いよいよ4月14日グランドオープン!
全席プレミアムシートのハイスペック映画館「109シネマズプレミアム新宿」を一足先に体験してきた
いよいよ4月14日(金)にグランドオープンする、日本初の全席プレミアムシートのハイスペック映画館「109シネマズプレミアム新宿」。開業3日前、プレス向け個別内覧会が開催された。早速、ワンランク上のサービスと視聴環境を提供する最先端のプレミアムシアターを、一足先に体験してきた。
109シネマズプレミアム新宿は、東京・新宿歌舞伎町にそびえ立つ地上48階・地下5階の「東急歌舞伎町タワー」の9Fと10Fに入居する8スクリーンからなるシネコン(シネマコンプレックス)である。
「東急歌舞伎町タワー」は2019年8月に着工、2023年1月に竣工した。高さ約225m、地上48階・地下5階、延床面積は約8万7000平方メートル。地下1階から地下4階まではライブホール、地上1階から5階まではラウンジや店舗など、6階から8階までは客席数約900人を備えた劇場、9階から10階までは「109シネマズプレミアム新宿」、18階から47階まではホテルが入る。高層ビルにとって重要な安定した賃料が計算できるオフィスフロアがまったくないエンターテインメントビルである。
「水」をモチーフにしたというタワーの外観デザインは、水が吹き上がる「噴水」をイメージするものとなっている。ここにはその昔、六大学野球の早慶戦の季節になると、早大生が飛び込むことで有名な歌舞伎町の噴水広場があった。そして当時、噴水広場を中心に「新宿ミラノ座」(1,064席)と「新宿プラザ劇場」(1,044席)という大型映画館が向かいあっていた。100〜500席のシネコンが標準となった現在からは考えられない1,000人を超える大収容スクリーンだ。「新宿ミラノ座」のスクリーンサイズは20.2W×8.85Hm。今ならIMAX級の、日本一のスクリーンサイズを擁していた。
その「新宿プラザ劇場」の場所には、現在の「TOHOシネマズ新宿」があり、そして2014年に閉館した「新宿ミラノ座」が9年ぶりに「109シネマズプレミアム新宿」として復活する。「ミラノ座」の名前は、東急歌舞伎町タワー6Fに同時オープンする演劇・ミュージカルなどの劇場「THEATER MILANO-Za」に引き継がれた。
先日逝去された坂本龍一氏が音響プロデュースした「SAION -SR EDITION-」を持つスクリーンコンセプトや、8つあるスクリーンのうち先行公開された「スクリーン7」など、「109シネマズプレミアム新宿」の概要については、すでにメディア向けの最速先行体験会でレポート済みである。
さらに坂本龍一氏は、館内環境のためにBGMとチャイムを書き下ろしている。シアター内のコンセプト動画後に流れる「109 Shinjyuku - Clarifier」、開場チャイム「109 Shinjyuku - Chime」、9F・10FラウンジBGM「109 Shinjyuku - Lounge」の3曲も要チェックだ。
早速、個別内覧会で一足先に「109シネマズプレミアム新宿」の設備を体験してきた。おそらく映画専門サイトより詳しいと自負する映画館マニアならではの視点で、徹底的に斬り込んでみたい。(注:映画ファンではなく、映画館マニア!)
