世界に出遅れる
5G元年の熱気に取り残される日本。バルセロナで感じた「無念」
スペイン・バルセロナで開催された携帯通信関連で世界最大の展示会となる「MWC19 Barcelona」が、2月28日に幕を閉じた。 “5G元年” に大きな盛り上がりをみせた本イベント、そこで発表されたスマートフォンの傾向を振り返ってみたい。
当初は世界的に2020年の開始が見込まれていた5Gの商用化が、1年前倒しになるということは伝えられていたものの、本当に5G対応スマホを2019年に購入できるのか懐疑的な方もいたと思う。筆者も今年のMWCに各社が発表した5G対応スマホを手にとり、完成度を確認するまでは、なかなか信じることができなかった。
■Galaxyの5Gスマホは欲しくなった
ところがサムスンがブースに展示した「Galaxy S10 5G」(関連ニュース)の完成度は思いのほか高く、本機を手に取った瞬間に「5G対応スマホが欲しいぞ」と強く思い始めた。
もっともそれは、本機が5G対応の部分を除いても魅力的な端末だからかもしれない。約6.7インチのQHD+(3,040×1,440)OLEDを搭載し、メインメモリは8GB、ストレージは256GBも搭載している。SoCはクアルコムのSnapdragon 855とサムスンのExynosを、地域によって分けて出し分けるようだ。
背面には3つのレンズを乗せたメインカメラがある。16MPのウルトラワイド、それぞれ12MPの標準と望遠だ。望遠レンズは2倍の光学手ブレ補正付ズームを搭載している。3つのレンズをカメラアプリのUIから切り替えて選択可能。動画撮影時にも背景をぼかして撮れる機能がある。フロント側は10MP・デュアルレンズの3D Depth Cameraだ。
フル画面デザインだが、カメラ部分にパンチ穴をあけたような部分がある。そして指紋認証センサーはディスプレイの中に仕込んだ超音波センサーだ。特徴を挙げれば切りがないが、何よりデザインの質感がリッチだ。
ボーダフォンのブースでは、バルセロナの街に4Kカメラと5Gの送信器を乗せた車を走らせて、5G通信網(Sub-6)を使ってMWC会場に動画ストリーミングするデモを実施。Galaxy S10 5Gをリファレンスにしながら、安定して動画を受信できる実力を証明してみせた。
■LGの5Gスマホは、アクセサリーを付けると2画面スマホにもなる
LGも5G対応のスマホ「V50 ThinQ 5G」を発表した(関連ニュース)。本機専用の「Dual Screen」アダプターを装着し、あたかも2つの画面を持つ “折りたたみスマホ” のような使い方ができる機能にスポットがあたりがちだが、本機も5Gの特徴とされている高速・低遅延・大容量を活かせるミリ波と、従来の4G LTEと高い互換性を持つsub-6の両方の電波をカバーするマルチバンド対応として万全の構えで登場する。
OLEDディスプレイは約6.4インチ。解像度がQHD+(3,120×1,440)で、アスペクト比が19.5対9になる。全画面ディスプレイデザインの中にカメラを配置するため、フロント上部にノッチがある。サウンドは英メリディアンがプロデュース。MQA対応のハイレゾスマホだ。本機も5G云々の前に、まずスマホとしての完成度が高く、物欲をそそられる。
■クアルコムのブースに5G対応スマホが集結した
両機に5G対応モバイル向けプラットフォームを提供しているのが米クアルコムだ。SoC「Snapdragon 855 Mobile Platform」にモデムICの「X50 5G」、ミリ波対応アンテナモジュール「QTM052」を組み合わせている。
同じようにクアルコムの5Gプラットフォームを採用したメーカーであるファーウェイ、OPPO、シャオミ、ZTE、OnePlusが5G対応スマホを年内に、5G商用サービスを提供するキャリア向けに発売することを表明している。
これらの5Gスマホが発売されたらぜひ使ってみたいと思うのは、スマホあるいはガジェットファンなら当然の反応だと思うのだが、残念ながら日本で5Gの商用サービスが始まるのはまだ少し先なので、スマホも同様と見た方が良さそうだ。
大手通信キャリアのNTTドコモも本格的な運用開始は2020年としており、2019年に実施するのはプレサービス段階に止まりそうだ。
