4K/ハイレゾとマルチアングル配信を実施
複数会場をネットワークで連携し全公演生配信を実現。「東京・春・音楽祭」配信舞台裏をレポート
上野の春を彩る音楽イベントとして定着した「東京・春・音楽祭」。昨年は新型コロナ感染症の影響で大半の公演が中止に追い込まれたが、2021年は公演スタイルに工夫を凝らして、装い新たに開催されることになった。
座席数を最大50%に抑えながらも実際に観客を入れて公演を行うことに加え、会場に出かけなくても演奏を楽しめるように配信システムを導入し、全公演のストリーミング中継を行う。開幕に先駆けて3月7日に行われた無料ライヴ配信の現場を訪ねる機会があったのでご紹介しよう。
東京文化会館小ホールで行われた演奏会を、マルチアングル配信(ユーザーが手元でカメラの切り替えができる)と、4K+48kHz/24bitのロスレスで配信することが当日のテーマだ。収録を含めた配信システムはすべてIIJが構築し、チケット販売サイトや視聴用サイトも同社が提供する。音楽祭の各公演は有料配信となるが、この日のライヴ中継は無料で行われ、パソコンやスマホなどで自由に鑑賞することができた。
当日の演目は、「ジークフリート牧歌」「楽劇《トリスタンとイゾルデ》」第3幕より「イゾルデの愛の死(モシュコフスキ編)」、「ヴェーゼンドンク歌曲集」というワーグナープログラムで、室内オーケストラ、ピアノ、ピアノ伴奏のソプラノ独唱と編成も変化に富んでいる。
映像はフルHDカメラ4台と4Kカメラ1台で収録し、音声収録用のマイクの数も最小限に抑えていた。小ホールのステージと配信システムを設置した会議室の間は、映像・音声・コントロール信号など異なる信号を光ファイバーケーブル1本で伝送。
複数の機器間で自在に信号を双方向でやり取りできるIP伝送システムを用いているため、小ホールのステージ周辺だけでなく配信ルームの機材も収録規模を考えると異例なほどスリムで、設置や撤収の作業も軽減される。
個々のカメラのSDI出力をNDI(Network Device Interface)に変換した映像信号と、DANTE規格の音声信号をネットワークスイッチに接続するだけなので、ホールやバックヤードのケーブル配線はLANケーブルと光ファイバーケーブルが中心を占めていた。今回は同一会場内で上下2フロア間を約100mの光ファイバーでつないでいたが、IP伝送なので演奏会場と配信ルームが数キロ程度離れていても遅延なく伝送できるという。
7日の演奏会では正面の4Kカメラがステージ全景を中心に収録。複数のフルHDカメラは、配信ルームからリモート操作でスイッチングするメイン画像のほか、視聴者が任意に選べる3台のマルチアングル用カメラとしても利用していた。音楽祭の期間中は東京文化会館以外に上野の美術館など複数の会場で演奏会が行われるが、ネットワークを活用することで複数のホールからの配信を最小限の機材で実現できるというメリットもある。
4K+ロスレスの視聴システムはブラウザで動作するLive Extreme(コルグ開発)を用いているので、特別なアプリをインストールする必要はない。一方のマルチアングル配信では、メイン画像のほかにアングルの異なる3つの画像アイコンが表示され、リアルタイムで好きなカメラを選ぶことができた。
ジークフリート牧歌のように複数の楽器で構成された曲は、曲の進行に合わせて好みの独奏楽器に切り替えるなど、一歩踏み込んだ楽しみを提供する。カメラの切り替えはスムーズで、もちろん映像と音声は完全に同期している。再生端末はパソコンのほか、タブレットやスマホが利用できるが、iPhoneはブラウザの制約で4K映像の再生はできない。
東京・春・音楽祭は3月19日に開幕し、4月23日までの期間中に約65公演が予定されているが、海外から招くアーティストの来日が困難な例もあり、一部の公演は現時点で中止が決まっている。それを除く大半の演奏会はすでに音楽祭のサイトで販売が始まっており、コンサート直前まで購入できる(料金は1,500円から2,500円)。なお、今回の配信はライヴ中継のみで、コンサート終了後のオンデマンド配信は行われないので、見逃さないように注意したい。
3月7日の演奏会は試聴イベントという位置付けのため、無観客で中継が行われたが、ホールを満たす濃密な響きとライヴならではの臨場感は特別な体験を提供してくれた。ホールに出かけて時間と空間を共有するのがベストだが、リアルタイムで体験する一回限りの緊張感と高揚感は実際の演奏会に迫るものがある。座席数の制約を超えて、多くの聴衆が演奏を共有できるのはライヴ配信ならではの価値といえるだろう。
