[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第55回】これが究極の低音ホン!? “ベーシストのため”のヘッドホンを聴く
■徹底試聴! “ベーシストのため”のヘッドホンのベースラインはどう聴こえる?
最初に印象をまとめると、ベースについては実にクリアでスマートな再現性。「低音、盛りました」感は全くなく、コンパクトにタイトにまとめられた音像だ。だからこそ確かにベースラインを耳で追いやすく、曲全体の中でのベースのバランスというか立ち位置も実に適正だ。
もちろん様々な曲を聴き込んだが、ここではDaft Punkの「Give Life Back to Music」に絞り込んでその印象の細部を述べていこう。
Daft Punkの新アルバム「Random Access Memories」は歴戦のセッション・ミュージシャンによる素晴らしいグルーブが詰まったアルバム。その冒頭を飾るこの曲はギターがナイル・ロジャース氏、ドラムスがポール・ジャクソン・ジュニア氏、そしてベースはネイザン・イースト氏という布陣だ。
その注目のベースは、すっと届いてくる。もっさり感、もったり感のないすっとした音色だ。ベースの音色を膨らませる帯域を下手に強調していないことが、その感触を生み出しているのだと思う。また特定の帯域が強調されていないことで、フレーズの中で音程が上下してもそれにつられて音像が太ったり痩せたりすることがなく、フレーズの堅実さというか安定感が確保されている。
この低音の音作りは、ベーシストの音作りに通じるものがあるのではないだろうか。
ベースの音作りに慣れていないうちは「俺のベース聴こえにくい→アンプのボリュームやイコライザーのベースツマミをぐいっと上げる→低音がドカンと盛り上がって聴こえやすくはなる→しかしアタックや音程感が不明瞭になった上に低音が広がりすぎ、他の楽器の音を邪魔している」みたいなことになりやすいと聞く。
しかし音作りがわかってくると、中域から高域にかけてのイコライジングや前後のピックアップのバランス調整、そもそものピッキングの仕方などによって、「バランスが良く抜けの良い音」を作れるようになってくるというのだ。このヘッドホンの低音の音作りにはそういった「巧さ」や「節度」を感じる。
■もちろんベース以外の楽器も好印象
そして、ベース以外の楽器や全体の様子も好印象だ。ギターのカッティングは、実際の録音でどんなギターが使われたのかはわからないが、聴いた印象としてはフェンダーのシングルコイルのギターらしいパキッと抜ける音色。このヘッドホンではその感触が生かされており、リズムのキレが良い。ベースもかなり良かったが、ギターもかなり良い。
ドラムスではハイハットシンバルの音色の明るさが印象的だ。ドラマーの手元に向けた照明を少し強めたような感じで、演奏のニュアンスも見えやすい。ギターのカッティングとハイハットシンバルというリズムを細かく刻むパートが明瞭なことで、グルーブの躍動感がさらに高まっている。
明るさと言えば、ボーカルなどの他のパートも、そして音場全体も明るく、そして響きがオープン(開放的)だ。密閉型モニターヘッドホンで「オープン」という印象を持てるモデルは少ないので、ここもこのヘッドホンの他にない特長のひとつに挙げられるだろう。
というわけでPJB H850。ベースの再現性に優れることはもちろんだが、全体的に良質な再現性を持ったヘッドホンだ。このクオリティでこの価格というのは、普通に魅力的。オーディオ系の売り場やウェブ通販にはあまり置かれていないと思うので、気になった方は楽器店系で探してみてほしい。
高橋敦 TAKAHASHI,Atsushi 趣味も仕事も文章作成。仕事としての文章作成はオーディオ関連が主。他の趣味は読書、音楽鑑賞、アニメ鑑賞、映画鑑賞、エレクトリック・ギターの演奏と整備、猫の溺愛など。趣味を仕事に生かし仕事を趣味に生かして日々活動中。 |
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