それどころか日本では、4月まで通信キャリアが使える5Gの周波数の割り当てが決まらない。プレサービスも秋頃の開始になる見込みと言われている。そこで得られた成果をもとに調整が入り、本格運用が東京オリンピックまでに急ピッチで行われるということになるのだろうか。
■日本が5Gで世界に出遅れる意味
Snapdragon 855 Mobile Platformは4G LTE通信にも対応するマルチモードモデムを内蔵しており、各社が発売する5G端末をとりあえず買ったユーザーも、普通にLTEの携帯通信ネットワークに接続して使うことになる。
だったら今の通信速度で十分に満足できているのだから、無理して現段階で5G対応のスマホを買う必要はないという判断も納得できる。日本に多くのファンを持つソニーモバイルのXperiaが、MWCで5G対応の商品発表を行わなかった背景には、日本の状況を考慮したこともあるのかもしれない。
日本がこの5G元年の熱気に様々な場面で取り残されていることを、MWCに来て肌で実感し、とても残念に思った。5Gスマホを発表した各社のイベント、ブースの展示に足を運んでも、「きっと日本では、今年はまだ出てこないのだろうな」と思いながら取材していると、どうしてもモチベーションが上がってこなかった。
かつて「コンテンツがないのに、そんなテレビが売れるはずもない」と言われた4Kは、日本のテレビメーカーが積極的に商品開発を加速させたことで、今の市場をリードしている。こういったことを考え合わせたら、日本も5Gの波にうまく乗る方法はいくらでもあったのではないかと思う。
例えば5G通信機能はアップデート後の対応にして、取りあえず5G対応スマホを日本でも売ってしまうことはできないだろうか。5Gの早期到来を望む一般コンシューマーの気持ちを盛り上げることぐらいできそうに思うのだが。
新しい技術やライフスタイルにいち早く飛びつき、ルールを柔軟に適用させる欧州や中国の人々のメンタリティが、5Gでは良い方向に結びついたと思う。MWCの会場で見かける「5Gの新提案」は今のところどのカテゴリも似たり寄ったりではあったが、机上の空論や社内実験に止まらず、ユーザーの手もとに晒されて得られた “生きた経験値” が、今後各社の第2・第3世代の5G端末に大いに活かされることになるだろう。その頃の新製品は、もしかすると日本人の期待とはかけ離れた方向に進化する可能性もある。最先端から取り残された日本の行く末が心配だ。
■折り曲げ・複眼カメラ・UI革命
さて、5Gの話題に終始してしまいそうになったが、ほかにもMWC19にはいくつかの面白いスマホがあったので、ざっと紹介したいと思う。
“折りまげ” スマホは先にお伝えしたファーウェイの「Mate X」(関連記事)のほか、サムスンが「Galaxy Fold」を発表しているが、こちらは残念ながらガラスケースの中に置かれているだけで触れなかった。
カメラはメイン・フロントともに “複眼化” が一気に進んだ。それを力強く牽引しているのがサムスンだが、日本にもきっと上陸するだろう「Galaxy S10+」のメインがトリプル、フロントがデュアルという豪華なカメラは画質も良さそうだ。ぜひ使ってみたい。
極めつけはノキアの「Nokia 9 PureView」だ。なんとメイン側が5カメラ。フラッシュやセンサーも合わせて7つのピンホールがリボルバー状に配置されている。ある種の恐怖症の方にとってはちょっと怖いデザインかも。でも、カメラのレンズがカール・ツァイス製であるところに要注目。写真の画質はイメージセンサーだけでなくレンズの出来映えで決まる部分も大きいので、発売されたら欧州のどこかで一度じっくりと使ってみたいものだ。
そして最後に紹介する端末は、ふたたびLG。ハンドジェスチャー操作に対応したフロント側の「Z Camera」をのせた「LG G8 ThinQ」だ(関連ニュース)。パネル側に向かって手をかざすと、1秒ぐらいで独自のUIが立ち上がり、かざした手を左右にスワイプ・回転して音楽再生をコントロールしたり、指先を絞ってカメラのシャッターを切るなどの直感的な操作ができるのだ。
いまのところ揃っているジェスチャー対応の操作は、なんということのない、「手で操作した方が速いのでは」と思ってしまうようなものだが、今後できることがさらに追加されていくことは十分考えられる。さらに将来、LG Gシリーズが搭載するThinQ AIエンジンのオンデバイス処理性能が充実して、Z Cameraも現在のターゲットである10〜15cm以内のジェスチャー操作のセンシング範囲を飛び越えてきたら、予想も付かないUI革命が起きるかもしれない。そんなことを期待させてくれる端末だった。
