JVC「DLA-X75R/X55R」レビュー − 「大きく、緻密な画」を実現する飛び抜けた実力
家庭用プロジェクターの上級市場で圧倒的な支持を集めるのが、JVCのD-ILAプロジェクターである。
プロジェクターが固定画素方式に変わり、フルハイビジョンになった当座は画素構造を高密度化しやすいDLP方式が中心だった。次に製造し易く価格を安く設定できる3LCD方式(透過型液晶)が主役の座を奪った。しかし、LCOS方式がやや遅れて登場してからというもの、高級機はこの方式一色になったといって過言ではない。
理由はいくつか挙げられるが、第一はコントラスト性能に優れていたからである。透過型液晶の場合、透明基板内に回路が形成されるため開口率(画素の実効面積)に制限が出やすいが、反射型液晶(LCOS)の場合、画素電極下に回路が作られるため開口率を高くできる。また、透過型の場合、基板内で一定の光の漏れや内部損失が生じるのに対し反射型は光の利用効率で勝る。これがコントラスト性能に結びつくのである。DLP方式もコントラストに優れているが、家庭用単板方式はカラーブレイク(色割れ現象)の問題が解決できていない。
JVCのD-ILAはLCOSの一方式だがデバイスの完成度が高く、他社のようにダイナミックアイリスを使わずとも突出したコントラストが得られた。黒表現のしたたるような美しさは映画ソフトで圧倒的な説得力を発揮し、フルハイビジョン時代を征したのである。
さらにD-ILAの地位をもう一段押し上げた決定打が「3D」である。1フィールド毎の描画に関し、LCOSのライバル方式がアナログの順次(ライン)描き込みだったのに対し、D-ILAはデジタルの一括(面)描き込みで行う。そのためフィールドシーケンシャル方式の3Dで非常に明るく、階調が損なわれず切れ味のある映像が得られる。
今、プロジェクターは次のステージに進もうという局面にある。フルハイビジョン(以下フルHD)から4K解像度への進化である。昨季DLA-X70R、90Rが登場したが、4K一年目の昨年<待ち>を決め込んだファンは少なくなかったはずだ。しかし、今期D-ILA方式4K解像度が第2世代に発展した「DLA-X95R」「DLA-X75R」「DLA-X55R」が登場。今年こそフルHDからの買い替えようというユーザーは少なくないだろう。そうなれば、フルHDモデルでJVCが達成した高い完成度が維持されているのか気になるのは当然のこと。本レビューでは、中核機である「DLA-X75R」「DLA-X55R」の実力を見極めてみよう。※「DLA-X95R」のレビューはこちら
基礎画質と画質調整機能が大きく新かした「e-shift2」
DLA-X55R/75R/95Rで構成される新シリーズに共通して搭載され、注目に値するのが「e-shift2」である。JVCの場合、中核のD-ILAデバイスはフルHD(1920×1080)だが、画素ずらしという光学的手法を使って4K解像度(3840×2160)を得る。昨年から採用されているe-shiftである。これについては昨季のX70R、90R登場時に何度も紹介したので深入りしないが、新バージョンe-shift2でどう変わったのかについて紹介しておこう。
昨季バージョンでは画像成分の検出範囲が6×6だったが、新たにワイドレンジ画像成分検出を採用し、21×21ピクセルへ拡大した。FIR(画像処理型)の高性能フィルターを採用し、検出を行う映像周波数帯域も従来の2バンドから8バンドへ細分化した。これらの総合でソース毎に細かい調整ができ、またカットオフ帯域は自由に調整できる。
しかし、e-shift2の最大の特徴は、昨季の高域中心のエンハンスから脱却したことにある。従来は一律に一旦スムージングしてからエンハンス(高域強調、伸長)を行ったが、今回は、画像の解像度と周波数分布を解析して部分ごとにそれぞれ異なった高画質化処理を行う。
