【特別企画】4K映像の高精細映像を描き切るスクリーンとは!?
オーエス「ピュアマットIII」の“4K対応度”を山之内正&鴻池賢三がレビュー
■4K・8K時代のレファレンス生地がここに誕生した |
取材・執筆/山之内 正
■現行生地の織り糸に比べ新生地の糸の太さは半分
4Kプロジェクターは私たちがいま入手できる映像機器のなかで最上のクオリティを実現するデバイスだが、その性能をフルに引き出すためには、スクリーンの性能にも目を向けるべきだ。フルハイビジョンの4倍に及ぶ高精細4K信号を投影して精緻なフォーカスを得るためには、スクリーンの構造や光学特性を見直す必要がある。
そう考えたオーエスが素材レベルから見直して新たに開発した生地が「ピュアマットIII」(WF301)だ。張り込み方を5月に先行発売したあと、巻き取り方などバリエーションを広げ、次世代のリファレンスを目指して積極的な導入を図る。
4Kプロジェクターにふさわしいスクリーン性能とはなにか。まずは高解像度に見合うきめの細かい織目を実現するために、今回の新生地は従来のピュアマットIIEX(WF203)に比べて糸の太さを約半分に細くした。細かい糸で織ることによって織目が小さくなるだけでなく、凹凸の少ない滑らかなサーフェスを実現する。
しかし、凹凸が少ないほど前後方向の距離差が小さくなるのでフォーカス面では有利だが、あまりに平面性が高いと光が拡散しにくくなり、有害なホットスポットの発生を招く。そのバランスを確保しつつモアレも抑えるなど、同社が克服した課題は多岐にわたる。
■素材を徹底的に追い込みゲイン値1.0を実現
ゲインは既存のピュアマットIIEXを若干上回る1.0を実現した。反射面へのホワイトコーティングの分量と方法を工夫し、バックコーティングの厚さや素材を吟味するなど、時間をかけた追い込みによって、この理想的な数値に追い込むことができたという。もちろんホワイトコーティングの量を増やせばさらにゲインを上げられるが、オーエスが目指す「なにも足さない、なにも引かない映像表現」を実現するためには、過剰な配合は避けたいところだろう。従来モデルと比べたスクリーン表面の平面性の高さは、もちろん肉眼でも容易に見分けることができる。
一方、4Kプロジェクターの選択肢が広がれば、高ゲイン仕様のスクリーンの需要が高まることも予想できる。今後はミドルクラスの4Kプロジェクターなど新製品の登場も期待されるので、そこに照準を合わせたピュアマットIIIのバリエーションモデルがあっていいだろう。
今回登場するPAタイプは、スプリングの張力によって生地周辺のフレームから均等なテンションをかける構造を採用している。平面性の確保という点で理想的な構造であり、安定した性能を保持するうえでもメリットが大きい。シビアなフォーカス性能が求められる4K投写では、高い精度で平面性を維持する必要があることは言うまでもない。利便性の面では巻取型の方が張込型を上回るのは当然のことだが、画質にこだわるハイエンドシアターには張込型がふさわしい。4Kを契機に巻取型から張込型への切り替えを検討するのもいいのではないだろうか。
立体感と遠近感に確実な差が出るピュアマットIII
ソニーのVPL-VW1000ESを用意し、120型(16:9)の試作品でピュアマットIIIの画質を確認した。光学的には基本的に従来のピュアマットをそのまま継承しており、ごく自然な拡散特性を持っている。そのため、どの明るさでもテクスチャーに強調感がなく、滑らかで柔らかい質感を確保しているのはもちろんだが、そこに張込型スクリーンならではの均一で安定したフォーカス性能が加わり、安心して映像に集中することができる。
特筆すべきは微細なディテール表現の次元の高さだ。BD『ホビット』冒頭の明るい自然描写では、スクリーンの存在を忘れさせる深い遠近感を引き出し、2Dで見ているにも関わらず、立体感の描写性が際立って優れている。人物のクローズアップなど中望遠から望遠のショットでは、1.5H前後までスクリーンに近づいても全く画素の存在が気にならず、もちろんスクリーン生地の織目の存在も意識する必要がない。
『トータル・リコール』の磁気ドライブカー追跡シーンは、背景の作り込みのキメの細かさに従来スクリーンとの差を見出すことができる。同じシーンを従来スクリーンで見ると、ピュアマットIIIに比べて若干フォーカスが甘く見えるほどで、その差は決して小さくない。もちろん従来のピュアマット生地の場合もフルHDプロジェクターとの組み合わせではなんら不満を感じることはないのだが、VPL-VW1000ESと組み合わせると、立体感と遠近感に確実な差を読み取ることができるのだ。
すでに4Kプロジェクターを所有している映画ファンはもちろん、これから購入を検討している場合も選択肢に加えておくことを強くお薦めする。