AKG「K612 PRO」レビュー − 技術的にもサウンド的にもAKGらしさを備えたモデル
「AKGのヘッドホンでいちばんのおすすめは?」− 質問の前段に例えば「密閉型で」という条件が付くのであれば、僕なら「K550」を挙げる。「ワイヤレスで」だったら「K845BT」だし、「インパクト!」だったら「Y50」だろうか。
しかしただ「AKGの」だけが条件として提示されるのであれば、筆頭候補に挙げるのは「K612 PRO」だ。ハイエンドでもフラッグシップでも多機能でもないこのモデルが実は、「AKGらしさ」を最もストレートに体現しているのではないか。そう思えるからだ。
例えばフラッグシップ超ハイエンドの「K812」は、従来のモデルから一歩先のステージに到達した感がある。なので従来の「AKGらしさ」、例えば自然な高域と自然な広がりとは感触が少し異なるように思える。
では従来の感触での最高峰は「K702」あたりではないのかとなるとその通りなのだが、ざっくりと「AKGでおすすめは?」といった感じで聞かれたときに挙げるにはお値段が少し高い。
そこで「K612 PRO」だ。前述の2モデルと同じ「リファレンス」シリーズのエントリーモデルで、そのサウンドの傾向とクオリティはまさにAKG。それでいて現在の実売価格は2万円を軽く下回っており、外観デザインも過度な主張なく落ち着いている。
つまりこの「K612 PRO」。言うならばC/P(コスト/パフォーマンス比)ならぬC/AKG(コスト/AKGらしさ比)が高い。そこを見込んでの推しなのだ。
上位機種「K702」と共通の技術要素を投入
ではその「K612 PRO」のポイントを確認しておこう。まずは「Two-layerダイアフラム」構造だ。振動板が異種素材による2層構造になっており、それぞれの素材の特性の良いところはさらに活かし、悪いところは抑える。例えば高い剛性による動きの正確さは活かし、振動が収まりにくく不要な響きが乗るところは抑えるわけだ。
振動板には「バリモーション・テクノロジー」も採用。振動板を、まさに音を発するサウンド・ゾーンとその駆動の支点となるムーブメント・ゾーンに分けて考え、ゾーンごとに振動板の厚みを別々に調整。それぞれの役割に最適化することで音質を向上させている。
その振動板を駆動する磁気回路では「フラットワイヤー・ボイスコイル」がポイント。電磁力を生み出すボイスコイルの線材に、断面が円ではなくきしめん型のワイヤーを採用。効率的に密に巻くことができるので小型軽量化が実現。俊敏な駆動、音声信号への反応の良さを獲得している。
これらは上位の「K702」と共通の技術要素だ。技術的にも「K612 PRO」はAKGらしさの結晶と言える。
開放型らしい自然な空間性。
AKGらしいサウンドを高CPで手に入れられるモデル
初めにただひとつ弱点を述べておくと、本機はヘッドホンアンプのパワーはそれなりに要求する。それが足りないと単純に音量も確保しにくいし、低域の押しも抑えも甘くなる。その力があるアンプをお持ちであればそれでよいし、そうでない場合は本機自体がお手頃価格なぶん、その余裕をアンプへの投資に回すのもよいだろう。それをクリアすれば、本機のサウンドは見事だ。
上原ひろみさんのピアノ・トリオのアグレッシブ演奏では、ドラムスの太鼓の太鼓らしい感触、タイトすぎずボワンともせず素直な太さでの抜けが印象的。多弦エレクトリックベースの低音も膨らませずに沈み込ませ、その音程感等も明確。ディープなドライブ感を出してくれる。
高域のシンバルは十分に描き込みながらも繊細にしすぎない。音色の質感まで伝わってくるのだがその質感を細やかにしすぎず、シンバル表面の金属的なざらつきも生々しい。この表現によってこのトリオが持つロックのニュアンスがより生きている。ライドシンバルの音色の芯の金属の粘り気を感じられるのもポイントだ。
それと似た要素はポップユニット相対性理論を聴いても感じられ、エレクトリックギター独特の「ざっくりとした艶やかさ」もうまく表現してくれる。リズムセクションの抑えの効いた、それでいておとなしすぎずしっかりドライブする感じも同じくだ。ジャズ〜ロックまで幅広く対応できると確認できる。
その相対性理論の女性ボーカルの感触もよい。ウィスパー成分の多い声のその成分を柔らかく細やかにはしすぎず、少し掠れさせて耳に引っかからせる歌い回しも堪能できる。そしてひとつひとつの音像をやや大柄に描き出しつつ、しかし音場内で密集した感じにはしない、開放型らしい自然な空間性。この部分のAKGらしさもやはりしっかり備えている。
シンバルやギター、声の感触は上位モデルだともう少し整えた感じになり、もちろんそれはそれで魅力的だ。しかしロック的な手触りを好む方だと「K612 PROのこのあたりがちょうどよい塩梅だ」と感じることもあるかと思う。