映画館マニアの視点というのは、「観たい作品を、最高の上映環境を実現しつつ、なるべく納得した価格で楽しみたい」という物差しで考える。
個別内覧会では、「シアター3/DOLBY ATMOS」、「シアター6/ScreenX」、「シアター8/35mm上映」の3スクリーンの上映が体験できた。前回の「シアター7」も含めて、全シアターが坂本龍一氏が音楽監修を務めた「SAION -SR EDITION」を搭載している。
すでに「シアター7」は体験していたが、初めて複数のシアターを鑑賞した第一印象は、「とても見やすい」。シートのラグジュアリー感はもちろんだが、建物の構造上、縦長(天井が高い)にデザインされており、座席前後の傾斜が大きい。スクリーン天地の中央に目線を置くことができ、どの席からもまったく前席の観客のアタマは被らない。もしかすると帽子をかぶっていても大丈夫かもしれないくらいだ。
横幅の強調ではなく、ひとつひとつのスクリーンがコンパクトに作られている。スクリーンサイズが公表されていないのは、おそらくスクリーンサイズで比較されたくないからであろう。それでも前方のスクリーン設置面の左右ギリギリまでいっぱいにスクリーンを広げたのは英断だ。圧倒的な画面への没入感を得ることができる。ドルビーシネマのようにスクリーンサイズではなく、徹底的に管理されたクオリティの満足度に方向性は似ている。
スクリーンアスペクトはビスタサイズ。ビスタ上映の映画は目一杯の映像を浴びることができる。天井も壁面もブラック系で迷光対策がなされているので、シネスコサイズ上映時の上下の白地は比較的抑えられている。TOHOシネマズなどのシネスコスクリーンでビスタ上映された場合にできる、左右の白地に盛大に迷光しているのとは雲泥の差である。
そしてこのコンパクトさ、傾斜角度の高さがScreen Xには見事にマッチする。ユナイテッドシネマのお台場の後付け(改装導入)のScreen Xや、グランドシネマサンシャイン池袋のスクリーンから距離のある奥行きの席とは違う、3面スクリーンへのダイブ感が味わえる。
音声は全スクリーン共通の「SAION -SR EDITION」の印象が強い。音楽コンテンツの響きの美しさは特筆すべきものがあるが、映画は作品自体に響きやアンビエンスが加えられているので、映画館自体は無味・無個性のほうがいい場合もある。むしろ「シアター3/DOLBY ATMOS」が聞き慣れた音でホッとする。
「シアター8/35mm上映」は坂本龍一氏の助言で実現された。新設オープンのシネコンには珍しい設備である。内覧会では『戦場のメリークリスマス』(1983年/大島渚監督)の35mmフィルム上映が行われていた。そのチラつきは懐かしい味わいと言うこともできるが、色やノイズなどさすがにフィルムの経年劣化は観るに堪えない。とくに本作は4K修復版が最近まで上映されていたので、その差は歴然である。
むしろデジタル・レストレーションができない35mmフィルムの価値ある作品を上映するための設備と考えたほうが良さそうである。貴重な設備を常設している。
非日常へのアプローチにおいて、一般的なシネコンとの差別化が際立っているのが、ロビーに広がるラウンジ設備である。高級ホテルのロビーを思わせるラウンジは、アーティストたちによって109シネマズのために作られた、新作アート作品が壁面を彩る。これら作品の鑑賞目的で来場するだけでも価値がある。
ラウンジのソファーやテーブル、照明インテリアなどは、それぞれ映画作品にインスパイアされたテーマがあるという。9Fと10Fではラウンジのアート作品もインテリアもすべて異なる。
通常ラウンジでも豪華なのに、さらにS席(CLASS S)チケットを持っていれば、プレミアムラウンジの「OVERTURE」に入ることができる。壁には竹中美幸氏のアート作品「ミラノ座の記憶」の連作が横一列に並んでいる。細長い35mmフィルムを素材として、そこにかつてミラノ座で使われていたアイテムや、過去の歌舞伎町の記録写真をモチーフに焼き付けた作品だ。また坂本龍一の作品も展示されている。
ラウンジへの入口にはQRコードリーダーが設置されており、鑑賞券(スマホ表示)がなければロビーに入ることすらできない。試しに冷やかしで見学もできない。しかも上映の1時間前にならないと入場はできず、9Fと10Fのチケットは共用ではなく上映作品のあるフロアしか入れない。上映鑑賞後に “居座る” ことは可能だが、いったんゲートを出てしまうと再入場できなくなる。
またチケット代には、「ウエルカムコンセッション」というドリンクとポップコーンのサービスがある。ラウンジに中央にある専用カウンターでチケットのQRコードをかざせば、無料で好きなドリンクが選べるほか、ポップコーンも塩味とキャラメル味でそれぞれコーンの種類から選別された提供される。ポップコーンはハーフ&ハーフもある。
「ウエルカムコンセッション」は、上映開始の1時間前〜上映終了時刻の30分前まで入場QRコードで何回でもお代わり自由。鑑賞後はお代わりできないので注意が必要だ。
映画館のフロアは、48階建の東急歌舞伎町タワーの9Fと10Fときけばそれほど高層には思えないが、窓から外を眺めてみると、となりのTOHOシネマズ新宿の名物ゴジラ像を見下ろすことができる。また反対側のプレミアムラウンジ「OVERTURE」の窓からは、西武新宿駅を見下ろすことができる。鉄道好きに嬉しいトレインビューである。
さて、これだけのラグジュアリー仕様なら、トイレも相当なものだろう。試しにトイレも確認してみよう。男性用トイレの入口は青いランプに帽子、女性用トイレはピンクのランプだ。基本な設備は他のシネコンも十分美しいので大差ないが、洗面台のアメニティが充実している。また女性向けにパウダールームも完備されている。
THE BARでは、「ウエルカムコンセッション」でサービスされるポップコーンやソフトドリンク以外の有料サービスがある。カウンター内の棚には、入手困難なプレミアムウイスキーが何気なく並んでいる。
のぞき見たオーダーシートに価格が載っていた。「山崎18年 5,100円」とある。歌舞伎町だからといって、1杯で5,100円はぼったくりではなく、実は格安なのだ。「山崎18年」は稀少なプレミアムウイスキーで、700mlボトルでAmazon価格115,000円前後する。シングルは1杯30mlなので、ボトル700mlで23杯取れる。つまり原価でも1杯5,000円。THE BARは100円しか利益を乗せていない計算だ。よく酒呑みが話題にする「市中のバー(ホテルや高級クラブ以外)で飲むときは一番高い酒がお得だ」と言われるが、ペプシコーラ800円の原価率を考えると、財布に余裕があれば、山崎18年を飲むのも非日常の賢い選択だ。
通常の映画鑑賞料金は、現在1,900円が一般的だ。それに比べて109シネマズプレミアム新宿は、映画1本にS席(CLASS S)で6,500円、A席(CLASS A)でも4,500円という設定である。「ドリンク・ポップコーン付きの快適プレミアムシートで観られる映画館」 とはいえ、それなりの満足感、コスパが必要だ。
では、S席6,500円が突出して高額なのかというと、他のシネコンにも同様のプレミアムシートの価格設定はある。例えば、TOHOシネマズ日比谷で考えると、通常鑑賞料金1,900円+プレミアラグジュアリーシート3,000円+ポップコーンセット(ドリンクM付)680円=5,580円になる。
TOHOシネマズ日比谷では、ドリンク・ポップコーンのお代わり自由ではないし、エントランスにも高級ホテル並みのソファが並ぶことはない。スクリーン内に入るまでは立ちっぱなしということもある。映画館マニアなら、シネコンの会員制度を利用するのは常識なので、109シネマズのシネマポイント会員ならS席は6,000円になる。その差は420円。
一方で、TOHOシネマズでシルバー割引や子供料金、障がい者手帳割引を使う人はさらに安くなるが、109シネマズプレミアムは子供も大人も一律価格である。
ターミナル駅周辺の賃料の高さを考えると、映画館の経営は簡単ではない。さらにコロナ禍をきっかけに映画の定額配信サービスが爆発的に普及してしまった。ここ数年で多くの映画館が撤退しているなか、映画館は自宅鑑賞とは異なる「非日常」の差別化に迫られている。
全席プレミアムシートというのは、決して「経済的な格差」を意図したものではない。同じ作品を新宿エリアで安く観ようと思えば、水曜日に1,200円で観られる。「できれば騒々しい鑑賞環境は避けたい」「ゆったりと映画鑑賞の時間を充実させたい」と考えるニーズに応えるものとなっている。東京観光のついでに「非日常」を楽しむこともできる。
多くの皆さんは、自宅もしくは通勤・通学先から行きやすいシネコンを利用するのが一般的だと思う。それが唯一の映画館である場合、映画館を選ぶことなどは普通はない。大都市圏に住んでいる人だけが、利用するターミナル駅に複数ある映画館を選択できる恵まれた環境にある。
「109シネマズプレミアム新宿」のある、東京・新宿には映画館(サイト)が10館もある。これはコロナ禍でサイトが減り続ける東京でも、有楽町・銀座(9サイト)を凌駕する屈指の映画天国である。
映画館には「系列」と呼ばれる上映作品が縛られる業界ルールがある。これは日本国内独自の商習慣で、近隣の競合と来客数を調整するための、それ自体が「独占行為」のグレイゾーンだ。少なくとも消費者優先ではない。隣の映画館と距離が離れているか、もしくは『名探偵コナン』シリーズやジブリ作品、新海誠作品など、興行収入100億円もしくは入場者数1,000万人を超える突き抜けたメガヒット作品は、この「系列」縛りから免除される。標準的な作品は、だいたい映画配給会社の「系列」で上映館の目星が付く。洋画に関しては縛りに影響されにくいので、109シネマズプレミアム新宿では洋画を中心としたヒット作が上映されることになるだろう。
新宿エリアの映画館には、それぞれ作品上映の役割がある。「109シネマズプレミアム新宿」のコンセプトは、そのスキマを狙った見事な采配といってもいい。まず客層が違う。1人1作品を観るために最低4,000円払う必要がある。また新宿初にして唯一のScreen Xシアターがある。
それでも、見たい作品が「109シネマズプレミアム新宿」で上映されるとは限らない。とくに東宝系作品の優先上映が可能な「TOHOシネマズ」が目と鼻の先にあることが微妙に影響するだろう。プレミアムシートの客層は競合するからだ。ここは109シネマズの配給会社との交渉次第となる。また靖国通りをはさんで、松竹系の「新宿ピカデリー」にもプレミアム設定のプラチナシート、プラチナルームがある。とくにプラチナルームはもろ被りに近い。むしろ、既存館のプレミアム価格が値下げされることも想定外ではない。
逆に「差別化」は積極的にシネコンの強みとしてアピールする方法もある。そのあたりは、総支配人への直撃インタビューで触れたい。
かつてない差別化のシネコンに圧倒されっぱなしだが、ここで109シネマズプレミアム新宿 総支配人の増永直人氏にインタビューした。
ーーー 価格設定に3D上映の料金がないのはなぜですか?
