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<山本敦のAV進化論>第35回

モバイルにも広がるK2HD。開発者に聞く「スマホ向け」の音づくり

公開日 2014/12/10 10:39 山本 敦
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「今から6年前に『net K2』をサムスンの方へご紹介した縁があり、今回サムスン電子ジャパンのスマートフォン担当の方にK2HDプロセッシングをご体験いただきました。その後、本国の開発スタッフの方にも気に入っていただいたことで採用が決まりました」(鈴木氏)。

「GALAXY Note Edge」はグローバルモデルもハイレゾ再生に対応しているが、この「K2HDプロセッシング」は日本国内モデルのみの機能になる。 このモデルは、ハイレゾ音源に対してはプロセッサーを通さない仕組みになっており、K2HDはCDややMP3など圧縮音源を192kHz/24bit相当で高音質に楽しむための機能として謳われている。本体メニューの「音設定」から「K2HD」にチェックを入れておくと、CDからリッピングした音源を再生した時などに、カバーアートの左上に「K2HD Processing」アイコンが表示される。

音楽再生の設定メニューから「K2HD」のチェックをオンにする

K2HDをオンにするとジャケット画像左上にアイコンが表示される

K2HDプロセッシングのコンセプトについて、秋元氏はこう語る。「スタジオでは以前からハイレゾフォーマットで録音を行っています。マスター音源からCDなど各フォーマットにデジタル化して収録する際に変化した情報を、“本来の状態に限りなく近いクオリティに戻す”というのが、K2HDプロセッシングを含む、全てのK2処理の基本的な考え方です。CDより音が良くなるという言い方は、厳密に言えば正しくありません。CDの音にも良さがあり、独自のノウハウも蓄積されていますが、器の制約から音質には限界があります。そのCDの音がより自然に元の演奏に近いかたちで復元されるという感覚です」。

さらにはビクタースタジオで長年キャリアを築いてきたエンジニアの経験が、K2HDプロセッシングの音づくりを唯一無二なものにしていると秋元氏は語る。

「圧縮音源を復元する段階で、波形を目で見ながら理想的な音響特性に近づけていくことも可能ですが、K2HDではより“聴感”に判断基準の重みを置いています。プロのエンジニアたちが自分の耳と経験を頼りに聴き比べながら“どれだけ原音に近づいているか”という基準の元に音を追い込んでいるところが、K2HDプロセッシングが他のアップサンプリング技術と大きく異なるところです。数値的なデータ特性を判断基準にアップサンプリングを行うことも可能ですが、最終的には音を聴いた感覚で元の演奏に近い方のパラメータ設定をつくっているのがK2HDの独自性です」(秋元氏)。

K2HD処理のフローチャート

現在ビクタースタジオには常時30名前後のスタジオエンジニアが在籍しているが、ポップス・ロック系、ジャズ系、クラシック系と、3つのジャンルのそれぞれに得意とするエンジニアをグループ分けして集め、担当者たちが各々手がけた楽曲などを持ち寄ってパラメータを追い込んでいく。各グループごとにある程度固まってきたら、今度はジャンル別に代表者が集まって共通のパラメータをつくっていくという流れで作業は進んでいく。

OKが出れば次のステップに進むことができるが、納得が行かなければ何度もやり直す。「だからクラシックのグループでは納得が行っていたパラメータでも、ポップスで聴いたら全然よくなかったということも起こります。それでも根気よく摺り合わせていくことで、不思議とまとまっていくものです。現在は最終のパラメータとして音楽のジャンルに合わせて4〜5種類の設定値が出来あがっています」(秋元氏)。

自らが手がけた楽曲をマスターから44.1kHz/16bitにダウンコンバートし、それにまたK2HDプロセッシングをかけて正しく復元できているかは単純なA/B比較で見えてくる。「難しいのは自分がつくったものではない、例えば他社の録音作品などの場合です。そうしたケースでは客観的な判断から良い音を追求すべきだと考えて、最終的に幾つかのパラメーターを設定しています」と秋元氏は説明する。

K2HD処理のアルゴリズムとパラメータに関する説明


■K2HDをスマホに組み込むためには幾つかのクリアすべきポイント

モバイル機器にK2HDプロセッシングを組み込むための技術提供の方法には、Android OS上で動く「ライブラリ」として提供するかたちと、DSPチップに組み込む方法の2通りがある。

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