長期試用で分かった “Apple TV” 真の実力
MacでもiPodでも新製品は発表から即日販売開始というのが近年のAppleのスタイルだったが、このApple TVは新セグメント開拓を狙う製品ということもあってか、アナウンスから発売までに四半期ほど空いた。詳細が明らかでない部分が多々あったこともあり、「実際どうなの?」と疑問をいろいろと溜め込みながら発売を待っていた方も多いことだろう。筆者もその一人だ。
今回製品をじっくりと試用できたので、実際に試してみて気づいた点、そして気になっていた点の確認などを中心にお伝えさせていただく。
さて、まずは設置だが、LANや液晶テレビなどの環境条件さえ整っていれば特に苦労はない。テレビとの接続はHDMIとコンポーネントしか用意されていないが、コンポーネント/D端子変換ケーブルを使えばD端子しかないテレビとも接続可能なはずだ。
ハードウェアを眺めて気づくのは電源スイッチがないこと。コンセントがつないであれば常時電源オンだが、再生ボタン長押しでスタンバイモード(スリープ)に入れるので適時利用すればよい。
ちなみにリセットスイッチもないが、必要とあらばリモコンのキー操作(MENU+音量下げキーの長押し)でのリセットか電源ケーブルを抜いての再起動で対応できるとのことである。
日常の操作性やデザインのシンプルさとのトレードオフだが、一部の操作はこういったキーコマンド的な操作で補ってあるわけだ。しかしこのあたりはiPodと同様のことなので、違和感は覚えない。
なお、USB端子はメンテナンス用でユーザー利用は不能という点は各メディアで取り上げられている通り。後述のハードディスク容量の問題をUSBで解決することはできない。
接続後の初期設定だが、Apple TV側で必要なのは無線LANへの参加設定のみ。iTunesとApple TVとの同期設定はiTunes側で行う。
同期設定の画面インターフェースや設定内容はiTunesとiPodの同期設定とほぼ同じなので、ここでも迷うことはなかった。
●40GBでも共有機能をうまく使えば不足は感じない
さてしかし、同期という点ではApple TVのハードディスク容量が気にかかっている方も多いのではないだろうか。40GBというのはiPodの最大容量モデルの半分でしかない。
Appleとしては「ハードディスクに同期しきれない部分は共有ストリーミング再生でカバーできる」という考えのようだが、発想をさらに転換して、逆に共有の方をメインに考えるのもありだろう。共有再生を中心に利用して、パソコンがスリープや電源オフの状態でも再生したいコンテンツのみを同期させるというやり方だ。iPod的ではないが、ネットワークプレーヤーと考えれば不自然な使い方ではない。
実際そのやり方でしばらく使ってみたが、不便は感じなかった。Apple TV側から再生したポッドキャストがiTunes側でも即時に再生済みにされるといった連動は予想外のスムースで、むしろ期待以上の使い勝手だ。
インターフェースに関してはiPodをベースにしたものと考えてもらえればよい。シンプルさはそのままに、大画面テレビとの組み合わせを想定して演出が豪華になった印象だ。
特にアートワークは各所で活用されており、例えばアーティスト名やプレイリスト名にカーソルを合わせると、そこに含まれるアルバムのアートワークが画面左側に流れるように表示され続ける。単純に、再生中の曲のアートワークや情報が常にテレビ画面に表示されているというのも、再生中の曲をさっと確認できて便利だ。
また特にリビング利用を想像すると、BGMに合わせた映像情報がテレビに映し出されているというのはインテリア的にも美しいのではないだろうか。
●音楽再生機能をチェック
ただ音楽再生の操作中、違和感を覚えた点もいくつかあった。今後への期待を込めつつ挙げておこう。
まず、メインメニューの項目の並びが「ムービー」「テレビ番組」「ミュージック」「Podcast」という順番に変えられていること。iPodでは「ミュージック」がいちばん上だったのが「ビデオ」に取って代わられている。
iPod+iTunesユーザーにとって再生機会が最も多いのはやはり音楽ファイルだろう。にも関わらずメニュー位置が下げられたことで、再生開始までに必要な移動距離(操作量)が増えてしまっているのは残念だ。