座席数を最大50%に抑えながらも実際に観客を入れて公演を行うことに加え、会場に出かけなくても演奏を楽しめるように配信システムを導入し、全公演のストリーミング中継を行う。開幕に先駆けて3月7日に行われた無料ライヴ配信の現場を訪ねる機会があったのでご紹介しよう。
東京文化会館小ホールで行われた演奏会を、マルチアングル配信(ユーザーが手元でカメラの切り替えができる)と、4K+48kHz/24bitのロスレスで配信することが当日のテーマだ。収録を含めた配信システムはすべてIIJが構築し、チケット販売サイトや視聴用サイトも同社が提供する。音楽祭の各公演は有料配信となるが、この日のライヴ中継は無料で行われ、パソコンやスマホなどで自由に鑑賞することができた。
当日の演目は、「ジークフリート牧歌」「楽劇《トリスタンとイゾルデ》」第3幕より「イゾルデの愛の死(モシュコフスキ編)」、「ヴェーゼンドンク歌曲集」というワーグナープログラムで、室内オーケストラ、ピアノ、ピアノ伴奏のソプラノ独唱と編成も変化に富んでいる。
映像はフルHDカメラ4台と4Kカメラ1台で収録し、音声収録用のマイクの数も最小限に抑えていた。小ホールのステージと配信システムを設置した会議室の間は、映像・音声・コントロール信号など異なる信号を光ファイバーケーブル1本で伝送。
複数の機器間で自在に信号を双方向でやり取りできるIP伝送システムを用いているため、小ホールのステージ周辺だけでなく配信ルームの機材も収録規模を考えると異例なほどスリムで、設置や撤収の作業も軽減される。
個々のカメラのSDI出力をNDI(Network Device Interface)に変換した映像信号と、DANTE規格の音声信号をネットワークスイッチに接続するだけなので、ホールやバックヤードのケーブル配線はLANケーブルと光ファイバーケーブルが中心を占めていた。今回は同一会場内で上下2フロア間を約100mの光ファイバーでつないでいたが、IP伝送なので演奏会場と配信ルームが数キロ程度離れていても遅延なく伝送できるという。
7日の演奏会では正面の4Kカメラがステージ全景を中心に収録。複数のフルHDカメラは、配信ルームからリモート操作でスイッチングするメイン画像のほか、視聴者が任意に選べる3台のマルチアングル用カメラとしても利用していた。音楽祭の期間中は東京文化会館以外に上野の美術館など複数の会場で演奏会が行われるが、ネットワークを活用することで複数のホールからの配信を最小限の機材で実現できるというメリットもある。
4K+ロスレスの視聴システムはブラウザで動作するLive Extreme(コルグ開発)を用いているので、特別なアプリをインストールする必要はない。一方のマルチアングル配信では、メイン画像のほかにアングルの異なる3つの画像アイコンが表示され、リアルタイムで好きなカメラを選ぶことができた。
ジークフリート牧歌のように複数の楽器で構成された曲は、曲の進行に合わせて好みの独奏楽器に切り替えるなど、一歩踏み込んだ楽しみを提供する。カメラの切り替えはスムーズで、もちろん映像と音声は完全に同期している。再生端末はパソコンのほか、タブレットやスマホが利用できるが、iPhoneはブラウザの制約で4K映像の再生はできない。
東京・春・音楽祭は3月19日に開幕し、4月23日までの期間中に約65公演が予定されているが、海外から招くアーティストの来日が困難な例もあり、一部の公演は現時点で中止が決まっている。それを除く大半の演奏会はすでに音楽祭のサイトで販売が始まっており、コンサート直前まで購入できる(料金は1,500円から2,500円)。なお、今回の配信はライヴ中継のみで、コンサート終了後のオンデマンド配信は行われないので、見逃さないように注意したい。
3月7日の演奏会は試聴イベントという位置付けのため、無観客で中継が行われたが、ホールを満たす濃密な響きとライヴならではの臨場感は特別な体験を提供してくれた。ホールに出かけて時間と空間を共有するのがベストだが、リアルタイムで体験する一回限りの緊張感と高揚感は実際の演奏会に迫るものがある。座席数の制約を超えて、多くの聴衆が演奏を共有できるのはライヴ配信ならではの価値といえるだろう。
関連リンク
トピック