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高音質ディスク“ダイレクトカットSACD”を聴く

【第1回】 エド・デ・ワールト指揮/ワーグナー「管弦楽曲集 II」

公開日 2008/11/11 14:57 山之内 正
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■音の実体感・楽器の存在感が明らかに増している

ワーグナー「管弦楽曲集 II」
エド・デ・ワールト(指揮)
オランダ放送フィルハーモニー管弦楽団

収録曲:『ワルキューレ』よりワルキューレの騎行
歌劇『リエンツィ』序曲
楽劇『ニュルンベルクのマイスタージンガー』第3幕への前奏曲 ほか
[CD&SACD] OVXL-00033
定価:¥20,000(税込)
録音:2004年8月
於:2004年8月オランダ、ヒルヴェルサム MCOスタジオ
DSDレコーディング



オランダ放送フィルとデ・ワールトのワーグナー管弦楽曲集は通常のハイブリッド盤でもオーケストラの彫りの深い立体的な響きが際立っていたが、同じ音源を「ダイレクトカットSACD」のSACD 2chエリアで聴くと、その立体感に加えて音の実体感、楽器の存在感が明らかに増していることに気付く。弦楽器、管楽器いずれも音が出る瞬間に漲るエネルギーのテンションが高く、それが一気に解放されて音が空気中にリリースされたときの初速が大きいのである。指揮者が「もっとアタックをはっきり!」と指示を出した後に演奏家が出す音が、最初から聴けると表現すればわかりやすいかもしれない。どんな楽器も音が出る瞬間には大きなエネルギーが蓄えられていて、いったん音が出た後はそれがゆっくりと減衰していく。その差が自然な範囲のなかではっきりと聴き取れる演奏は優れた演奏であり、優秀な録音ということができる。

『ワルキューレの騎行』と『リエンツィ』序曲を聴くと、このオーケストラの金管楽器群のハーモニーの正確さと音色の豊かさにあらためて感心させられる。重々しい厚みと響きの見通しの良さが両立するだけでも凄いことだが、それだけで驚いてはいけない。弦楽器の腕の確かさも驚異的なものがある。オーケストラ全員がフォルテを弾くとき、このフレーズだけはどう頑張っても金管や打楽器の音圧に負けて埋没してしまうという箇所が何カ所かあるのだが、この録音を「ダイレクトカットSACD」で聴くと、埋もれていたと思っていた音が聴き取れてしまう。特に、ヴィオラやコントラバスなど、響きを支える役割が多い楽器を弾いている奏者はこの違いをすぐに聴き分けるはずだ。『マイスタージンガー』の第3幕への前奏曲冒頭のように、弦楽器の音色や和音のバランスが本来の響きを取り戻していると思われる箇所もある。このオーケストラの弦楽器ならこの柔らかい音色の方が正解だろうと想像できるのだ。

第2回目となる次回は、アシュケナージ/モーツァルト「ピアノ協奏曲第17番・第20番」の試聴レポートをお送りします

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