ガジェット 【連載】佐野正弘のITインサイト 第87回
ファミリーやシニアに強い「イオンモバイル」が、“見直すと安い”料金プランに力を入れる理由
総合スーパー「イオン」などを運営しているイオンは、主として低価格のモバイル通信サービスを提供するMVNOの歴史を語る上で欠かせない存在の1つでもある。
その理由は2014年、MVNOが提供する低価格の通信サービスのSIMと、当時はまだ数が少なかったSIMフリーのスマートフォンをセットにし、「イオンのスマートフォン」として販売したことにある。これがメディアなどに「格安スマホ」という名前で取り上げられたことでブームが起き、それまで知る人ぞ知る存在だったMVNOが多くの人に知られる契機となったわけだ。
その後イオン自身も、MVNOビジネスに力を入れるようになり、2016年には子会社のイオンリテールを通じて自らMVNOとなり、「イオンモバイル」を展開。元々総合スーパーマーケットとして全国に店舗を持ち、なおかつその中で携帯大手の販売代理店も手掛けているという独自の立ち位置を生かし、他のMVNOとは大きく異なる事業展開を図っている。
そして、イオンモバイルの最大の特徴といえるのが、イオンの店舗で契約できること。他のMVNOはコストがかかる店舗を持たずオンラインでの販売やサポートを主としているが、既に多くの店舗を持つイオンモバイルは店舗で契約できる仕組みを用意していることもあり、利用者の年齢層が比較的高い。
契約者で最も多い層は、スーパーマーケットの主要顧客にも重なる30〜50代のファミリー層だが、それに加えてイオンモバイルでは、やはりスーパーマーケットに訪れる機会が多い60代以上も多く獲得、その数は3割を超えているという。店舗を持たずオンライン主体でサービス展開している大半のMVNOが、オンラインサービスが苦手な傾向にあるシニア層の獲得に課題を抱えている中にあって、店舗を持つ強みを生かしシニア層をしっかり獲得している点が、イオンモバイルの大きな強みであることに間違いない。
そしてもう1つは、イオングループの店舗や各種サービスとの連携がなされていること。例えば、イオンモバイルの通信料の支払いをイオンカードにすることで、イオングループのポイントプログラム「WAON POINT」が通常の4倍付与される仕組みなどが提供されており、イオンの店舗に訪れる多くの人にメリットを打ち出すことで契約獲得につなげているようだ。
このように、イオンモバイルはイオングループのリソースを積極活用することで、MVNOとしては非常に独自性の強いサービスを提供している。その独自性を維持しながらサービスを強化するべく、イオンモバイルは先日12月4日に記者発表会を実施しているのだが、そこで打ち出されたものの1つが「スマホメンテナンス」の強化だ。
これは要するに、店舗に訪れたユーザーのスマートフォンをスタッフがメンテナンスするというもの。イオンモバイルを取り扱っている本州と四国の162店舗で無料提供しているサービスであり、スマートフォンに詳しくない人が定期的に訪れてメンテナンスすることで、トラブルを未然に防ぎ長く利用できるようにする取り組みになる。
それに加えてスマホメンテナンスでは、料金プランの見直しにも応じている。イオンモバイルの料金プランは、主力の「さいてきプラン」であれば通信量がほぼ1GB刻みと非常に細かい上、かけ放題サービスも4種類用意されているなど選択肢が非常に豊富なことから、顧客の利用状況やニーズに応じて都度最適なプランに見直してくれるという。
このサービスは2022年10月より提供しているが、既に約4,600名が利用し、満足度も94%超と非常に高いことから、イオンモバイルではさらに強化するべくリニューアルを実施。とりわけ料金の見直しに関しては、料金プランやかけ放題オプションを契約することで、どれだけ料金が変わるのかを図やグラフで示すことにより、顧客により分かりやすく提案できる仕組みを整えたとのことだ。
そしてもう1つが、「シェアプラン」の機能追加である。シェアプランは文字通り、月当たりの通信量を複数のSIMでシェアして利用するプランなのだが、イオンモバイルでは2022年4月に大容量プランを値下げして以降、家族でシェアプランを契約し、容量を分け合いながら利用する人が増えているという。
だが、そこで問題となっているのが、特定の子供が通信量を使い過ぎてしまうことで、親や兄弟が利用できる通信量が大幅に減ってしまうこと。「子供の通信量を制限したい」という声が多いことから、イオンモバイルでは2024年2月から、シェアプランに回線毎の通信量上限を設定する機能を追加するとしている。
これら一連の新施策を見ると、イオンモバイルは顧客の通信料を引き下げることに力を注いでいることが分かる。スマホメンテナンスは料金を見直すことで、通信量が少ない人にはより安いプランを提案するとしているし、シェアプランの容量制限もより上位のプランを契約してもらい通信量を増やすのではなく、通信量を抑えて低価格のプランを維持したまま制限しようとしている。