しかも興味深いことにブラックボックス化を進めるのでなく、新たにユーザーが調整できる「4Kプロファイル」が設けられ、エンハンス、ダイナミックコントラスト、スムージングといった高画質化のパラメーターがユーザーに開放された。この時、ユーザーの一助になるのが、「画像解析画面」(別名「アナライズモード」)である。画面上の周波数分布を青から赤(短波長)まで1ピクセル単位で表示し、どの箇所がどういう周波数で描画されているのか色で分かる。ユーザーはそれを見て映像の傾向を把握して高画質化のアプローチを選べばいい。
他に、カラープロファイルに新たにテクニカラーの色域に準拠した「フィルム3」を新設(X75R、X95R)。3Dモードが3Dシネマ、3Dビデオ、3Dアニメに分かれた(X75R、X95R)。3モードRGBトータルのガンマ設定は共通だが、カラーマネージメントの彩度の設定が違っていて、映像の表情を異にする。また、3Dでもマルチプルピクセル コントロール(MPC)が適用されるようになったのはトピックだ。
「大きく、緻密な画」を実現する飛び抜けた実力
音元出版視聴室で各種ソフトをDLA-X75R/X55Rで視聴した。一言で特徴を表現すれば両機共「大きく、緻密な画」である。矛盾した表現に思われるかもしれない。その意味をソフトを例に挙げて解説してみよう。まず最も強い印象を与えるのは、映像の画質への対応の幅が飛び抜けて広いことである。現代私たちが向き合う映像は、フィルムから4Kあるいは8Kで撮影・編集されたビデオ映像、映画からアニメーション、舞台収録まで広範で、さらに映像のトーン(アメリカではLOOKと表現することが多い)の設定は千差万別、百花繚乱である。DLA-X75R/X55Rはどのようなタイプの映像をも受け入れ、オリジナル性を尊重して的確に表現することができる。透過型液晶やDLP方式の場合、そのプロジェクターの映像の特性に一致した場合、つまりツボにはまった場合、良好な結果が得られるが、そうでない場合どれだけ調整しても「本来こう見たい」という映像になかなか到達できない。だから、そのプロジェクターの制限された器の中で映像を見ることになる。
しかし、D-ILAのDLA-X75R/X55Rも器であることに変わりはないが、最低限の調整で映像本来の世界が出現する。映像を呑み込む大きさがある。その理由の第一は先述のコントラスト性能にある。ダイナミックアイリスを使用する他機の場合、どうしても輝度のダイナミックレンジを作為的に継ぎ足した感覚があるのだが、DLA-X75R/X55Rの場合、ネイティブコントラストだけで高い数値が得られるため、非常になだらかな階調特性が得られている、その自然さが映像の大きさにつながるのだ。
もう一つの大きさの決め手が色彩表現の素直さ、幅広さである。とりわけ注目してほしいのは、中間色の豊かさ。一つだけ実例を挙げてみよう。先に現代の映像の画質は多種多様と話したが、その好例がジブリ作品である。ジャンル上はアニメーションだが、背景美術を筆頭に描画へのこだわりは単純なTVアニメとは隔絶した<映画そのもの>である。しかも、作品の世界観によってその美術も変わっていく。
宮崎吾朗演出の新作『コクリコ坂から』をDLA-X75R/X55Rで見た。本作は1963年の横浜山手が舞台で、背景美術もかつての井上直久のパステル幻想美ではなく、現実に存在した世界を追憶の中の物語調で描いている。他方式のプロジェクターが手こずる世界観の表出を両機は最低限の映像選択でやすやすと実現して驚かされる。その鍵が両機の<カラーマネージメント>である。
カラーマネージメント(以下カラマネ)はLCOS方式の広大な色域を活かして、復調軸の設定、色相、彩度、明るさを自在に設定する機能で、プリセットされたモードが<カラープロファイル>である。一般的には本作の場合、カラープロファイルから「アニメ」(X75Rの場合、アニメ1.2がある)を選択するが、他の「シネマ」、「フィルム」ではカラマネの設定が違い、彩度からホワイトバランスまですべてが変わる。
