使いこなしがいがある「ダイアログリフト機能」
ヤマハ「RX-V773」を山之内正が速攻レビュー − エントリー機ながら一歩踏み込んだ高音質設計
ヤマハのAVアンプ「RX-V773(関連ニュース)」は、AirPlay/ネットワーク機能に対応する同社エントリーモデルの上位機種として、専用のカスタムパーツを採用し音質にも拘ったモデルだ。VPS使用時にセンターchの定位を引き上げるダイアログリフト調整機能を新搭載。操作性に拘った専用アプリを用意し、スマートフォン/タブレット連携も高めている本機を山之内正がレビューする。
●高音質設計とネットワーク機能への対応を兼ね備える入門機
ヤマハからこの春登場した新しいエントリー「73シリーズ」の上位モデル RX-V773は、従来のエントリーモデルからさらに一歩踏み込んだ高音質設計を導入することにより、アンプの性能の基本となる解像度や周波数バランスを追い込み、再生音をブラッシュアップ。誰もが違いを聴き取れる高音質にこだわり、電源や各種パーツを吟味するなど、音質の追い込みに余念がない。
さらに、既存の独自機能「VPS(バーチャル・プレゼンス・スピーカー」機能をリファインし、同機能をアクティブにしたときに台詞の高さ調整機能(ダイアログリフト)に対応したり、自動音場補正機能「YPAO」の測定ポイントを増やして補正の精度を向上させるなど、確実な音質改善が期待できる地道な改善にも取り組んでいる。
下位モデルではそうしたきめ細かい音質改善を追い込む余裕が制限されてしまうことが多いのだが、コストと開発期間に余裕のある上位モデルでは、一歩踏み込んで追い込むことができるのだ。
●操作性の高い専用アプリでネットワーク連携をより向上
下位モデル RX-V473/573を含む73シリーズが機能面で新たに実現した最大のフィーチャーは、iOS機器とリンクしたワイヤレス再生を実現するAirPlayにヤマハとして初めて対応したことであろう。ヤマハのAVアンプはネットワーク機能で先行する部分が少なくないのだが、AirPlayへの対応に関してはこれまで他社に先行を許していたことは事実だ。だが、ここにきて下位モデルも含め、一気にAirPlay対応を進めたことに加え、Android端末でもワイヤレス伝送で音楽を楽しむ機能を実現し、最先端の装備を獲得した。
ネットワーク機能の使い勝手も大幅に向上している。ヤマハは他社に先駆けてネットワークオーディオプレーヤー「NP-S2000」を完成させ、コントロールソフトについても多くのノウハウを蓄積してきた。その経験が専用操作アプリ「AV CONTROLLER」にも生かされている。
iPadにインストールしたAV CONTROLLERを使って本機のネットワークオーディオ機能を操作してみると、使い勝手の良さをすぐに実感することができる。画面の大きなiPadの情報量を生かし、同時に複数の情報を表示できる点が特に秀逸だ。たとえば、アルバムリストを左側に表示しながら右側に曲一覧を表示するので選曲操作がスムーズだし、スクロール時の反応の速さにも感心する。ネットワークオーディオの使用頻度は操作画面の読みやすさや選びやすさに大きく左右されるので、操作性を洗練させることは重要なポイントなのだ。
もちろん、シネマDSPの音場プログラムを一覧表示する機能なども従来通り利用することができ、便利この上ない。そのほか、3D信号や4k信号への対応に加え、ハイビジョンコンテンツを4k解像度にアップスケーリングする機能までサポートし、映像回路の性能を高めたことが下位モデルにはないポイントだ。
●「クオリティ」「機能」ともにミドルクラスの実力
ピュアダイレクトをオンにしてCDの音を聴くと、本機のアンプとしての基本性能の高さを垣間見ることができる。ダイナミックレンジの幅が広い音楽ではアンプの実力が如実に現れるものだが、本機でオルフの『カルミナ・ブラーナ』を聴くと、静寂のなかからフルパワーの管弦楽とオーケストラがいきなり立ち上がるときの迫力に圧倒される。ささやくようなピアニシモでも合唱の発音が鮮明なことに加え、フォルテシモになってもセパレーションの高さと瞬発力を維持していて、強弱のレンジが非常に広い。
