山之内正のIFA2009レポート
LEDバックライト採用テレビが拡大の動き/3Dも目覚ましいトピック
4日にベルリンで開幕したIFAが6日間の会期を終え、9日に幕を閉じた。正式な来場者数はまだ発表されていないが、会場の様子から判断する限り、ほぼ昨年並みの数字をキープしたのではないだろうか。その人気を支えたのが、デジタル家電の豊富な製品群である。
注目のデジタル家電分野は今年もやはりテレビが主役で、会場のなかでも圧倒的な存在感を示していた。特にサムスンやLGは展示規模の大きさを誇示するかのように立体的でスケールの大きい展示を競い、その規模は年々エスカレートするばかり。IFAの会場自体が広いこともあるのだろうが、そうした派手な演出は一般来場者に対して強いインパクトを与える。ここまでスケールの大きい展示は他の展示会ではなかなか難しいのではないだろうか。IFAでは従来はフィリップスなど欧州の主要メーカーや日本メーカーがそうした演出の牽引役を担ってきたのだが、いまや韓国メーカーがリードしている印象が強い。
テレビの技術面では製品に直結するものと、近い将来に実現する技術の2つに焦点が分かれていた。液晶はLEDバックライトと高速駆動が焦点、プラズマは特に技術面で新しい動きはないが、それを補って余りある注目を集めたのが3Dである。
3Dを展示したメーカーについては、会場をじっくり歩き回って実際に視聴したが、効果の大小や画質の優劣を具体的に論じる段階ではなく、家庭用AV機器としての可能性はいまだ未知数というのが正直な感想だ。3D映像で映像を楽しみ、画質を評価するというのはまだ先の話で、どんなソースでどんな可能性が開けるのか、模索している段階と見ていいだろう。
CESのときと同様に多くの来場者を集めるトピックであることは間違いないが、来場者の反応も「話題の3Dを見ておこう」という程度のものにとどまっていた。もともと欧州の消費者はハイビジョンを含む新しい映像技術の導入にはたっぷり時間をかける傾向があるから、仮に2010年に3D対応テレビや3D対応BDプレーヤーが発売されたとしても、数年間は様子見が続くと見て間違いない。「2009年のIFAは3Dが話題の中心」という見方は正しいと思うが、まずは規格の標準化を進めるのが先決だろう。また、規格化については早期に行うことが望ましいが、製品投入については、ソフトも含め、早さよりも完成度を重視することが肝心だ。
各社が3Dのデモに使用したソースの選択はなかなか興味深いものがあった。特にCGで3Dの効果が大きいことは誰もが認めるところだろう。ソニーブースの3Dコーナーでゲームが好評だったのは当然のことといっていい。ソニーの場合、CESで見た画像に比べても進化が認められ、全体に動きがなめらかになっている。応答時間にハンディがある液晶でもなめらかな3D映像を表示できる可能性を示したことは、今回の大きな成果といえる。
パナソニックがプロモーションに利用している「アバター」の映像は、ごく短いトレーラーではあったが、違和感の少ない自然な立体感があり、本編の公開に期待が高まる。やや暗めではあるがプラズマテレビと3D映像の相性の良さを実証したといっていい。同様なデモンストレーションはCEATECでも公開されるはずなので、大いに楽しみだ。
一方、屋外で撮影した映像のなかでは水中の映像が立体感に富み、3Dのメリットを引き出しやすい素材であることがよくわかる。ビクターがD-ILAプロジェクターのスタック設置で上映した水中シーンのほか、ソニーが液晶テレビで公開した映像も完成度が高く、立体感、奥行き感はさすがに3Dならではと感心した。
自然の風景をはじめとして実写で3D効果を引き出すのは比較的難しいともいわれるが、やはり十分な準備を経て撮影された映像には説得力がある。パナソニックが今回見せた映像のなかでは、アルペン競技のリアリティと臨場感が突出しており、強い印象を与えたし、ステージのライブ映像も3Dのメリットを実感しやすい素材といえそうだ。
一方、会場で見ていると3Dに関連する課題もいろいろ浮かび上がってくる。メガネを着用する煩わしさはともかくとして、それ以外にも気になる点があった。例えば、シャッター式メガネを使用する方式の場合、角度などなんらかの理由で一瞬でも同期が外れると、ずれのある二重映像が見えてしまうことがあり、かなり気になった。また、被写体の動きによって立体効果が変化したり、期待したほどの立体感が得られないケースもあり、3D映像製作の難しさをうかがうことができる。
