開発担当者に聞く新サービスのコンセプト
ソーシャルメディアのパワーを活かした新しいテレビ体験 − 「TVRoll.jp」を折原一也が試す
前半では「TVRoll.jp」の開発担当者を訊ねて、サービスの企画・開発意図を探った。後半は「TVRoll.jp」の「β版」と「ARecX6」のハンドリングレポートをお伝えしよう。なお、先にお伝えしたように、JVC ケンウッドでは2月15日の発表以後、6月末までの期間の予定で「β版」の試験運用を行い、サイトの利用状況やログデータ、並びに「ARecX6」の販売動向などを検証・分析したあとで、それらの結果を踏まえてサービスの事業化に向けた可能性を探っていくという。今回のハンドリングについても、そのことを踏まえて「TVRoll.jp」の現在の使い勝手と課題、今後への期待などを報告したいと思う。
■Twitterのアカウントからサインイン。サービス利用はいずれも無料
「TVRoll.jp」は、テレビ番組に関するコメントを閲覧・投稿して楽しめるソーシャル・ネットワーク型のサービスだ。「ソーシャル・ネットワークサービス」と聞くと、mixiやFacebookのように自分のプロフィールのページを作って日記を書いたりする例のヤツか、と想像するかもしれないが、「TVRoll.jp」の場合はむしろ「ニコニコ動画」に近い使い勝手かもしれない。
「TVRoll.jp」はWebブラウザ上で利用できるサービスである。サイトにはWin/MacどちらのOSであっても、最新版のブラウザソフトを使っていれば手軽にアクセスできる。これから詳しく説明を始める前に、実際に「http://tvroll.jp/」へアクセスしてみて欲しい。
サイト上のサービスはいずれも無料で利用できる。サイトの右上に「サインイン」のメニューが設けられているが、実は「TVRoll.jp」の会員登録というものは存在せず、ユーザーは自前のTwitterアカウントを使ってサインインするかたちとなる。当然、Twitterのアカウント登録も無料なので、「TVRoll.jp」のサービスは誰にでも今すぐ体験できるのだ。なお、サインインをしなくても一部の機能は使えるが、フルでサービスを体験するためにもやはりTwitterのアカウントは用意しておきたい。
もう一つ、「TVRoll.jp」の真価を楽しむためには、ソフィアデジタルがPCでの用途に発売している、ワンセグ6ch同時録画が可能なチューナーレコーダー「ARecX6」もぜひ用意したい。本記事では「ARecX6」なしで使える機能についても紹介するが、「TVRoll.jp」は多チャンネル同時録画が行える環境とのセットを前提として、そこから様々なテレビの視聴体験を実現している。サイトの機能自体もハードウェアと密接に連携しており、例えば「TVRoll.jp」のセットアップメニューから「ARecX6」で録画するチャンネルの選局設定ができるようになっており、録画した番組の視聴もブラウザ上で行える。
■話題の番組に関して盛り上がったコメント一覧が過去に遡りながら一望できる
それでは「TVRoll.jp」のハンドリングへ移ろう。「TVRoll.jp」を起動して、トップのメニューから「みんなで観よう」を選択すると、Twitterと連動した“ツィート(つぶやき)”のタイムラインが左側のフレームに、テレビ番組のコンテンツが右側のフレームに表示される。タイムラインのみの閲覧であれば「ARecX6」を持っていなくても楽しめるので、ノートPCを片側に「TVRoll.jp」を起動して、タイムラインを眺めながらテレビを観て楽しめる。タイムラインはライブの放送と連動して画面上に表示される。右側のメニューには盛り上がっている放送局がランキング表示され、ユーザーはみんなの発言を観たい局が選べる。
ネットのコメントを参照しながら、バーチャルな環境でワイワイとテレビを賑やかに観ることができるという楽しみ方が「みんなで観よう」のサービスの基本だ。さらに、「みんなで観よう」の右メニューには「日付/時間」が変更できる機能が用意されており、日時をセットすると、その日時に、選んだチャンネルの番組に付けられたコメントを参照することが可能になる。「ARecX6」で録画したコンテンツを、放送終了後に視聴する際に活用できる機能であり、「TVRoll.jp」が過去の番組に付けられたコメントを集めてくることで、その番組を視聴していた人たちがどんな内容で盛り上がって、どんなことに興味を持ったのかを確認しながらテレビを楽しむことができる。
ここまでで紹介した「みんなで観よう」の機能は、「ARecX6」を持っていなくても楽しめる。例えばテレビやPC用のTV視聴機能で番組を観ながら、ブラウザで「TVRoll.jp」のタイムラインをチラ見するような使い方が想定される。Twitterでその番組についてコメントすれば、「TVRoll.jp」のタイムラインに表示される。また手持ちのレコーダーに録画した過去の録画番組についても、「TVRoll.jp」で日時とチャンネルを巻き戻して、レコーダーの再生とタイミングを合わせれば、過去のコメントを見ながら楽しむこともできるはずだ。
「まだ始まったばかりのTVRoll.jpに参加してコメントする人は少ないのでは?」とイメージする方もいると思うが、「TVRoll.jp」はインターネット上の多数の発言から、独自のアルゴリズムを使って該当する放送局のチャンネル、日時に紐づけた発言のみを集めてきているので、そのコメントを書いたユーザーが「TVRoll.jp」の存在を知っているかどうかは関係ないのだ。例えばもし、筆者が過去にその番組に関連するコメントをTwitterで残していたら、「TVRoll.jp」がそれを見つけてタイムラインに表示しているかもしれない。