本作の場合、主人公の亡き父とつながる信号旗の赤が色彩設計上のポイントだが、「アニメ」だと絵の具を塗りたくったような単純な原色になる。しかし、主人公の思いのこもった<世界で一つだけの赤>のはずだ。これを「フィルム」にすると感情と歳月を滲ませた穏やかな発色の赤になる。筆者は劇場で本作を見逃したが、『これが主人公の赤だ』と直感した。
‘60年代の横浜の夜の家並みや室内描写も、「フィルム」で良好なバランスが得られる。あなたのイメージがもう少し明るいジブリならば、「シネマ」モードを選択すればいい。それでもイメージにまだ開きがあるなら、先のカラマネの「カスタム」モードに入ってマニュアルで7軸調整を行うといい。
DLA-X75R/X55Rの<映像の大きさ>に並ぶもう一つの魅力が<緻密さ>である。これについては圧倒的に4K e-shift2の4K解像度に拠るものが大きい。昨年<待ち>を決め込んだファンにお伝えしたいのは、バージョンが進化して4K描画の完成度が増したことである。今回新たに盛り込まれた特徴は、画像によって適宜エンハンスとスムージングを使い分けることである。その結果、4Kプロファイルの高解像度モードを選んだ場合、一画像の中でスムージングの適用範囲と認識された箇所でも細かな情報が認識されれば堅持し不必要なデフォーカスをしない。したがって、映像の隅々まで情報が漲ったバランスの高い映像が得られる。
ここでも一つだけソフトの実例を挙げてみよう。『アメイジング・スパイダーマン』(2Dバージョン)は、コミックが原作のヒーローアクションだが、自分探しの物語でもある。したがって日常の細かな描写を重視している。ラストの市警の葬儀のシーンで水を含んだ雨傘のテクスチュアやヒロインのセーターの質感描写が4Kの恩恵で木目細かく、自然光下のエマ・ストーンやアンドリュー・ガーフィールドの肌の階調に硬さがなくしなやか。しかし、同時に映像の背景に現れるN.Y.のダウンタウンの実景のリアルな質感や奥行きに4Kの情報量が発揮され、作品が撮影で狙った映像のこだわりに見事に答えている。
映像の大きさと緻密さ − D-ILA方式の数々の優れた特長と4K解像度によってこの両方を同時に掌中に収めたDLA-X75RとDLA-X55Rは、現在のプロジェクターの最前線といっていい。
(大橋伸太郎)
プロジェクターが固定画素方式に変わり、フルハイビジョンになった当座は画素構造を高密度化しやすいDLP方式が中心だった。次に製造し易く価格を安く設定できる3LCD方式(透過型液晶)が主役の座を奪った。しかし、LCOS方式がやや遅れて登場してからというもの、高級機はこの方式一色になったといって過言ではない。
理由はいくつか挙げられるが、第一はコントラスト性能に優れていたからである。透過型液晶の場合、透明基板内に回路が形成されるため開口率(画素の実効面積)に制限が出やすいが、反射型液晶(LCOS)の場合、画素電極下に回路が作られるため開口率を高くできる。また、透過型の場合、基板内で一定の光の漏れや内部損失が生じるのに対し反射型は光の利用効率で勝る。これがコントラスト性能に結びつくのである。DLP方式もコントラストに優れているが、家庭用単板方式はカラーブレイク(色割れ現象)の問題が解決できていない。
JVCのD-ILAはLCOSの一方式だがデバイスの完成度が高く、他社のようにダイナミックアイリスを使わずとも突出したコントラストが得られた。黒表現のしたたるような美しさは映画ソフトで圧倒的な説得力を発揮し、フルハイビジョン時代を征したのである。
さらにD-ILAの地位をもう一段押し上げた決定打が「3D」である。1フィールド毎の描画に関し、LCOSのライバル方式がアナログの順次(ライン)描き込みだったのに対し、D-ILAはデジタルの一括(面)描き込みで行う。そのためフィールドシーケンシャル方式の3Dで非常に明るく、階調が損なわれず切れ味のある映像が得られる。
