HOME > レビュー > AKG「Y40」レビュー − 洗練されたサウンドのハイパフォーマンスモデル

成熟したヘッドホン市場に登場した老舗ブランドの新“Y”シリーズ

AKG「Y40」レビュー − 洗練されたサウンドのハイパフォーマンスモデル

公開日 2014/12/04 10:00 中林直樹
  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE
性能も価格も成熟したヘッドホン市場に登場した
老舗ブランドの新シリーズ


少々気が早いようだが、2014年のヘッドホンシーンを振り返ってみよう。大きな傾向のひとつは、やはりJEITAや日本オーディオ協会の策定した定義に従って、ハイレゾ対応を謳うモデルが数多く登場したことだ。また、振動板やマグネット、イヤパッドやヘッドバンドなどのパーツをブラッシュアップし、マイナーチェンジを図ったものも目立った。これはヘッドホンというオーディオ機器が成熟した証だともいえる。それは価格面からも見て取れる。ここで紹介するAKGを始めとする老舗で、ハイエンド機を得意とするブランドが手の届きやすい製品をリリース。価格のレンジを広げて、より多くのユーザーを獲得しようという狙いだ。このようにブランド同士の威信をかけたシェア争いが続いている。

今回、AKGはYシリーズとして4機種をリリースした。YはYOUNG Proを意味しているそうだ。若い世代にもフレンドリーな価格であることはもちろん、本格的なサウンドを広く世に問う戦略的シリーズと言ってもよいかもしれない。

AKG「Y40」

まず触れることができたのはY40で、オンイヤータイプの密閉型。上位モデルと同じφ40mmのドライバーユニットを搭載する。イヤパッドはやや厚みが持たせてあり、クッション性も高く、側圧も十分にあるため耳に吸い付くようにフィットする。ハウジング部は90°回転し、折りたたんでフラットにすることも可能。付属のポーチに収納してコンパクトに持ち運べる。ハウジングの外側はややメタリックな仕上げ、一方でヘッドバンドなどはマット加工でグリップしやすい。ブラックのほか、イエロー、ブルーのビビッドなカラーバリエーションが用意されていることも、これまでに見られなかった新機軸だ。ケーブルは1.2mで細くかつしなやか。スマートフォン用マイク付きリモコンが搭載されている。左片出しで、着脱も可能だ。

ハウジング部は90度回転し、コンパクトに折りたたみも可能。

付属ポーチは「Y45BT」と共通の、北欧を感じさせるファブリック製


イヤーパッドは厚みのあるタイプ。L/Rも分かりやすい。

ケーブルは着脱式。通常のケーブルに加え、スマホ用マイクリモコン付きケーブルも付属する

洗練されたサウンドのハイパフォーマンスモデル


ペンギン・カフェ『ザ・レッド・ブック』
では、新しい製品をチェックする際に必ず使用している、ペンギン・カフェの『ザ・レッド・ブック』(44.1kHz/24bit)を聴いてみたい。プレーヤーはAstell&KernのAK120IIを使用する。彼らはリーダーで作曲家、マルチプレーヤーであるアーサー・ジェフスを中心として活動。ピアノやバイオリン、チェロ、パーカッションなどのアコースティック楽器が主体で、10人の腕利きミュージシャンの集合体である。9月には来日公演を行い、多くの音楽ファンを唸らせた。ちなみに、本作のアナログ盤も全世界750枚限定で発売されたので、彼らの本国のサイトから現在取り寄せ中だ。

それはともかく、Y40は彼らの音楽の揺らぎやうねりを滑らかに表現してくれた。解像度が特段高いわけではないが、バンドサウンドを耳に心地よく届けてくれる。ハウジングはコンパクトだが、イヤパッドに高さがあるためだろうか、耳の周囲にゆったりとした音場が現れる。ピアノやバイオリンの高域が耳の奥に不自然に飛び込んでこない。音が荒れないと言っても良いだろう。品のある音だ。


プリンス『アート・オフィシャル・エイジ』
次にプリンス『アート・オフィシャル・エイジ』(44.1kHz/24bit)から「WHAT IT FEELS LIKE」を聴く。メローなファンクで、音を詰め込み過ぎない、引き算的に創られたであろう楽曲だ。楽器の音色も含め、どこか全盛期のテイストを湛えている。Y40はそんな楽曲を優しくあたたかなトーンで表現する。自然な立体感もある。随所に入るギターの短いフレーズやシンセベースも他のパートと程よく調和して、過剰に演出されない。この曲でプリンスとデュエットするのは、カメルーン出身のシンガー・ソングライター、アンディ・アロー。コクがあるのに清々しい彼女の声を堪能した。プリンスの少し抑制した歌い方のニュアンスも十分に伝わってくる。ペンギン・カフェを聴いた際には、正直、このプリンスのようなサウンドは苦手かもしれないと予想した。しかし、楽曲を華美に演出せず、クリーミーにまとめている。この柔和さこそ、本機の真骨頂だろう。


上間綾乃『はじめての海』
その特長は、沖縄のシンガー上間綾乃の『はじめての海』(88.2kHz/24bit)でも存分に発揮された。「童神(わらびがみ)」は縦笛とギター、チェロ、ピアノ、パーカッションというシンプルな編成をバックに、上間のボーカルが優しげに立ち現れる。とはいえ特定の帯域が強調されることがないので、ナチュラルなサウンドを聴かせてくれる。また、遮音性能も高いゆえ、そうした音楽世界に一瞬にしてどっぷりと浸ることができた。


優しい音調に加え、フィット感も高く、さらに軽量だから長時間のリスニングでも疲れない。音漏れも少なく、コンパクトだから屋外での使用も、もちろん可能だ。音量を下げてもバランスの良さが失われることはない。さらに、ブルーやイエローのモデルは、ファッションの指し色としても使えそうだ。直販サイトでは本体価格が8,000円である。本機の洗練されたサウンドと照らし合わせると、「ハイコストパフォーマンス」というワードが自ずと浮かんでくる。

【Yシリーズレビュー一覧】
・「Y50」レビュー:http://www.phileweb.com/review/article/201410/31/1393.html
・「Y45BT」レビュー:http://www.phileweb.com/review/article/201410/31/1394.html

この記事をシェアする

  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE

トピック: