海外での取り組み事例も紹介
ドルビー、iPhoneでのドルビービジョン動画撮影に関するワークショップ。国内ライヴ配信活用事例も
■今日から撮れる、iPhoneでドルビービジョン動画!
東京・吉祥寺のライヴハウス NEPOの運営するライヴストリーミングサービスは、先ほど紹介したVimeoベースの配信プラットフォームとなり、「iPhone 14 Pro」を使用し、ドルビービジョンフォーマットで撮影した「“Edge: Detection 2023 with Dolby Vision”」を、昨日8月23日から配信している。
このライヴの当日には、ドルビージャパンの萩谷氏による「iPhoneで撮れる!見れる!Dolby Vision動画」と題したワークセッションが併せて開催された。実際にiPhoneで撮影されたライヴ動画をチェックしつつ、ワークセッションの一部を抜粋する形で勉強会を行ってくれた。
ワークセッションはアーティスト演奏の間に行われ、「技術的なプレゼンを聴いてくれるのか、かなり不安だった」と当日の心境を吐露したが、多くの方が自身のiPhoneの設定を触りながら聴いてくれ手応えを感じたと萩谷氏は振り返る。
勉強会では、メディアを対象にしたものであることから割愛されたが、当日はドルビービジョンやドルビーアトモスなどドルビーの技術の概要や、どのような機器でコンテンツを楽しめるかといった基本から説明をスタートしたとのこと。
本日の勉強会では、高コントラスト/高色域というアプローチで高画質化を図ったHDR映像・ドルビービジョンを、iPhoneでどうやって撮影するのか、そしてその情報を維持したままどのように共有するのかをメインのトピックとして取り上げた。
撮影機材として使用されるiPhoneは、上記の通りiPhone 12からドルビービジョンの撮影に対応している。セミプロはiPhoneで一本の映画を仕上げたり、プロの現場においても、通常のシネマカメラを置けないようなアングルでショットを狙う際にはiPhoneが使用されるなど、撮影デバイスとして遜色がないことを今一度説明。また、ライヴ当日のワークセッション参加者の大半以上がiPhone 12以降のモデルを所持していたという。
撮影に際してはiPhoneの「設定」→「カメラ」と進み、「フォーマット」「ビデオ撮影」という項目で設定を行う。「フォーマット」では「カメラ撮影」の項目を「高効率」にチェックを入れることで、HEVCコーデックを用いた撮影/録画を可能にする。「ビデオ撮影」の項目では、HDRビデオのスライドをオンにすることで、文字通りHDR情報を保持した映像の撮影が可能となる。
撮影動画の転送については、iPhoneのデフォルト設定では互換性を優先してSDRに自動変換してから転送するモードになっているが、「設定」→「写真」内の「MACまたはPCに転送」項目内の「元のフォーマットのまま」にチェックを入れることで、ドルビービジョンの情報を保ったまま、他デバイスに動画を転送することが可能となる。
なお、iCloudでの共有では、現状だとSDRに変換されてしまうとのことなので、転送の際にはAirDrop、またはUSBを用いた有線接続を推奨している。
気をつけたいポイントとして、iPhone本体がドルビービジョンの撮影に対応していても、撮影アプリの一部が対応していない可能性があること。撮影に際しては標準のカメラアプリ、「Clips」、プロユース用の撮影アプリ「Filmic Pro」がドルビービジョンに対応しているとのこと。映像の編集にもドルビービジョン対応のものが必要となり、「Final Cut Pro」「iMovie」「Clips」といったメジャーなアプリで、ドルビービジョンの情報を保持したままの編集が可能だという。
編集・書き出しについては、Final Cut Proを用いた例を紹介。編集時には色処理指定は「Wide Gamut HDR」を選択。プロパティについても「Wide Gamut HDR−Rec.2020PQ/HLG」といったドルビービジョンに対応したものを指定する。書き出しの際はビデオコーデックで「Dolby Vision」を選択する。
書き出しについてはデフォルトでは1つのビットレートしか選ぶことができないため、もっと高画質で仕上げたかったり、ファイルサイズを小さくしたい場合には「Compressor」という別アプリを介してのエンコードが必要になってくるという。
ドルビービジョン撮影動画の共有先であるVimeoは、知名度では劣るがコンテンツの販売や広告を出さずに動画を投稿できるといった特定の分野での強みがある。だが、無料会員だと4K動画は4分程度しかアップできないとのことで、長尺の動画をアップしたい場合にはプロフェッショナル会員への登録が必須だろうと説明した。
最後にVimeoにアップされたドルビービジョン再生可能端末として、「iPhone 8」以降のiPhone(SE除く)、2017年以降のiPad Pro/Air/Mini、2018年発売以降のMac/MacBook(Safariブラウザからの閲覧)、Apple TV 4Kを紹介した。
■「表現したいものがストレスフリーで表現できる」iPhoneでのドルビービジョン撮影の凄み
最後にライヴパフォーマンスだけで無く、萩谷氏の紹介したフローを実践したHello1103(ハローイチイチゼロサン)のHitomi氏が登壇。iPhoneを使用したドルビービジョン撮影動画に感じた素直な気持ちを語ってくれた。
まず、ライヴ会場となる吉祥寺NEPOは、暗所にLEDパネルが6枚備えられたシチュエーションとなっており、これを従来の一眼レフカメラSDR 8bitの色深度のカメラで撮ると、LEDやライヴハウスの照明が白飛びして巧く収められなかったという。
だが、iPhoneのドルビービジョン撮影では、これまで照明で白飛びしていた箇所や黒つぶれしていた暗部がしっかりと撮影されており、「驚異的」だと訴えた。音楽とVJによる映像をコンセプトとしたユニットにとっては待たれていたフォーマットで、表現したいものがストレスフリーで表現できると太鼓判を押した。
編集作業においては、「iPhoneで撮影された動画は申し分無い」と評価。ただ、低音の振動でカメラがブレたり、ダイナミクス・コントラスト調整よりも環境そのもので苦戦した部分が多いと語った。それだけにワークフローは非常にスムーズで、エンドの環境もiPhone 8から視聴でき、ユーザーの環境も拓けているので、気軽にトライしてみてもいいとコメントした。
最後にHitomi氏は、ドルビービジョンでの映像配信のほか、映像技術にちなんだアーティスト活動としてVRライヴを定期的に開催していることを告知。VRゴーグルをつけて360度のVJの中、7.1.4chのシステムで鳴らされる立体音響を用いた演奏を披露している。ドルビービジョンでのライヴ動画配信と同様に、新しい技術を用いてユーザーにも新鮮な体験を届けられたらと意気込んだ。