SACD最上位機にUSB-DACを内蔵
ディスクとUSBの垣根を払う新ハイエンド機 − ラックスマン「D-08u」を聴く
誰にでも、ラックスマンの名は、管球式を含むアンプメーカーとしての同社と深く結びついていることだろう。かくいう筆者も、管球式プリメイン「SQ-38FDII」を、数回の球交換を経て現役バリバリでサブシステムの要として稼働中である。プリアンプ「CL-40」、パワーアンプ「MB-360」(全て管球式)も一時期所有していた。
だがラックスマンは、ソース機器の分野で数々の銘機を生み出して来たことを忘れてはならない。アナログプレーヤーでは、バキューム・ディスク・スタビライザー(真空吸着式)ターンテーブルのPD555、デジタル時代に入りユニバーサルプレーヤーDU-10を送り出し、DVDの再生音質を別次元へ導いたのが同社であった。
ラックスマンは、一時期を除いてスピーカーシステムを手掛けなかった。したがって、アンプと入力ソースの適合性の追求を専らとしてきた。現在なら当たり前のDACを内蔵し、デジタルインターフェースを実現したプリメインアンプ(AVアンプではない)LV-109を、1986年に初めて世に問うたのはラックスマンである。アンプメーカーとしての研鑽と研究から、必然的に優れたソース機器が生み出されるのだ。
今年、ラックスマンのソース機器のヒストリーに名を刻む力作が誕生した。SACD/CDプレーヤーD-08uである。つい先頃、音元出版主催のオーディオ銘機賞2015審査会が催され、本機が金賞を受賞した。同賞は、伝統的にアンプとスピーカーシステムが強く、ソース機器が最高賞を受賞することは極めて稀。D-08uへの期待と出来映えのほどがわかろうというものである。
2014年は、下位機種のD-06uも同時に発売された。両機種は、外観上の共通点が多いが、2倍近い価格差がある。性能・機能差に大いに興味がもたれるが、それら比較論はD-06uの試聴記事で紹介しよう。
本機は、D-08(2008年12月発売)の後継機種である。DACにTI(バーブラウン)のPCM1792Aを、モノラル構成・フルバランスで2基搭載する。先代からの大きな進化点は、USB接続で最大384kHz/32bitのPCM、5.6/2.8MHzのDSDファイルの再生に対応する。DSPにTIの32bit対応チップ「TAS3152」を搭載、PCMは最大384kHzにアップサンプリングする。しかし、この点ではD-06uも同じ。すなわち、これが進化の第二になるのだが、D-08uで注目に値するのは、後段のアナログ出力回路に注力したことである。同社看板技術ODNFのバージョン4.0をフルバランス構成(4ch)で搭載。昨年発売された同社のフラグシッププリアンプC-900uから、ボリューム部分を取り除いたものをそっくり入れたことになる。
デジタルフィルターの方式も変更した。従来はDAC内蔵のデジタルフィルターを使用したが、D-08u はDSPがフィルター処理を行う。その結果DACへの干渉がなくなり、周波数による変動がなくなった。また、32bit処理(従来は24bit)で演算精度が上がり端数が正確化した。
試聴室のD-08uの実機は、一緒にやって来た06uに比べ重厚で、存在感で勝る。全幅は同一、奥行きはほぼ同じ(3mm長い)だが、全高が21mm高い。容積が大きい分、電源回路を余裕を持って組む事ができ、音質に奏功すると推察できる。しかし背が高いのは、ドライブメカの機構を奢ったからである。D-08u にディスクを挿入するのは、一種の恍惚がある。ラックスマンのオリジナルメカLxDTMを搭載するが、D-08uはトラバースを格納するベース部全体を極厚の角材シャーシで覆った。ディスクトレイ部には、シーリングカバーの付いたシャッター機構が奢られ、動作は重厚かつ静粛。挿入を完了すると、外界と遮断し、ディスクが別世界へ消えた印象。そうして、静寂の中から付帯音一切なしに再生音が鮮烈に出現する。S/Nのよさという点で、全SACD/CDプレーヤー中最右翼といっていい。