iTunes Storeでの映画/テレビ番組販売が実現しているのがアメリカのみという段階では、ビデオを優先したメニュー構成は時期尚早に思える。メニューの並び替え設定さえ用意されれば解消する点だけに、ソフトウェア・アップデート(インターネット経由のソフトウェア・アップデート機能は用意されている)で改善されるとうれしい。
あとはApple TV側でマイレート(曲ごとに設定できる5段階評価のお気に入り度)を変更できないのも残念だった。iPodでは再生中の曲のマイレートを変更可能だし、iTunesとの同期時にはその設定がiTunesのライブラリにも反映されるが、iPodではマイレートの変更自体ができない。スマートプレイリストなどで活用される項目だけに対応を望みたい。
細かなところでは、iTunesの最新バージョンで追加された「アーティスト名で並び替え」などの並び替え情報には対応していないようだった。筆者は漢字表記アーティストの並び替え情報にふりがなを入力してiTunes上での並びを50音順にしているが、Apple TV上ではそれが反映されない。検索性に大きく影響するところなので、これも可能ならばアップデートで対応してほしいところだ。
●720pの映像配信が充実することを期待
映像系の方もチェックしてみよう。今回は解像度1366×768の26インチ液晶テレビに接続、Apple TVの出力設定は720pだ。
iTunes Storeで購入したピクサー短編アニメ(解像度640×360)やDVDレコーダーで録画した番組から作成したiPod用ビデオファイル(解像度640×480)は、大雑把にはDVDビデオに近い再生画質と言える。特に前者は余計な変換を挟んでいないので、良好と感じられる画質だ。
ただ、Apple TVからアクセスして再生できる劇場映画予告編を見てしまうと、前述のファイルの画質もかすんでしまう。劇場映画予告編はApple TVが対応する最高解像度である720pで配信されているからだ。ファイル容量なども考えると、720pはネット配信での現実的な最高クオリティになるのではないだろうか。今後このクオリティでの映画やテレビの販売が実現すれば…との期待が膨らむ。
まあビデオについては画質以前に再生するコンテンツの不足が痛いというのは、すでに方々で指摘されている通りだ。AppleはiPodについて「あくまでも音楽プレーヤーであってビデオ再生は付加価値」と位置付けているが、現時点でのApple TVも、思惑はどうあれ現実的には、それと同様に考えて購入を検討するべきだろう。
●意外と使えるスライドショー機能
ただ映像という括りの中では、スライドショー機能はさほど注目されていないが面白い。MacではiPhotoライブラリ、Windowsではフォルダ指定で同期した写真ファイルをスライドショーで見せてくれるのだが、そのスライドショーの美しさが見事。もちろんバックには音楽を流せるし、切り替えの特殊効果も流麗。家族の写真に小田和正氏の歌声を合せれば、保険加入を考えてしまうほどの説得力を持つスライドショーの出来上がりだ。
デジカメ写真の解像度はHDを凌駕しており、しかも著作権は撮影した当人にある。それを使ったスライドショーは現時点で最も身近でHDコンテンツかもしれない。ビデオコンテンツが不足していてもこのスライドショーのおかげで、大画面テレビの意味はそれなりに発揮されるだろう。
以上、細かな不満点も多々述べてしまったが、基本的な出来映えがしっかりしているために些細なところに不満を感じてしまうのだと理解してほしい。
正直に言えば今の段階では、Apple TVに限らず、こういったリビング製品(テレビと接続するデジタル・メディア・ボックスとでも言えばよいのか)自体がまだ助走段階にあると感じる。それは機能面よりも、映像コンテンツ供給の面でだ。だから、Apple TVが「買い」かどうかという以前に、この手の製品が「買い」かどうかということを考えねばならず、誰にでもおすすめできるわけではない。
しかし、現時点のこの手の製品の中ではどれがおすすめかと問われれば、迷わずにApple TVの名前を挙げる。製品単体での完成度は高い。音楽を中心に利用したいという方なら、いま使い始めても十分に満足できるだろう。
(高橋敦)
高橋敦 プロフィール
