TD510を大橋伸太郎が聴く
いま「リアリズム」に最も近いスピーカー − 3D/4K映像時代に輝くECLIPSE TD
特に感心したのが野平一郎のピアノを聴いた時で、帯域こそ狭いがペダルを使った時の左手の、厚みがあって澄んだ響きと音の切れ、収束の度合い、何より音がバラバラにならず一体感があり、音楽に生気と推進力がほとばしる素晴らしい再現だった。
高域専用ユニットを持たないのに、倍音と共鳴弦の表出も十分。ポップスのスタジオ録音も素晴らしかった。
ハイビット・ハイサンプリングとECLIPSE TD の定位のよさが完璧に一致し、やや離れてステージを見ているような客観的な印象だが、歌手の立ち姿が間近に見えるくっきり美しい声の立体感、ビッグマウスにならない収斂とそれが息づく開放感をあわせ持った表現である。
そして、ステージの高い天井が見えるような音場再現力。映像的といっていい音場表出力である。この時はステレオの再生だったが、サラウンドでECLIPSE TD が何を伝えるか確認したい欲求が高まっていった。
■音はリアリズム表現の進歩が足踏みしている
映像は3D、そして4Kと、今変化の真っ只中にある。ワイドテレビの時代にはノーマル映像の両端を伸張して無理やりワイド画面にしたりなど、歪みに対していたって無頓着だったが、フルハイビジョンがべースになった今は違う。
家庭用3Dはアクティブシャッターメガネが受け入れられず、方式が複数並び立つなど問題含みだが、各社ともクロストーク(映像の不整合、二重像)を減らす努力を続けている。かつての立体映像の、見るものを驚かすアトラクション的効果でなく、映像の自然な奥行きや実在感を狙っているのは大きな進歩だと思う。
その一方で音の方はと言うと、ハイサンプリング・ハイビットが出現したものの、逆に再生機器のリアリズム表現の進歩が足踏みしているように思われるのだ。
過日の体験をベースに、ECLIPSE TD なら映像と音が一体になって掛け算となるリアリズムが生み出されるのではないかと考え、編集部と共に実験を試みることにした。スピーカーは、あえてECLIPSE TDのフラグシップである712ZMkIIでなく、ECLIPSE TD の<原器>の血を継承するTD510を5本、音元出版の視聴室に取り寄せた。