ベルリン・フィル記者会見レポート:マニンガー氏が語る「デジタルコンサートホール」の現在

公開日 2013/11/20 19:39 季刊NetAudio編集部
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昨日に続き、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の2013年来日公演(2013年11月14日から20日)のさなか、11月19日に行われた同オーケストラ主催の記者会見の内容をお伝えしたい。

本稿では、メディア担当のオラフ・マニンガー氏のコメントと、その後に行われた質疑応答のなかで興味深かったものを抜粋してレポートさせていただく。


オラフ・マニンガー氏
オラフ・マニンガー氏(ソロ・チェロ奏者/メディア代表/ベルリン・フィル・メディア取締役)のコメント

デジタルコンサートホールはソニーという素晴らしいパートナーを得られたからこそクオリティの高いデジタルコンサートホールを実現することができました。

この4年間で、テクニカル面でデジタルコンサートホールは第2世代に入って参りました。放送局並みのスタジオを持つようになり、間違いなくNHKも満足していただけるレベルにあると思います。

現在デジタルコンサートホールのユーザーは32万人を超えるまでになりました。年間定期会員が1万8,000人、facebookのコミュニティの人数は50万人まで成長しております。3年前はfacebookのコミュニティのメンバーはわずか3,000人だったことを考えると、その成長の速さには目を見張るばかりです。

YouTube動画で一部のコンサートの模様を抜粋でご覧いただいておりますが、その再生数は2,000万回を超えております。日本ではMOSTLY CLASSICでも連載を持っております。ツイッターなども含め、各国でいかにベルリン・フィルが話題になっているかランキングがあるのですが、結果はドイツが1位……これは自国のオーケストラに興味を持っていることの表れであり、幸いなことだと考えております。ドイツ銀行がエデュケーショナル・システムを、そしてソニーがデジタルコンサートホールを支援しているということにも表れているのか……必ず2位に来るのが、日本なんですね。そのことはたいへん誇りに思っております。

もちろん我々は生のコンサートに足を運んでいただくのが幸せなことなのですが、コンサートの数は限られております。それがデジタルコンサートホール構築の出発点となったわけです。

いまやデジタルコンサートホールは技術的な進歩を遂げております。3〜4年前、初期のうちは、ケーブルをつないだり、ダウンロードをしたりと環境整備が必要だったのですが、いまでは利便性が格段に向上しております。直接テレビでみられるようになりました。ネットワーク対応テレビ、ブルーレイディスクプレーヤーであればアプリケーションがプリインストールされております。また、最新のテレビのスピーカーも本格的なものが搭載されています。簡単に誰でもデジタルコンサートホールを楽しめるようになっているのです。

さて、ベルリン・フィルがお送りするDVDやCDの制作についてもお話させていただきます。

デジタルコンサートホールのようなかたちのほかに、DVDなどパッケージメディアも楽しんでいただけます。このたびDVDは『魔笛』を自主レーベルで制作いたしました。日本向けには日本語バージョンを制作しております。

CDも、今後のことを検討した結果、やはり自主制作を行っていくことにいたしました。より一層の責任を、オーケストラ自身が担っていくことになります。CDのレパートリーは「ツィクルス」に注目していきます。まずはシューマンの交響曲のツィクルスを制作していきます。シューマンは今回のツアー・プログラムにも入っておりました。今後のCD第1弾に関しては、来年の第1四半期に制作する予定です。我々はこれからベートーヴェンのツィクルスに着手するのですが、ベートーヴェンであれ、シベリウスであれ、マーラーであれ、ツィクルスはなるべくCD化していきたいと考えております。


質疑応答

ーー CDの制作はワーナーとは別ですか?
マニンガー氏 ワーナーとは別で、「ベルリナー・フィルハーモニカ(BERLINER PHILHAMONIKER)」というレーベルになります。

ーー デジタルコンサートホールの一環で、小学校の鑑賞の授業で無料で配信を受けられるプログラムがあると聞き、素晴らしいと思いました。ベルリン・フィルが広く行っている教育プログラムについて教えてください。