ということで「コスト/AKGらしさ比の高さ」「ロックにも対応な手触り感」といったところが僕からの「K612 PRO」推しポイント。そこに引っかかってくれた方は機会があればチェックしてみてほしい。
しかしただ「AKGの」だけが条件として提示されるのであれば、筆頭候補に挙げるのは「K612 PRO」だ。ハイエンドでもフラッグシップでも多機能でもないこのモデルが実は、「AKGらしさ」を最もストレートに体現しているのではないか。そう思えるからだ。
例えばフラッグシップ超ハイエンドの「K812」は、従来のモデルから一歩先のステージに到達した感がある。なので従来の「AKGらしさ」、例えば自然な高域と自然な広がりとは感触が少し異なるように思える。
では従来の感触での最高峰は「K702」あたりではないのかとなるとその通りなのだが、ざっくりと「AKGでおすすめは?」といった感じで聞かれたときに挙げるにはお値段が少し高い。
そこで「K612 PRO」だ。前述の2モデルと同じ「リファレンス」シリーズのエントリーモデルで、そのサウンドの傾向とクオリティはまさにAKG。それでいて現在の実売価格は2万円を軽く下回っており、外観デザインも過度な主張なく落ち着いている。
つまりこの「K612 PRO」。言うならばC/P(コスト/パフォーマンス比)ならぬC/AKG(コスト/AKGらしさ比)が高い。そこを見込んでの推しなのだ。
上位機種「K702」と共通の技術要素を投入
ではその「K612 PRO」のポイントを確認しておこう。まずは「Two-layerダイアフラム」構造だ。振動板が異種素材による2層構造になっており、それぞれの素材の特性の良いところはさらに活かし、悪いところは抑える。例えば高い剛性による動きの正確さは活かし、振動が収まりにくく不要な響きが乗るところは抑えるわけだ。
振動板には「バリモーション・テクノロジー」も採用。振動板を、まさに音を発するサウンド・ゾーンとその駆動の支点となるムーブメント・ゾーンに分けて考え、ゾーンごとに振動板の厚みを別々に調整。それぞれの役割に最適化することで音質を向上させている。
その振動板を駆動する磁気回路では「フラットワイヤー・ボイスコイル」がポイント。電磁力を生み出すボイスコイルの線材に、断面が円ではなくきしめん型のワイヤーを採用。効率的に密に巻くことができるので小型軽量化が実現。俊敏な駆動、音声信号への反応の良さを獲得している。
これらは上位の「K702」と共通の技術要素だ。技術的にも「K612 PRO」はAKGらしさの結晶と言える。
開放型らしい自然な空間性。
AKGらしいサウンドを高CPで手に入れられるモデル
初めにただひとつ弱点を述べておくと、本機はヘッドホンアンプのパワーはそれなりに要求する。それが足りないと単純に音量も確保しにくいし、低域の押しも抑えも甘くなる。その力があるアンプをお持ちであればそれでよいし、そうでない場合は本機自体がお手頃価格なぶん、その余裕をアンプへの投資に回すのもよいだろう。それをクリアすれば、本機のサウンドは見事だ。
上原ひろみさんのピアノ・トリオのアグレッシブ演奏では、ドラムスの太鼓の太鼓らしい感触、タイトすぎずボワンともせず素直な太さでの抜けが印象的。多弦エレクトリックベースの低音も膨らませずに沈み込ませ、その音程感等も明確。ディープなドライブ感を出してくれる。
高域のシンバルは十分に描き込みながらも繊細にしすぎない。音色の質感まで伝わってくるのだがその質感を細やかにしすぎず、シンバル表面の金属的なざらつきも生々しい。この表現によってこのトリオが持つロックのニュアンスがより生きている。ライドシンバルの音色の芯の金属の粘り気を感じられるのもポイントだ。
それと似た要素はポップユニット相対性理論を聴いても感じられ、エレクトリックギター独特の「ざっくりとした艶やかさ」もうまく表現してくれる。リズムセクションの抑えの効いた、それでいておとなしすぎずしっかりドライブする感じも同じくだ。ジャズ〜ロックまで幅広く対応できると確認できる。
その相対性理論の女性ボーカルの感触もよい。ウィスパー成分の多い声のその成分を柔らかく細やかにはしすぎず、少し掠れさせて耳に引っかからせる歌い回しも堪能できる。そしてひとつひとつの音像をやや大柄に描き出しつつ、しかし音場内で密集した感じにはしない、開放型らしい自然な空間性。この部分のAKGらしさもやはりしっかり備えている。
シンバルやギター、声の感触は上位モデルだともう少し整えた感じになり、もちろんそれはそれで魅力的だ。しかしロック的な手触りを好む方だと「K612 PROのこのあたりがちょうどよい塩梅だ」と感じることもあるかと思う。
ということで「コスト/AKGらしさ比の高さ」「ロックにも対応な手触り感」といったところが僕からの「K612 PRO」推しポイント。そこに引っかかってくれた方は機会があればチェックしてみてほしい。