(山本 敦)
当初は世界的に2020年の開始が見込まれていた5Gの商用化が、1年前倒しになるということは伝えられていたものの、本当に5G対応スマホを2019年に購入できるのか懐疑的な方もいたと思う。筆者も今年のMWCに各社が発表した5G対応スマホを手にとり、完成度を確認するまでは、なかなか信じることができなかった。
■Galaxyの5Gスマホは欲しくなった
ところがサムスンがブースに展示した「Galaxy S10 5G」(関連ニュース)の完成度は思いのほか高く、本機を手に取った瞬間に「5G対応スマホが欲しいぞ」と強く思い始めた。
もっともそれは、本機が5G対応の部分を除いても魅力的な端末だからかもしれない。約6.7インチのQHD+(3,040×1,440)OLEDを搭載し、メインメモリは8GB、ストレージは256GBも搭載している。SoCはクアルコムのSnapdragon 855とサムスンのExynosを、地域によって分けて出し分けるようだ。
背面には3つのレンズを乗せたメインカメラがある。16MPのウルトラワイド、それぞれ12MPの標準と望遠だ。望遠レンズは2倍の光学手ブレ補正付ズームを搭載している。3つのレンズをカメラアプリのUIから切り替えて選択可能。動画撮影時にも背景をぼかして撮れる機能がある。フロント側は10MP・デュアルレンズの3D Depth Cameraだ。
フル画面デザインだが、カメラ部分にパンチ穴をあけたような部分がある。そして指紋認証センサーはディスプレイの中に仕込んだ超音波センサーだ。特徴を挙げれば切りがないが、何よりデザインの質感がリッチだ。
ボーダフォンのブースでは、バルセロナの街に4Kカメラと5Gの送信器を乗せた車を走らせて、5G通信網(Sub-6)を使ってMWC会場に動画ストリーミングするデモを実施。Galaxy S10 5Gをリファレンスにしながら、安定して動画を受信できる実力を証明してみせた。
■LGの5Gスマホは、アクセサリーを付けると2画面スマホにもなる
LGも5G対応のスマホ「V50 ThinQ 5G」を発表した(関連ニュース)。本機専用の「Dual Screen」アダプターを装着し、あたかも2つの画面を持つ “折りたたみスマホ” のような使い方ができる機能にスポットがあたりがちだが、本機も5Gの特徴とされている高速・低遅延・大容量を活かせるミリ波と、従来の4G LTEと高い互換性を持つsub-6の両方の電波をカバーするマルチバンド対応として万全の構えで登場する。
OLEDディスプレイは約6.4インチ。解像度がQHD+(3,120×1,440)で、アスペクト比が19.5対9になる。全画面ディスプレイデザインの中にカメラを配置するため、フロント上部にノッチがある。サウンドは英メリディアンがプロデュース。MQA対応のハイレゾスマホだ。本機も5G云々の前に、まずスマホとしての完成度が高く、物欲をそそられる。
■クアルコムのブースに5G対応スマホが集結した
両機に5G対応モバイル向けプラットフォームを提供しているのが米クアルコムだ。SoC「Snapdragon 855 Mobile Platform」にモデムICの「X50 5G」、ミリ波対応アンテナモジュール「QTM052」を組み合わせている。
同じようにクアルコムの5Gプラットフォームを採用したメーカーであるファーウェイ、OPPO、シャオミ、ZTE、OnePlusが5G対応スマホを年内に、5G商用サービスを提供するキャリア向けに発売することを表明している。
これらの5Gスマホが発売されたらぜひ使ってみたいと思うのは、スマホあるいはガジェットファンなら当然の反応だと思うのだが、残念ながら日本で5Gの商用サービスが始まるのはまだ少し先なので、スマホも同様と見た方が良さそうだ。
大手通信キャリアのNTTドコモも本格的な運用開始は2020年としており、2019年に実施するのはプレサービス段階に止まりそうだ。
それどころか日本では、4月まで通信キャリアが使える5Gの周波数の割り当てが決まらない。プレサービスも秋頃の開始になる見込みと言われている。そこで得られた成果をもとに調整が入り、本格運用が東京オリンピックまでに急ピッチで行われるということになるのだろうか。