増永氏「あえて3D映画には対応していません。近年は3D映画の数が減っており、割り切って考えました」
アバターWOWの世界的なヒットもあるが、3Dで観るべき作品は確かに多くはない。それに映画館マニアとしては、3D作品はIMAXで観ることが多いだろう。そもそも109シネマズプレミアム新宿にはIMAXがない。新宿エリア全体で鑑賞スクリーンを考えればいいわけなので、3D非対応であることは何ら問題ないと筆者は思う。
ーーー 同じくDolby Atmosにも追加料金の設定がありません。
増永氏「当劇場は、全スクリーンとも坂本龍一氏監修によるSAION -SR EDITION-で音響設計されています。音響という意味ではすべてプレミアムなサービスとなっていますので、追加料金は必要ありません」
ーーー Screen Xは追加設備だから、700円のアドオンということなのですね。
増永氏「その通りです」
ーーー 傾斜の大きい座席レイアウトが、Screen Xに合っているように感じました。とても見やすい。
増永氏「ありがとうございます。建物の構造上の特徴もあり、どのスクリーンも傾斜が大きくなりましたが、それが見やすさにつながっていると思います」
ーーー ムビチケ前売り券を利用した価格と比較して、シネマポイント会員のメリットがあまりないように感じます。
増永氏「そこは社内でも価格設定で苦労した点です」
現在、ムビチケ前売り券は1,500円が多い。ムビチケを使って109シネマズプレミアム新宿で鑑賞するにはS席(CLASS S)の場合、+4,600円の差額料金となっている。合計で6,100円である。シネマポイント会員の場合は6,000円なので、ムビチケ前売り券を買うより100円安く観ることができる。ただし、6ポイント無料鑑賞利用時もムビチケと同じ+4,600円の差額なので、この場合だけは、他の109シネマズでポイントを使ったほうがお得と考えることもできる。
ーーー 「THE BARにあるサントリーのウイスキーはいつまで提供可能ですか?
増永氏「これは分からないが、できるだけ切らさないように、頑張ってみます」
ーーー 館内施設は現金払いは使えないようですが、キャッシュレス対応にした経緯は?
増永氏「やはりコロナ禍での従業員のサービス体制の部分がきっかけになりました」
WBCの行われた東京ドームも完全キャッシュレスだった。来日観光客のインバウンド需要を考えたとき、すでに現金を使わない外国人が増えていて日本で困ることがあるという事実もある。政府の推進するインバウンド対応はキャッシュレスへのトレンドだということなのだろう。現金しか使わないという人は、入場したとたん、無一文になってしまうので注意が必要だ。
ーーー 近隣シネコンとの関係で、上映作品には苦労されるところもあると思いますが、これまでも日本上映されていないScreen X作品が多くあります。BTSのScreen Xや、『トップガン・マーベリック』をScreen Xで観ていない人は損していると思います。
増永氏「特に音楽作品においてScreen X作品を充実させていきたいと考えています。コンサート中継を含め、音楽作品のメッカとなれれば嬉しいことです」
確かに坂本龍一氏の音響設計をはじめ、音にこだわる映画館の109シネマズプレミアム新宿は、音楽作品に強いオンリーワンのシアターとして差別化は可能だ。
また新宿という地域は、隣接する大久保のコリアタウンの影響もあり、韓国映画をもっと上映してもいいかもしれない。2010年にCJエンタテイメントジャパンが日本国内での配給から撤退してから、めっきり韓国映画の上映作品数が限られるようになった。もちろん話題作は公開されている。新宿ではシネマートが韓国映画を得意としているが、韓国大作の多くが実はScreen X版をラインナップしている。これらはシネマート新宿でも、配信サービスでも見ることはできない。ぜひ取り組んでもらえたら嬉しい。
新宿エリアの新しいカルチャースポットになる109シネマズプレミアム新宿がいよいよグランドオープンする。これからに期待だ。
109シネマズプレミアム新宿は、東京・新宿歌舞伎町にそびえ立つ地上48階・地下5階の「東急歌舞伎町タワー」の9Fと10Fに入居する8スクリーンからなるシネコン(シネマコンプレックス)である。
