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話題のソフトを“Wooo”で観る − 第11回「硫黄島」2部作 (BD/HD DVD)

公開日 2007/10/04 15:56
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この連載「話題のソフトを“Wooo”で観る」では、AV評論家・大橋伸太郎氏が旬のソフトの見どころや内容をご紹介するとともに、“Wooo”薄型テレビで視聴した際の映像調整のコツなどについてもお伝えします。

第二次世界大戦を主題に、戦勝国、敗戦国の両方で数多くの映画が作られてきたが、戦争の意味づけを成しえた作品はない。第二次世界大戦を最も多く描いたのはアメリカ映画だが、すべてはアメリカ史として描いたのであり、世界史の視点に踏み込んではいない。

ベトナム、湾岸、アフガン、イラク戦争と20世紀後半に起きた大きな戦争の当事者であるアメリカにとって、若者たちが「なぜ、戦うのか」を問うことは、自国の民衆史において避けられないテーマである。戦争を描いた近年のハリウッド映画のほとんどでこの問いかけが核になっている。

しかし、民衆史を真摯に描こうと言うのなら、同時代の合わせ鏡が必要だ。自国の事情ばかりを語り、一国の群像を描写することにとどまっていたら、一つの時代におけるその国の有様さえ本当には描けないかもしれないではないか。

一対をなす二部作として製作・公開されたクリント・イーストウッド監督作品『硫黄島からの手紙』、『父親たちの星条旗』は、硫黄島玉砕とその後日談を米日双方の兵士の目で描き、第二次世界大戦という巨大な事件を米日若者群像による民衆史として切り取った稀有な作品である。

『硫黄島からの手紙』BD/HD DVD版いずれも¥3,980(税込)BD版:WBBAY11288 HD DVD版:WBHAY17443

『父親たちの星条旗』BD/HD DVD版いずれも¥3,980(税込)BD版:WBBAY14089 HD DVD版:WBHAY14088

同時期に『バンド・オブ・ブラザーズ』が、ハイビジョンディスク化されている。スピルバーグ製作による、ノルマンディー上陸作戦から終戦まで、アメリカ第101空挺師団の一中隊が欧州戦線を転戦していく模様を描く、実話を元にした長編TVシリーズである。ここでも「なぜ、戦うのか」が主題だが、全篇のクライマックスが第9話の強制収容所を発見し解放するエピソードで、それがいわば、アメリカが戦争に参加し多くの若者たちの血を流した「大義」となっている。しかし、それでは先の問いかけの答えにはならない。『バンド・オブ・ブラザーズ』は「敵」を描くに至っていない。このシリーズを完成した後、製作者であるスピルバーグの中に、合わせ鏡のような構造で戦争を描く作品が次なる課題として浮かび上がったのでないか。イーストウッドを監督に起用した「硫黄島二部作」が、5年後に完成する。

クリント・イーストウッドはいうまでもなく、アメリカ史の中の声なき声を描いてきた映画作家である。『許されざる者』では西部劇の英雄神話を解体し民衆史に引き戻し、西部劇スターからキャリアを始めた自分自身の映画人生の落とし前を付けた。彼がこの企画を引き受けたのも(もちろんスピルバーグの動機も)、今ならば「生き証人」が存命だからであろう。第二次世界大戦の映画はこれから先も繰り返し作られるだろうが、それを体験し目撃した者たちは遠からず姿を消す。

『硫黄島からの手紙』、『父親たちの星条旗』は、筆者が日本人であることを差し引いても、日本軍が玉砕に至る過程を克明に描き出した『硫黄島…』が、映画としての緊密度ではるかに勝っている。しかし、イーストウッドにとっての「本命」は『父親たちの…』の方だったろう。第二次世界大戦という断面から描き出したアメリカの声なき声〜民衆の光景がそこにあるからである。

『父親たちの…』は「生者」と「死者」、硫黄島の擂鉢山山頂に星条旗を立てた兵隊たちを待っていたその後の思いもよらぬ人生を描くが、筆者が感銘したのは、ネイティブインディアンの二等兵を描いたエピソードである。各地で開かれる歓迎パーティの席上、死んだ戦友の母を慟哭しながら抱擁したことで軍から睨まれ、酒に溺れてみるみる流浪者に身を持ち崩していく。ネイティブアメリカンの彼には他の帰還兵と違い、戦闘の悪夢を拭う場所、つまり帰るべき家族も故郷もなかった。やはりアメリカの民衆の一断面を描き出したトルーマン・カポーティのノンフィクション『冷血』の主人公を、筆者はこのエピソードから思い出した。

●戦場の凄惨さを躊躇無く映像化

今回のテーマとなる映画は『硫黄島からの手紙』であるから、この映画にしぼって話をしよう。劇場で最初に見た時に思ったのは、日本の歴史上の事件を、日本映画はとてもここまで迫真性をもって描き切れないということだ。日本が戦後60余年、平和ボケしているのに対して、アメリカは第二次世界大戦後ずっと、つい最近までも「戦時」の連続だった。戦場の凄惨を直視し映像化するのに、躊躇(タブーといってもいい)がないのである。

二つの映画が進行上切り結ぶ点の一つは、CH16の「自決」の件りで、全体主義体制下の愚昧な日本軍を描くイーストウッドの視線は過酷で、見ていてやりきれない。しかし、戦争全体の中での「死」の意味(無意味)を描く上で必要であり、『父親たち…』の主題にも関わっていく。