Twitterの発言については、チャンネルや番組名ごとに予め定められたハッシュタグ(例えば#nhk/#buratamori など)を参照して、自動的に分類しながら表示しているのだが、開発を担当した河野氏によれば「ハッシュタグが付けられていなくても番組に関連する発言内容であれば表示できる」ようになっているという。このコメントを高精度に集めて分類表示できる機能こそが、「TVRoll.jp」の技術的な“キモ”であると言えるだろう。なお、コメントのアーカイブは1週間に渡り、全件を同社のサーバーに保管しているそうだ。
■「ARecX6」と連動させれば「TVRoll.jp」がもっと楽しくなる
ソフィアデジタルの「ARecX6」と連動できる環境を揃えている場合は、「TVRoll.jp」のより広範な機能が楽しめるようになる。その一つが、「過去番組表」だ。通常の番組表では、現時刻に放送されている番組以降のリストしか表示できないようになっているが、6chの放送を外付HDDの容量がゆるす限り録画している「ARecX6」ならば、「過去番組表」の機能を活用しながら、録画したコンテンツを「TVRoll.jp」と連動させて、コメントも楽しみながら視聴できる。過去番組表の番組タイトルをクリックすれば、「ARecX6」に録画してある番組がすぐに再生できる。再生が始まると、「TVRoll.jp」の機能により過去に発言されたコメントを連動して表示できるので、多くの視聴者と一緒にワイワイ楽しみながら番組を観ているような気分が味わえる。
「TVRoll.jp」が画期的なところは、この検索対象がTwitterなどのユーザーによるコメントになっていることにある。面白そうな内容がテレビで放送されていれば、それについて誰かが発言しているだろうから、実質的にシーン検索のキーワードとして機能するはず、という発想だ。
検索を実行するとTwitterユーザーらによるコメントを引っかけた結果がヒットする。検索結果には発言の内容とともに、日時と対象のチャンネルが表示されているので、そこで「再生」ボタンをクリックすると、発言の対象となっている番組の「そのシーン」にダイレクトにジャンプして再生できる。「ARecX6」は6ch同時録画を行っているレコーダーなので、そもそも発言対象となる番組はすべて録画済みなのだ。Twitterのツィートには若干のタイムラグがあるが、実用上はさほど問題はない。まさに「TVRoll.jp」のソフトウェアの力と、ARecX6のハードウェアの機能を最大限に引き出すことによって誕生する、新たな録画の楽しみ方であると言える。
「勢いナビ(番組検索)」のトップページに表示されている「勢いグラフ」も活用してみよう。先ほどの「シーン検索」は、ユーザーが探したいキーワードを入力して検索するものだが、「勢いグラフ」では日時(1時間から最大1日の範囲)を指定すると、その番組について盛り上がったキーワードのランキングがずらりと一覧表示される。ニュースの時間帯であれば各局ニュースの話題に関するキーワード、バラエティであればタレント名やギャグなど盛り上がった瞬間のフレーズが、人気の高かった順に大きなテキストで表示される。一つキーワードを選ぶと、そのキーワードに関連したコメント群が一覧表示され、さらに興味のあるコメントを逆引きしてシーン再生、といった流れで利用できる。友人と話題になりそうなテレビ番組のワンシーンをチェックしたい時にも、とても役立つ機能だと思う。
「勢いグラフ」をより一層楽しむためのコツとしては、上位にあるキーワードよりも、10位以下にランキングしている意外なキーワードに、隠れた面白いシーンが発見できるかもしれない。誰もが注目するほどのメジャーネタではないけれど、Twitterで反応した人がそれなりにいるネタが、そこで見つかることも多いだろう。自分の知らなかったテレビの楽しみ方が見えてくる、「TVRoll.jp」の中でも特に注目すべきユニークなサービスだ。
■「TVRoll.jp」にユーザー独自のページがつくれる「ロール」機能
「TVRoll.jp」のもう一つの機能に、トップページに並んでいる「ロール」がある。これは「TVRoll.jp」のユーザーが自分のオススメする番組情報を、関連するコメントとセットでまるごと保存できる機能と説明するのが分かりやすいだろうか。
公開されている「ロール」を選択して「ARecX6」で録画した番組を再生すると、コメントも一緒に再生することができる。なお「ARecX6」がない状態では、当然ながら録画番組の映像は再生されないものの、コメントだけは表示できる。
「過去番組表」の再生と違うところは、「ロール」を作成する際にユーザーが番組の感想やチャプターを付けられることと、タイムラインとして表示されるコメント群を編集できる点だ。番組と一緒に表示されるコメントも含めて、一つの作品をつくるようにロールを公開できる。
「TVRoll.jp」の概要を駆け足で紹介してきたが、今回実際にサービスをハンドリングしてみて、筆者自身、ニュースリリースを読むだけではわからなかった「TVRoll.jp」の魅力が見えてきた。ベースのアイデアが「ソーシャル・ネットワーク」とテレビを結び付けて、そこにバーチャルな“お茶の間”的なコミュニケーションの場をつくりだし、テレビの新しい楽しみ方を発見できるサービスには大きな可能性を感じた。
現時点で「TVRoll.jp」にとっての課題と言えるものの一つは、そのサービスをまるごと楽しめるハードが「ARecX6」に限られるという点だが、現在は自社開発のハードウェアを開発するためのテスト期間でもあるβサービスであることから、ここはある意味仕方のないところだろう。「多チャンネル同時録画」の次に来るWeb時代のソーシャルな視聴体験を先取りできるサービスとして、「TVRoll.jp」の今後に引き続き注目したい。
折原一也 プロフィール
埼玉県出身。コンピューター系出版社編集職を経た後、フリーライターとして雑誌・ムック等に寄稿し、現在はデジタル家電をはじめとするAVに活動フィールドを移す。PCテクノロジーをベースとしたデジタル機器に精通し、AV/PCを問わず実用性を追求しながら両者を使い分ける実践派。