「東急歌舞伎町タワー」は2019年8月に着工、2023年1月に竣工した。高さ約225m、地上48階・地下5階、延床面積は約8万7000平方メートル。地下1階から地下4階まではライブホール、地上1階から5階まではラウンジや店舗など、6階から8階までは客席数約900人を備えた劇場、9階から10階までは「109シネマズプレミアム新宿」、18階から47階まではホテルが入る。高層ビルにとって重要な安定した賃料が計算できるオフィスフロアがまったくないエンターテインメントビルである。
「水」をモチーフにしたというタワーの外観デザインは、水が吹き上がる「噴水」をイメージするものとなっている。ここにはその昔、六大学野球の早慶戦の季節になると、早大生が飛び込むことで有名な歌舞伎町の噴水広場があった。そして当時、噴水広場を中心に「新宿ミラノ座」(1,064席)と「新宿プラザ劇場」(1,044席)という大型映画館が向かいあっていた。100〜500席のシネコンが標準となった現在からは考えられない1,000人を超える大収容スクリーンだ。「新宿ミラノ座」のスクリーンサイズは20.2W×8.85Hm。今ならIMAX級の、日本一のスクリーンサイズを擁していた。
その「新宿プラザ劇場」の場所には、現在の「TOHOシネマズ新宿」があり、そして2014年に閉館した「新宿ミラノ座」が9年ぶりに「109シネマズプレミアム新宿」として復活する。「ミラノ座」の名前は、東急歌舞伎町タワー6Fに同時オープンする演劇・ミュージカルなどの劇場「THEATER MILANO-Za」に引き継がれた。
■坂本龍一氏が音響プロデュースしたスクリーン設備と、書き下ろした館内BGM
先日逝去された坂本龍一氏が音響プロデュースした「SAION -SR EDITION-」を持つスクリーンコンセプトや、8つあるスクリーンのうち先行公開された「スクリーン7」など、「109シネマズプレミアム新宿」の概要については、すでにメディア向けの最速先行体験会でレポート済みである。
さらに坂本龍一氏は、館内環境のためにBGMとチャイムを書き下ろしている。シアター内のコンセプト動画後に流れる「109 Shinjyuku - Clarifier」、開場チャイム「109 Shinjyuku - Chime」、9F・10FラウンジBGM「109 Shinjyuku - Lounge」の3曲も要チェックだ。
■全席プレミアムシートのハイスペック映画館「109シネマズプレミアム新宿」を一足先に体験
早速、個別内覧会で一足先に「109シネマズプレミアム新宿」の設備を体験してきた。おそらく映画専門サイトより詳しいと自負する映画館マニアならではの視点で、徹底的に斬り込んでみたい。(注:映画ファンではなく、映画館マニア!)
映画館マニアの視点というのは、「観たい作品を、最高の上映環境を実現しつつ、なるべく納得した価格で楽しみたい」という物差しで考える。
個別内覧会では、「シアター3/DOLBY ATMOS」、「シアター6/ScreenX」、「シアター8/35mm上映」の3スクリーンの上映が体験できた。前回の「シアター7」も含めて、全シアターが坂本龍一氏が音楽監修を務めた「SAION -SR EDITION」を搭載している。
すでに「シアター7」は体験していたが、初めて複数のシアターを鑑賞した第一印象は、「とても見やすい」。シートのラグジュアリー感はもちろんだが、建物の構造上、縦長(天井が高い)にデザインされており、座席前後の傾斜が大きい。スクリーン天地の中央に目線を置くことができ、どの席からもまったく前席の観客のアタマは被らない。もしかすると帽子をかぶっていても大丈夫かもしれないくらいだ。
横幅の強調ではなく、ひとつひとつのスクリーンがコンパクトに作られている。スクリーンサイズが公表されていないのは、おそらくスクリーンサイズで比較されたくないからであろう。それでも前方のスクリーン設置面の左右ギリギリまでいっぱいにスクリーンを広げたのは英断だ。圧倒的な画面への没入感を得ることができる。ドルビーシネマのようにスクリーンサイズではなく、徹底的に管理されたクオリティの満足度に方向性は似ている。
スクリーンアスペクトはビスタサイズ。ビスタ上映の映画は目一杯の映像を浴びることができる。天井も壁面もブラック系で迷光対策がなされているので、シネスコサイズ上映時の上下の白地は比較的抑えられている。TOHOシネマズなどのシネスコスクリーンでビスタ上映された場合にできる、左右の白地に盛大に迷光しているのとは雲泥の差である。