ラトル氏 デジタルコンサートホールのアイデアはもちろんですが、もっと街の子ども達と深くかかわり合いたいと常々考えております。一円も儲からないので、頭がおかしいんじゃないですか、と言われることもありますが、それでも今後も実行していこうと思っております。

エデュケーション・プログラムはクリエイティブな視点を大切にしております。いま新たな段階を迎えておりまして、ベルリンの街の子どもたちに合唱を広げていこうとしています。ダンスも取り入れております。合唱の活動に関しては、あまり恵まれていない地域の子どもたちを対象にすでに活動しました。ウィルスが広がっていくように、どんどん広げていこうと考えております。音楽を全ての人に届ける、それをシンプルに具体化していきたいと考えております。

サイモン・ラトル氏

ーー 東京はこの2週間の間にパリ管がいて、ウィーン・フィルがいて、コンチェルトヘボウがツアーをやっていて、ベルリン・フィルがいらっしゃって、バーミンガムのオーケストラも来ています。聴衆としては嬉しいのですが、何とかならんのか、といった状況です。ポール・マッカトニーも来ていますね。なんとか調整ができないものでしょうか?

ラトル氏 私たちは勝手に来ているわけではないんですよ。(笑)
リーゲルバウアー氏 一度に大きなオーケストラが来ていますけれど、なんとかなっているんじゃないでしょうか? 少し見方を変えて、これは東京で行われている、「大オーケストラ・フェスティバル」と捉えてみてはいかがでしょうか?

オーケストラ代表のペーター・リーゲルバウアー氏

ーー 2週間前の朝鮮日報では、ベルリン・フィルの1公演あたりの公演制作費は日本円で1億8,000万円と報道されておりました。日本でのチケットの価格はいちばん高くて4万円。一番安い席で1万4,000円です。それでも売れていますし、公演制作費から換算すると1席あたり10万円を払っても足りないくらいなのですが、この(高価な)料金についてどのように思われますか。さきほどラトル氏の「全ての人達に音楽を共有したい」というコメントをお聞きし、勇気づけられましたので、ご質問させていただきます。

ラトル氏 オーケストラは、ビジネスモデルとして説得力のない、というところに根本的な問題があると思っております。オーケストラ100人に対し、2,000人の聴衆に演奏をする。4〜5人のグループが、3万人が聴けるスタジアムで演奏するのとは違ってきます。正しい音響的な環境で演奏を行うには、これが現実であると思います。

コンサートの値段の高さについては、私もまったく同感です。団員が毎回全員飛行機で二酸化炭素を排出しながら飛んでこなければならない、こういったやり方はずっと長く続いていけないかもしれない、そういった危惧がありまして、私たちはデジタルコンサートホールを始めたわけです。

台湾では2万5,000人が外のスクリーンをご覧になりました。どうしても基本の問題が、音楽のあり方そのものの問題であるから……解決しようがない、限られた収入の人にしか届かないことは……そういった基本の問題から発していると考えております。

マニンガー氏 非常にエキサイティングなテーマですから私からも一言言わせてください。

アーティストにとって何よりも大切なのは、聴衆と直接出会うことです。コンサートというのは単に演奏をして帰るだけにとどめたくありません。いかに将来につなげていくかを大切にしているのです。来日コンサートは文化交流の出発点だと思っております。全メンバーが室内楽のアンサンブルとしてたびたび来日をしております。そこから芽が出て木が育って枝葉が育つことが重要なのです。

友情関係を結んだり、レッスンを受けたりする形で、枝葉が伸びていくのだと思います。今回も仙台に行ったり、エデュケーションプログラムを行ったりと物語をシェアいたしました。いろいろなコミュニケーションの場面で人と人と芸術的な関係が生まれ、それが発展していくためにも来日コンサートは大切です。

(記者会見のレポートはここまで)

なお、直近で発売されるDVDは次のとおり。

キングインターナショナルより2013年11月14日発売

ラトル指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
モーツァルト:歌劇「魔笛」KV620  
KKC9060 (ブルーレイ)、KKC9061/62(DVD) 

●ラトル指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
J.S.バッハ:マタイ受難曲BWV244
KKC9063(ブルーレイ)、KKC9064/54(DVD)


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