新製品スペシャルインタビュー
徹底した“素材主義”を貫いて完成した、ソニーのフラッグシップヘッドホン「MDR-Z1000」に迫る
MDR-Z1000は、まさに素材において贅を尽くしたフラッグシップモデルだ。ただし、若干値が張る製品であることも事実だ。筆者が調査したところ、2010年10月現在でMDR-Z1000の予約価格は4万9800円前後だった。そこで、すでに発売済みの下位モデル「MDR-ZX700」(メーカー希望小売価格:12,390円・税込/市場実売価格9,980円前後)との違いを角田氏に伺った。
━━ MDR-Z1000とMDR-ZX700はどのように違う製品なのでしょうか。ユーザーはどのように選び分けをすればよいでしょうか。
角田氏:MDR-Z1000はあくまでもプロフェッショナル向けの製品です。繰り返しになりますが、これは音楽の制作現場の方が原音を忠実に再現するために設計した製品です。ミュージシャンが、自分がどんな音でプレイしているのか、エフェクターの効果はどれぐらいあるか、などの確認をするために使用していただくことを想定しています。ですから、音源の再現性を最優先した結果、この価格になっています。
一方、MDR-ZX700が目指したのは、プロ向けのモニターサウンドの音質を幅広いお客様に感じていただきたい、というコンセプトで開発しました。しかし、プロユースと同じにすると、音の輪郭などがわかりすぎて、聴き疲れする場合もあります。そこで、モニターサウンドの良さを残しつつ、ハイファイサウンドタイプのヘッドホンのように、音楽を楽しめるように設計しました。
━━ サウンドキャラクターにはどのような違いがありますか。
角田氏:MDR-ZX700のほうが、MDR-Z1000よりも、音場が広く感じるように設計しています。MDR-Z1000と比べると、すこしだけ遠くから音が聞こえる感じですね。MDR-Z1000の音をステージ上のサウンドだとしたら、MDR-ZX700はステージの最前列で聴くライブの音、それぐらいの違いです。音の傾向としてMDR-Z1000の下位モデルというなら、現行機種のMDR-Z900HDが音場のイメージは近いと思います。ちなみにハイファイヘッドホンは、コンサートホールの中央で聴く音というイメージです。
どちらのモデルを選ぶかという点については、最後は好みですから、試聴していただいて決めていただくのが一番です。あとは購入される方が音楽とどのように関わっているか、ということが重要だと思います。音源の細かな違いを聞き分けなければならないならMDR-Z1000を、音の解像感だけでなく少しリラックスして音楽を聴くなら、MDR-ZX700というように選んいただくのがいいかもしれません。
短時間ではあったが、筆者がこの2製品を聴き比べた感想を付け加えておこう。実際に試聴してみるとMDR-Z1000は、驚くほど楽器の音色の輪郭をしっかり把握でき、音の立ち上がりも速やかだ。ドラムを連打するような曲だと、一打一打を必死に打ち込むドラマーの姿が目に浮かぶようだった。これまでのヘッドホンだと、連打部分が団子になっていたことにあらためて気づかされた。ボーカルにおいては、繊細なビブラートが明確に感じられ驚かされた。これまでのヘッドホンがテレビのSD放送だとしたら、MDR-Z1000のサウンドはBS-hiのハイビジョン番組のごとき解像感でサウンドが耳に飛び込んでくる。
ただ、この繊細で忠実な再現力も時には仇になることもあように感じた。記録状態の悪いCDだと、処理の粗さが感じられ、とてもいがらっぽい音になることがあった。解像感がしっかりしているだけに、耳障りが悪く、1曲で聴き疲れしそうだった。一方SACDなど、リッチな情報を備えるソフトであればそういったネガティブな印象は払拭され、リアリティのある音が実感できた。
一方のMDR-ZX700は、同価格帯の機種に比べると音域が広く、解像感も高い。高音は伸びやかで、清々しい音なのだが…、MDR-Z1000のサウンドと比べると凡庸に感じられた。一番の違いはドラムの立ち上がりで、MDR-Z1000と比べると団子になっている。同じサイズのドライバーユニットを使っているのだが、このあたりが液晶ポリマーとPP製ドライバーの違い、ケーブルやマグネシウムハウジングの効果という事だろう。装着感は満点だった。MDR-Z1000と同じ、新開発ノイズアイソレーションイヤーパッドを使用するので、耳周りに適度に添い、快適な装着感だった。遮音性にも優れるので、つけ心地にこだわる方にはぜひ試していただきたい。
聴き比べをしてしまうと、MDR-Z1000は類い希な再生能力を備えていることを実感できた。このサウンドを手に入れるには、せっせと小遣いを貯めないといけないかと思うと、少し腹立たしさを感じるぐらいの実力だ。MDR-ZX700も優秀だが、これはまったくの別物なので、MDR-Z1000のサウンドに魅力を感じたなら、妥協はせずに予算の確保に奔走したほうがいいだろう。
◆筆者プロフィール 鈴木桂水
元産業用ロボットメーカーの開発、設計担当を経て、現在はAV機器とパソコン周辺機器を主に扱うフリーライター。テレビ番組表を日夜分析している自称「テレビ番組表アナリスト」でもある。ユーザーの視点と元エンジニアの直感を頼りに、使いこなし系のコラムを得意とする。そのほかAV機器の情報雑誌などで執筆中。