実店舗を持つ携帯電話会社が、料金値上げの方向に向かう中にあって、イオンモバイルが料金を見直すなどして顧客1人当たりの単価を下げる施策に力を入れているのはなぜか。イオンリテールのイオンモバイル商品マネージャーである井原龍二氏は、「契約者の目的は安くしたいからだと思っている、安くならないと提供する意味がない」と答えている。
同社としては短期的な利益を得るよりも、長期間継続的にサービスを利用してもらうことを重視しているとのこと。そのためには、利用者に最適なプランを提案し、料金を見直してもらって顧客の満足度を高めることが重要と考えているようだ。
ただその一方で、イオンモバイルは楽天モバイルのように毎月の通信量に応じて料金が変化する段階制を導入せず、あえて選択肢を増やす一方で見直さなければ安くならない点は気になる。この点について井原氏は、「細かな料金の選択肢があるというより、自分の要領でプランを変えられること」の方が、顧客にメリットがあると説明している。
そしてこのイオンモバイルの料金設計からは、ビジネス面におけるイオンリテールの真の狙いも垣間見える。イオンモバイルはスマートフォンに詳しい人であれば、オンラインでいつでも料金プランを変更して見直すことができるが、そうでない人が料金を見直すには店舗に訪れる必要がある。実店舗があるイオンモバイルの契約者はその傾向が強いと考えられるし、スマホメンテナンスなど実店舗でないと利用できないサービスに力を入れるのはそのためだろう。
そして、イオンの主力事業がスーパーマーケットであることを考えると、顧客が店舗に訪れ、料金を見直すなどしたついでに買い物をしてもらうことがビジネス上非常に大きな意味を持ってくる。低価格の通信サービスを継続利用してもらい、都度見直してもらうことで顧客を店舗に呼ぶきっかけを作り、本業のビジネス拡大につなげたいというのが、「自動的に安くなる」のではなく「見直すと安くなる」ことに重きを置く理由だろう。
これはある意味、携帯各社のいわゆる「経済圏」ビジネスに近いものではあるのだが、全国に多数店舗を持って流通小売りというビジネスをしているイオングループでなければ実現し得ないものでもある。そうした独自の立ち位置を生かしながら、携帯各社が実現し得ない手段で顧客を拡大し、MVNOとしてより大きな存在感を打ち出せるかどうかも、今後注目されるところではないだろうか。
■「格安スマホ」ブームを起こしたイオン
その理由は2014年、MVNOが提供する低価格の通信サービスのSIMと、当時はまだ数が少なかったSIMフリーのスマートフォンをセットにし、「イオンのスマートフォン」として販売したことにある。これがメディアなどに「格安スマホ」という名前で取り上げられたことでブームが起き、それまで知る人ぞ知る存在だったMVNOが多くの人に知られる契機となったわけだ。
その後イオン自身も、MVNOビジネスに力を入れるようになり、2016年には子会社のイオンリテールを通じて自らMVNOとなり、「イオンモバイル」を展開。元々総合スーパーマーケットとして全国に店舗を持ち、なおかつその中で携帯大手の販売代理店も手掛けているという独自の立ち位置を生かし、他のMVNOとは大きく異なる事業展開を図っている。
そして、イオンモバイルの最大の特徴といえるのが、イオンの店舗で契約できること。他のMVNOはコストがかかる店舗を持たずオンラインでの販売やサポートを主としているが、既に多くの店舗を持つイオンモバイルは店舗で契約できる仕組みを用意していることもあり、利用者の年齢層が比較的高い。
契約者で最も多い層は、スーパーマーケットの主要顧客にも重なる30〜50代のファミリー層だが、それに加えてイオンモバイルでは、やはりスーパーマーケットに訪れる機会が多い60代以上も多く獲得、その数は3割を超えているという。店舗を持たずオンライン主体でサービス展開している大半のMVNOが、オンラインサービスが苦手な傾向にあるシニア層の獲得に課題を抱えている中にあって、店舗を持つ強みを生かしシニア層をしっかり獲得している点が、イオンモバイルの大きな強みであることに間違いない。
そしてもう1つは、イオングループの店舗や各種サービスとの連携がなされていること。例えば、イオンモバイルの通信料の支払いをイオンカードにすることで、イオングループのポイントプログラム「WAON POINT」が通常の4倍付与される仕組みなどが提供されており、イオンの店舗に訪れる多くの人にメリットを打ち出すことで契約獲得につなげているようだ。
■イオンモバイルが打ち出す「スマホメンテナンス」の強化