ベースと女性ボーカルのデュオを聴くと、短いフレーズのなかにもさまざまな表情を聴き取ることができ、声の表現力の豊かさをあらためて思い知らされる。ベースは乾いた軽い音調ではなく、ボディ全体が共鳴した重量感のある響きを聴かせ、音が立ち上がる瞬間のクイックな反応にも感心した。
NASから読み込んだハイレゾ音源(96kHz/24bit)はCD以上に低域の制動力が優れており、パーカッションとベースなど、低音楽器同士の分離が鮮明だ。クラシックの音源では音場の見通しが深まり、ジャズではリズムの推進力が高まる効果がある。アンプの基本性能を確保すると、ハイレゾ音源のメリットが素直に浮かび上がってくる。
映画のHDオーディオでは、余分な強調感を抑えた自然なバランスのサウンドを味わうことができた。『ラスト・ターゲット』は効果音の方向や距離を再現する精度が高く、どのシーンからも音作りの狙いが正確に浮かび上がってくる。一見すると静かな場面でも耳を澄ますといろいろな音が聞こえてくるのは情報量に余裕がある証拠だろう。
『ハンナ』ではストレートデコードとシネマDSPの音場プログラムを聴き比べてみた。CIAに拘束されたハンナが脱出する場面では、どちらのモードでも部屋や通路など場面ごとに空間の音響の違いを忠実に描き分け、スピードの速い場面転換でもリアリティが薄れることがない。「Sci-Fi」に切り替えるとサラウンド音場の厚みが増し、空間ごとの響きがいっそう際立つ。一方、「ドラマ」を選ぶと台詞の実在感が説得力を増し、緊迫感が高まるなど、この作品では特に好ましい方向の効果を聴き取ることができた。
VPSの効果は昨年モデルに比べてより自然な方向に進化していると感じた。特に「ダイアログリフト」(5段階)を使って台詞の高さを調整すると、声の音色や音像の大きさはそのままに、高さだけが少しずつ変化する。台詞の音量調整と併用すると、組み合わせるスピーカーとのマッチングも含めて、さらにきめ細かく追い込むことができ、使いこなしがいがあると思う。
AVアンプの価格対性能比は数年前とは雲泥の差がある。10万円を切るモデルは以前ならエントリー向けという位置付けだったが、いまはクオリティ、機能どちらもミドルクラスの実力がそなわる製品が増えた。本機はその代表的な存在である。
●高音質設計とネットワーク機能への対応を兼ね備える入門機
ヤマハからこの春登場した新しいエントリー「73シリーズ」の上位モデル RX-V773は、従来のエントリーモデルからさらに一歩踏み込んだ高音質設計を導入することにより、アンプの性能の基本となる解像度や周波数バランスを追い込み、再生音をブラッシュアップ。誰もが違いを聴き取れる高音質にこだわり、電源や各種パーツを吟味するなど、音質の追い込みに余念がない。
さらに、既存の独自機能「VPS(バーチャル・プレゼンス・スピーカー」機能をリファインし、同機能をアクティブにしたときに台詞の高さ調整機能(ダイアログリフト)に対応したり、自動音場補正機能「YPAO」の測定ポイントを増やして補正の精度を向上させるなど、確実な音質改善が期待できる地道な改善にも取り組んでいる。
下位モデルではそうしたきめ細かい音質改善を追い込む余裕が制限されてしまうことが多いのだが、コストと開発期間に余裕のある上位モデルでは、一歩踏み込んで追い込むことができるのだ。
●操作性の高い専用アプリでネットワーク連携をより向上
下位モデル RX-V473/573を含む73シリーズが機能面で新たに実現した最大のフィーチャーは、iOS機器とリンクしたワイヤレス再生を実現するAirPlayにヤマハとして初めて対応したことであろう。ヤマハのAVアンプはネットワーク機能で先行する部分が少なくないのだが、AirPlayへの対応に関してはこれまで他社に先行を許していたことは事実だ。だが、ここにきて下位モデルも含め、一気にAirPlay対応を進めたことに加え、Android端末でもワイヤレス伝送で音楽を楽しむ機能を実現し、最先端の装備を獲得した。