そしてこのコンパクトさ、傾斜角度の高さがScreen Xには見事にマッチする。ユナイテッドシネマのお台場の後付け(改装導入)のScreen Xや、グランドシネマサンシャイン池袋のスクリーンから距離のある奥行きの席とは違う、3面スクリーンへのダイブ感が味わえる。
音声は全スクリーン共通の「SAION -SR EDITION」の印象が強い。音楽コンテンツの響きの美しさは特筆すべきものがあるが、映画は作品自体に響きやアンビエンスが加えられているので、映画館自体は無味・無個性のほうがいい場合もある。むしろ「シアター3/DOLBY ATMOS」が聞き慣れた音でホッとする。
「シアター8/35mm上映」は坂本龍一氏の助言で実現された。新設オープンのシネコンには珍しい設備である。内覧会では『戦場のメリークリスマス』(1983年/大島渚監督)の35mmフィルム上映が行われていた。そのチラつきは懐かしい味わいと言うこともできるが、色やノイズなどさすがにフィルムの経年劣化は観るに堪えない。とくに本作は4K修復版が最近まで上映されていたので、その差は歴然である。
むしろデジタル・レストレーションができない35mmフィルムの価値ある作品を上映するための設備と考えたほうが良さそうである。貴重な設備を常設している。
■映画鑑賞へのアプローチから非日常に変えるエントランスとラウンジ設備の数々
非日常へのアプローチにおいて、一般的なシネコンとの差別化が際立っているのが、ロビーに広がるラウンジ設備である。高級ホテルのロビーを思わせるラウンジは、アーティストたちによって109シネマズのために作られた、新作アート作品が壁面を彩る。これら作品の鑑賞目的で来場するだけでも価値がある。
ラウンジのソファーやテーブル、照明インテリアなどは、それぞれ映画作品にインスパイアされたテーマがあるという。9Fと10Fではラウンジのアート作品もインテリアもすべて異なる。
通常ラウンジでも豪華なのに、さらにS席(CLASS S)チケットを持っていれば、プレミアムラウンジの「OVERTURE」に入ることができる。壁には竹中美幸氏のアート作品「ミラノ座の記憶」の連作が横一列に並んでいる。細長い35mmフィルムを素材として、そこにかつてミラノ座で使われていたアイテムや、過去の歌舞伎町の記録写真をモチーフに焼き付けた作品だ。また坂本龍一の作品も展示されている。
ラウンジへの入口にはQRコードリーダーが設置されており、鑑賞券(スマホ表示)がなければロビーに入ることすらできない。試しに冷やかしで見学もできない。しかも上映の1時間前にならないと入場はできず、9Fと10Fのチケットは共用ではなく上映作品のあるフロアしか入れない。上映鑑賞後に “居座る” ことは可能だが、いったんゲートを出てしまうと再入場できなくなる。
またチケット代には、「ウエルカムコンセッション」というドリンクとポップコーンのサービスがある。ラウンジに中央にある専用カウンターでチケットのQRコードをかざせば、無料で好きなドリンクが選べるほか、ポップコーンも塩味とキャラメル味でそれぞれコーンの種類から選別された提供される。ポップコーンはハーフ&ハーフもある。
「ウエルカムコンセッション」は、上映開始の1時間前〜上映終了時刻の30分前まで入場QRコードで何回でもお代わり自由。鑑賞後はお代わりできないので注意が必要だ。
映画館のフロアは、48階建の東急歌舞伎町タワーの9Fと10Fときけばそれほど高層には思えないが、窓から外を眺めてみると、となりのTOHOシネマズ新宿の名物ゴジラ像を見下ろすことができる。また反対側のプレミアムラウンジ「OVERTURE」の窓からは、西武新宿駅を見下ろすことができる。鉄道好きに嬉しいトレインビューである。
さて、これだけのラグジュアリー仕様なら、トイレも相当なものだろう。試しにトイレも確認してみよう。男性用トイレの入口は青いランプに帽子、女性用トイレはピンクのランプだ。基本な設備は他のシネコンも十分美しいので大差ないが、洗面台のアメニティが充実している。また女性向けにパウダールームも完備されている。
■THE BARのプレミアムウイスキー「山崎18年」の5,100円は、実は格安!
