注目製品レポート
ビクターの新D-ILAプロジェクター「DLA-X3」徹底視聴 − 2D/3D映像の画質に大橋伸太郎が迫る
独自開発のD-ILAデバイスを採用した、ビクターのD-ILAプロジェクター「DLA-X3」を大橋伸太郎氏がレビューする。3D対応を実現した新“Xシリーズ”のスタンダードモデルの画質を2D/3Dともに徹底視聴した。
■上位機譲りの豊富な画質調整機能を搭載
自宅視聴室にDLA-X3がやって来た。箱から取り出して視聴環境にセットアップしてみると、前世代機から一転、あえてコンパクトなデザインを狙わずセンターレンズに戻した筐体の大きさを実感する。画質モードはフィルム/シネマ/アニメーション/ナチュラル/ステージ/3Dのほかに、ユーザーカスタムの登録は1/2/3の3件が登録できる。上位機DLA-X7が採用するXenonランプのシュミレーションモードは搭載していない。今回2D映画は「フィルム」モードを選び、画質調整はガンマ/ノーマル、コントラスト/10、明るさ/2、色の濃さ/-2、アドバンスド調整に入り、アパチャー/-9、ClearMotionDrive/オフで視聴した。スクリーン上の黒浮きを調整する「黒レベル」は映像調整でなく「設置」の項目内にある。本機の画質を使用中のスクリーンと一致させる「スクリーン補正モード」は、本機の場合、A/B/C/OFFで選べる。取説には記載がないが、前モデルDLA-HD950と設定が同じなのでビクターのホームページの対応表で確認するといい。今回は「B」で見た。なお筆者の使用するスクリーンはキクチのスーパーグレインビーズ「PRO120インチ(4対3)」、再生機はパナソニック「DMR-BWT3100」である。
2D映像のハイビジョンテストディスク映像(ノーマル)は、明るくキレがあり遠近表現の立体感に進境がある。暗部の階調は豊富で、東京タワーの空撮の低層ビルの見通しがよく立体感が豊か。果実の色相差も一様にならず描き分ける。ホワイトイメージの磁器、ミルク、ナプキン、ランチョンマットの白のバリエーションもいい。舞妓の(紅、緋、朱)の赤の描き分けも巧みだ。岩肌は立体的だがややざらついて赤にシフト。竹林はビデオノイズが少ないが、女性モデルのアップはわずかながらにざらつく感がある。明るさと鮮鋭感を前面に出した設定なので上位機ほどの細やかさがないが、これが次に詳しく紹介する3D再生の段で大きな武器になった。
■3D映像も明るく色彩感が豊か
注目の3D映像をみる。トランスミッターとメガネは別売りで本体との接続はDIN風のマルチピン端子で行う。メガネは誤動作がなく的確に3D視聴状態に入る。ランプモードは「高」にした。他の設定はガンマ/B(下を持ち上げて明るく設定)、コントラスト/40、明るさ/3、色温度はデフォルトの8500k。写真の通り、テーブルトップの仰角投射なのでビーズスクリーンの回帰特性も発揮され目いっぱい明るい映像になった。
視聴したBlu-ray 3Dタイトルは『クリスマス・キャロル』と『ポーラー・エクスプレス』である。結論から言うとDLA-X3の3Dは大変よくできている。二作品合計3時間強を一度も3Dメガネを外さず一息に見た。こんな3Dは初めてだ。二重像はシーンによって多少出るがフリッカーがほとんどなく、明るさの余裕を活かして色域の幅の狭いどんより暗い映像にならず、ちゃんと映画本来の色彩バランスが保たれている。メガネを外すとむちゃくちゃ明るい。この明るさの余裕あっての快適3Dである。『クリスマス・キャロル』は実写ベース(パフォーマンス・キャプチャー)のアニメで極端な立体構図は狙わず、奥行き中心の穏やかな遠近表現。スクルージがロンドン上空から落下するシーンや、クリスマスの精霊と空を飛ぶシーンは3D効果の好素材だが、あまり飛び出しを狙っていない。3Dとの奥行き感を活かした物語空間が狙いの、完成度の高い3D映像だが、暗いナイトシーンが多いのに3Dを前提に色彩設計とバランスがよく考えられ、最後までメガネを外そうという気にならなかった。
もう一本の『ポーラー・エクスプレス』は2004年製作とやや古く、対照的に前方への飛び出し効果を優先したパースペクティブの急峻な映像が続出するが、やはりナイトシーンや車室シーンが多いのに、映像は暗く濁らずキレがあり、色彩バランスも良好。二重像など不整合もよく抑えられている。視聴中、偶然娘が学校から帰宅し視聴室に入って来た。2個あった3Dメガネを目ざとく見つけ、掛けた瞬間に歓声を上げた。それくらい、カンタンかつ説得力豊かな3D映像である。3DのガンマはA/Bから選べ、Bが低域中心に明るく持ち上がる。立体効果の強弱のパラメーターはない。