ネットワーク機能の使い勝手も大幅に向上している。ヤマハは他社に先駆けてネットワークオーディオプレーヤー「NP-S2000」を完成させ、コントロールソフトについても多くのノウハウを蓄積してきた。その経験が専用操作アプリ「AV CONTROLLER」にも生かされている。
iPadにインストールしたAV CONTROLLERを使って本機のネットワークオーディオ機能を操作してみると、使い勝手の良さをすぐに実感することができる。画面の大きなiPadの情報量を生かし、同時に複数の情報を表示できる点が特に秀逸だ。たとえば、アルバムリストを左側に表示しながら右側に曲一覧を表示するので選曲操作がスムーズだし、スクロール時の反応の速さにも感心する。ネットワークオーディオの使用頻度は操作画面の読みやすさや選びやすさに大きく左右されるので、操作性を洗練させることは重要なポイントなのだ。
もちろん、シネマDSPの音場プログラムを一覧表示する機能なども従来通り利用することができ、便利この上ない。そのほか、3D信号や4k信号への対応に加え、ハイビジョンコンテンツを4k解像度にアップスケーリングする機能までサポートし、映像回路の性能を高めたことが下位モデルにはないポイントだ。
●「クオリティ」「機能」ともにミドルクラスの実力
ピュアダイレクトをオンにしてCDの音を聴くと、本機のアンプとしての基本性能の高さを垣間見ることができる。ダイナミックレンジの幅が広い音楽ではアンプの実力が如実に現れるものだが、本機でオルフの『カルミナ・ブラーナ』を聴くと、静寂のなかからフルパワーの管弦楽とオーケストラがいきなり立ち上がるときの迫力に圧倒される。ささやくようなピアニシモでも合唱の発音が鮮明なことに加え、フォルテシモになってもセパレーションの高さと瞬発力を維持していて、強弱のレンジが非常に広い。
ベースと女性ボーカルのデュオを聴くと、短いフレーズのなかにもさまざまな表情を聴き取ることができ、声の表現力の豊かさをあらためて思い知らされる。ベースは乾いた軽い音調ではなく、ボディ全体が共鳴した重量感のある響きを聴かせ、音が立ち上がる瞬間のクイックな反応にも感心した。
NASから読み込んだハイレゾ音源(96kHz/24bit)はCD以上に低域の制動力が優れており、パーカッションとベースなど、低音楽器同士の分離が鮮明だ。クラシックの音源では音場の見通しが深まり、ジャズではリズムの推進力が高まる効果がある。アンプの基本性能を確保すると、ハイレゾ音源のメリットが素直に浮かび上がってくる。
映画のHDオーディオでは、余分な強調感を抑えた自然なバランスのサウンドを味わうことができた。『ラスト・ターゲット』は効果音の方向や距離を再現する精度が高く、どのシーンからも音作りの狙いが正確に浮かび上がってくる。一見すると静かな場面でも耳を澄ますといろいろな音が聞こえてくるのは情報量に余裕がある証拠だろう。
『ハンナ』ではストレートデコードとシネマDSPの音場プログラムを聴き比べてみた。CIAに拘束されたハンナが脱出する場面では、どちらのモードでも部屋や通路など場面ごとに空間の音響の違いを忠実に描き分け、スピードの速い場面転換でもリアリティが薄れることがない。「Sci-Fi」に切り替えるとサラウンド音場の厚みが増し、空間ごとの響きがいっそう際立つ。一方、「ドラマ」を選ぶと台詞の実在感が説得力を増し、緊迫感が高まるなど、この作品では特に好ましい方向の効果を聴き取ることができた。
VPSの効果は昨年モデルに比べてより自然な方向に進化していると感じた。特に「ダイアログリフト」(5段階)を使って台詞の高さを調整すると、声の音色や音像の大きさはそのままに、高さだけが少しずつ変化する。台詞の音量調整と併用すると、組み合わせるスピーカーとのマッチングも含めて、さらにきめ細かく追い込むことができ、使いこなしがいがあると思う。
AVアンプの価格対性能比は数年前とは雲泥の差がある。10万円を切るモデルは以前ならエントリー向けという位置付けだったが、いまはクオリティ、機能どちらもミドルクラスの実力がそなわる製品が増えた。本機はその代表的な存在である。