THE BARでは、「ウエルカムコンセッション」でサービスされるポップコーンやソフトドリンク以外の有料サービスがある。カウンター内の棚には、入手困難なプレミアムウイスキーが何気なく並んでいる。
のぞき見たオーダーシートに価格が載っていた。「山崎18年 5,100円」とある。歌舞伎町だからといって、1杯で5,100円はぼったくりではなく、実は格安なのだ。「山崎18年」は稀少なプレミアムウイスキーで、700mlボトルでAmazon価格115,000円前後する。シングルは1杯30mlなので、ボトル700mlで23杯取れる。つまり原価でも1杯5,000円。THE BARは100円しか利益を乗せていない計算だ。よく酒呑みが話題にする「市中のバー(ホテルや高級クラブ以外)で飲むときは一番高い酒がお得だ」と言われるが、ペプシコーラ800円の原価率を考えると、財布に余裕があれば、山崎18年を飲むのも非日常の賢い選択だ。
■格差社会のハイスペック仕様ではなく、定額配信サービスとの差別化
通常の映画鑑賞料金は、現在1,900円が一般的だ。それに比べて109シネマズプレミアム新宿は、映画1本にS席(CLASS S)で6,500円、A席(CLASS A)でも4,500円という設定である。「ドリンク・ポップコーン付きの快適プレミアムシートで観られる映画館」 とはいえ、それなりの満足感、コスパが必要だ。
では、S席6,500円が突出して高額なのかというと、他のシネコンにも同様のプレミアムシートの価格設定はある。例えば、TOHOシネマズ日比谷で考えると、通常鑑賞料金1,900円+プレミアラグジュアリーシート3,000円+ポップコーンセット(ドリンクM付)680円=5,580円になる。
TOHOシネマズ日比谷では、ドリンク・ポップコーンのお代わり自由ではないし、エントランスにも高級ホテル並みのソファが並ぶことはない。スクリーン内に入るまでは立ちっぱなしということもある。映画館マニアなら、シネコンの会員制度を利用するのは常識なので、109シネマズのシネマポイント会員ならS席は6,000円になる。その差は420円。
一方で、TOHOシネマズでシルバー割引や子供料金、障がい者手帳割引を使う人はさらに安くなるが、109シネマズプレミアムは子供も大人も一律価格である。
ターミナル駅周辺の賃料の高さを考えると、映画館の経営は簡単ではない。さらにコロナ禍をきっかけに映画の定額配信サービスが爆発的に普及してしまった。ここ数年で多くの映画館が撤退しているなか、映画館は自宅鑑賞とは異なる「非日常」の差別化に迫られている。
全席プレミアムシートというのは、決して「経済的な格差」を意図したものではない。同じ作品を新宿エリアで安く観ようと思えば、水曜日に1,200円で観られる。「できれば騒々しい鑑賞環境は避けたい」「ゆったりと映画鑑賞の時間を充実させたい」と考えるニーズに応えるものとなっている。東京観光のついでに「非日常」を楽しむこともできる。
■109シネマズプレミアム新宿での上映作品は洋画中心のヒット作。自然と差別化が生まれる
多くの皆さんは、自宅もしくは通勤・通学先から行きやすいシネコンを利用するのが一般的だと思う。それが唯一の映画館である場合、映画館を選ぶことなどは普通はない。大都市圏に住んでいる人だけが、利用するターミナル駅に複数ある映画館を選択できる恵まれた環境にある。
「109シネマズプレミアム新宿」のある、東京・新宿には映画館(サイト)が10館もある。これはコロナ禍でサイトが減り続ける東京でも、有楽町・銀座(9サイト)を凌駕する屈指の映画天国である。
映画館には「系列」と呼ばれる上映作品が縛られる業界ルールがある。これは日本国内独自の商習慣で、近隣の競合と来客数を調整するための、それ自体が「独占行為」のグレイゾーンだ。少なくとも消費者優先ではない。隣の映画館と距離が離れているか、もしくは『名探偵コナン』シリーズやジブリ作品、新海誠作品など、興行収入100億円もしくは入場者数1,000万人を超える突き抜けたメガヒット作品は、この「系列」縛りから免除される。標準的な作品は、だいたい映画配給会社の「系列」で上映館の目星が付く。洋画に関しては縛りに影響されにくいので、109シネマズプレミアム新宿では洋画を中心としたヒット作が上映されることになるだろう。
新宿エリアの映画館には、それぞれ作品上映の役割がある。「109シネマズプレミアム新宿」のコンセプトは、そのスキマを狙った見事な采配といってもいい。まず客層が違う。1人1作品を観るために最低4,000円払う必要がある。また新宿初にして唯一のScreen Xシアターがある。
それでも、見たい作品が「109シネマズプレミアム新宿」で上映されるとは限らない。とくに東宝系作品の優先上映が可能な「TOHOシネマズ」が目と鼻の先にあることが微妙に影響するだろう。プレミアムシートの客層は競合するからだ。ここは109シネマズの配給会社との交渉次第となる。また靖国通りをはさんで、松竹系の「新宿ピカデリー」にもプレミアム設定のプラチナシート、プラチナルームがある。とくにプラチナルームはもろ被りに近い。むしろ、既存館のプレミアム価格が値下げされることも想定外ではない。
逆に「差別化」は積極的にシネコンの強みとしてアピールする方法もある。そのあたりは、総支配人への直撃インタビューで触れたい。
■総支配人の増永直人氏を直撃。新宿エリアにおけるオンリーワン価値をめざす
かつてない差別化のシネコンに圧倒されっぱなしだが、ここで109シネマズプレミアム新宿 総支配人の増永直人氏にインタビューした。
ーーー 価格設定に3D上映の料金がないのはなぜですか?
