ウイルスを完全に除去できていれば…
豚の心臓を移植した初めての男性、死因は豚特有のウイルスだった可能性【Gadget Gate】
豚からの心臓移植を受けた初めての人物、デヴィッド・ベネット氏が亡くなった原因について、豚にのみ作用するウィルスのせいだった可能性があると、今週のMIT Technology Reviewが伝えている。
今年1月、米メリーランド大学で、豚の心臓を人間の患者に移植し成功したことが報じられた。この移植に用いられた心臓は、ひっ迫している移植需要に対応するため、異種動物の臓器を人体に移植可能にする研究開発をしているバイオテック企業のひとつ、Revivicorによって遺伝子組み替え操作が行われたものだった。
重い疾患のため余命わずかと診断されていたベネット氏にとって、通常の心臓移植の長い順番待ちは、とても間に合うものではなかった。八方塞がりのベネット氏は、米食品医薬品局(FDA)から特別な許可を得て、豚の心臓を移植する決断をしたとのこと。幸いにも手術は成功し、拒絶反応もほとんどなく容態が安定した。これは動物から人への異種臓器移植の成功例として、大きなマイルストーンになる出来事だった。
しかし手術から40日後、一転してベネット氏の容態は悪化。2か月が経過した3月に亡くなってしまった。メリーランド大学の広報担当者は「死亡の明らかな原因は特定されていない」と述べ、調査中としている。
そして今回、MIT Technology Reviewは、移植を担当したメリーランド大学医学部のバートリー・グリフィス氏が、米国移植学会のオンライン会議で心臓が豚サイトメガロウイルスとよばれるウイルスに感染していたと述べたと報じた。このウイルスは人の細胞には感染しないが、豚の臓器にはダメージを与える性質を持っている。
もし移植された心臓がこのウイルスに冒されていなければ、もっと長期にわたってベネット氏は生存できただろうとのこと。たとえばドイツで行われたヒヒへの移植実験では、ウイルスを持っていた心臓に比べて、ウイルスフリーの心臓のほうがはるかに長く機能したとされている。
ベネット氏に遺伝子操作済み心臓を提供したRevivicorも当然ウィルスがないことを確認していたものの、ベルリン自由大学のウイルス研究者であるヨアヒム・デナー氏いわく「この特殊なウイルスは検出するのが難しい」のだそう。
ベネット氏の心臓に、ウイルスがどの程度影響したかはまだよくわかっていないが、本当に拒絶反応ではなくウイルスが原因だとすれば、完全にウイルスを除去できるようにすれば良いため、遺伝子操作による異種移植適応という考え方自体は間違ってはいないと考えられる。
一方で、もしウイルスが人体への感染力を手に入れると、異種移植が原因のパンデミックを引き起こすかもしれないとの懸念もある。ニューヨーク大学の生命倫理学者アーサー・キャプラン氏は「もし医師が感染を防止できず、コントロールできなかったりするなら、このような実験を正当化するのは難しい」と警告した。
それでも、マサチューセッツ総合病院の移植感染症の専門家であるジェイ・フィッシュマン氏らは「人間に対する現実的なリスクはない」として、人への感染の可能性を否定している。
グリフィス医師はベネット氏への移植手術に関し「ベネット氏は生きることだけを願っていた、治療すべき患者であり、我々にとってこれは実験ではなかった」と述べた。そして手術は多くの「貴重な洞察」をもたらし、実施するだけの価値があったとしている。これにはベネット氏の息子も、3月のメリーランド大学の発表時に同様の感想を述べている。
Source: MIT Technology Review
via: The Guardian
※テック/ガジェット系メディア「Gadget Gate」を近日中にローンチ予定です。本稿は、そのプレバージョンの記事として掲載しています。
今年1月、米メリーランド大学で、豚の心臓を人間の患者に移植し成功したことが報じられた。この移植に用いられた心臓は、ひっ迫している移植需要に対応するため、異種動物の臓器を人体に移植可能にする研究開発をしているバイオテック企業のひとつ、Revivicorによって遺伝子組み替え操作が行われたものだった。
重い疾患のため余命わずかと診断されていたベネット氏にとって、通常の心臓移植の長い順番待ちは、とても間に合うものではなかった。八方塞がりのベネット氏は、米食品医薬品局(FDA)から特別な許可を得て、豚の心臓を移植する決断をしたとのこと。幸いにも手術は成功し、拒絶反応もほとんどなく容態が安定した。これは動物から人への異種臓器移植の成功例として、大きなマイルストーンになる出来事だった。
しかし手術から40日後、一転してベネット氏の容態は悪化。2か月が経過した3月に亡くなってしまった。メリーランド大学の広報担当者は「死亡の明らかな原因は特定されていない」と述べ、調査中としている。
そして今回、MIT Technology Reviewは、移植を担当したメリーランド大学医学部のバートリー・グリフィス氏が、米国移植学会のオンライン会議で心臓が豚サイトメガロウイルスとよばれるウイルスに感染していたと述べたと報じた。このウイルスは人の細胞には感染しないが、豚の臓器にはダメージを与える性質を持っている。
もし移植された心臓がこのウイルスに冒されていなければ、もっと長期にわたってベネット氏は生存できただろうとのこと。たとえばドイツで行われたヒヒへの移植実験では、ウイルスを持っていた心臓に比べて、ウイルスフリーの心臓のほうがはるかに長く機能したとされている。
ベネット氏に遺伝子操作済み心臓を提供したRevivicorも当然ウィルスがないことを確認していたものの、ベルリン自由大学のウイルス研究者であるヨアヒム・デナー氏いわく「この特殊なウイルスは検出するのが難しい」のだそう。
ベネット氏の心臓に、ウイルスがどの程度影響したかはまだよくわかっていないが、本当に拒絶反応ではなくウイルスが原因だとすれば、完全にウイルスを除去できるようにすれば良いため、遺伝子操作による異種移植適応という考え方自体は間違ってはいないと考えられる。
一方で、もしウイルスが人体への感染力を手に入れると、異種移植が原因のパンデミックを引き起こすかもしれないとの懸念もある。ニューヨーク大学の生命倫理学者アーサー・キャプラン氏は「もし医師が感染を防止できず、コントロールできなかったりするなら、このような実験を正当化するのは難しい」と警告した。
それでも、マサチューセッツ総合病院の移植感染症の専門家であるジェイ・フィッシュマン氏らは「人間に対する現実的なリスクはない」として、人への感染の可能性を否定している。
グリフィス医師はベネット氏への移植手術に関し「ベネット氏は生きることだけを願っていた、治療すべき患者であり、我々にとってこれは実験ではなかった」と述べた。そして手術は多くの「貴重な洞察」をもたらし、実施するだけの価値があったとしている。これにはベネット氏の息子も、3月のメリーランド大学の発表時に同様の感想を述べている。
Source: MIT Technology Review
via: The Guardian
※テック/ガジェット系メディア「Gadget Gate」を近日中にローンチ予定です。本稿は、そのプレバージョンの記事として掲載しています。