今、プロジェクターは次のステージに進もうという局面にある。フルハイビジョン(以下フルHD)から4K解像度への進化である。昨季DLA-X70R、90Rが登場したが、4K一年目の昨年<待ち>を決め込んだファンは少なくなかったはずだ。しかし、今期D-ILA方式4K解像度が第2世代に発展した「DLA-X95R」「DLA-X75R」「DLA-X55R」が登場。今年こそフルHDからの買い替えようというユーザーは少なくないだろう。そうなれば、フルHDモデルでJVCが達成した高い完成度が維持されているのか気になるのは当然のこと。本レビューでは、中核機である「DLA-X75R」「DLA-X55R」の実力を見極めてみよう。※「DLA-X95R」のレビューはこちら
基礎画質と画質調整機能が大きく新かした「e-shift2」
DLA-X55R/75R/95Rで構成される新シリーズに共通して搭載され、注目に値するのが「e-shift2」である。JVCの場合、中核のD-ILAデバイスはフルHD(1920×1080)だが、画素ずらしという光学的手法を使って4K解像度(3840×2160)を得る。昨年から採用されているe-shiftである。これについては昨季のX70R、90R登場時に何度も紹介したので深入りしないが、新バージョンe-shift2でどう変わったのかについて紹介しておこう。
昨季バージョンでは画像成分の検出範囲が6×6だったが、新たにワイドレンジ画像成分検出を採用し、21×21ピクセルへ拡大した。FIR(画像処理型)の高性能フィルターを採用し、検出を行う映像周波数帯域も従来の2バンドから8バンドへ細分化した。これらの総合でソース毎に細かい調整ができ、またカットオフ帯域は自由に調整できる。
しかし、e-shift2の最大の特徴は、昨季の高域中心のエンハンスから脱却したことにある。従来は一律に一旦スムージングしてからエンハンス(高域強調、伸長)を行ったが、今回は、画像の解像度と周波数分布を解析して部分ごとにそれぞれ異なった高画質化処理を行う。
しかも興味深いことにブラックボックス化を進めるのでなく、新たにユーザーが調整できる「4Kプロファイル」が設けられ、エンハンス、ダイナミックコントラスト、スムージングといった高画質化のパラメーターがユーザーに開放された。この時、ユーザーの一助になるのが、「画像解析画面」(別名「アナライズモード」)である。画面上の周波数分布を青から赤(短波長)まで1ピクセル単位で表示し、どの箇所がどういう周波数で描画されているのか色で分かる。ユーザーはそれを見て映像の傾向を把握して高画質化のアプローチを選べばいい。
他に、カラープロファイルに新たにテクニカラーの色域に準拠した「フィルム3」を新設(X75R、X95R)。3Dモードが3Dシネマ、3Dビデオ、3Dアニメに分かれた(X75R、X95R)。3モードRGBトータルのガンマ設定は共通だが、カラーマネージメントの彩度の設定が違っていて、映像の表情を異にする。また、3Dでもマルチプルピクセル コントロール(MPC)が適用されるようになったのはトピックだ。
「大きく、緻密な画」を実現する飛び抜けた実力
音元出版視聴室で各種ソフトをDLA-X75R/X55Rで視聴した。一言で特徴を表現すれば両機共「大きく、緻密な画」である。矛盾した表現に思われるかもしれない。その意味をソフトを例に挙げて解説してみよう。まず最も強い印象を与えるのは、映像の画質への対応の幅が飛び抜けて広いことである。現代私たちが向き合う映像は、フィルムから4Kあるいは8Kで撮影・編集されたビデオ映像、映画からアニメーション、舞台収録まで広範で、さらに映像のトーン(アメリカではLOOKと表現することが多い)の設定は千差万別、百花繚乱である。DLA-X75R/X55Rはどのようなタイプの映像をも受け入れ、オリジナル性を尊重して的確に表現することができる。透過型液晶やDLP方式の場合、そのプロジェクターの映像の特性に一致した場合、つまりツボにはまった場合、良好な結果が得られるが、そうでない場合どれだけ調整しても「本来こう見たい」という映像になかなか到達できない。だから、そのプロジェクターの制限された器の中で映像を見ることになる。
