、ゴールデンダンスの「オーディオボーン」というのが面白い。何と骨伝導ヘッドホンである。耳穴のすぐ前方、下あごの骨の付け根部分に振動体を押し当てると音が聴こえてくるという、何とも不思議なヘッドホンだ。従来から製品としては発売されていたそうだが、従来機は専用アンプが必要だったとか。本機は一般のヘッドホンプレーヤーに直接つないで楽しめるというからうれしい。また、これを用いれば難聴の防止、あるいは緩和の効果が期待できるともいわれている。これはヘッドホンステレオ時代に大きな朗報となる可能性を秘めたシステムともいえるだろう。
これも実際に音を聴いてみたが、こちらはクワイアットコンフォートとは逆で、耳栓をしなければ外からの音がまる聞こえになる。歩きながらの使用などではむしろこちらが安全だ。周波数特性は50Hz〜4kHzとデータ的には少々物足りないが、アコースティックなギターサウンドなどを聴いている限りでは、十分にハイファイといえるサウンドを有していることが確認できた。今後さらなるワイドレンジ化、サウンドの高品位化が図られていけば、ヘッドホンの世界を一変させる可能性のあるシステムといってもいいだろう。
■その他、気になる製品・技術を紹介
ほかに面白い参考出品や技術を挙げていくと、まず目に止まったのはシャープの円筒形スピーカーだ。タイムドメイン社のスピーカーとよく似た格好を持つ製品である。ユニットは10cmのフルレンジで、KEF社のSWが組み合わされていた。音は実に素直で結構な解像度を聴かせてくれる。残念ながら発売については何も決まっていないそうだが、ちょっと期待したくなるシステムである。
もう一つはTDKの超磁歪素子を使った平面スピーカーだ。超磁歪素子とは、電力をかけると大きく形状が変わる素子のことで、フォステクスが最近発売したGY−1「エア」に採用されたものである。TDKではその素子を使ったNXT型の平面スピーカーを以前から参考出品しているが、今年は200Hz以下をダイナミック型のウーファーに任せて完成度が高まった。美しい透明パネルから相当のハイファイサウンドが得られるなら、リビングやパソコンSPとして大きな需要が見込めるのではないだろうか。
スピーカー関係の技術開発は、毎年CEATECを歩く上で最も楽しみにしているテーマの一つだが、今年も収穫は大きかった。まずビクターのブースでは30cm口径のウッドコーンを発見。ゆくゆくはSX-L9サイズのシステムもウッドコーンになるのだろうか。
また、村田製作所のおなじみ「ムラタセイサク君」にもスピーカーが搭載されていた。5×2cmくらいの小さな圧電方式で、厚さ1mmの平面型である。こんな小さなユニットから、何ともフレッシュで伸びやかな音が聴こえてきたのには驚いた。球形トゥイーターの次の一手となるのだろうか。
フォスター電機のブースでは例年数多くの新規開発品が発表されているが、今年最も目を引いたのは「傾斜抄紙技術」である。コーンの内周から外周へかけて2種類の素材の厚みを変えながら成型していく手法で、より低歪みでワイドレンジを得ることができるという。また、発泡マイカ振動板を使ったほとんど傾斜のない薄型コーン型ウーファーも面白い。フォスターはOEM専門だから、近い将来人知れずどこかのオーディオメーカーから採用製品が発売されることであろう。
デジタルアンプについては、ひとまず開発が一段落したのか、ルネサスやSTマイクロエレクトロニクスなどにピュアオーディオ用の新型ICはなかったが、今年はロームから新たなPWMアンプ基板が発表されていた。効率は10Wで90%というから大したものだ。
(オーディオライター・炭山アキラ プロフィール)
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