埼玉県浦和市(現さいたま市)出身。東洋大学哲学科中退後、パーソナルコンピュータ系の記事を中心にライターとしての活動を開始。現在はデジタルオーディオ及びビジュアル機器、Apple Macintosh、それらの周辺状況などに関する記事執筆を中心に活動する。また、ロック・ポップスを中心に、年代や国境を問わず様々な音楽を愛聴。その興味は演奏や録音の技術などにまで及び、オーディオ評に独自の視点を与えている。
今回製品をじっくりと試用できたので、実際に試してみて気づいた点、そして気になっていた点の確認などを中心にお伝えさせていただく。
さて、まずは設置だが、LANや液晶テレビなどの環境条件さえ整っていれば特に苦労はない。テレビとの接続はHDMIとコンポーネントしか用意されていないが、コンポーネント/D端子変換ケーブルを使えばD端子しかないテレビとも接続可能なはずだ。
ハードウェアを眺めて気づくのは電源スイッチがないこと。コンセントがつないであれば常時電源オンだが、再生ボタン長押しでスタンバイモード(スリープ)に入れるので適時利用すればよい。
ちなみにリセットスイッチもないが、必要とあらばリモコンのキー操作(MENU+音量下げキーの長押し)でのリセットか電源ケーブルを抜いての再起動で対応できるとのことである。
日常の操作性やデザインのシンプルさとのトレードオフだが、一部の操作はこういったキーコマンド的な操作で補ってあるわけだ。しかしこのあたりはiPodと同様のことなので、違和感は覚えない。
なお、USB端子はメンテナンス用でユーザー利用は不能という点は各メディアで取り上げられている通り。後述のハードディスク容量の問題をUSBで解決することはできない。
接続後の初期設定だが、Apple TV側で必要なのは無線LANへの参加設定のみ。iTunesとApple TVとの同期設定はiTunes側で行う。
同期設定の画面インターフェースや設定内容はiTunesとiPodの同期設定とほぼ同じなので、ここでも迷うことはなかった。
●40GBでも共有機能をうまく使えば不足は感じない
さてしかし、同期という点ではApple TVのハードディスク容量が気にかかっている方も多いのではないだろうか。40GBというのはiPodの最大容量モデルの半分でしかない。
Appleとしては「ハードディスクに同期しきれない部分は共有ストリーミング再生でカバーできる」という考えのようだが、発想をさらに転換して、逆に共有の方をメインに考えるのもありだろう。共有再生を中心に利用して、パソコンがスリープや電源オフの状態でも再生したいコンテンツのみを同期させるというやり方だ。iPod的ではないが、ネットワークプレーヤーと考えれば不自然な使い方ではない。
実際そのやり方でしばらく使ってみたが、不便は感じなかった。Apple TV側から再生したポッドキャストがiTunes側でも即時に再生済みにされるといった連動は予想外のスムースで、むしろ期待以上の使い勝手だ。
インターフェースに関してはiPodをベースにしたものと考えてもらえればよい。シンプルさはそのままに、大画面テレビとの組み合わせを想定して演出が豪華になった印象だ。
特にアートワークは各所で活用されており、例えばアーティスト名やプレイリスト名にカーソルを合わせると、そこに含まれるアルバムのアートワークが画面左側に流れるように表示され続ける。単純に、再生中の曲のアートワークや情報が常にテレビ画面に表示されているというのも、再生中の曲をさっと確認できて便利だ。
また特にリビング利用を想像すると、BGMに合わせた映像情報がテレビに映し出されているというのはインテリア的にも美しいのではないだろうか。
●音楽再生機能をチェック
ただ音楽再生の操作中、違和感を覚えた点もいくつかあった。今後への期待を込めつつ挙げておこう。
まず、メインメニューの項目の並びが「ムービー」「テレビ番組」「ミュージック」「Podcast」という順番に変えられていること。iPodでは「ミュージック」がいちばん上だったのが「ビデオ」に取って代わられている。
iPod+iTunesユーザーにとって再生機会が最も多いのはやはり音楽ファイルだろう。にも関わらずメニュー位置が下げられたことで、再生開始までに必要な移動距離(操作量)が増えてしまっているのは残念だ。
iTunes Storeでの映画/テレビ番組販売が実現しているのがアメリカのみという段階では、ビデオを優先したメニュー構成は時期尚早に思える。メニューの並び替え設定さえ用意されれば解消する点だけに、ソフトウェア・アップデート(インターネット経由のソフトウェア・アップデート機能は用意されている)で改善されるとうれしい。