もう一つ、両作が切り結ぶ点は米軍の衛生兵の存在で、「生者」と「死者」という『父親たち…』の主題のモチーフをもう一作の方から照らし出す。「衛生兵」の自分を砲火にさらしての活躍がヒューマニズムと生者の砦で、これに死の強要である「自決」を対峙させているのである。そう、二部作はアメリカ国籍の映画であることに変わりはないのである。

『硫黄島からの手紙』は、将校から二等兵まで、兵士が戦地から家族に宛てた手紙と言う着想を下に、複数エピソードや回想を織り込んで構成されるが、中心は戦場の叙事映像で、歴史上のある局地戦の開始から終結までを描く。こうした映画に迫真性と正しい意味での臨場感を与え見る者を引き込むには、怒りや悲しみの情念を沈潜させ表に出さず、クールで抑制された語り口に徹することが鉄則である。イーストウッドはこの点で完璧である。筆者が『ラストサムライ』や『SAYURI』で、その演技に共感できなかった渡辺謙が、なんと軍人らしく立派なこと! 監督次第でここまで変わるものかと畏れ入ってしまった。

Blu-ray DiscとHD DVDの両方式で発売された『硫黄島からの手紙』は、解像感と色彩、階調など、情報量を制限したドキュメンタルな映像のタッチを克明に伝え、大変に見応えがある。トンネル内で手榴弾を使って自爆するシーンは正直言って正視し辛いが、家庭で感想を話し合うのも有意義だろう(しかし、ゆめゆめ小さい子供には見せてはいけない)。


日立「P50-XR01」
日立のプラズマテレビ「P50-XR01」は、優れた画質のフルハイビジョンで、イーストウッドや製作のスピルバーグが慎重に決定した(だろう)本作の映像の基調や風合いに、何も足さず、何も引かない。だから、家庭でハイビジョンディスクになった本作を見て、劇場で見たときの恐怖、荘厳さ、哀切、感動が大きく静かに甦ってきた。戦争を叙事的に描くのにはクールで抑制された語り口が必要、と先に書いたが、優れた一篇の戦争映画を再生するディスプレイにも、同様に一定の資質が求められる。それを現時点で最も備えているディスプレイの一つがP50-XR01である。

●兵士たちの生命の色を再現できるかがポイント

『硫黄島からの手紙』は大半の色を整理し、戦場の場面では硫黄島の不毛の大地を象徴的にモノクロームに近いところまで殺しているが、唯一残した色は赤で、兵士の血や、炎、うっすらとした人肌の生命感をこの赤で描く。硫黄島と言う人間世界の地獄の殺伐とした不毛の無彩色の中で、微かにしかし奥深く燃焼し続ける兵士たちの生命の色を的確に描写することが、ハイビジョンディスク『硫黄島からの手紙』を家庭で見る最大のポイントである。

日立のフルハイビジョンテレビP50-XR01は、フルハイビジョンALISパネルの持ち味である輝度の余裕を活かし、基本的にモノクロームベースの階調の骨格がしっかりしており、ガッシリとした非常に格調豊かな映像だ。本作のように色調を整理した映像は色の厚塗りによるごまかしが効かないので、中間階調の充実が普通のトーンの映画より問われるが、P50-XR01の映像は深くなめらかで、トンネル内の兵士たち、さらに終盤の夜間の戦闘シーンに移ってからは、まるで優れたフォトジャーナリストのオリジナルプリントの連続を見るようだ。

結論から言うと劇場公開時の記憶からも、調整で明るさをあまり抑えず、色は標準よりかなり下げたほうがいい。筆者は下記の調整で、『硫黄島からの手紙』のドキュメンタルな前半、戦場写真のような後半を通じて、時に生命を映して明るみ、時にいまにも消え入りそうになる人肌に込められた希望のメッセージを、プラズマテレビの画面に点した。

【今回の設定値】
映像モード シネマティック
明るさ −2
黒レベル +2
色の濃さ −9
色合い +3
画質 −8
色温度 低
ディテール 切
コントラスト リニア
黒補正 切
LTI 弱
CTI 切
YNR 切
CNR 切
MPEG NR 切
映像クリエーション なめらかシネマ
デジタルY/C 入
色再現 リアル

(大橋伸太郎)

大橋伸太郎 プロフィール

1956 年神奈川県鎌倉市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。フジサンケイグループにて、美術書、児童書を企画編集後、(株)音元出版に入社、1990年『AV REVIEW』編集長、1998年には日本初にして現在も唯一の定期刊行ホームシアター専門誌『ホームシアターファイル』を刊行した。ホームシアターのオーソリティとして講演多数2006年に評論家に転身。趣味はウィーン、ミラノなど海外都市訪問をふくむコンサート鑑賞、アスレチックジム、ボルドーワイン。

バックナンバー
第1回『ナルニア国物語/第1章:ライオンと魔女』
第2回『アンダーワールド2 エボリューション』
第3回『ダ・ヴィンチ・コード』
第4回『イノセンス』 (Blu-ray Disc)
第5回『X-MEN:ファイナル デシジョン』 (Blu-ray Disc)
第6回『16ブロック』 (Blu-ray Disc)
第7回『イルマーレ』 (Blu-ray Disc)
第8回『スーパーマン』シリーズ (Blu-ray Disc)
第9回『パイレーツ・オブ・カリビアン』 (Blu-ray Disc)
第10回『ドリームガールズ』 (BD/HD DVD)

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