【特別企画】いま明かされる誕生の背景
マランツ「SA-11S3」は、幻の「SA-7S2」だった! − 貝山知弘が新たな銘機を聴く
●最新の剛体回転メカを採用
次なるSA-7S1を目指し第6世代のエンジンを搭載
前作の「SA-11S2」では、第4世代の自社製メカが使用されていたが、本機の回転系には第6世代の自社(D&M)製メカ(ドライヴ・エンジン)SACDM-2を使用。次なる「SA-7S1」を目指し、剛体設計された低バイブレーションのメカで高速回転するディスクの振動をしっかりと抑え込むことができる。トレイはアルミダイキャスト製だ。
●クロックに最新クリスタル
SA-7S1の10分の1という究極の低ジッターを実現
プレーヤーのように回転系を持つ機器では、正確で安定した回転が得られた方がいいことは言うまでもない。ジッターとは回転ムラのようなもので、これを小さく抑えるには使用するクロックの精度が高い方がいい。本機にはDAC部に新しいクリスタル(水晶)クロックを採用し、ロー・ジッター化を図っている。33MHz±1kHzにおいて20dB(デシベル)低いジッターレベルを実現しているが、これはじつに「SA-7S1」の1/10になるという。このことが音質向上に大きく関与していることは間違いない。
●192kHz/24bitの高電流出力DAC
利便性よりも音質を追求し、あえて高電流出力型のDACを選ぶ
現在手に入るすべてのDACの試聴を行い決定したパーツだ。DACには〈電圧出力型〉と〈電流出力型〉があるが、現在のDACの主流は電流/電圧変換回路も含まれた利便性の高い電圧出力型である。しかし、純粋に高音質を望むなら大きな電流を取り出せる電流出力型チップの方が有利だ。
本機が選んだのはこの電流出力型のDAC、バーブラウンDSD1792Aで、Bi-MOSタイプの高電流出力構造をもっている。現在では32bitのチップが容易に手に入るが、32bitといっても現実的にはそれをフルに使えるケースはごくまれで、24bitであっても高音質の許容出力電流の最も大きな電流出力型を採用した方が総合的な音質は好ましいというのがマランツの考えだ。やたらと32bitという数値が一人歩きする現実を苦々しいと思っていた私にとって、本機の選択は納得できる対策である。
●オリジナルのDSPデジタルフィルター
2通りのフィルターモードを搭載。デジタル入力にも対応できる設計
本機ではCD再生時には8倍オーバーサンプリングのデジタルフィルターを採用している。2種のカーブを持つフィルターを内蔵し、ユーザーが選択できるのが特徴だ。SACD再生時にはDACに内蔵されたDSDフィルターを組み換え、2通りのモードを選ぶことができる。従来機(11S2)搭載のPEC777f2から新しいPEC777f3に変更したのは、デジタル入力に対応するためで、前者が44.1kHzサンプリングだけへの対応だったのに比べ、後者は32、44.1、48、88.2、96、176.4、192kHzサンプリングに対応している。
●トロイダル電源トランスの容量増
OFC巻き線仕様を初めて搭載。容量も前モデルから20VA増す
OFC(無酸素銅)の捲線を使用したトロイダルトランスは初めての採用。アナログ回路の捲線はプラス側とマイナス側を独立させたバイファイラー巻きを採用している。シールドケースは珪素合鋼製ショートリングと銅メッキシールドの2重構造を採用している。これらの対策は前作「11S2」と同じだが、容量は50VAで、20VA増している。この差が音の余裕につながるのは明らかである。
さて、いよいよ次ページではSA-11S3の音質的な魅力に迫っていこう。