このように、イオンモバイルはイオングループのリソースを積極活用することで、MVNOとしては非常に独自性の強いサービスを提供している。その独自性を維持しながらサービスを強化するべく、イオンモバイルは先日12月4日に記者発表会を実施しているのだが、そこで打ち出されたものの1つが「スマホメンテナンス」の強化だ。
これは要するに、店舗に訪れたユーザーのスマートフォンをスタッフがメンテナンスするというもの。イオンモバイルを取り扱っている本州と四国の162店舗で無料提供しているサービスであり、スマートフォンに詳しくない人が定期的に訪れてメンテナンスすることで、トラブルを未然に防ぎ長く利用できるようにする取り組みになる。
それに加えてスマホメンテナンスでは、料金プランの見直しにも応じている。イオンモバイルの料金プランは、主力の「さいてきプラン」であれば通信量がほぼ1GB刻みと非常に細かい上、かけ放題サービスも4種類用意されているなど選択肢が非常に豊富なことから、顧客の利用状況やニーズに応じて都度最適なプランに見直してくれるという。
このサービスは2022年10月より提供しているが、既に約4,600名が利用し、満足度も94%超と非常に高いことから、イオンモバイルではさらに強化するべくリニューアルを実施。とりわけ料金の見直しに関しては、料金プランやかけ放題オプションを契約することで、どれだけ料金が変わるのかを図やグラフで示すことにより、顧客により分かりやすく提案できる仕組みを整えたとのことだ。
そしてもう1つが、「シェアプラン」の機能追加である。シェアプランは文字通り、月当たりの通信量を複数のSIMでシェアして利用するプランなのだが、イオンモバイルでは2022年4月に大容量プランを値下げして以降、家族でシェアプランを契約し、容量を分け合いながら利用する人が増えているという。
だが、そこで問題となっているのが、特定の子供が通信量を使い過ぎてしまうことで、親や兄弟が利用できる通信量が大幅に減ってしまうこと。「子供の通信量を制限したい」という声が多いことから、イオンモバイルでは2024年2月から、シェアプランに回線毎の通信量上限を設定する機能を追加するとしている。
これら一連の新施策を見ると、イオンモバイルは顧客の通信料を引き下げることに力を注いでいることが分かる。スマホメンテナンスは料金を見直すことで、通信量が少ない人にはより安いプランを提案するとしているし、シェアプランの容量制限もより上位のプランを契約してもらい通信量を増やすのではなく、通信量を抑えて低価格のプランを維持したまま制限しようとしている。
実店舗を持つ携帯電話会社が、料金値上げの方向に向かう中にあって、イオンモバイルが料金を見直すなどして顧客1人当たりの単価を下げる施策に力を入れているのはなぜか。イオンリテールのイオンモバイル商品マネージャーである井原龍二氏は、「契約者の目的は安くしたいからだと思っている、安くならないと提供する意味がない」と答えている。
同社としては短期的な利益を得るよりも、長期間継続的にサービスを利用してもらうことを重視しているとのこと。そのためには、利用者に最適なプランを提案し、料金を見直してもらって顧客の満足度を高めることが重要と考えているようだ。
ただその一方で、イオンモバイルは楽天モバイルのように毎月の通信量に応じて料金が変化する段階制を導入せず、あえて選択肢を増やす一方で見直さなければ安くならない点は気になる。この点について井原氏は、「細かな料金の選択肢があるというより、自分の要領でプランを変えられること」の方が、顧客にメリットがあると説明している。
そしてこのイオンモバイルの料金設計からは、ビジネス面におけるイオンリテールの真の狙いも垣間見える。イオンモバイルはスマートフォンに詳しい人であれば、オンラインでいつでも料金プランを変更して見直すことができるが、そうでない人が料金を見直すには店舗に訪れる必要がある。実店舗があるイオンモバイルの契約者はその傾向が強いと考えられるし、スマホメンテナンスなど実店舗でないと利用できないサービスに力を入れるのはそのためだろう。
そして、イオンの主力事業がスーパーマーケットであることを考えると、顧客が店舗に訪れ、料金を見直すなどしたついでに買い物をしてもらうことがビジネス上非常に大きな意味を持ってくる。低価格の通信サービスを継続利用してもらい、都度見直してもらうことで顧客を店舗に呼ぶきっかけを作り、本業のビジネス拡大につなげたいというのが、「自動的に安くなる」のではなく「見直すと安くなる」ことに重きを置く理由だろう。
これはある意味、携帯各社のいわゆる「経済圏」ビジネスに近いものではあるのだが、全国に多数店舗を持って流通小売りというビジネスをしているイオングループでなければ実現し得ないものでもある。そうした独自の立ち位置を生かしながら、携帯各社が実現し得ない手段で顧客を拡大し、MVNOとしてより大きな存在感を打ち出せるかどうかも、今後注目されるところではないだろうか。