4製品が「VGP2007SUMMER」を受賞 − 大橋伸太郎が語るKEFスピーカー躍進の理由
■4製品が「ビジュアルグランプリ2007SUMMER」を受賞したKEF
ビジュアルグランプリSUMMER 2007の各部門受賞製品が決まった。スピーカーシステムの分野でKEFの躍進がめざましい。念のためにお伝えしておくと、ビジュアルグランプリは映像(と映像音響)のための製品だけでなく、映像のないピュアオーディオも審査の対象になる。
今回の選考で、KEFは「Model 203/2」(超高級タイプ/ペア50万円以上100万円未満)、「iQ9」(中級トールボーイタイプ/ペア10万円以上20万円未満)、「iQ3」(普及タイプ/ペア10万円未満)、「KHT 3005G System」(5.1chシステム提案型)の4製品で受賞した。海外メーカーでこれだけ多機種が高い評価を受けることは珍しく、スピーカーメーカーとしての充実ぶりがうかがえる。
KEFは1961年創立のイギリスの名門スピーカー専業メーカーで、その音には一貫した個性と主張が受け継がれている。それは、細部の表現を専らにした箱庭的な美学を追求するのでなく、ワイドレンジで雄大・骨太な音場を描き出すということだった。しかし、同社がブレイクスルーを果たし、以後の製品のIDとなった同軸システム・UniQドライバー搭載を期に、伝統的なスケール感はそのままに、正確な位相再現といっそうのワイド&フラットな特性が加わった。
■“オースティン"UniQドライバー搭載のModel 203/2
フラグシップであるリファレンスシリーズでは、そこに音場の緻密な遠近法とデリケートな細部の表現、繊細な陰影感が加味されている。KEFの新しい境地を味わわせてくれるリファレンスシリーズは、2006年秋から“オースティンリファレンスシリーズ"への代替が開始されたが、先陣を切って登場したのが「Model 203/2」である。より深く緻密な再現性に踏み込みつつあるKEFの“現在”を見事に表現し切ったスピーカーシステムである。審査委員の意見が一致しての至極順当な今回の受賞といえよう。
Model 203/2のプロフィールについて紹介しておこう。型番こそMk2であるが、完全な新製品である。最大の変更は、新開発の“オースティン"UniQドライバーを搭載し、前身203で独立したハイパートゥイーターが受け持っていた超高域再生を取り込んだことである。オースティンは300Hzから55kHzまで点音源で再生するUniQの進化形で、チタンドームとモーター部の形状を改善してハイパートゥイーターの一体化を果たした。トゥイーターはネオジウムマグネットを開孔し空気を逃がす構造で、音の抜けを良くしている。ウーファーはPPコーンの開き角を浅くし、UniQユニットと音の拡散角度、タイミングの一致を図っている。低域再生を受け持つダブルウーファー(16.5cm口径)は、203のスタガー駆動から独立したチャンバーとポートを持つダブル駆動に変わった。なお、リファレンスシリーズの他機種も順次Mk2化されていく予定で、203/2同様にオースティン"UniQドライバーが搭載されていると思われる。
Model203/2は高級スピーカーの例に洩れず、セッティングやケーブルの品位を鋭敏に反映する。アンネ・ゾフィー・ムターのモーツアルト・バイオリンソナタ全集では、独奏バイオリンとピアノの音源の位置と微妙な高低差、ピアノの右手・左手の動きまでを見事に描き分けて圧巻。『トラヴィアータ/アンナ・ネトレプコ』は、肉声の質感とエネルギーの再現に優れ、歌手の胸腔と腹腔の使い方、喉の開く様子、ソプラノ歌手の肉体が波打つ様子が豊かな実在感として伝わってくる。アストル・ピアソラ・キンテートの「スール/蘇る愛」は、フェルナンド・スアレズ・パスのカンタービレを効かせ慟哭するバイオリンが悲嘆の引力に吸い寄せられるように重心が下がり、ボーイングが眼に見えるよう。
Model203/2はペアで¥968.100という価格である。かなりの高級価格帯であるが、モニターオーディオのGS60(ペア\682,500)、パイオニアS-1EX(ペア¥1,050,000)という強豪が待つ激戦区でもある。解像感、スピード感に定評あるGS60の華麗でシャープな美学、緻密でクールな反面、豪快なハンドリングの誘惑を禁じえないS-1EXに比較すればやや地味なスピーカーであるが、スピーカーシステムとしての奥行き、音楽への密着の度合いは他を凌いでいる。これは他の二社にも共通することだが、本機はドライバー自社開発をはじめ、技術要素を長期的に追求したスピーカーサイエンスから生まれた製品である。フラグシップは一朝一夕に生まれるものではないことをModel203/2は教えてくれる。
■同社の代表的なライン“iQシリーズ”も2製品が受賞した
中級トールボーイタイプ/ペア10万円以上20万円未満では「iQ9」が、普及タイプ/ペア10万円未満で「iQ3」が受賞した。海外製スピーカーのもう一つの魅力は、音楽を生き生きと楽しく聴かせることと個性的なデザイン、存在感だろう。チタンコーディングの新開発第7世代UniQドライバーを採用したKEFの代表的ラインであるiQシリーズは、海外製品のエッセンスを存分に味わわせてくれる。