順序が前後するが、2D映画は、『グラン・ブルー完全版 −デジタル・レストアバージョン−』、『つぐない』、『NINE』、『エイリアン・アンソロジー』を見た。本機の特長は明るさばかりでない。D-ILAらしく黒の表現も優れ、GBの海中シーンは黒浮きがなく漆黒が表現、原画の赤浮きが飽和せず抑えられてフィルム画質のD-ILAに恥じない。『つぐない』は映像の立体感、色彩のキレがある。カラーモード「シネマ」と「フィルム」では色温度が500度違うが、色温度が下がっても女優の肌が過度に赤くならないのがいい。「フィルム」はややガンマの下(低域)が寝て重厚な映像なので、大人を見つめる少女の悲しくもイノセントな世界観が映像のトーンに反映されるこの作品の序盤は、「シネマ」の方が良いかもしれない。
『NINE』のマリオン・コティアールが歌うシーンの二色の光線描写は的確。『エイリアン』第一作はハイビジョン化で暗部階調とノイズが地道に改善されているのだが、明るさのパワーが有り余るDLA-X3は「フィルム」だとコトラストがドンシャリになり、字幕やハイライトが眩しく感じられるが、コントラスト、明るさをかなり下げて見ると、最果て宇宙の悪夢の寂寥感ある映像が楽しめる。明るさ、パワー、コントラストレンジのトータルでついに満足のいく3D大画面が出現した。Blu-ray 3Dの再生は投射型プロジェクターが本命になるのではと実感した。これからが楽しみだ。
【SPEC】●表示デバイス:フルハイビジョン対応D-ILA デバイス ●パネルサイズ:0.7インチ×3(16:9) ●解像度:1920×1080 ●レンズ:2倍電動ズーム・フォーカスレンズ ●レンズシフト:上下80%、左右34% ●投影サイズ:60インチ〜200インチ ●光源ランプ:220W超高圧水銀ランプ ●輝度:1,300lm ●コントラスト:50,000対1 ●ビデオ入力端子:HDMI×2、コンポーネント1、トリガー端子、RS-232C、リモート端子、3Dシンクロ ●騒音レベル:20dB(ランプ標準モード時) ●消費電力:350W(スタンバイ時0.9W) ●外形寸法:455W×179H×472Dmm ●質量:14.7kg ●問い合わせ先:日本ビクター お客様ご相談センター TEL/0120-2828-17
大橋伸太郎 プロフィール
1956 年神奈川県鎌倉市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。フジサンケイグループにて、美術書、児童書を企画編集後、(株)音元出版に入社、1990年『AV REVIEW』編集長、1998年には日本初にして現在も唯一の定期刊行ホームシアター専門誌『ホームシアターファイル』を刊行した。ホームシアターのオーソリティとして講演多数。2006年に評論家に転身。
■上位機譲りの豊富な画質調整機能を搭載
自宅視聴室にDLA-X3がやって来た。箱から取り出して視聴環境にセットアップしてみると、前世代機から一転、あえてコンパクトなデザインを狙わずセンターレンズに戻した筐体の大きさを実感する。画質モードはフィルム/シネマ/アニメーション/ナチュラル/ステージ/3Dのほかに、ユーザーカスタムの登録は1/2/3の3件が登録できる。上位機DLA-X7が採用するXenonランプのシュミレーションモードは搭載していない。今回2D映画は「フィルム」モードを選び、画質調整はガンマ/ノーマル、コントラスト/10、明るさ/2、色の濃さ/-2、アドバンスド調整に入り、アパチャー/-9、ClearMotionDrive/オフで視聴した。スクリーン上の黒浮きを調整する「黒レベル」は映像調整でなく「設置」の項目内にある。本機の画質を使用中のスクリーンと一致させる「スクリーン補正モード」は、本機の場合、A/B/C/OFFで選べる。取説には記載がないが、前モデルDLA-HD950と設定が同じなのでビクターのホームページの対応表で確認するといい。今回は「B」で見た。なお筆者の使用するスクリーンはキクチのスーパーグレインビーズ「PRO120インチ(4対3)」、再生機はパナソニック「DMR-BWT3100」である。
2D映像のハイビジョンテストディスク映像(ノーマル)は、明るくキレがあり遠近表現の立体感に進境がある。暗部の階調は豊富で、東京タワーの空撮の低層ビルの見通しがよく立体感が豊か。果実の色相差も一様にならず描き分ける。ホワイトイメージの磁器、ミルク、ナプキン、ランチョンマットの白のバリエーションもいい。舞妓の(紅、緋、朱)の赤の描き分けも巧みだ。岩肌は立体的だがややざらついて赤にシフト。竹林はビデオノイズが少ないが、女性モデルのアップはわずかながらにざらつく感がある。明るさと鮮鋭感を前面に出した設定なので上位機ほどの細やかさがないが、これが次に詳しく紹介する3D再生の段で大きな武器になった。
■3D映像も明るく色彩感が豊か