あとはApple TV側でマイレート(曲ごとに設定できる5段階評価のお気に入り度)を変更できないのも残念だった。iPodでは再生中の曲のマイレートを変更可能だし、iTunesとの同期時にはその設定がiTunesのライブラリにも反映されるが、iPodではマイレートの変更自体ができない。スマートプレイリストなどで活用される項目だけに対応を望みたい。
細かなところでは、iTunesの最新バージョンで追加された「アーティスト名で並び替え」などの並び替え情報には対応していないようだった。筆者は漢字表記アーティストの並び替え情報にふりがなを入力してiTunes上での並びを50音順にしているが、Apple TV上ではそれが反映されない。検索性に大きく影響するところなので、これも可能ならばアップデートで対応してほしいところだ。
●720pの映像配信が充実することを期待
映像系の方もチェックしてみよう。今回は解像度1366×768の26インチ液晶テレビに接続、Apple TVの出力設定は720pだ。
iTunes Storeで購入したピクサー短編アニメ(解像度640×360)やDVDレコーダーで録画した番組から作成したiPod用ビデオファイル(解像度640×480)は、大雑把にはDVDビデオに近い再生画質と言える。特に前者は余計な変換を挟んでいないので、良好と感じられる画質だ。
ただ、Apple TVからアクセスして再生できる劇場映画予告編を見てしまうと、前述のファイルの画質もかすんでしまう。劇場映画予告編はApple TVが対応する最高解像度である720pで配信されているからだ。ファイル容量なども考えると、720pはネット配信での現実的な最高クオリティになるのではないだろうか。今後このクオリティでの映画やテレビの販売が実現すれば…との期待が膨らむ。
まあビデオについては画質以前に再生するコンテンツの不足が痛いというのは、すでに方々で指摘されている通りだ。AppleはiPodについて「あくまでも音楽プレーヤーであってビデオ再生は付加価値」と位置付けているが、現時点でのApple TVも、思惑はどうあれ現実的には、それと同様に考えて購入を検討するべきだろう。
●意外と使えるスライドショー機能
ただ映像という括りの中では、スライドショー機能はさほど注目されていないが面白い。MacではiPhotoライブラリ、Windowsではフォルダ指定で同期した写真ファイルをスライドショーで見せてくれるのだが、そのスライドショーの美しさが見事。もちろんバックには音楽を流せるし、切り替えの特殊効果も流麗。家族の写真に小田和正氏の歌声を合せれば、保険加入を考えてしまうほどの説得力を持つスライドショーの出来上がりだ。
デジカメ写真の解像度はHDを凌駕しており、しかも著作権は撮影した当人にある。それを使ったスライドショーは現時点で最も身近でHDコンテンツかもしれない。ビデオコンテンツが不足していてもこのスライドショーのおかげで、大画面テレビの意味はそれなりに発揮されるだろう。
以上、細かな不満点も多々述べてしまったが、基本的な出来映えがしっかりしているために些細なところに不満を感じてしまうのだと理解してほしい。
正直に言えば今の段階では、Apple TVに限らず、こういったリビング製品(テレビと接続するデジタル・メディア・ボックスとでも言えばよいのか)自体がまだ助走段階にあると感じる。それは機能面よりも、映像コンテンツ供給の面でだ。だから、Apple TVが「買い」かどうかという以前に、この手の製品が「買い」かどうかということを考えねばならず、誰にでもおすすめできるわけではない。
しかし、現時点のこの手の製品の中ではどれがおすすめかと問われれば、迷わずにApple TVの名前を挙げる。製品単体での完成度は高い。音楽を中心に利用したいという方なら、いま使い始めても十分に満足できるだろう。
(高橋敦)
高橋敦 プロフィール
埼玉県浦和市(現さいたま市)出身。東洋大学哲学科中退後、パーソナルコンピュータ系の記事を中心にライターとしての活動を開始。現在はデジタルオーディオ及びビジュアル機器、Apple Macintosh、それらの周辺状況などに関する記事執筆を中心に活動する。また、ロック・ポップスを中心に、年代や国境を問わず様々な音楽を愛聴。その興味は演奏や録音の技術などにまで及び、オーディオ評に独自の視点を与えている。