シリーズ中のベストセラーでコンパクトなiQ3は2ウェイ1スピーカーのブックシェルフで、UniQの特徴が最も発揮される。水平方向に安定感のある音場が広がり、伸びやかで歪みがない。映像と組み合わせると水平方向の広がり、定位のよさ、スケール感という特徴がワイド映像とぴたり一致し、これだけ小さいモデルにも関わらず高低の表現も優れている。89dBと能率が高いのでAVアンプで使用しても負担が少なく、S/Nのよい音が取り出しやすい。3ウェイバスレフ型のフロアスタンディング型iQ9については、KEFの持ち味であるスケール感と晴れやかで明朗な音楽が楽しめる。
■新開発のUniQドライバーを搭載した「KHT 3005G System」
5.1chシステム提案型では「KHT 3005G System」が受賞した。UniQをコンパクトなサテライト形状のエンクロージャーに埋め込んだ傑作KHT2005の発展系で、UniQドライバー自体が新開発された。センタースピーカーのみ、サテライトと同じUniQに2本のウーファーを加えた3ウェイシステムとなっている。これにハイパフォーマンスなパワードサブウーファーが加わったホームシアターシステムである。UniQのパフォーマンスがある意味、iQシリーズ以上に発揮され、映像音響のサラウンドをどんな環境でも音の飽和なく、つながりよく明快に表現する優れたシステムである。
リファレンスグレードから、音楽愛好者のための堅実なスピーカー、そして空間設置性能に優れたシアターシステムまで隙のない陣容のKEF。しかも、KEF JAPANの方針により、本国に準じた価格でこれら優れたスピーカーシステムを手にすることができる。今回の広範囲、多品種の受賞はこうした現在のKEFの力強い充実振りを雄弁に語るものである。
(大橋伸太郎)
大橋伸太郎 プロフィール
1956 年神奈川県鎌倉市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。フジサンケイグループにて、美術書、児童書を企画編集後、(株)音元出版に入社、1990年『AV REVIEW』編集長、1998年には日本初にして現在も唯一の定期刊行ホームシアター専門誌『ホームシアターファイル』を刊行した。ホームシアターのオーソリティとして講演多数2006年に評論家に転身。趣味はウィーン、ミラノなど海外都市訪問をふくむコンサート鑑賞、アスレチックジム、ボルドーワイン。
ビジュアルグランプリSUMMER 2007の各部門受賞製品が決まった。スピーカーシステムの分野でKEFの躍進がめざましい。念のためにお伝えしておくと、ビジュアルグランプリは映像(と映像音響)のための製品だけでなく、映像のないピュアオーディオも審査の対象になる。
今回の選考で、KEFは「Model 203/2」(超高級タイプ/ペア50万円以上100万円未満)、「iQ9」(中級トールボーイタイプ/ペア10万円以上20万円未満)、「iQ3」(普及タイプ/ペア10万円未満)、「KHT 3005G System」(5.1chシステム提案型)の4製品で受賞した。海外メーカーでこれだけ多機種が高い評価を受けることは珍しく、スピーカーメーカーとしての充実ぶりがうかがえる。
KEFは1961年創立のイギリスの名門スピーカー専業メーカーで、その音には一貫した個性と主張が受け継がれている。それは、細部の表現を専らにした箱庭的な美学を追求するのでなく、ワイドレンジで雄大・骨太な音場を描き出すということだった。しかし、同社がブレイクスルーを果たし、以後の製品のIDとなった同軸システム・UniQドライバー搭載を期に、伝統的なスケール感はそのままに、正確な位相再現といっそうのワイド&フラットな特性が加わった。
■“オースティン"UniQドライバー搭載のModel 203/2
フラグシップであるリファレンスシリーズでは、そこに音場の緻密な遠近法とデリケートな細部の表現、繊細な陰影感が加味されている。KEFの新しい境地を味わわせてくれるリファレンスシリーズは、2006年秋から“オースティンリファレンスシリーズ"への代替が開始されたが、先陣を切って登場したのが「Model 203/2」である。より深く緻密な再現性に踏み込みつつあるKEFの“現在”を見事に表現し切ったスピーカーシステムである。審査委員の意見が一致しての至極順当な今回の受賞といえよう。
