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山之内 正がクラシックを中心に試聴

ゼンハイザー「IE 800」レビュー − 音楽を生き生き鳴らす最上位イヤホン

公開日 2013/07/05 10:51 山之内 正
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■ヘッドホンの最上位機「HD 800」に通じる再生能力

MacBook AirにRME「Fireface UCX」、ソニー「PHA-1」をそれぞれUSBで接続し、試聴した。まずはウェーバーのクラリネット協奏曲でオーケストラのバランスを確認する。基本的には特定の音域や一部の楽器が強調されたり、エネルギーが弱まることがなく、すべての楽器、すべてのパートが本来のバランスで鳴っている。Fireface UCXとの組み合わせではオーケストラのなかでの風通しがよく、余韻が消える瞬間まで空気のふるまいを精密に再現した。しかもIE 800の低音は音符の長さ以上に余分な響きを引きずらないので、ホールに響く余韻が静かに広がり、次第に消えていく様子がとても生々しい。

横から見たところ。筐体内部に2基のレゾネーターを搭載するチャンバーシステムを採用

チャンバーシステムがカナル内部の有害な共鳴を抑える

直接音と残響の間の関係を忠実に描き出す能力はヘッドフォンのフラグシップであるHD 800に通じるところがあると感じた。もちろん、量感とスケール感でHD 800のような余裕を期待することはできないが、澄んだ音場空間とS/Nの良さなど、音調としては基本的に同じところを目指しているようだ。

ちなみに同じ曲をPHA-1で鳴らすと、低音が少しだけ厚みを増して輪郭がゆったりとする傾向がある。色付けのないFireface UCXのサウンドはIE 800との相性がいいが、曲によってはPHA-1を組み合わせ、重心の低い音調を狙うのも面白いと思う。

次にPHA-1との組み合わせでモーツァルトのピアノ協奏曲を弦楽四重奏版で演奏した録音を聴く。ピアノはオーストリアの名手ヴァリッシュで、カルテットは若手のピアッティ弦楽四重奏団。まるで別の曲に生まれ変わったように新鮮な響きを楽しめる見事な演奏で、繊細のきわみというべき音色の美しさと柔軟なフレージングが聴きどころだ。

IE 800とPHA-1の組み合わせは弦楽器の音色が硬くなりすぎることがなく、特にヴィオラとチェロの低音弦はふっくらとした柔らかさを身に付けていて、余韻も痩せることがない。その一方で2本のヴァイオリンは鮮明なアタックで素早い立ち上がりを聴かせ、アレグロの第13番第1楽章のアレグロは息を呑むような推進力を引き出してきた。

その鮮度の高い音色はスピーカーにたとえるとB&Wのモニタースピーカーに似たところがあり、繊細で爽快なサウンドに共通点を見出すことができる。筆者が普段聴いているSignature Diamondの音調にも近いところがあり、偶然とはいえスピーカーからイヤホンに切り替えてもIE 800との間でそれほど違和感を感じることがなかったのだ。もちろん厳密に聴けば細部の情報量や空間再現力に少なからぬ違いがあるのだが、音楽を生き生きと鳴らすという点はかなり近いと思う。イヤホンでそこまでの感触を引き出す製品はめったにないので、特にクラシックファンは本機の存在を意識しておくといい。

次ページ粒立ち感と柔らかさが両立した稀有なサウンド

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