様々な試聴環境でSE846を使い倒す
SHURE最上位イヤホンがもたらす“3つの感動” − 「SE846」を大橋伸太郎がレビュー
■第三の感動:様々なシチュエーションで、試聴者の期待を上回る再生を実現
圧縮音源ではもったいないので、次にコルグのUSB-DAC/ヘッドホンアンプ「DS-DAC-10」と組み合わせてDSDネイティブ再生を聴いた。曲は伊藤栄麻(pf)のJ.S.バッハのゴルトベルク変奏曲(5.6MHz e-onkyoからのダウンロード音源)である。
音の芯を掴む確かさ、鮮度が抜群に高い。演奏がきわめて近く感じられ5.6MHzネイティブの真価を確かに聴き取ることが出来る。特筆すべきは中高域のエネルギー感。鍛え抜かれた手が鍵盤に打ち下ろされハンマーが叩いて鋼線に漲るエネルギーが体感されるのだ。オープンエアのスピーカーシステムでもやすやすとは得られないものである。
次に、アキュフェーズ「C2820」のヘッドホン出力にSE846を接続し、高級オーバーヘッドホンに準ずる聴き方を試みた。曲はエリアフ・インバル指揮、東京都交響楽団演奏のショスタコーヴィチ交響曲第4番(SACD)。ここでもSE846のエネルギー感の表出と多彩な楽器の音色の色付けない描き分けが威力を発揮、イヤホンながら堂々としたスケール感があって、近代音楽の精緻な立体感が頭蓋の中に建築物のようにありありと出現する。
SE846の特長の一つに遮音性の高さが挙げられる。最大75dBの遮音効果があり、アウトドアではもちろん、インドアでもこうしたダイナミックレンジが大きく弱音効果を重視した曲で威力を発揮する。3ウェイ4ドライバーの高音質が常に持ち腐れにならないというわけだ。
最後に趣向を変え、電子ピアノ「クラビノーバ」に接続してみた。電子楽器の内蔵アンプは大抵出力ワッテージが低く、低能率ヘッドホン/イヤホンは別にヘッドホンアンプが必要でこれが演奏の邪魔になる。SE846は感度が114dB SPL/mWで特に高感度ではないが、聴感上の音圧感は十分で、録音音源同様の鮮鋭でエネルギー感に満ちた音質を確認出来た。
一台のイヤホンが変換器となり、使い手の期待を上回る再生をしてみせる懐の深さ。これが第三の「感動」である。
SE846の価格帯は、オープン価格で想定売価が99,800円である。イヤホンとしてみた場合、もちろん高価格帯に属するが、アウトドアでもインドアでも、高級オーバーヘッドホンやスピーカーシステムに負けないハイエンドオーディオが楽しめるメリットは大きい。
どこまでもユーザーに寄り添い、あらゆるシチュエーションで最上の音を奏でるオールマイテイなオーディオ機器がSE846である。このユーティリティと音質の高度な融合を考えたら、99,800円は高くはない。「感動」という無形の価値がそこに加わるのだから。
◆大橋伸太郎 プロフィール
1956年神奈川県鎌倉市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。フジサンケイグループにて美術書、児童書を企画編集後、(株)音元出版に入社、1990年『AV REVIEW』編集長、1998年には日本初にして現在も唯一の定期刊行ホームシアター専門誌『ホームシアターファイル』を刊行した。2006年に評論家に転身。西洋美術、クラシックからロック、ジャズにいたる音楽、近・現代文学、高校時代からの趣味であるオーディオといった多分野にわたる知識を生かした評論を行っている。