Model 203/2のプロフィールについて紹介しておこう。型番こそMk2であるが、完全な新製品である。最大の変更は、新開発の“オースティン"UniQドライバーを搭載し、前身203で独立したハイパートゥイーターが受け持っていた超高域再生を取り込んだことである。オースティンは300Hzから55kHzまで点音源で再生するUniQの進化形で、チタンドームとモーター部の形状を改善してハイパートゥイーターの一体化を果たした。トゥイーターはネオジウムマグネットを開孔し空気を逃がす構造で、音の抜けを良くしている。ウーファーはPPコーンの開き角を浅くし、UniQユニットと音の拡散角度、タイミングの一致を図っている。低域再生を受け持つダブルウーファー(16.5cm口径)は、203のスタガー駆動から独立したチャンバーとポートを持つダブル駆動に変わった。なお、リファレンスシリーズの他機種も順次Mk2化されていく予定で、203/2同様にオースティン"UniQドライバーが搭載されていると思われる。
Model203/2は高級スピーカーの例に洩れず、セッティングやケーブルの品位を鋭敏に反映する。アンネ・ゾフィー・ムターのモーツアルト・バイオリンソナタ全集では、独奏バイオリンとピアノの音源の位置と微妙な高低差、ピアノの右手・左手の動きまでを見事に描き分けて圧巻。『トラヴィアータ/アンナ・ネトレプコ』は、肉声の質感とエネルギーの再現に優れ、歌手の胸腔と腹腔の使い方、喉の開く様子、ソプラノ歌手の肉体が波打つ様子が豊かな実在感として伝わってくる。アストル・ピアソラ・キンテートの「スール/蘇る愛」は、フェルナンド・スアレズ・パスのカンタービレを効かせ慟哭するバイオリンが悲嘆の引力に吸い寄せられるように重心が下がり、ボーイングが眼に見えるよう。
Model203/2はペアで¥968.100という価格である。かなりの高級価格帯であるが、モニターオーディオのGS60(ペア\682,500)、パイオニアS-1EX(ペア¥1,050,000)という強豪が待つ激戦区でもある。解像感、スピード感に定評あるGS60の華麗でシャープな美学、緻密でクールな反面、豪快なハンドリングの誘惑を禁じえないS-1EXに比較すればやや地味なスピーカーであるが、スピーカーシステムとしての奥行き、音楽への密着の度合いは他を凌いでいる。これは他の二社にも共通することだが、本機はドライバー自社開発をはじめ、技術要素を長期的に追求したスピーカーサイエンスから生まれた製品である。フラグシップは一朝一夕に生まれるものではないことをModel203/2は教えてくれる。
■同社の代表的なライン“iQシリーズ”も2製品が受賞した
中級トールボーイタイプ/ペア10万円以上20万円未満では「iQ9」が、普及タイプ/ペア10万円未満で「iQ3」が受賞した。海外製スピーカーのもう一つの魅力は、音楽を生き生きと楽しく聴かせることと個性的なデザイン、存在感だろう。チタンコーディングの新開発第7世代UniQドライバーを採用したKEFの代表的ラインであるiQシリーズは、海外製品のエッセンスを存分に味わわせてくれる。
シリーズ中のベストセラーでコンパクトなiQ3は2ウェイ1スピーカーのブックシェルフで、UniQの特徴が最も発揮される。水平方向に安定感のある音場が広がり、伸びやかで歪みがない。映像と組み合わせると水平方向の広がり、定位のよさ、スケール感という特徴がワイド映像とぴたり一致し、これだけ小さいモデルにも関わらず高低の表現も優れている。89dBと能率が高いのでAVアンプで使用しても負担が少なく、S/Nのよい音が取り出しやすい。3ウェイバスレフ型のフロアスタンディング型iQ9については、KEFの持ち味であるスケール感と晴れやかで明朗な音楽が楽しめる。
■新開発のUniQドライバーを搭載した「KHT 3005G System」
5.1chシステム提案型では「KHT 3005G System」が受賞した。UniQをコンパクトなサテライト形状のエンクロージャーに埋め込んだ傑作KHT2005の発展系で、UniQドライバー自体が新開発された。センタースピーカーのみ、サテライトと同じUniQに2本のウーファーを加えた3ウェイシステムとなっている。これにハイパフォーマンスなパワードサブウーファーが加わったホームシアターシステムである。UniQのパフォーマンスがある意味、iQシリーズ以上に発揮され、映像音響のサラウンドをどんな環境でも音の飽和なく、つながりよく明快に表現する優れたシステムである。
リファレンスグレードから、音楽愛好者のための堅実なスピーカー、そして空間設置性能に優れたシアターシステムまで隙のない陣容のKEF。しかも、KEF JAPANの方針により、本国に準じた価格でこれら優れたスピーカーシステムを手にすることができる。今回の広範囲、多品種の受賞はこうした現在のKEFの力強い充実振りを雄弁に語るものである。
(大橋伸太郎)
大橋伸太郎 プロフィール
1956 年神奈川県鎌倉市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。フジサンケイグループにて、美術書、児童書を企画編集後、(株)音元出版に入社、1990年『AV REVIEW』編集長、1998年には日本初にして現在も唯一の定期刊行ホームシアター専門誌『ホームシアターファイル』を刊行した。ホームシアターのオーソリティとして講演多数2006年に評論家に転身。趣味はウィーン、ミラノなど海外都市訪問をふくむコンサート鑑賞、アスレチックジム、ボルドーワイン。