しかし、D-ILAのDLA-X75R/X55Rも器であることに変わりはないが、最低限の調整で映像本来の世界が出現する。映像を呑み込む大きさがある。その理由の第一は先述のコントラスト性能にある。ダイナミックアイリスを使用する他機の場合、どうしても輝度のダイナミックレンジを作為的に継ぎ足した感覚があるのだが、DLA-X75R/X55Rの場合、ネイティブコントラストだけで高い数値が得られるため、非常になだらかな階調特性が得られている、その自然さが映像の大きさにつながるのだ。
もう一つの大きさの決め手が色彩表現の素直さ、幅広さである。とりわけ注目してほしいのは、中間色の豊かさ。一つだけ実例を挙げてみよう。先に現代の映像の画質は多種多様と話したが、その好例がジブリ作品である。ジャンル上はアニメーションだが、背景美術を筆頭に描画へのこだわりは単純なTVアニメとは隔絶した<映画そのもの>である。しかも、作品の世界観によってその美術も変わっていく。
宮崎吾朗演出の新作『コクリコ坂から』をDLA-X75R/X55Rで見た。本作は1963年の横浜山手が舞台で、背景美術もかつての井上直久のパステル幻想美ではなく、現実に存在した世界を追憶の中の物語調で描いている。他方式のプロジェクターが手こずる世界観の表出を両機は最低限の映像選択でやすやすと実現して驚かされる。その鍵が両機の<カラーマネージメント>である。
カラーマネージメント(以下カラマネ)はLCOS方式の広大な色域を活かして、復調軸の設定、色相、彩度、明るさを自在に設定する機能で、プリセットされたモードが<カラープロファイル>である。一般的には本作の場合、カラープロファイルから「アニメ」(X75Rの場合、アニメ1.2がある)を選択するが、他の「シネマ」、「フィルム」ではカラマネの設定が違い、彩度からホワイトバランスまですべてが変わる。
本作の場合、主人公の亡き父とつながる信号旗の赤が色彩設計上のポイントだが、「アニメ」だと絵の具を塗りたくったような単純な原色になる。しかし、主人公の思いのこもった<世界で一つだけの赤>のはずだ。これを「フィルム」にすると感情と歳月を滲ませた穏やかな発色の赤になる。筆者は劇場で本作を見逃したが、『これが主人公の赤だ』と直感した。
‘60年代の横浜の夜の家並みや室内描写も、「フィルム」で良好なバランスが得られる。あなたのイメージがもう少し明るいジブリならば、「シネマ」モードを選択すればいい。それでもイメージにまだ開きがあるなら、先のカラマネの「カスタム」モードに入ってマニュアルで7軸調整を行うといい。
DLA-X75R/X55Rの<映像の大きさ>に並ぶもう一つの魅力が<緻密さ>である。これについては圧倒的に4K e-shift2の4K解像度に拠るものが大きい。昨年<待ち>を決め込んだファンにお伝えしたいのは、バージョンが進化して4K描画の完成度が増したことである。今回新たに盛り込まれた特徴は、画像によって適宜エンハンスとスムージングを使い分けることである。その結果、4Kプロファイルの高解像度モードを選んだ場合、一画像の中でスムージングの適用範囲と認識された箇所でも細かな情報が認識されれば堅持し不必要なデフォーカスをしない。したがって、映像の隅々まで情報が漲ったバランスの高い映像が得られる。
ここでも一つだけソフトの実例を挙げてみよう。『アメイジング・スパイダーマン』(2Dバージョン)は、コミックが原作のヒーローアクションだが、自分探しの物語でもある。したがって日常の細かな描写を重視している。ラストの市警の葬儀のシーンで水を含んだ雨傘のテクスチュアやヒロインのセーターの質感描写が4Kの恩恵で木目細かく、自然光下のエマ・ストーンやアンドリュー・ガーフィールドの肌の階調に硬さがなくしなやか。しかし、同時に映像の背景に現れるN.Y.のダウンタウンの実景のリアルな質感や奥行きに4Kの情報量が発揮され、作品が撮影で狙った映像のこだわりに見事に答えている。
映像の大きさと緻密さ − D-ILA方式の数々の優れた特長と4K解像度によってこの両方を同時に掌中に収めたDLA-X75RとDLA-X55Rは、現在のプロジェクターの最前線といっていい。
(大橋伸太郎)