ディスプレイに関しては話題が3Dに集中しがちだが、IFAでは画質面での着実な進化も見出すことができた。
液晶はLEDバックライトの採用例が一気に拡大し、もはや特別な存在ではないという印象を強くした。前回のIFAやCESではまだ少数派だったが、いまや液晶テレビを展示するメーカーの多くがLEDのメリットを前面に打ち出し、高級機では部分駆動の長所をアピールした。
シャープはLED照明と併せてLEDのメリットを強く印象付けた。今回は部分駆動なしの白色LEDを採用することによって高コントラストと低消費電力をアピールしたが、この構成は今後、LED TVのメインストリームになるのではないだろうか。ブースで公開されたデモ映像はコントラスト感を強調した内容ではあったが、LEDバックライトの優位性を訴えるにはふさわしいものだった。
そのほか、東芝がエリア駆動を導入したLED TVを出展したが、今回はCELL TVの展示は見送られた。今秋のCEATEC以降の動きに注目したい。
テレビのデザインや機能面では日本市場と欧州市場の違いが今回も浮き彫りになった。スリムな本体を志向する動きと、設置スタイルのバリエーションの広さは欧州の方がかなり先行している一方、HDD内蔵やHDMIリンク機能がそれほど注目されていないのは、録画機能に対する注目度が低い欧州地域ならではの特徴である。薄型モデルでは32型液晶テレビを鏡に組み込んだビクターの展示が目を引き、壁掛け需要の加速を期待させた。欧州ではテレビの設置スタイルが多様で、デザイン志向が強いことが特徴だ。日本で人気のあるラックシアターはドイツではあまり関心を集めることはないが、壁掛け設置や静止画を表示するピクチャー仕様には根強い人気があり、今年は昨年以上に多くの展示が見られた。
欧州では放送のHD化がなかなか進んでいないが、ハイビジョンテレビは急速に普及しているため、パッケージソフトとしてBDが伸びる可能性を秘めている。まだ北米の規模にはほど遠いものの、特にドイツでは他の地域よりも一段階高い普及率を見せていることが、今回、BD協議会(BDA)のコンファレンスで明らかにされた。記録的な失業率の高さなど欧州の市場動向を危惧させる要素はたくさん残っているものの、着実な市場拡大が期待できるというのが、BDAの観測なのだ。市場規模や伸び率など、コンファレンスで発表された数値は楽観的すぎるような気がしないでもないが、超低価格BDプレーヤーが普及を加速する可能性はあり、それはある程度日本市場にも当てはまる予測といえる。
注目のデジタル家電分野は今年もやはりテレビが主役で、会場のなかでも圧倒的な存在感を示していた。特にサムスンやLGは展示規模の大きさを誇示するかのように立体的でスケールの大きい展示を競い、その規模は年々エスカレートするばかり。IFAの会場自体が広いこともあるのだろうが、そうした派手な演出は一般来場者に対して強いインパクトを与える。ここまでスケールの大きい展示は他の展示会ではなかなか難しいのではないだろうか。IFAでは従来はフィリップスなど欧州の主要メーカーや日本メーカーがそうした演出の牽引役を担ってきたのだが、いまや韓国メーカーがリードしている印象が強い。
テレビの技術面では製品に直結するものと、近い将来に実現する技術の2つに焦点が分かれていた。液晶はLEDバックライトと高速駆動が焦点、プラズマは特に技術面で新しい動きはないが、それを補って余りある注目を集めたのが3Dである。
3Dを展示したメーカーについては、会場をじっくり歩き回って実際に視聴したが、効果の大小や画質の優劣を具体的に論じる段階ではなく、家庭用AV機器としての可能性はいまだ未知数というのが正直な感想だ。3D映像で映像を楽しみ、画質を評価するというのはまだ先の話で、どんなソースでどんな可能性が開けるのか、模索している段階と見ていいだろう。
CESのときと同様に多くの来場者を集めるトピックであることは間違いないが、来場者の反応も「話題の3Dを見ておこう」という程度のものにとどまっていた。もともと欧州の消費者はハイビジョンを含む新しい映像技術の導入にはたっぷり時間をかける傾向があるから、仮に2010年に3D対応テレビや3D対応BDプレーヤーが発売されたとしても、数年間は様子見が続くと見て間違いない。「2009年のIFAは3Dが話題の中心」という見方は正しいと思うが、まずは規格の標準化を進めるのが先決だろう。また、規格化については早期に行うことが望ましいが、製品投入については、ソフトも含め、早さよりも完成度を重視することが肝心だ。
