「東京・春・音楽祭2025」開幕。「ホールの響きも感じられる」室内楽公演をドルビーアトモスにて体験
3月14日(金)より開幕した「東京・春・音楽祭2025」。桜咲く春の上野を舞台にした国内最大級のクラシック音楽の祭典で、今年で21回目を迎える。4月20日まで約40日間にわたり、76の有料公演のほか、60以上の無料コンサートや各種イベントが上野エリアを中心に開催されている。
「東京・春・音楽祭」はコンサートのインターネット配信にも力を入れており、遠方の方やさまざまな事情でコンサート会場に足を運べない方に向けて、“ネット席”としてリアルタイムの配信を行っている(アーカイヴ配信は行わない)。
オンライン配信においても「音質」を重要視しており、今年はコルグが開発した“オーディオ・ファースト”な音楽配信システム「Live Extreme」を活用して配信が行われている。さらに、初の取り組みとしてオープニング公演となる「ベルリン・フィルのメンバーによる室内楽」が4K&ドルビーアトモスにて配信。その模様を、東京・春・音楽祭の技術面を大きくバックアップするIIJの試聴室にて体験することができた。

今回ドルビーアトモスで配信される公演は、上野の文化会館小ホールにて行われる、アレクサンダー・イヴィッチ(ヴァイオリン)、オラフ・マニンガー(チェロ)、オハッド・ベン=アリ(ピアノ)、ベルリン・フィルの主力メンバーによる演奏。いずれも、日本でも度々公演を行っている名手たちである。

IIJのリスニングルームでは、ジェネレックのアクティブスピーカー「8020A」が7.1.4ch構成で組み込まれおり、今回の配信はそのうちの5.1.4ch分を利用して再生される。

ネットワークデータの受信には、 NVIDIA(エヌビディア)のストリーミングプレーヤー「NVIDIA Shield TV」を使用している。NVIDIAといえば、GPUの世界的シェアを誇る企業として知られているが、実はこういったセットトップボックスも展開している(国内では未展開)。Live Extremeの開発を手掛けるコルグの大石氏は、各社のセットトップボックスを比較したうえで、動作の安定性も含めて“NVIDIA最強説”を唱えているそうで、今回の配信も、NVIDIAにインストールしたLive ExtremeアプリからHDMIケーブルでマランツのAVアンプ「AV8805」に入力されている。

ドルビーアトモスの配信となるため、通常のステレオ配信より若干バッファを多めに取り、リアルタイムから約3分遅れての配信になるという。スポーツ中継では3分の遅れは致命的だが、音楽配信では大きな問題にならない、むしろ音が途切れることのほうが問題という判断から、多少の余裕を持った配信となっている。
ドルビーアトモスの配信では、コンサートが始まる前の空気感、会場の雰囲気があまりにも生々しい。観客が咳払いをする音、会場内に急いで駆け込んでくる足音などがリアルで、自分自身が文化会館の小ホールにいるかのような錯覚に見舞われる。


拍手とともに3人の演者が登場。1曲目はベートーヴェンによる「仕立て屋カカドゥの主題による変奏曲とロンド」、とにかくアンサンブルの完成度が素晴らしい!多少の緊張感をはらみながらも、互いにアイコンタクトを図りながら、繰り広げる演奏はまさに絶品。オハッド・ベン=アリのしなやかなピアノタッチ、ヴァイオリニストのダイナミックな体の動きからは、身体全体で楽器と対峙する姿が伝わってくる。
音の臨場感もさすが素晴らしく、ピアノのペダルワークの動きや、芳醇な小ホールの残響、その消えゆくさま、そして次の音符へとつなぐテクニックの細やかさもよく見えてくる。目をつぶればチェロとヴァイオリンの完璧なユニゾン、それぞれの楽器の質感や倍音成分の豊かさまでもしっかり感じ取れる。

同席した麻倉怜士氏も「ドルビーアトモスでは、(小ホールの)箱の響きがしっかり録音できるというのが画期的です」と賛辞を送る。「小ホールは響きが優しくて、滞空時間も長く、密度が高いホールです。今回は3人という小さい編成の中で、それぞれの楽器の音像がしっかりしていることに加え、直接音と間接音の総和が非常に心地よいと感じました」とコメント。「ベルリン・フィルのメンバーは非常に上手いわけですが、その阿吽の呼吸を、臨場感豊かな映像と、ドルビーアトモスの豊かなアンビエンスによって音楽的な体積を広げていますね」と感動を振り返る。

「東京・春・音楽祭2025」は4月20日まで。ドルビーアトモスによる配信は今作品のみだが、今後の公演の多くは有料配信されており、チケット代も1000円から1500円と手頃な価格で、世界最高クラスのクラシック音楽を体験できる。ぜひ気になる公演をチェックしてほしい。
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