藤岡誠/山之内正/石原俊がそれぞれの観点から実力に迫る
【レビュー】エソテリック「P-02/D-02」の音質を評論家3名が徹底チェック − 開発陣特別対談も!
一体型で生まれたアイデアをフルに投入 - 次元の違うモデルの制作を決意 |
エソテリックがセパレート式ディスクプレーヤーのスーパーハイクラスモデル、「P-02」「D-02」をリリースした。同社は最上級機の「P-01」「D-01」もラインアップしているが、これは一式4筐体で、エクスペリメントモデル的な性格が強い。したがって本ペアは、エソテリックの事実上のトップモデルというポジショニングを背負っているのである。
本機の背景にある基礎技術は、連綿と続くエソテリックのディスクプレーヤーの系譜を受け継ぐものだが、わけても昨年リリースした一体型モデルの「K-01」と「K-03」の影響が色濃い。これらを開発する過程で、担当エンジニアたちの脳裏には「あれもやりたい、これもやりたい」という思いが去来していた。しかしながら一体型機に全てのアイデアを盛り込むことはできない。そんなアイデアの数々が、ディスクトランスポートのP-02とDAコンバーターのD-02に込められているのである。
P-02/D-02を開発するにあたって、設計チームはセパレート型の利点を最大限に生かし、一体型とは次元の違うモデルを作ろうと決意した。またK-01/03で評判の良かったミュージカリティの高さをより深化させることも目標となった。これらの課題をクリアするための具体的な方策は、大きく4つに分類することができる。
すなわち、(1)「データ伝送の大容量化」、(2)「時間軸管理の精度向上」、(3)「D/A変換のハイビット領域化」、(4)「許容範囲内での最大の物量投入」である。
こういったデジタル技術におけるグレードアップは、一般人にとって具体性に乏しいのだが、楽器の演奏に置き換えると理解しやすい。
(1)は、古典派の簡潔な作品に馴染んできた奏者がショパンやリストの難曲を弾きこなせるようになるのと似ている。(2)は、テンポの精度の向上と読み替えることが可能だ。(3)は、強弱や音域の拡大と解釈できよう。(4)は、ピアノでいえばフレームやハンマーメカニズムの強化に他ならない。奏者と楽器に以上のような変化が生じると、演奏が良くなるのは自明の理だ。
トランスを8個搭載するなど物量を投入 − 高次元な独自リンク方式も採用 |
では、技術的な内容を見ていくことにしよう。P-02のトランスポートメカニズムはエソテリックならではのVRDS-NEO。大型の重量級ターンテーブルがディスクを上方から圧着し、常にディスクに対して垂直にレーザーを照射する同社独特のVOSPピックアップが下方からデータ面を読み取る。スピンドルと読み取りメカニズムにはそれぞれ電源トランスが与えられている。
さらにはクロック回路とデジタル回路もそれぞれ専用のトランスを有している。ついでに記しておくと、D-02のデジタル回路、クロック回路、左右のアナログ回路は、それぞれのトランスによって電力を供給されており、システム全体では8基のトランスを擁していることになる。まさに物量投入のかたまりのような構成である。
もちろん筐体にも物量が投入されており、その作りは大型のパワーアンプに等しく、大音量時にも不要共振を起こすことはない。
P-02のディスクローディング部は巧妙なシャッターによって保護されており、埃や雑共振の侵入から保護されている。音とは直接関わらないが、このシャッターの上部がライトアップされるデザインは非常に魅力的だ。
回路系にも物量は投入されている。言葉で説明するとあまりにも冗漫になるので詳細は割愛するが、信号経路の最短化と各ブロックの電気的・機械的アイソレートを目指した両機の三次元的な基板レイアウトの美しさは、スイスの超高級時計のムーブメントに勝るとも劣らない。
両機は単体での使用も考慮されているので、さまざまなデジタル入出力を装備している。しかしペアで使用するならば、それぞれ2系統あるXLR端子のバランス接続がお薦めだ。
この接続法でCDを再生する場合、「ES-LINK3」モードを選択すると最大176.4kHz/48bit、「DUAL AES 8Fs」モードだと最大352.8kHz/24bitで信号のやり取りをすることができるのである。SACD再生時はネイティブ信号が伝送される(ちなみにD-02を3台使用し、iLINK接続するとSACDのマルチチャンネル再生ができる)。