最初に聴いたのが、筆者の愛聴盤である田部京子(pf)のブラームス後期ピアノ小品集(SACD)。完成度の低いSACDプレーヤーの場合、折り返しノイズが衣擦れのように纏わり付くのだが、ここでは完璧に押さえ込まれている。音に汚れがない。しかし、ひ弱なきれいさでなく、力強く堂々と歌う。磨き込まれた音質で定評ある田部の演奏が、一段と上手く聞こえる。音色が豊富で、強弱のレスポンス、呼吸が豊かで息づいている。帯域が広く、等身大のリアリズム。さらに、デジタルフィルターの方式変更が奏功して、ジッターによる揺れがないので、アコースティックな生々しさがある。ペダルの持続音の自然な力強さ、音の持続減衰が確かで、音程の安定感は圧巻、美しいだけでない。力強く生々しく歌うプレーヤーだ。
次に聴いたのが、アーネムフィルのショスタコーヴィチ交響曲第五番(SACDシングルレイヤー)。音場が濃い。スピーカー間に楽器が密集していて、しかもステージの奥行きに富む。セクションの定位も曖昧さがなく、金管始め音が突っ張ったり、倍音が頭打ちにならない。ワイドレンジで伸びやかで闊達、D-08uの電源部、アナログ部の余裕の証左。
ジャズはどうだろう。低音楽器の太い逞しい描写は、従来の同社への先入観を覆す。エレキベースは芯と量感があって、試聴室の悪条件でも音程が鮮明で、音圧が安定している。どっしり安定して表情があって歌う。スネアドラムに重い量感があるが、輪郭が鮮鋭で甘くならない。
総じて、鮮鋭感豊かでスケール感がある、ハイエンドらしい器量のプレーヤーだ。静寂の表現が出来、音質に建築的な堅牢さが感じられる。いわゆる〈エントリーハイエンド〉とは骨太さが違う。
さて、最後に注目のUSB入力を試してみよう。e-onkyoの新譜を二種聴いたが、バランスの整った大きく緻密な演奏で、ハイレゾの上滑りした高域強調がない。また、骨格が大きく堂々とした支えのある演奏で、しかも細部が備わっている。これを待っていたのである!USB入力とディスク再生の垣根を取り払ったプレーヤーといっていい。
だがラックスマンは、ソース機器の分野で数々の銘機を生み出して来たことを忘れてはならない。アナログプレーヤーでは、バキューム・ディスク・スタビライザー(真空吸着式)ターンテーブルのPD555、デジタル時代に入りユニバーサルプレーヤーDU-10を送り出し、DVDの再生音質を別次元へ導いたのが同社であった。
ラックスマンは、一時期を除いてスピーカーシステムを手掛けなかった。したがって、アンプと入力ソースの適合性の追求を専らとしてきた。現在なら当たり前のDACを内蔵し、デジタルインターフェースを実現したプリメインアンプ(AVアンプではない)LV-109を、1986年に初めて世に問うたのはラックスマンである。アンプメーカーとしての研鑽と研究から、必然的に優れたソース機器が生み出されるのだ。
今年、ラックスマンのソース機器のヒストリーに名を刻む力作が誕生した。SACD/CDプレーヤーD-08uである。つい先頃、音元出版主催のオーディオ銘機賞2015審査会が催され、本機が金賞を受賞した。同賞は、伝統的にアンプとスピーカーシステムが強く、ソース機器が最高賞を受賞することは極めて稀。D-08uへの期待と出来映えのほどがわかろうというものである。
2014年は、下位機種のD-06uも同時に発売された。両機種は、外観上の共通点が多いが、2倍近い価格差がある。性能・機能差に大いに興味がもたれるが、それら比較論はD-06uの試聴記事で紹介しよう。