■日本が5Gで世界に出遅れる意味
Snapdragon 855 Mobile Platformは4G LTE通信にも対応するマルチモードモデムを内蔵しており、各社が発売する5G端末をとりあえず買ったユーザーも、普通にLTEの携帯通信ネットワークに接続して使うことになる。
だったら今の通信速度で十分に満足できているのだから、無理して現段階で5G対応のスマホを買う必要はないという判断も納得できる。日本に多くのファンを持つソニーモバイルのXperiaが、MWCで5G対応の商品発表を行わなかった背景には、日本の状況を考慮したこともあるのかもしれない。
日本がこの5G元年の熱気に様々な場面で取り残されていることを、MWCに来て肌で実感し、とても残念に思った。5Gスマホを発表した各社のイベント、ブースの展示に足を運んでも、「きっと日本では、今年はまだ出てこないのだろうな」と思いながら取材していると、どうしてもモチベーションが上がってこなかった。
かつて「コンテンツがないのに、そんなテレビが売れるはずもない」と言われた4Kは、日本のテレビメーカーが積極的に商品開発を加速させたことで、今の市場をリードしている。こういったことを考え合わせたら、日本も5Gの波にうまく乗る方法はいくらでもあったのではないかと思う。
例えば5G通信機能はアップデート後の対応にして、取りあえず5G対応スマホを日本でも売ってしまうことはできないだろうか。5Gの早期到来を望む一般コンシューマーの気持ちを盛り上げることぐらいできそうに思うのだが。
新しい技術やライフスタイルにいち早く飛びつき、ルールを柔軟に適用させる欧州や中国の人々のメンタリティが、5Gでは良い方向に結びついたと思う。MWCの会場で見かける「5Gの新提案」は今のところどのカテゴリも似たり寄ったりではあったが、机上の空論や社内実験に止まらず、ユーザーの手もとに晒されて得られた “生きた経験値” が、今後各社の第2・第3世代の5G端末に大いに活かされることになるだろう。その頃の新製品は、もしかすると日本人の期待とはかけ離れた方向に進化する可能性もある。最先端から取り残された日本の行く末が心配だ。
■折り曲げ・複眼カメラ・UI革命
さて、5Gの話題に終始してしまいそうになったが、ほかにもMWC19にはいくつかの面白いスマホがあったので、ざっと紹介したいと思う。
“折りまげ” スマホは先にお伝えしたファーウェイの「Mate X」(関連記事)のほか、サムスンが「Galaxy Fold」を発表しているが、こちらは残念ながらガラスケースの中に置かれているだけで触れなかった。
カメラはメイン・フロントともに “複眼化” が一気に進んだ。それを力強く牽引しているのがサムスンだが、日本にもきっと上陸するだろう「Galaxy S10+」のメインがトリプル、フロントがデュアルという豪華なカメラは画質も良さそうだ。ぜひ使ってみたい。
極めつけはノキアの「Nokia 9 PureView」だ。なんとメイン側が5カメラ。フラッシュやセンサーも合わせて7つのピンホールがリボルバー状に配置されている。ある種の恐怖症の方にとってはちょっと怖いデザインかも。でも、カメラのレンズがカール・ツァイス製であるところに要注目。写真の画質はイメージセンサーだけでなくレンズの出来映えで決まる部分も大きいので、発売されたら欧州のどこかで一度じっくりと使ってみたいものだ。
そして最後に紹介する端末は、ふたたびLG。ハンドジェスチャー操作に対応したフロント側の「Z Camera」をのせた「LG G8 ThinQ」だ(関連ニュース)。パネル側に向かって手をかざすと、1秒ぐらいで独自のUIが立ち上がり、かざした手を左右にスワイプ・回転して音楽再生をコントロールしたり、指先を絞ってカメラのシャッターを切るなどの直感的な操作ができるのだ。
いまのところ揃っているジェスチャー対応の操作は、なんということのない、「手で操作した方が速いのでは」と思ってしまうようなものだが、今後できることがさらに追加されていくことは十分考えられる。さらに将来、LG Gシリーズが搭載するThinQ AIエンジンのオンデバイス処理性能が充実して、Z Cameraも現在のターゲットである10〜15cm以内のジェスチャー操作のセンシング範囲を飛び越えてきたら、予想も付かないUI革命が起きるかもしれない。そんなことを期待させてくれる端末だった。
(山本 敦)