注目の3D映像をみる。トランスミッターとメガネは別売りで本体との接続はDIN風のマルチピン端子で行う。メガネは誤動作がなく的確に3D視聴状態に入る。ランプモードは「高」にした。他の設定はガンマ/B(下を持ち上げて明るく設定)、コントラスト/40、明るさ/3、色温度はデフォルトの8500k。写真の通り、テーブルトップの仰角投射なのでビーズスクリーンの回帰特性も発揮され目いっぱい明るい映像になった。
視聴したBlu-ray 3Dタイトルは『クリスマス・キャロル』と『ポーラー・エクスプレス』である。結論から言うとDLA-X3の3Dは大変よくできている。二作品合計3時間強を一度も3Dメガネを外さず一息に見た。こんな3Dは初めてだ。二重像はシーンによって多少出るがフリッカーがほとんどなく、明るさの余裕を活かして色域の幅の狭いどんより暗い映像にならず、ちゃんと映画本来の色彩バランスが保たれている。メガネを外すとむちゃくちゃ明るい。この明るさの余裕あっての快適3Dである。『クリスマス・キャロル』は実写ベース(パフォーマンス・キャプチャー)のアニメで極端な立体構図は狙わず、奥行き中心の穏やかな遠近表現。スクルージがロンドン上空から落下するシーンや、クリスマスの精霊と空を飛ぶシーンは3D効果の好素材だが、あまり飛び出しを狙っていない。3Dとの奥行き感を活かした物語空間が狙いの、完成度の高い3D映像だが、暗いナイトシーンが多いのに3Dを前提に色彩設計とバランスがよく考えられ、最後までメガネを外そうという気にならなかった。
もう一本の『ポーラー・エクスプレス』は2004年製作とやや古く、対照的に前方への飛び出し効果を優先したパースペクティブの急峻な映像が続出するが、やはりナイトシーンや車室シーンが多いのに、映像は暗く濁らずキレがあり、色彩バランスも良好。二重像など不整合もよく抑えられている。視聴中、偶然娘が学校から帰宅し視聴室に入って来た。2個あった3Dメガネを目ざとく見つけ、掛けた瞬間に歓声を上げた。それくらい、カンタンかつ説得力豊かな3D映像である。3DのガンマはA/Bから選べ、Bが低域中心に明るく持ち上がる。立体効果の強弱のパラメーターはない。
順序が前後するが、2D映画は、『グラン・ブルー完全版 −デジタル・レストアバージョン−』、『つぐない』、『NINE』、『エイリアン・アンソロジー』を見た。本機の特長は明るさばかりでない。D-ILAらしく黒の表現も優れ、GBの海中シーンは黒浮きがなく漆黒が表現、原画の赤浮きが飽和せず抑えられてフィルム画質のD-ILAに恥じない。『つぐない』は映像の立体感、色彩のキレがある。カラーモード「シネマ」と「フィルム」では色温度が500度違うが、色温度が下がっても女優の肌が過度に赤くならないのがいい。「フィルム」はややガンマの下(低域)が寝て重厚な映像なので、大人を見つめる少女の悲しくもイノセントな世界観が映像のトーンに反映されるこの作品の序盤は、「シネマ」の方が良いかもしれない。
『NINE』のマリオン・コティアールが歌うシーンの二色の光線描写は的確。『エイリアン』第一作はハイビジョン化で暗部階調とノイズが地道に改善されているのだが、明るさのパワーが有り余るDLA-X3は「フィルム」だとコトラストがドンシャリになり、字幕やハイライトが眩しく感じられるが、コントラスト、明るさをかなり下げて見ると、最果て宇宙の悪夢の寂寥感ある映像が楽しめる。明るさ、パワー、コントラストレンジのトータルでついに満足のいく3D大画面が出現した。Blu-ray 3Dの再生は投射型プロジェクターが本命になるのではと実感した。これからが楽しみだ。
【SPEC】●表示デバイス:フルハイビジョン対応D-ILA デバイス ●パネルサイズ:0.7インチ×3(16:9) ●解像度:1920×1080 ●レンズ:2倍電動ズーム・フォーカスレンズ ●レンズシフト:上下80%、左右34% ●投影サイズ:60インチ〜200インチ ●光源ランプ:220W超高圧水銀ランプ ●輝度:1,300lm ●コントラスト:50,000対1 ●ビデオ入力端子:HDMI×2、コンポーネント1、トリガー端子、RS-232C、リモート端子、3Dシンクロ ●騒音レベル:20dB(ランプ標準モード時) ●消費電力:350W(スタンバイ時0.9W) ●外形寸法:455W×179H×472Dmm ●質量:14.7kg ●問い合わせ先:日本ビクター お客様ご相談センター TEL/0120-2828-17
大橋伸太郎 プロフィール
1956 年神奈川県鎌倉市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。フジサンケイグループにて、美術書、児童書を企画編集後、(株)音元出版に入社、1990年『AV REVIEW』編集長、1998年には日本初にして現在も唯一の定期刊行ホームシアター専門誌『ホームシアターファイル』を刊行した。ホームシアターのオーソリティとして講演多数。2006年に評論家に転身。