本機は、D-08(2008年12月発売)の後継機種である。DACにTI(バーブラウン)のPCM1792Aを、モノラル構成・フルバランスで2基搭載する。先代からの大きな進化点は、USB接続で最大384kHz/32bitのPCM、5.6/2.8MHzのDSDファイルの再生に対応する。DSPにTIの32bit対応チップ「TAS3152」を搭載、PCMは最大384kHzにアップサンプリングする。しかし、この点ではD-06uも同じ。すなわち、これが進化の第二になるのだが、D-08uで注目に値するのは、後段のアナログ出力回路に注力したことである。同社看板技術ODNFのバージョン4.0をフルバランス構成(4ch)で搭載。昨年発売された同社のフラグシッププリアンプC-900uから、ボリューム部分を取り除いたものをそっくり入れたことになる。
デジタルフィルターの方式も変更した。従来はDAC内蔵のデジタルフィルターを使用したが、D-08u はDSPがフィルター処理を行う。その結果DACへの干渉がなくなり、周波数による変動がなくなった。また、32bit処理(従来は24bit)で演算精度が上がり端数が正確化した。
試聴室のD-08uの実機は、一緒にやって来た06uに比べ重厚で、存在感で勝る。全幅は同一、奥行きはほぼ同じ(3mm長い)だが、全高が21mm高い。容積が大きい分、電源回路を余裕を持って組む事ができ、音質に奏功すると推察できる。しかし背が高いのは、ドライブメカの機構を奢ったからである。D-08u にディスクを挿入するのは、一種の恍惚がある。ラックスマンのオリジナルメカLxDTMを搭載するが、D-08uはトラバースを格納するベース部全体を極厚の角材シャーシで覆った。ディスクトレイ部には、シーリングカバーの付いたシャッター機構が奢られ、動作は重厚かつ静粛。挿入を完了すると、外界と遮断し、ディスクが別世界へ消えた印象。そうして、静寂の中から付帯音一切なしに再生音が鮮烈に出現する。S/Nのよさという点で、全SACD/CDプレーヤー中最右翼といっていい。
最初に聴いたのが、筆者の愛聴盤である田部京子(pf)のブラームス後期ピアノ小品集(SACD)。完成度の低いSACDプレーヤーの場合、折り返しノイズが衣擦れのように纏わり付くのだが、ここでは完璧に押さえ込まれている。音に汚れがない。しかし、ひ弱なきれいさでなく、力強く堂々と歌う。磨き込まれた音質で定評ある田部の演奏が、一段と上手く聞こえる。音色が豊富で、強弱のレスポンス、呼吸が豊かで息づいている。帯域が広く、等身大のリアリズム。さらに、デジタルフィルターの方式変更が奏功して、ジッターによる揺れがないので、アコースティックな生々しさがある。ペダルの持続音の自然な力強さ、音の持続減衰が確かで、音程の安定感は圧巻、美しいだけでない。力強く生々しく歌うプレーヤーだ。
次に聴いたのが、アーネムフィルのショスタコーヴィチ交響曲第五番(SACDシングルレイヤー)。音場が濃い。スピーカー間に楽器が密集していて、しかもステージの奥行きに富む。セクションの定位も曖昧さがなく、金管始め音が突っ張ったり、倍音が頭打ちにならない。ワイドレンジで伸びやかで闊達、D-08uの電源部、アナログ部の余裕の証左。
ジャズはどうだろう。低音楽器の太い逞しい描写は、従来の同社への先入観を覆す。エレキベースは芯と量感があって、試聴室の悪条件でも音程が鮮明で、音圧が安定している。どっしり安定して表情があって歌う。スネアドラムに重い量感があるが、輪郭が鮮鋭で甘くならない。
総じて、鮮鋭感豊かでスケール感がある、ハイエンドらしい器量のプレーヤーだ。静寂の表現が出来、音質に建築的な堅牢さが感じられる。いわゆる〈エントリーハイエンド〉とは骨太さが違う。
さて、最後に注目のUSB入力を試してみよう。e-onkyoの新譜を二種聴いたが、バランスの整った大きく緻密な演奏で、ハイレゾの上滑りした高域強調がない。また、骨格が大きく堂々とした支えのある演奏で、しかも細部が備わっている。これを待っていたのである!USB入力とディスク再生の垣根を取り払ったプレーヤーといっていい。