また、D-02は32bitのデバイスを複数組み合わせることで35bitの解像度でD/A変換を行っている。これは理論上24bitの2048倍に相当するわけで、波形のイメージ図のグラデーションはアナログに近い。
なお、D-02はUSB入力も装備しており、現段階では192kHz/24bitまでの対応となっている。USB端子の電源/信号は本体からアイソレートされているのでノイズが混入する心配はない。
両機はクロックシンク接続をすることも可能だ。通常のモードでは44.1〜176.4kHzで動作するが、PLLレス・ダイレクトマスタークロックLINKというモードを選択すると、D-02が発生させた22.5792MHzで動作する。さらには外部の精密クロックジェネレーター(たとえば同社のG-0Rb)と接続することもできる。
D-02のアナログ出力段は、クラスA動作のバッファーアンプを4パラレル接続したものだ(これはK-01の倍に相当する)。デジタル回路には高精度なアッテネーターが組み込まれているので、パワーアンプとダイレクトに接続することもできる。バランス出力は2/3番HOTの切り替えができるので、ケーブルに加工をすることなく、あらゆるアンプとの組み合わせが楽しめる。
想像をはるかに超えた音に茫然 − まさに音楽がそこにある |
開発チームにお話を伺った後、両モデルの音を聴かせていただいた。アンプは同社のC-03/A-02、スピーカーはタンノイのキングダムロイヤルである。
一聴、茫然とした、というのが正直な感想である。ES-LINK3モードを選択したのだが、いわゆる音場・音像という概念では説明できない種類の音なのだ。音像と音場の境目がない、とか、音像の輪郭線がない、といった領域をはるかに超えているのである。もしかしたら音場・音像という言葉は、ロービット/ローサンプリングの時代に便宜的に使ったサウンド解説用語だったのではあるまいか。
では、具体的にどういう音なのかというと、音楽がそこにあるのである。もちろん録音ロケーションの状況は伝わってくるのだが、そこに従来のノイズっぽさは感じられない。
ジャズはこれまでになかった表現だ。ミュージシャンの発する音のエネルギーがスピーカーからダイレクトに飛んできて、リスナーの耳元を直撃する。いかに複雑な演奏状況でも和声やリズムが混濁することはなく、それぞれの楽器の音が的確にブレンドされている。
では、ウェルバランスな再生音なのかというと、それは少し違う。リーダーやプロデューサーの意向までが透けて見えるので、その人物が意図した方向にサウンドが引っ張られるのだ。とはいえ、これはなかなかスリリングな感覚である。
ヴォーカルは完璧! それ以上の言葉を筆者は思いつかない。
ここまではCDを聴いてきたが、クラシックはエソテリックが復刻したSACDを用いた。
同じベルリン・フィルの演奏で、1959年にカール・ベームが振ったブラームスの交響曲第1番と、カラヤンが1974年に録音したワーグナーの「トリスタン」前奏曲を聴いたのだが、ベルリン・フィルという世界最高のオーケストラの特徴もさることながら、指揮者によるサウンドの差異が鮮明に表現された。この瞬間、私は指揮芸術の秘密を探り当てたような気がした。オーディオ的にも音楽的にも、それほど完成度の高いモデルである。
<<本機はどんなファンにお薦めできるか?>> 本機は実質上、セパレート式ディスクプレーヤーの最高級機である。本文には記さなかったが、将来のバージョンアップを見越したつくりになっているので、ソフト環境の変化にも長きにわたって対応することができるはずだ。 USB端子によるネットオーディオへの対応も含めて、このジャンルの製品に求められるあらゆる要素が網羅されている。ディスクプレーヤーの終着点をお探しの方には、ぴったりのモデルである。 また、自らのオーディオの最終地点を模索している方にもお薦めしたい。本文にも記した伝送モードやワードシンク接続モードの他、本機は4種類のデジタルフィルターとデジタルフィルター・オフ・モードを選択することができる。これらの順列組み合わせと伝送ケーブルの選択によって、無限とも言えるほどのサウンド・バリエーションがユーザーに開放されているのだ。 そのオーディオ的・音楽的実力に加えて、この自由さが約束されているのだから、プライスタグの数字は決して大き過ぎない。 |
【筆者プロフィール】 | |
石原 俊 Shun Ishihara 慶応義塾大学法学部政治学科卒業。音楽評論とオーディオ評論の二つの顔を持ち、オーディオやカメラなどのメカニズムにも造詣が深い。著書に『いい音が聴きたい - 実用以上マニア未満のオーディオ入門』 (岩波アクティブ新書)などがある。 |