各社が3Dのデモに使用したソースの選択はなかなか興味深いものがあった。特にCGで3Dの効果が大きいことは誰もが認めるところだろう。ソニーブースの3Dコーナーでゲームが好評だったのは当然のことといっていい。ソニーの場合、CESで見た画像に比べても進化が認められ、全体に動きがなめらかになっている。応答時間にハンディがある液晶でもなめらかな3D映像を表示できる可能性を示したことは、今回の大きな成果といえる。
パナソニックがプロモーションに利用している「アバター」の映像は、ごく短いトレーラーではあったが、違和感の少ない自然な立体感があり、本編の公開に期待が高まる。やや暗めではあるがプラズマテレビと3D映像の相性の良さを実証したといっていい。同様なデモンストレーションはCEATECでも公開されるはずなので、大いに楽しみだ。
一方、屋外で撮影した映像のなかでは水中の映像が立体感に富み、3Dのメリットを引き出しやすい素材であることがよくわかる。ビクターがD-ILAプロジェクターのスタック設置で上映した水中シーンのほか、ソニーが液晶テレビで公開した映像も完成度が高く、立体感、奥行き感はさすがに3Dならではと感心した。
自然の風景をはじめとして実写で3D効果を引き出すのは比較的難しいともいわれるが、やはり十分な準備を経て撮影された映像には説得力がある。パナソニックが今回見せた映像のなかでは、アルペン競技のリアリティと臨場感が突出しており、強い印象を与えたし、ステージのライブ映像も3Dのメリットを実感しやすい素材といえそうだ。
一方、会場で見ていると3Dに関連する課題もいろいろ浮かび上がってくる。メガネを着用する煩わしさはともかくとして、それ以外にも気になる点があった。例えば、シャッター式メガネを使用する方式の場合、角度などなんらかの理由で一瞬でも同期が外れると、ずれのある二重映像が見えてしまうことがあり、かなり気になった。また、被写体の動きによって立体効果が変化したり、期待したほどの立体感が得られないケースもあり、3D映像製作の難しさをうかがうことができる。
ディスプレイに関しては話題が3Dに集中しがちだが、IFAでは画質面での着実な進化も見出すことができた。
液晶はLEDバックライトの採用例が一気に拡大し、もはや特別な存在ではないという印象を強くした。前回のIFAやCESではまだ少数派だったが、いまや液晶テレビを展示するメーカーの多くがLEDのメリットを前面に打ち出し、高級機では部分駆動の長所をアピールした。
シャープはLED照明と併せてLEDのメリットを強く印象付けた。今回は部分駆動なしの白色LEDを採用することによって高コントラストと低消費電力をアピールしたが、この構成は今後、LED TVのメインストリームになるのではないだろうか。ブースで公開されたデモ映像はコントラスト感を強調した内容ではあったが、LEDバックライトの優位性を訴えるにはふさわしいものだった。
そのほか、東芝がエリア駆動を導入したLED TVを出展したが、今回はCELL TVの展示は見送られた。今秋のCEATEC以降の動きに注目したい。
テレビのデザインや機能面では日本市場と欧州市場の違いが今回も浮き彫りになった。スリムな本体を志向する動きと、設置スタイルのバリエーションの広さは欧州の方がかなり先行している一方、HDD内蔵やHDMIリンク機能がそれほど注目されていないのは、録画機能に対する注目度が低い欧州地域ならではの特徴である。薄型モデルでは32型液晶テレビを鏡に組み込んだビクターの展示が目を引き、壁掛け需要の加速を期待させた。欧州ではテレビの設置スタイルが多様で、デザイン志向が強いことが特徴だ。日本で人気のあるラックシアターはドイツではあまり関心を集めることはないが、壁掛け設置や静止画を表示するピクチャー仕様には根強い人気があり、今年は昨年以上に多くの展示が見られた。
欧州では放送のHD化がなかなか進んでいないが、ハイビジョンテレビは急速に普及しているため、パッケージソフトとしてBDが伸びる可能性を秘めている。まだ北米の規模にはほど遠いものの、特にドイツでは他の地域よりも一段階高い普及率を見せていることが、今回、BD協議会(BDA)のコンファレンスで明らかにされた。記録的な失業率の高さなど欧州の市場動向を危惧させる要素はたくさん残っているものの、着実な市場拡大が期待できるというのが、BDAの観測なのだ。市場規模や伸び率など、コンファレンスで発表された数値は楽観的すぎるような気がしないでもないが、超低価格BDプレーヤーが普及を加速する可能性はあり、それはある程度日本市場にも当てはまる予測といえる。