増永氏「あえて3D映画には対応していません。近年は3D映画の数が減っており、割り切って考えました」
アバターWOWの世界的なヒットもあるが、3Dで観るべき作品は確かに多くはない。それに映画館マニアとしては、3D作品はIMAXで観ることが多いだろう。そもそも109シネマズプレミアム新宿にはIMAXがない。新宿エリア全体で鑑賞スクリーンを考えればいいわけなので、3D非対応であることは何ら問題ないと筆者は思う。
ーーー 同じくDolby Atmosにも追加料金の設定がありません。
増永氏「当劇場は、全スクリーンとも坂本龍一氏監修によるSAION -SR EDITION-で音響設計されています。音響という意味ではすべてプレミアムなサービスとなっていますので、追加料金は必要ありません」
ーーー Screen Xは追加設備だから、700円のアドオンということなのですね。
増永氏「その通りです」
ーーー 傾斜の大きい座席レイアウトが、Screen Xに合っているように感じました。とても見やすい。
増永氏「ありがとうございます。建物の構造上の特徴もあり、どのスクリーンも傾斜が大きくなりましたが、それが見やすさにつながっていると思います」
ーーー ムビチケ前売り券を利用した価格と比較して、シネマポイント会員のメリットがあまりないように感じます。
増永氏「そこは社内でも価格設定で苦労した点です」
現在、ムビチケ前売り券は1,500円が多い。ムビチケを使って109シネマズプレミアム新宿で鑑賞するにはS席(CLASS S)の場合、+4,600円の差額料金となっている。合計で6,100円である。シネマポイント会員の場合は6,000円なので、ムビチケ前売り券を買うより100円安く観ることができる。ただし、6ポイント無料鑑賞利用時もムビチケと同じ+4,600円の差額なので、この場合だけは、他の109シネマズでポイントを使ったほうがお得と考えることもできる。
ーーー 「THE BARにあるサントリーのウイスキーはいつまで提供可能ですか?
増永氏「これは分からないが、できるだけ切らさないように、頑張ってみます」
ーーー 館内施設は現金払いは使えないようですが、キャッシュレス対応にした経緯は?
増永氏「やはりコロナ禍での従業員のサービス体制の部分がきっかけになりました」
WBCの行われた東京ドームも完全キャッシュレスだった。来日観光客のインバウンド需要を考えたとき、すでに現金を使わない外国人が増えていて日本で困ることがあるという事実もある。政府の推進するインバウンド対応はキャッシュレスへのトレンドだということなのだろう。現金しか使わないという人は、入場したとたん、無一文になってしまうので注意が必要だ。
ーーー 近隣シネコンとの関係で、上映作品には苦労されるところもあると思いますが、これまでも日本上映されていないScreen X作品が多くあります。BTSのScreen Xや、『トップガン・マーベリック』をScreen Xで観ていない人は損していると思います。
増永氏「特に音楽作品においてScreen X作品を充実させていきたいと考えています。コンサート中継を含め、音楽作品のメッカとなれれば嬉しいことです」
確かに坂本龍一氏の音響設計をはじめ、音にこだわる映画館の109シネマズプレミアム新宿は、音楽作品に強いオンリーワンのシアターとして差別化は可能だ。
また新宿という地域は、隣接する大久保のコリアタウンの影響もあり、韓国映画をもっと上映してもいいかもしれない。2010年にCJエンタテイメントジャパンが日本国内での配給から撤退してから、めっきり韓国映画の上映作品数が限られるようになった。もちろん話題作は公開されている。新宿ではシネマートが韓国映画を得意としているが、韓国大作の多くが実はScreen X版をラインナップしている。これらはシネマート新宿でも、配信サービスでも見ることはできない。ぜひ取り組んでもらえたら嬉しい。
新宿エリアの新しいカルチャースポットになる109シネマズプレミアム新宿がいよいよグランドオープンする。これからに期待だ。