藤岡誠/山之内正/石原俊がそれぞれの観点から実力に迫る
【レビュー】エソテリック「P-02/D-02」の音質を評論家3名が徹底チェック − 開発陣特別対談も!
Kシリーズの方向性を基盤としセパレート型の利点を引き出す |
メディアが多様化した今日でもセパレート型プレーヤーシステムのメリットは失われていない。それどころか、デジタルソースの拡大に柔軟に対応するうえで独立したDAコンバーターの存在意義は大きくなっているし、信号の純度を追求する目的にも合致するなど、セパレート型の役割は従来以上に増しているといってもいいぐらいだ。
そんな流れを受けて登場した「P-02」と「D-02」には、他のメーカーでは真似のできないノウハウがたくさん詰まっており、まさにセパレート型ならではのメリットを極限まで追求した製品として、大きな注目を集めている。
エソテリックは、一体型の頂点に位置するKシリーズを昨年投入した際に、音楽性と技術の両面で新たな到達点を目指した。その設計思想はもちろん本システムの基盤になっているが、それに加えてセパレート型のメリットを追求した新機軸も導入されている。
最注目ポイントは広帯域伝送を実現するES-LINK3の採用 |
最大の注目ポイントは、P-02とD-02の間で最大176.4kHz/48bitの広帯域伝送を実現するES-LINK3を採用したことである。2本のXLRケーブルを使う独自の伝送方法であり、高精度な伝送にさらに磨きをかけたものとして注目に値する。さらに同じ接続経路で「デュアルAES」モードを選択した場合には8倍のオーバーサンプリングを行って最大352.8kHz/24bitの伝送にも対応する。
D-02は1チャンネル当たり8回路のDACチップ(AK4399)を組み合わせることで、従来よりもさらにきめの細かい再生音を狙った「35bitプロセッシング」を導入したことが新しい。あくまでも理論値だが、35bit処理は24bitの2,048倍の解像度があり、階調豊かなサウンドを生み出す能力が高まる。
DAC基板は左右完全独立構成で、一体型では実現が難しい究極のセパレーションを追求している。デジタル入力は5種類8系統に及び、そのなかには192kHz/24bit対応のUSB入力も含まれる。USB入力は非同期伝送をサポートし、基本構成はKシリーズと同等と考えていい。
両機とも高音質を支える物量の投入は半端ではない |
トランスポート、DAコンバーター共に高音質を支える物量の投入は半端ではない。その象徴といえるのが回路ごとに独立したセパレート電源の導入だろう。P-02、D-02それぞれ4基の大型トロイダルトランスを搭載し、システム全体では電源トランスの数が8基に及ぶ。
それぞれのトランスは電源供給路が最短になるように回路やデバイスの直近に置かれ、さらに異なる回路同士を物理的に独立させた構成を採用しているため、不要輻射の影響を極めて受けにくい構造になっている。トランスポートとDAコンバーター間の干渉を抑えることにとどまらず、それぞれの筐体内部でのノイズ対策についても、これ以上は無理というレベルまで追求の手を緩めていないのだ。
P-02のメカドライブはVRDS-NEO(VMK-3.5-20S)を採用。ブリッジ厚は20mmに及び、メカ部の総重量は5.3kgと超重量級だ。
内蔵クロックの精度向上に加え、クロック伝送系にも今回新たな工夫が盛り込まれている。その代表的な技術が、発振回路のマスタークロック(22.5792MHz)を直接伝送する「PLLレス・ダイレクトマスタークロックLINK」の導入だ。
D-02から同周波数でのクロック出力をP-02に直接送り出すことで、PLLをパスした超高精度のクロックシンクが実現するというのが、このシステムの最大の特徴だ。そのほか、10MHzクロックへの対応も含め、外部クロックジェネレーターとの接続も幅広くサポートする。
試聴:息を潜めるほどの静寂感でホールでの実体験に近いもの |
今回新たに導入されたES-LINK3とダイレクトマスタークロックLINKでP-02とD-02を接続し、エソテリックの試聴室で再生音を確認した。使用機器は同試聴室のレファレンス、つまりC-03とA-02、そしてタンノイのキングダムロイヤルという陣容である。
最初に聴いたスダーン指揮東響のブルックナー:交響曲第8番は、ファインNFレーベルがこだわりをもって製作したシングルレイヤーのSACDで、P-02とD-02のSACD再生音質を確認するにはうってつけのディスクである。
ソース機器の実力は弱音の再生能力でほぼ8割は判断できるというのが私の考えだが、本システムは冒頭のピアニシモを聴いた時点で、投じた物量がもたらす効果とゆとりのある信号処理の威力を実感することができた。
音が出た瞬間、その部屋に居合わせた全員が思わず息を潜めるほどの静寂感は、コンサートホールで指揮者がタクトを上げた瞬間と何ら変わることがない。聴き手の耳の能力を問うような微小な音が出てくると思わず息を潜めるというのは人間の自然な反応だが、その音から極限の緊張と集中が聴き取れる場合は、私達はなおさら深い反応を示す。
スダーンが東響から引き出した弦のしなやかな音色と木管の浸透力の高い響きは、DSD録音のアドバンテージと密接に関連しているように思われた。本機が再現するステージの立体的な深みと伸びやかに放たれた残響の広がりは、ホールでの実体験にかなり近い。
抜けが良く確かな実体感があり生気に溢れた血の通った音質 |
CDではES-LINK3とデュアルAES(8fs)の音の聴き比べが興味深い結果を引き出した。
一番大きな差が現れたのは、最小限の伴奏で歌うネトレプコの声と、それに絡むフルートの音色で、ES-LINK3はその両者の音像が立体的な形を伴って中に浮かび、ひと言でいえば血の通った音がする。
質感という言葉に置き換えてもいいが、それよりも生気に溢れた印象が強く、表情の振幅が広がったように感じるのだ。デュアルAESは緻密なディテール感に優位が感じられる場合があるので、ソースによって使い分ける楽しみもある。
ジェーン・モンハイトのアルバムでは、ひとつひとつの音の抜けの良さと確かな実体感に既存のプレーヤーとの違いを聴き取ることができた。
ピアノやベースで一番顕著だが、モンハイトのヴォーカルもしっかりと地に足が着いている印象が強く、音像のふらつきやぶれがまったく検知できない。その安定したイメージをキープしたまま、声はあくまで柔らかく、ブラスはアタックの瞬発力が際立つという具合に、異なる性質の音を何の違和感もなく同時に繰り出してくる。
当たり前のことのように思うかもしれないが、ここまで完璧に鳴らし分けるシステムはそう多くはないのだ。
素材の見直しやマスタリング技術の向上など、特にこの数年はディスクの進化が著しい。その進化を真正面から受け止める高次元のプレーヤーシステムが登場したことを大いに喜びたい。
【筆者プロフィール】 | |
山之内 正 Tadashi Yamanouchi 神奈川県横浜市出身。出版社勤務を経て、音楽の勉強のためドイツで1年間過ごす。帰国後より、デジタルAVやホームシアター分野の専門誌を中心に執筆。近著に『図解インターネットで変わる音楽産業』(アスキー刊/2000年)がある。趣味の枠を越えてクラシック音楽の知識も深く、その視点はオーディオ機器の評論にも反映されている。 |